勇者・手紙

GM [2012/06/19 23:36]
「―――――なんてこったい」

この手紙は、ルイネが想像するよりもはるかに、勇敢だった。

ルイネの手は震えた。
感情が昂ぶって、震えた。

こんなことは初めてだ。

いつも、手が震えるときは、灰色の時間だった。
ああまたか。また苦しい時間が訪れるんだ。っていう、サインだった。
耐え忍ぶだけの時間が、四角い積み木のように、ルイネのタスクとして訪れる。

でもこれは、ちがう。

ルイネの体は、―――楽しいことを見つけた時にも、震えるんだ!
知らなかった。


手のひらの金貨をもてあそぶ。
にぎる。
開いて、見る。

感触としての実感と、視覚としての実感。両方でルイネは金貨を認めた。


「すごい」

「・・・すごい!すごい!」

どんどん、と床板の上で跳ねる。

「本当に、冒険って、あるんだ・・・!」


ルイネはもう一度手紙に触れた。


「ぐ り、ふぉん?」

手紙の文字を落ち着いて読むことができない。
目の前が、キラキラで。

「お花畑・・・」

オラン!すぐそこの、オラン!
そこの近くには、あの、レックス!
そして砂漠の町のエレミア!

ルイネの頭の中の知識が、現在進行系になる。

これらは、作り話なんかじゃなかった。実際にある、現実の場所なんだ。


むかしむかしと聞いた空中の都市。
想像しきれずルイネの中でつまんなくなってる冒険者の街。
これって全部、本当だったんだ。

ルイネは、本の中だけが楽しい作り話で、現実なんてつまらない、談合で予定調和の世界だって思ってた。

でも、違うんだ。

冒険者はグリフォンと戦う。

ルイネも、戦いたい。
元気な体で、戦う場面に身を置きたい!

―――ねえ、手紙!おしえてよ。


ルイネは机と対になった椅子に行儀よく腰を掛け、手紙に文字を書くよ。


「手紙 さま・・・ っと」


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手紙さま。

ルイネの近くにいると、手紙は勇敢をなくしちゃう。
そう思ったから、ルイネはもう一度、手紙を手放すよ。

ここを離れた手紙は、どれだけいきいきしているんだろう。


―――いきいきしてるって?おかしいね。
きみは、しゃべるの?動くの?
魔法なの?

ねえ。
どっちが魔法?

ルイネのそばのものは、動かないし喋らないよ。
・・・どっちが通常?

このペン立てにささった指人形は、本当は動いているの?動いていないの?
ルイネが見ているから、動かないの?
ルイネが目をつぶる夜には、動き出す?

夜中って、どうなってるの。

手紙は、一日の変わり目を見たことがある?
それって、どういう風になってるの。

真っ暗な夜を、白い風が吹いて、朝にするの?
ハケでなぞるように、朝のオーロラがルイネの家の屋根をも掃いていく?


ルイネは知らないことだらけだ。
知りたい、見たい、実感したい。

ねえ、手紙。
どうやったらルイネを連れて行ってくれるの。

待ち合わせしようよ。
ルイネだけに教えて。
いつ、どこで待っていれば、手紙の見た世界に飛び込めるの?

月夜の晩に、   そうだ!あのうちの大きな銀木犀の下じゃ、だめ?

ルイネも行きたい。
変化にあふれた、つらくて楽しい不思議な世界を見たいんだ。


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「手紙さん、聞こえる?」


「・・・・・・ ダメなの?」


「じゃあもう一回!」


ルイネは、そーっと、そーっと、
かどが白く欠けたビンを、窓の外に落とした。

窓の外からは、温く湿った風が銀木犀の香りを運んでくる。
ルイネはこれだけでもワクワクするというのに、
もし待ち合わせなんかしちゃったら、倒れちゃうだろう。



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GMより:

鳥どんー!
パッションにお応えできているかどうか・・・というより、おんぶにだっこさせてもらいます(笑)
フォー!