生きる

GM [2012/06/17 03:10]
誰が置いたのだろう。
いつからそこにあったか、ジャンは気がついていただろうか。

ジョージの角なしミノタウロス亭のジャンの個室。
机の上に、四つ折りに畳まれた羊皮紙。

開けば一面、びっしりと几帳面な文字で書き記された手紙は、東方語。


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敬愛なる ジャン・マルクル・ゴダール へ


いつも拝聴しています。


最初に僕、ヒューゲル・ボンノがジャン・マルクルの音楽に出会った時のことから書きたいと思う。

あれは、日付にすれば、最近の出来事だっただろうか。
ああそうだね。5月のメイプリンセスコンテストの時だった。

いや、僕は、メイプリンセスなどというものに興味はないけれども、
5月の華やかな催事があるのに外に出ないで家に篭っているほど、根暗じゃないんだ。
はははは(笑) 本当だよ。

そして街をうろついていると、着飾った女性には興味ないせいか、どうもつまらなくてね。
いや、僕は、男性に興味があるっていう訳じゃあないんだよ。本当だよ。ジャン、本当だよ・・・?

まあいい、とにかくそうしていると、ジャンが現れた。

僕はもう、自分の足元に亀裂が走ったかと感じたくらいの衝撃を感じた。
ステージ上にサッと現れた一人のグラスランナーに、これほど目を奪われたことは、かつてない。

あの間の溜め具合、喋りのリズム、どれをとっても完璧だ。
そう、瞬間から僕はジャンのことを"テンポの神"なんじゃないかって思ってる。本当にね。
ジャン、あなたは、テンポの神なのかい?

実は僕は、テンポに関して煩いところがあるんだ。
ちょっとばかしテンポのことについては詳しいつもりでね。

だから、ジャンがテンポの神だとしても、少しばかり僕の知識を披露することを許しておくれよ。

あのエキシビションでジャンは、「オーレー・オ・レー」の後に正しく休みを置いた。
だけど僕は、もう僅か半拍だけ休みを置いたほうが完璧だったと思う。
そこだけが、僕がジャンに対してずっと納得いかない部分なんだ。

そしてそれをしてしまったジャンが、あれから気になってしようがない。

僕は色んな酒場を覗いて・・・ジャン、君を探したよ。
あなたが奏でる音楽、一つ一つをコマのように頭で考えながら聴いた。

音は素晴らしい。
だけど、ジャン。
テンポがいつも形どおりすぎて、"生きていない"ように感じる。
完璧すぎて、リアルじゃないんだ。

だから僕はもう、ジャンの音楽を聴くことをやめたい。

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本文以外の場所に、文字はない。



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GMより:
JG用レター!
きもいかんじで。

差出人の住所はわかりません。
多分、JGが行なってきたライブの中でいつも同じ人がいたら、彼です。

しばらくはこちらのカテゴリ「生きる」を使用してくださいませ。
JG [2012/06/19 00:06]

 


 「 だコリャ・・・ 」

 

 たまに。

たまーに、そうだ、こういう、イカレたファンレターが届くことが、ある。

ああ、慣れっこさ。慣れてんだ、僕は。こういう類には。こういう輩には。


 まただ。

そう、またきた。居るんだ、こういうのが。そういうのがまたきただけだ。

へいちゃらだってんだ、むしろうれしいね、アブノーマル上等だってんだ。


 階段をおりながら、


「 ジョージ、ジォョージ!! 」


こんなもんよこしたのは、どんなヤロウだ、教えて聞かせろよ、

って、オヤジは「しらねえ」ッと、よ。


 しらねえって、おめえ、


こちとら個室の上客だぞ。
どんなんなってんだココのセキュリチィってヤツぁよ!!

と、半笑いでジョージに詰め寄ったのは、
ココのセキュリチィってヤツがどんなんなってっかなんざ、

僕の方こそ、よォくご存知だってんだコンチクショーめ。


「じゃあ、アレか、勝手に入って、勝手に置いてったってことか?」


いやあ、まだまだ早計失敬。
僕の部屋に勝手に入り込むヤツなんてな、そっこら中にいらァ。


「 パムだべ? 」


誰かに頼まれて、直接届けに来るとかならな。

エグもそうだ、

シナモンも怪しいな、

アースもないハナシじゃねえ・・・

・・・


・・・


「・・・違うなあ、ネギやアースなら、一声ぐらいくれっかんな。」


パムやシナモンじゃない理由?

紙がよごれてもやぶけてもねえからだよ。


「リュシートってセンもあるが、」


だったら、ジョージが出入りを知ってるはずだ。

来てねえだろ?な?


「 ───── ま、いいや、捨てっちまってくれ、」


そう言って、ぼかぁぺらっと厨房カウンターに紙を放って、

足取り軽く、もときた階段を上がっていった。

 

fin

 

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 「 待った 」

 

ダダダダダダダっと厨房へ取って返し、
まあ実際そんなに慌てなくとも、ジョージがそんな簡単に人の手紙を、

 

「 うぉい!! 」

 

燃やそうとしてんじゃねえよッ!!
真に受けてんじゃねえよッ!!
返せよッ!!悪かったよッ!!

 

端っこちっとばっかし灰になったけども、ゲットバック。

 

 ぼかぁ、くだらねえクレームなんかは、半分も読まねえでポイッと・・・

・・・ああそうか、どおりでジョージが燃やすわけだ。

そう、そうポイッとやっちまうんだけども、


こいつの手紙は、そこそこ面白かった。終わりまで読めたからな。


あんまり好きになってもらっても、おべんちゃら一辺倒の内容だったり、

マジでイカレてっと、もう支離滅裂でつけてけねえトリップしてやがる。


自覚はあんだよ。
そりゃあ好き勝手なオンガクやってりゃあ、おかしなのも沸いてくらぁ。

読むに耐えねえラブレター貰うぐらい、副作用としちゃあ軽い悩みだぜ。

 

しかし、なんつーか、こいつには、妙なチセイを感じるな。

 

今、読み直してる。


廊下歩きながらだから、ぶつかった。誰だ?

