世界
雪が降った。
かつて、その雪の上を一人の狩人が歩いた。
ジェラルド。
彼は、妻とその胎内にいる子供のために動物へと矢を放った。
しかしその矢は逸れ、樹の幹に刺さった。
刺さった時、その木から葉が一枚、雪の上に落ちた。
雪は毎年同じ筋道を通って下流へ流れ込む。
雪解け水は轟々と川に流れ込んだ。
そこに浮かぶ葉はもう、どの木のものか判らない。
何もかも同じに川を流れる。
メリンダが川の水を汲んだ。
彼女は上流から流れてきた葉を眺めて、あの不透明なビンのことを思い出す。
そして館の窓へ目をやった。
あの中に、机に齧りついたルイネが厳つい顔で勉強している姿をメリンダは想像した。
窓には、青空に浮かんだ雲が映っている。
同じ形の雲を、アンソニーは見上げた。
そして、豚のハムの具合をそろそろ見に行かなければいけないことを思い出す。
しかしその時、声が聞こえた。
生まれて間もない彼の初めての子供が目を覚まし、泣き声を上げた。
だからアンソニーは、豚のハムのことは後回しでいいかと思い、掃除していた軒先を後にした。
肉屋の軒先を、ヒューゲル・ボンノは通った。
そこは水浸しで、足早に通ったら泥が彼の荷物に飛沫となってかかった。
ヒューゲル・ボンノはそれを見つけて、落胆した。
この紙芝居の汚れたシーンは、どういう風に誤魔化そうか考えた。
―――だって、この板だけ汚れていたら、子供たちに笑われてしまう。
どうして泥がハネているの?って、聞かれてしまう。
クヨクヨと悩みながら、アングレカムの館へ向かった。
アウラダがアングレカム孤児院から出てきた。
彼はこの、実家ともいえる館に定期的に治癒を施しに行っていた。
怪我している子や病気にかかっている子がいれば、処置をしていた。
アウラダのお兄さんは女の子に人気があった。
しかし女子の治癒は、また別の女性神官の役目だった。
今日はたまたま、ジネブラが係だった。
ジネブラはアウラダに、キムの店に寄ろうと提案した。
アウラダは承諾した。
キムの店のジムは、今日は店舗側ではなく作業場にいた。
ネズミか年月か、穴の開いた壁の中に前足を入れては覗き、覗いては前足を肩まで入れて何やら掻きまぜている。
ジムとしてはただ、遊んでいるだけなのかもしれない。
しかし奥にはネズミがいた。
ネズミは奥へ奥へ行き、建物を出て日陰へ回った。
時間が経ってからまた建物の中へ入りこみ、粉袋を狙おうと考えていた。
パンの粉は、郊外の畑で刈り取られる。
――――そろそろ、新しい麦が実り始める。