 

ええと、ここだ。

『 完璧すぎて、リアルじゃない 』

テンポのくだりはどうでもいい、好きにやれ。

てかおめえ、テンポが完璧じゃねえから納得できねえとかケチつけて、


いい、いい、そこはいい、もういい、考えるとバカになる、


『 生きていない 』


・・・言うじゃねえか、このやろう、


「・・・言ってくれんじゃねえか、このくそやろう!!」


あ、口に出た。なんでもない、わりぃ、気にしないで。

 

 

 僕は、部屋の前に立って、考える。

 

 

考えた。こいつが、これを、自分で置いていったんなら、

こいつは、僕がこれをちゃんと読むか気になるだろうし、

気になるようなヤツなら、僕がどんな反応をするか、

気になって気になって、仕方ねえんじゃねえか。


そのぐらいの狂気、だったら、持ってそうな期待はできる。

 

 

   「 グレート 」

 

 

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お手紙、どうもありがとう、ファンキーガイ。

熱心でクレイジーなキーワードが散見してて、

クソ嬉しいよ、サノバビッチ・フォーユー!


とてもよくわかるぜ、最高だ、黙ってろ!


伝わるかい?この高揚した愛と平和。


オレにはちっともわからんぜ。大丈夫か?


はははは(笑) おお、使ってみると、ワリとハイだな。


テクニシャンな気分になるぜ。気分だけな。

 

ユー、ほんとはわかってるんだろ?人が悪いぜ。


驚いたね、逆に、或いは驚いたね。むしろ吹いたね。


まさか、ジョーク半分、"アレ"に気がつくヤツがいるなんてね。


アレだよ、アレ・・・興奮するぜ、身悶えるぜ、夏の恋は幻だぜ。


これは、ある意味、オーディション、である。


わかるな?


そうだ。


あの半拍 ───── 神の領域の、テンポだ。


オレにオンガクを続けさせたかったら、


詩、送ってこい。


あて先は、こちら。

 ↓ ↓ ↓

どしどしふんどし。

意味はわからないが、最近ホームレスが呟いていたフレーズだ。

気に入っている。


一緒に、トゥゲザー、夢見ようぜ!!


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返事をそっと、自室のテーブルの上に畳み、


僕は、出かけた。


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PL:

クレイジー? 冗談、序の口だろ?

僕はどこかに出かけたぜ!

GM [2012/06/20 20:51]
夕方、といっていいかもしれない。
青かった空の色が、黄色くなりだす頃。

朝から仕事をしたものは、そろそろ休もうと仕事を片付け始めるだろう。
そしていつものように、冒険者の宿だったジョージの店は酒場に変身する。


   カラン

焦げ茶の扉が開けられる。
ジョージはその方を向く。

入ってきたのは、知った顔の――例えばここに住む冒険者などの――人物ではない。
ないが、その顔をジョージはまだ覚えている。
・・・微かに。


「あの」

男は切羽の詰まった異様な雰囲気で、カウンターを挟んでジョージに寄った。

「ジャン・マルクル・ゴダールに渡して下さいってお願いした紙」

男は、

「返してください」

痛切な顔をしていた。



「・・・あん?」

ジョージはそれを直視できず、火のついた炭をトングでつつきながら、竈の様子を伺っていた。

「ジャンの部屋に置いてきたぞ、もう」

「・・・それ、ジャン・マルクル・ゴダールが見たかどうかわかりますk」

「知らんよ」

あ、と、ジョージは思いついたように顔を上げた。

「ああ、ああ。
 アイツ、読んでたぞ。思い出した」

昼間にジャンが『捨ててくれ』と出した紙がきっとそうだろう。ジョージはそう思いつく。

「それ、返してください!」

「できねえ」

カウンターに手をついて懇願する男に、ジョージは背を向けて竈をいじる。

――一度渡してジャンのものになったのを、オレがひょいとパクれるかってんだ。

だからジョージは、出来ない、という。
しかもジャンは特別だ。ジョージの宿において、有利なのは圧倒的にジャンだった。
あの草原妖精の気が変わり、ここを抜け出すといわれれば店の評判も変わってくる。
詮索・噂。
風説を操るくらい、あの、オラン有数の冒険者であり楽器弾きにはもはやたやすいだろう。

「返してください」

「できねえって」

男の顔色が変わった。
旧に大人しく、物分りの良い、穏やかなものへと変化したのだ。

「・・・そうですか。諦めます」

「ああ。すまんな」


そして、男は、

「ご迷惑おかけしたので、酒もらいます。
 飲んでいっていいですか」

「もちろん」

ジョージは竈をいじる手を止め、男に振り返った。


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GMより:
続きます!ちょっとここで区切らせて下さいまし!

続くよ!
GM [2012/06/21 10:03]
「は はぁ はっ は・・・」

男は、金貨をテーブルにおいてミノ亭を抜けだした。
手には見たことのある羊皮紙。
かつてそれは男のものだった。

街の角を曲がり、路地に入り込む。
人の目は気にしない。あたりは薄暗い。

男はその手紙を開くことを、まるで試験の合否通知のような面持ちでいた。
なんの変哲もないはずであるのに。

―――きっと変哲ないはず。しかしあったら、どうしよう。

恐る恐る、確かめる。


「うわぁーーーー!」


ショック


ただその一言。

「見られている上に返信までついてるううううう」

穴があったら入って眠って人知れず棒になりたい。
男は、そう思った。

「でも・・・」

トゥゲザーだろ、ここは。



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敬愛する ジャン・マルクル・ゴダール へ

オーディションを受けよう。
詩をおくります。

↓↓↓↓ここから


ヘイユー!

ふざけてなんかいない
これが限界だ
見てるか?

腹を割いて
おれの中身が見えてる
それでもまだまだ

↑↑↑↑ここまで

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「こんなのってないよ・・・」

次の日、男は正しく郵便を利用した。
宛先と、自分の住所を書いて。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:

こんなのってないよ・・・!
JG [2012/06/23 00:04]

 他にも訪ねどころはあるだろうに、
今日の僕に限って、何故だかこんな街外れに赴いている。

 時折、こういう現象・・・四十を越えたあたりからだと思う。

初老に達したからだろうか、と、半ば漠然、衰えの一環としての諦めもあるが、

どうにも自由意志とは言い難い、逆らい難い衝動という支配を感じながら、
今日もまたこのように、まるで自分が望み選んだかのように、

こんな街外れのクソしみったれたボロ屋、


アレルんちくんだりまで、のこのこやって来たのだ。


────────────────────

 用がないわけじゃない。

アレルと言えば、そのキザったらしいっつうか、
ナヨっちぃっつうか、カマヤロウっつうかの風体で、
盗賊組合の中でも浮い...目立った存在となっているが、


 それ以外、


仕事の成功を重ね、着実に腕を上げてきている成長株として、
いずれなんらかの肩書きを背負う逸材なのではないかと、

鑑識眼定かな、ある方面の有力者、
或いはテメェの保身においちゃ鼻の良く利くチンピラどもの、

未来のリーダー格として、注目を集めている。

もっとも、中にはアレルの実力如何でなく、
"趣味"を満たしたいが為の存在として、手中に収めたいという輩も、

 

少なかないんだぞォーーーーッ!!ジョj

 

「 アレール!

アッレール!! アーレル!

居るんだろ、オレだ、開けろ、アレェール、

アレェ?アレル?アレルゥ!アッレェール!?」


・・・居留守かよ・・・ヤロウ、上等だ。


「...チッ、」


僕は舌打ちしながら、家のまわりをネチネチと練り歩いた。


「チッ」


「チッ」


「チッ」

 

「 アッレール!!クワバッラ!!
  アッレール!!クワバッラ!! 」


ブチギレタ僕は、玄関の前で踊り狂った。


「アケロ!アケローン!!ギャオーッ!

アレルゥー、アレルゥーヤ!!アレリストッ!!

ドゥッ!ドゥーヤッ!ドゥヤッ!ドゥッ!

アッレール!!

アッレール!!

さっさとひっこーし、シバクゾッ!!」


干してある布団をバッシバシ引っぱたきながら、
フェスティバルは、今、最高潮を迎えようとしている。

ストリート生まれヒップホップ育ち。

絶え間なく続くコールアンドレスポンス。

オーディエンスの熱狂はこわいくらいだ。

『まだ俺らの時代は始まったばかりだ』

そんなメッセージが狂った朝の光にも似たビートに乗せて、
向かいのばあさんの口から飛び出していく ──────────

 

本物のヒップホップ。それがここにあるのだ。

 

 

 我に返る。そんなばあさんいなかった。


僕は掘っ立て小屋のスキマから中をギョロギョロ覗き込んで、
落ち葉などを拾っては、またそのスキマにねじ込んだ。


リュートのストラップに、手が掛かる。


やめや、大人気ないやないか。


来て良かったと思う。

きっと、これでよかったんだ。

すごくスッキリした。


「あ、エッチしにいこ...」


スッキリで思い出した僕は、紫煙に煙る夜の街へと歩き出す。


なにしにきたのか、忘れた。


────────────────────────────────────────


 心地よい疲れを帯びた体で帰ってくると、


「手紙が無い。」


現れたり消えたり怖いので、ジョージに聞いたら。

『思い出した』的な話をされて、


「おまえ、おかしいんとちゃう?」


率直な感想が、思わず口からこぼれる。


一瞬険悪になりかけたが、そこは僕が折れてやることにして、


「・・・そうか、じゃあ、今度こそ、
そいつがオレの部屋に勝手に入って、持ってったってことになるな。」


てっきり、密室ミステリーのド定番、

犯人は、まだ部屋から出てなかったのだ!!

一部始終を見てイタゾ・・・ジョj ──────────

という変態紳士からのファンレターかと思ってウキウキしていたのだが、

 

割と、フツウだった。

 

ガッカリしながら、不貞寝する。

 

────────────────────────────────────────

 

 翌日、郵便が届く。


ペーパーナイフが震えて、封がバリバリになる。


トキメキが止まらない。


内容を読む。


ガッカリして、不貞寝する。


起き上がる。


アレルんちに行こうと思う。

 

続く。

 

────────────────────────────────────────

PL:

アレルんちに行く日課ができる。

しかし、アレルはいない。

そんなことは重要じゃない。


大事なのは、本物のヒップホップがそこにあるということだ。

JG [2012/06/23 07:36]

 住所だと、ここだ。


「こんにちは、おいあけろ。オレだ。居ないのかヒョードル!!」


────────────────────────────────────────

PL:

ポMんちにきたよ

GM [2012/06/27 22:55]
「こんにちは、おいあけろ。オレだ。居ないのかヒョードル!!」



「お?」

ん?

・・・・・・ん?誰だ?


「ヒョードルはいませんが僕ことヒューゲル・ボンノの自宅ですがここh」


玄関の扉を開ける。



閉める。



うわああああああジャン・まるるる・もだーるd#r$%☆&♪=;swlp」


・・・・落ち着け、落ち着け僕。

ズボンからはみ出たシャツをしまい、襟のはだけを整え、
コホン、と喉の調子を整え、



再度玄関の扉を開ける。




そして閉める。




「ヒョードルは離席中です!」


「なので、後ほど来てください!」




僕のテンポが乱れた。

JG [2012/06/30 04:10]

 こいつか。


目の前でバタンバタンやられながら、
僕はなんとも言えない顔で、やつが落ち着くのを待った。


そうして、結果的に、やつは留守ってことにしたいんだそうだ。


僕はポケットにねじ込んでた紙を引っ張り出して広げた。


そうか。


「わかった、1時間したらもっかい来っから、」


間違ってた。悪かった。


「したくしとけよ、ヒューゲル。」


────────────────────────────────────────

PL:

したくしとけよ

GM [2012/07/05 00:28]

僕に与えられた時間は1時間だった。

―――1時間。
わかるかい?

1分が60回訪れるんだ。
10秒が、えーと。
(ええっと・・・10秒が6回で1分だから、えーと、なんだっけ?コーヒーが飲みたいね)

♪=60で5分ある音楽が12曲流れる時間だ。

まあ、30分が2周するってことか。

30分・・・!
1分が30回おt(略


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ジャン・マルクル・ゴダール。

飛び抜きん出た領域に座する音楽家。

音楽家、という言い方は正しくないかもしれない。
しかし僕は、彼の冒険者としての姿を殆ど知らず、音楽活動をしている彼にしか出会ったことがない。

彼の出す声は深く高く、彼自身の個人的な感情が含まったようでいて普遍、
・・・僕も何を言っているかわからない。

とにかくカリスマをもっていることは疑いようがない。


そんな彼に、手紙を出した。

僕は錯乱していたのかもしれない。
どうしてあんなことを書こうと思い、書き、出したのだろう。

「ぁぁぁぁぁぁ・・・」

・・・。
・・・・・・・・・。

反省はここまでにしよう。
♪=60の曲でいえば、僕が後悔している間っていうのは休み拍子が4節続いた。
もういいだろう。

「んっ」

軽やかに前を向く。
余談:昔同居していた妹に、僕のこの挙動が不快だからやめて欲しいと申し伝えられたことがあるけれども、なぜかやめられない。


音楽。
それは魔法だ。
人の感情や体の調子をも自在にする。
だから僕は興味が惹かれてやまない。

魔法とは物理ではないエネルギーではないのか。
それとも、絞れば限界のあるオレンジのように、結局は何も不思議ではない、目に見える限界を設定されたエネルギーなのか。

音楽とは。

音は目に見えない。
だが確かに体に感じる。
そんなもの、この世にあっていいのかい?

僕は不思議で、不思議で、不思議に思うんだ。

魔法を信じない人がこの世の中には、いる。
けれども。同じ目に見えない"音楽"というものをすんなり認める人がいる。

どうしてだろう。

ジャン・マルクル。
どうしてだと思う?

目に見えないという点では同じなのに、音楽と魔法はどう違う?
そして、どう同じだと君は思うか。

極めればその答えがわかるかもしれないと考えたんだ、僕は。


極めようぜ。


僕は家の中に、鍋やたらいやコップを探し、並べた。
棒を・・・これが丁度いいな、"へら"。玉子焼きとかをひっくり返すやつだよ。

コン

コンコンコン


僕にも魔法が使えるのだろうか。
音は人を動かす。
それは生かすに同義だと僕は思う。
音楽は、人を突き生かすんじゃないだろうか。
いわばエネルギーの交換、魔法なんじゃないだろうか。


1時間後、ジャン・マルクルがここを訪れてくれたならば僕は言おう。


「ようこそ、検討の間へ」


と。
ダサい?
知ったこっちゃないね。
僕はそれどころじゃない。
JG [2012/07/08 14:23]

 もう少しで、チューぐらいまではいけそうだった。


遅れること30分。30分ぐらいだと思う。僕の尺度で。

日が暮れた。
どうせならカフェなんかじゃなくて、バーでひっかけりゃよかった。
だが、カフェの方がピュア・クオリティが高いのも事実。
バーだと話は早いが、難度としてはカフェの方がイージーである。
ただし、最終的な到達点をどこに設定するかによって、その緩急のバランスは

 

 どうでもいい。僕だってキメ球を焦ることぐらいある。

 

「ヒョー・・・ヒュードル、ゲル! 僕だ! 火急の用事で遅れた!」

 

────────────────────────────────────────

 

 

   明らかに、むくれている。

 

 

テンポに厳しいだとかのたまってたから、時間に厳しいタイプなんだろう。


「・・・悪かったって。

お前だって言ってただろう?
完璧なリズムは・・・なんだ、人間的じゃない?だとか、腐ってるだとか、

そう、緩急だよ。緩急。

待たせることが、空腹は最大?最高?の調味料?材料?

いい、いいそんなことは、小さい、ちいさい!

それよりなに? ここんちはなに、お客にお茶も出さないの?

いい、いいって、飲んできたからいい、いいって!」


話題をズラして、仕切り直した。

 

 

 「んっ」

 

 

って、ヒューが言った。なんだ、なんかキモイ。挙動がキモイ。

「・・・ん、よぅ・・・ょおこ・・・んッ・・・ぉこそけ、ンッ・・・」

 

「 ん? なんて? 」

 

「・・・ンンンッ、けン、ンンッ、けんとゥヌマ、もぅいっかい、ンンッ、」

 

「 沼? 」

 

「ウ、ンン、けんとうのまノまイェイ、」

 

「 ウン、イェイ? 」

 

「 ようこそけん とうのま イェ! 」

 

────────────────────
────────────────────
────────────────────

 

「 拳闘・・・!? 

ジ ョ ー ト ー だ !! や っ て や ん よ ッ !! 」


そこまでケジメつけてぇってんなら仕方ねえ、拳で語ってやんよッ!

僕はファイティングポーズを取って、シッシシッシやった。

てめえのガラスジョーに、必殺のガゼルアッパーお見舞いしてやんよォッ!

 

「 ホラぁッ!!! アゴがお留守だよォ・・・ッ!! 」

 

ペチンッ、となって、僕らは、仲直りした。

 

────────────────────────────────────────


「・・・なるほど、この鍋やらタライやらは、そういうことか。」


そう言えば不自然に並んでた食器やらなにやら、
僕はてっきり雨漏りの酷い家なんだと思い込んでた。


「打楽器、リズム楽器の使い手ってのは、その携行性やらメロディ云々から、
確かに、冒険者兼業の詩人にはなかなか見られないな。

居ないこともないが、木琴使ってるのだとか、小太鼓背負ってるのだとかな、
だけどもしっかり合わせられるドラマーってのは、知り合いにも少ないな。

だいたい、オレがやってるオンガクも変わってっからな。
そこらの吟遊詩人がチロチロボソボソやってんのが、お上品でフツーだ。


オレは違うぜ。ギャーンとやって、バーンとでっかい音大会の頂点に居る。
オレはそういう世界のイキモノだ。


それでも、ほとんどのひとは、ただの騒音、ノイズだと言う。


そうさ、まったくその通りだ。

やつらにとっちゃ、下品で繊細さに欠け、情緒の緩急もねえんだとさ。
やつらだって、人数揃えてドーンとでけえ音大会やってると思うけどな。


だけどな、時代が追いついてねえとか、ブンカの違いだとか、

そんなクソみてえな前置き、どうだっていいんだ。


あるひとにはクズで、あるひとにはカネで、あるひとにはもはや宗教で、

音楽なんて、そういうもんだろ?


だから、お前は、テンポで気持ちよくなりてぇってんなら、

なれよ。


ちょっと叩いて見せろよ。

オレも付き合ってやっから。」


って、言ってんのに、また能書き垂れようとだらしねえ口開け始めるから、


「いい、いいやってみろ、いいって、じゃあオレについてきてみろ、」


とりあえず、やってみろって。

 

http://www.youtube.com/watch?v=AT9rSGm0OgI

 

「そうそう、そんなカンジでいこうぜ ───── 」


カチャカチャポコポコひでえもんだが、


「・・・テンポにうるせぇってな、ダテじゃねえってか、」


なかなかキモチのいいリズム持ってんじゃん。

さっきまではキモチ悪かったが、いい顔で笑えんじゃん。


────────────────────────────────────────


「ヒュー、おめえのセンスはよくわかった。

悪くねえ。続けりゃそのうちモノになりそうだ。」


それは良いとして、


「おめえの詩人としてのセンスは、壊滅的だな。」


ヒューからの返信をぺらぺらとやって見せ、


「これはどっかタテ読みしたら面白くなるのか?」


これに曲をアテろって言ったら、作曲家が自分探しの旅に出ることになる。

 

「 いいか、

不可思議なカンジで上っ面だけそれっぽく気を引こうとしたってダメだ。」


お前だけわかってるようなのでもダメだ。


「オレたちのオンガクは、もっとストレートに庶民を刺激しなきゃだめだ。

そうだな、例えば・・・」


僕は、ヒューをしげしげと眺め倒しながら、口ずさむ。


「・・・ホントはわかってた、気づいてた、

認めなくちゃイケナイ、自分自身へのカクメイ、

他人から言われる前に、それが始まりの合図、


俺は大陸生まれ、都会育ち、

ハゲそうな奴は、だいたい友達

ハゲそうな奴と、だいたい同じ


ドラムも叩くが、頭も刺激する、

あきらめないで、叩き続ける・・・」


口ずさんでいるうちに、なぜかボクシングのように激しく手が交差し、

右に左に体が揺れ、チェケラッチョという不可解な言葉が飛び出る。


「・・・例え、例えばのハナシだ、

お前の身体的特徴についてチェk・・・茶化しているわけではない。
まあ待て、これがオレの知り合いのアレルというヤツになると、だ、

 

ハゲてる奴と、だいたい同じ

 

オレがアイツを、おいアデラ○スって呼ぶと、
ア○ランスじゃない、アレルですってしつけぇんだアイツ・・・


 もとい!


要は、言葉のリズムをもっと活かせって言ってんだ!」

 

 よし、じゃあ、行くぞォ、お前の本当のセンスを試すゾ!!

 

「 例えば、だ、オレがこう言う ─────

シノギを削ったあの攻防戦 今なお続くここは最前線
刺すか刺されるかそんな雰囲気 U字カウンターに集う野獣ども
店の中から聞こえてくるよ、魂の叫び、並ください!


つゆだくで!」

 

「・・・」

 

「 つゆだくで!! ハイッ!! 」

 

「・・・ハイ、つゆだく一丁・・・」

「遅いッ!!!」


「・・・すみません・・・」

「謝らなくていい!謝るな!テンポが乱れる!お前はテンポだけ考えろ!」

 

「つゆだくで!」「ハイつゆだく一丁」


「そうだ! ねぎ抜きで!」「ハイねぎ抜き一丁!」


「つゆだけで!」「つゆ、え?つゆだけ・・・」

「考えるな!感じろ!つゆだけで!」「ハイつゆだけで一丁!」

「ちょっとリズム乱れたな!だがそれがいい!汗だくで!」


「ハイッ!汗だく一丁!!」


「ノッテきたぞ!! 痩せようと!」「ハイ思うだけ」


「いいぞォ!! お前はもう!!」「ハイッ死んでいるッ!!」

 

「 ブッラァーボッ!! よーし、そこまで!!」

スタンディングオベーション。


「いいぞ、いいね、ヤバイね、ヤバイよ、キてるね、キてるか?

逆にキてないね、むしろイっちゃってるね、向こう側にイっちゃったね!」

 

僕は興奮して、小躍りした。

 

────────────────────────────────────────


 「どない?」


ひとしきり落ち着いて、僕はヒューに尋ねた。


「音楽は魔法だって?

よしてくれ、ミュージックをあんなもんと一緒にしないでくれ。」


勝手に棚からおろしたブランデーをあけながら、
ヒューが鳴らしていたグラスの二つに注ぐ。


「オンガクってのは、数学で、科学なんだそうだ。

オレにはさっぱり、これっぽっちもわかんねえが、そうなんだと。」


ブランデーはいい。そこらにほっぽってても、さほど不味くならん。


「オレはムカシ、お前とおんなじような疑問にあたってる奴に、
音楽で世界は変えられるかって言う奴に、言ってやったことがある。

バカ言うな、変わるわけねえだろ。

オンガクにタイソウな幻想抱くのもタイガイにしろってな!ギャハハ!

だけどな、隣に居るやつぐらいなら、変えられるかもしれねえな。
隣の奴が変われば、その隣の奴にも、なんかちったァ影響あるかもな。

そうやって、なんかの波が、直線でも、円でも、伝わっていきゃあ、
変わんなかったもんが、変わることはあるかもしれねえな。

でもだからって、それが音楽で、ってのは思い上がりが過ぎるぜ。

変わったのは、そいつの中に、変化を望む自分が居たからだ。
音楽は、そこをちょいと揺さぶって、起こしてやるぐらいのモンだが、

・・・たまにな、誇張して肯定しちゃったりしてな、
それでカンチガイして、ヘンな勇気を与えちゃったりすることもあるから、

そうだな、じゃあ精霊魔法ぐらいの力はあるかもな。」


無から有を生むことはない、そういうこった。

 

「むかし、或るミュージシャンが言った。

今のお前になら、なにか分かるんじゃねえか。」

 

『 音楽に打ちのめされて 傷つくヤツはいねえ 』

 

 

   「 乾杯 」

 

 

────────────────────────────────────────

PL:

ヒューと友達になってやる。

GM [2012/07/16 12:37]
ジャン・マルクルは、音楽を数学だという。

「面白いね」

僕は数学を、幻想だと思う。

"ここにリンゴが1つあります。もう一つ足すと、2になります"

現実的だと思うだろ?

それがどうだい。

"ここにリンゴが1つあります。これを三等分にしたら、3.33333333333333333333333333333333...になります"

「ギャハハ」

夏の暑さで、樽とアルコールの香りをプンプン飛ばすブランデーを飲んで、
僕はニヒルになった。

「そうだ、この前さ」

さっきジャン・マルクルが話した『音楽で世界は変えられるかって言う奴』の話について、
僕からも話したいことがあった。

「この前、噴水広場の絵描きが言ってたんだ。
 "私はりんご一つでオランをあっと言わせてみせる"って。
 りんごの絵だよ。それだけで、このオランの人々の物の見方を変えたいとか、なんとか。

 そこに並んでいた絵を観たんだ。
 りんごの他に、人物画や風景画もあった。

 僕は、あんまり『あっ!』って言えなかった。
 率直に言って、大して面白くなかった」

でもその絵描きの出す青の色はとても綺麗だと思った。

「それで別の日、噴水広場にはまた違う芸術家がいたんだ。
 彫刻を並べていた。
 その芸術家はただ黙々と、見世物にさえならない様子で黙々と、木を彫っていた。

 僕は足を止めて、並べられた彫刻を観たんだ。

 ・・・すごかった。
 この人は・・・ゴホン、言い方は悪いけど―――バカなんじゃないかと思った。

 レンガ1つ分の大きさのツゲの木を掘って、鹿狩の様子を映しているんだ。
 鹿の毛並み、狩人の乗る馬の蹄、手にする槍・・・全てを忠実に浮き彫らせていた。

 本当に浮き彫りなんだ。
 槍なんて、爪で弾いたら折れちゃうくらい細かったんだよ。
 それが、このサイズ・・・レンガくらいの1個の木から彫ってるんだ。

 その二人の芸術家を見てぼくが思ったことは、
 人を変えよう、人に影響させようとして行うことって、結果的に大したものにならないんだ。
 本当に人を変えてしまう、人へ影響があるのは、
 脇目も振らず内へ、ただ一点だけを目指して内へ内へ収束する集中力の賜物なんじゃないかなって思った。
 それこそが表現であり、美しい自己顕示だと僕は感じた」

ジャン・マルクルのグラスにブランデーを注ぎ、僕のグラスにも注ぐ。

「芸術と自慰行為の違いはどこにあるか?
 僕は、欲と無欲と、無欲と欲だと思う。

 すなわち、欲と無欲がどう化学反応を起こしたかの違い、
 芸術は化学だ」

頭がトランスしてきちゃったよ。
僕の脳内が幾何学模様だ。

「おかしいよね。
 絵も言葉も音も、全て自己を表現するものなのに」

ああ、いや、おかしくはないか。
精錬されていくんだ。

暫くぼうっと黙っていると、ジャン・マルクルが口を開いた。

「むかし、或るミュージシャンが言った。
今のお前になら、なにか分かるんじゃねえか。」

「・・・・・・?」


『 音楽に打ちのめされて 傷つくヤツはいねえ 』


僕は、あまりに初めてのことで、ぽかんとしてしまった。

初めて知ったんだ。

「・・・気が付かなかったよ!!!」

その通りだ。

絵も言葉も武器になる。
トラウマを作る。
しかし音楽はトラウマを作らない。

しかもさっき僕を殴ったジャン・マルクルがそう言うんだ。
あんたおかしいね。他人を傷つけたいんだか、傷つけたくないんだか!


    「「 乾杯 」」


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「あ~~~~~ 目の前が、き き き かがくもよー だよ
 アハハハハ!ジャン!」

ゲラゲラ。

ああ。
言葉が出る。

「さ さ さっき、言ったねえ~?
 詩はうんこだって、僕の!詩が!うんこ!ヒィーック」


「・・・・・・遠い」

僕は、ジャンとやり取りした羊皮紙の裏っかわに、書いた。
ミミズのような字で。

「いや、やめよう。
 音楽だけがハッピーなのさ!」

そう言って僕は、詩を書こうとした手を止め、ペンをスプーンに持ち替えた。



JG [2012/07/27 15:27]
 「おい、水飲め、みず、」

せっかくのお前とのトークが、酒に溶けて小便に流れちまったら勿体無い。

「オレも算数のことはサッパリだ。」


 ヒューはリンゴの例え話をしだして、
急に真理を突いたとでも言いたげな、得意面をして見せた。

こいつも酒で気が大きくなるタイプなのだろうか。
印象的なキョドリは、もうかけらも浮かんでこない。


「とにかく、数字の世界におけるガイネンってヤツは、
よぉく考えれば考えるほど、得体が知れなさ過ぎて恐ろしいもんだ。

その割り切れないリンゴのハナシもそうだが、
虚数ってヤツも相当なアレだぜ。

 例えば、あれは駆け出しの頃、
オレのライブステージに、人っ子一人客がこなかったことがある。

一人でもいりゃァやってやるつもりだったんだが、
一人もいねえってんだ、さすがにシビレたねありゃァ。

 だから、客は、ゼロだ。

 見かけ、はな。

もしかしたら、ゼロどころの騒ぎじゃなかったかもしれねえぜ。

マイナス1、だったかもしれねえ。

だって、開催を諦めかけた頃、客が一人やってきたって言うから、
オレぁそりゃもうイキり立って、上等だやってやんよ、ってな、

派手な照明と煙と共に、良く来たなベイベー!

って客席を見たら、やっぱり誰もいねえじゃねェか。


 だけど、オレは悟ったねェ。

客は、来なかったんじゃない。

来たけど、見えなかったんだ。

オレは歌ったよ、客の見えないステージでね、大いに歌ったよ。


 いつか、オレのライブが、虚数から溢れるまで、

虚数ってヤツに定員オーバーで一泡吹かせてやるまで、

オレは、虚数の向こう側の客のために、歌い続けてやるんだってな。


 なんの妄想かって?


 違う、


 概念のハナシだよ。」


なーんてな。

僕もニヒルに笑ったったぜ。


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 リンゴのくだりから、ヒューはやたらでけえハナシに持ってった。 

世界うんぬんの切り出しは確かに僕だが、食いついてくるとは意外だ。


 割と、コイツはビジョン持ってンな。


「 あぁー、ヒュー、

オレは算数もサッパリだが、ゲージツってやつァもっとサッパリだ。
だから、お前のハナシに上っ面でわかったような顔することもできねんだが、

言ってるこたぁ、わかんなくもねェぜ。

お前が言ってる、人を揺り動かす力、衝動っていう、
あぁ・・・言うなれば、ストイックな探求心?

あの・・・鍛えに鍛え、砥ぎに磨いだ刃物に魅せられるみたいな魔力、

理由を必要としない、感動?・・・そんな感じか。


そうだな、それも世界をブレイブする、一つの姿だ。

大いにブレイブし、価値観をブレイクする力を持っている。


ただな、やっぱそれは、一つの形であり、側面の一つだと思うんだよ。

欲とか、無欲とかは、割と最終的には、関係ねえんだよな。


聖人だろうが、俗物だろうが、実際世界を変えてきたヤツは、どっちにも居る。


それに、世界を変えるヤツってのは、その中心の、本人とも限らねえんだ。



オレは、それが正しいとか、正しくないとか、そんな括りはどうでもよくて、

ただそう信じてる言葉がある。


『 世界を変えられるのは、 
自分が世界を変えられると、本気で信じた大バカヤロウだけだ 』


要は、正気だろうが、狂気だろうが、

本気かどうかってことだ。


そうだろう?」


 ヒューは僕のグラスにも注いでくれた。こぼれる、もういい、


「 ある日、

だらしねえカッコした小僧どもが、街でいい大人に怒られてた。

キミタチ、もっとシッカリできないの?みっともないと思わないの?

ガキどもはそりゃ粋がったね。うるせーバカ、思わねえよ、ってな。


 だけど、小僧の内、一人だけ、そう言わなかった。

カッコ悪いと思ってるよ。全然カッコいいとか思ってねえし。


 仲間のガキ供も、ぽかんとしてたな。


別に、カッコ良いとか悪いとかで着てるワケじゃねえし。

"自由"かどうか、だろ。

おれは、こういうカッコで、ささいな自由を楽しんでるだけだ。


その場の誰が、ヤツの言い分を理解できただろうか。

オレは思ったね、あいつはロックだ。

オレはロッカーじゃねえけど、わかったね。

オレの世界の一つが、変わった瞬間だ。


ヤツはさらに続けたよ。

街のお巡りさんを指差して言った。

じゃあアレはカッコいいか、ってね。

ガキどもはそれきたとばかりに、思わねえって合唱したよ。


ヤツは呆れた顔で、仲間だった連中に唾吐いたね。

なんにもわかっちゃいねえな。

制服さんがカッコいいのは、


"不自由"だからさ。」


僕はそこらで、もう一度ヒューとグラスを当てた。


「 つまんねえハナシしちまったけどな、

要するにさ、くだらねえ横並びの価値観から、如何に這い出すかって、

そういうこったよ。

そのリンゴの絵描きもな、てめえでリンゴって価値観で決めてちゃ、
そりゃ見る人間だって、リンゴだって思って見るわな。

こういうとテツガクになっちゃうんだろうが、
それがそもそもリンゴかってところから提起しても面白かったかもな。

誰が見てもリンゴなのと、
それを見てリンゴだと思う人間がいる、ってのは、
まったく別の次元だぜ。

それを見て、誰一人リンゴって思わなかったら、
それはそれだけのモンってこった。

それを見て、一人でもいい、確かにリンゴだって思わせられれば、
いや、そう見える人間と、見えない人間が物議を呼ぶだけで、

すでに世界をブレイブしてんだよな。

そっからブレイクするかどうかは、また別のハナシでな。


ヒュー、お前も言ってやればよかったんだ。

りんごのくだりはどうでもいいけど、お前の青は悪くないってよ。

そしたら、その絵描きの価値観をブレイブしたかもしれないぜ。」


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 ・・・こいつ、おもしれえなァ。

思ったより、全然話うまいんじゃねえか。

そこで僕は、思った。


「 ヒュー、

もう酔っ払って忘れちまうかもしれねえけど、
そしたらまたそのうち話すから、気軽に聞いてくれ。

だけど、大事な話だ。
見込むのはまだ早いかもしれねえけど、オレはお前を気に入った。


 落語って知ってるか。

おう、こないだオレがステージの枕でやったアレだ。


遥か東の国からやってきた、ドマイナーなゲーノーだけどな、
アレは、オレとお前にとっちゃ、なかなかのアレだぜ。

スタンダップコメディアンならぬ、シットダウンコメディアンじゃねえけどな、
コメディだけじゃねえんだぞ。

人を唸らせもすれば、泣かせもし、ぽかんと騙くらかすこともする。

・・・難しいぜえ、究極の話術、地味で辛い芸能だ。


だけどな、そこに、テンポとリズムの、全てがある。

お前の求める、全てがそこで見つかるかもしれねえ。


また、出囃子ってのが粋でな。

ちゃかぽんぽん、ぽぽんぽちゃんちゃん、つっちゃかちゃっちゃ、ってな、
見習いの頃は師匠先輩のために、そういう裏方の仕事もすんだけどよ、
お前なんか、そうとこでも才能出るんじゃねえか。

いやあ、しんどいのは人付き合いもあってな、
そこに関しちゃ、そりゃオトナのガマンてやつにもなるんだけどよ、

それでも、手を出すんなら、この芸能がメジャーになる前の、今だぜ。

下衆な話をすりゃあよ、今やっとけば、上に立つのも早い。
まだ上がそれほど育ってねえんだから。

それに、幸いにも、お前はさほど食うに困ってねえ様子だ。
まだまだ、濡れ手に泡ってな商売じゃねえからな。

じっくり腰据えて、一生モンの職を手に入れる機会かもしれねえや。

お前が真打、師匠、名人なんて呼ばれる時がくるんじゃねえかと思うと、
もうなんか、勝手にワクワクしちゃうけどな!


・・・どうよ、あんまり面白くねえか。

もし興味でたら、オレが世話になってる師匠んとこ連れてくぜ。」


こいつは芽が出る。僕には、確信がある。


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PL:

ヒュー、咄家にスカウト。 
GM [2012/08/19 21:42]
そうだね。
ジャンはどちらかといえば攻める方だ。
彼自身では気がついていなくとも、それは一目瞭然。


「『 世界を変えられるのは、 
自分が世界を変えられると、本気で信じた大バカヤロウだけだ 』


要は、正気だろうが、狂気だろうが、
本気かどうかってことだ。

そうだろう?」


ジャンがそういう。

僕はグラスの縁を持ちあげて、ジャンを見て、目を細め顔を崩した。


「そうだね」


なんて真っ直ぐなんだ。読んで字のごとく直線。

そうして、真昼間から僕たちは酒を飲み交わし、語る。


ジャンは――――

「ハナシカ?」

僕を、ハナシカにすると、言う。

「や、や、や」

いやいやいやいや。
僕は両の手のひらをヒラヒラと振ってみせた。

「な、何の話だよ」

僕は、僕は――――

「ああ、そうか」

わかった。
僕にはわかった。

だけれども、この、ステージの真ン中で存在を見せしめるかのように佇むパフォーマー・・・といえば怒られるかもしれないけれど、発信者側のジャンにとって僕の存在は理解してもらえるだろうか。

僕は、発信する側じゃない。
受け止める側なんだ。

「落語か。興味があるよ。
 でもそれは・・・僕がやるんじゃない。
 やっているのを見る・・・聴くんだ」

聞いて、感想を持って、分析し、それを発信者に伝える。

「僕というのは、せこい傍観者なんだ」

何も産まない。

「ジャンは歌う。僕は聴く。
 噺家は喋る。僕は聴く。
 芸術家は創る。僕は観る。
 文豪は書く。僕は読む。
 
 動かす人がいる。
 動かされる人がいる。
 
 僕は、動かされる側だ」

生かされる側だ。


「ジャン。
 今日、会えて良かったよ。
 今度いつライブするんだい?僕も行っていいかな」

「はねた後、こうやってまた話そう」



―――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:

ボンノ君がJGを「ジャン・マルクル」からただの「ジャン」と呼んだ時にはもう親しくなっておりました。

GMからのラリーは以上で終わります。
JGはこの後、これを締めとしてもいいですし、レスを重ねても構いません。


GM [2012/09/12 17:10]

「あ   る、 ・・・日  っと」

ヒューゲル・ボンノはその日、自宅にて、薄い木の板に向かっていた。
安い木材は、画材に金をかけられない層にはうってつけだった。

美術は、金をかければそれらしく見えるものだと彼は思っていた。
木よりも紙、鉄より銀、銀より金、金より精霊銀。
植物を砕いたものより鉱物。
筆は豚より馬。

―――金がなければ知恵と時間をかける。

時間がなければ、情熱をかける。
筆の一振りに入魂する。
線は素直に現れてくれる。

「・・・・・・ そ こ、 に は、・・・」

使い古して毛の少ない筆で、木の板に一線一線づつ力を込める。

薄い木の板に、黒いインクの線が入っていく。

ヒューゲル・ボンノは、童話作家だった。
売れない、世に出回らない名前だった。

彼の仕事は、アングレカムの館に月2回、紙芝居を行うこと。
それが、食うに食えない彼の本職だ。

食えない、だから毎朝彼は港の市場に行き、船から降ろされた商品の選別をひっそり行う。
一級品、B品、生鮮を痛めないよう限られた時間のなかで素早く仕事する。
2時間も使わない。
その日の賃金をもらい、時にはB品としても売れないような生鮮品を受け取り、その足で市場に寄って帰宅する。
帰宅後に、彼のライフワークが始まる。


今度のアングレカム孤児院に持っていく題材は、古い有名な傑作だった。
ふきの葉の船に乗った猫と草原妖精たちが、川を下って宝島に着くという話だ。
途中、草原妖精の飼っていた猫が本当はツインテールキャットという魔物で、そのこは主人公たちのピンチを助けてくれるが最後は別々になってしまうという、悲しくはあるが暗くはない未来を示してくれるお話だった。

「・・・・・・どうだろう。南の島に見えるだろうか?」

木版から一歩二歩離れ、木の板に浮かび上がる墨の線を眺める。
そして、苦笑した。

「ほんのばかり失敗してしまった、ピーナッツみたいだ。
 ジャンが見たら、なんて評するだろうか」

そして、先日を思い出す。

―――僕には才能がない。
僕は、絞りだす想像力がない。
いつも人の真似事をなぞる、そう、ただの、受信する側なんだ―――

「いいのさ、それで」

いいのさ、それで。

ヒューゲル・ボンノは窓の外を観る。
すっかり夕だ。

「生きろ、生きろ」

孤児院の子供たちを思う。

「待ってろよ、面白い話を届けに行くから」

ああ、ジャンが着いてきてくれないかなあ。


この紙芝居には、音がないんだ―――――
だから、世界を伝えきれないじゃないか。



JG [2012/10/02 21:16]

 あの日以来、僕は酒を飲んでいない。

ヒューとグラス越しに語り合った、あの日以来だ。

 

───── はねた後、こうやってまた話そう ─────

 

   「・・・あァ、」

 

寝転んで天井を眺めながら、僕はまた、おんなじ返事をした。

僕はあの日以来、ライブどころか、リュートもほったらかしたままだ。


約束は、随分と先延ばしだ。

 

 酒ってのは、悪い薬と一緒で、
回っちまったら、あとはヨッパらったままでいられると思ってた。

それが、あんな急にシラけちまうなんてこと、
おまけに、あんな風に酒がクソまずくなることなんて、あるんだな。

 

『 今日は、そろそろ帰る 』

『 初顔合わせだしな、あんまりずうずうしいのもよくない 』

『 また、連絡する 』

 

ヒューの戸惑った顔が、ひどく他人に感じた。

 

『 ・・・いや、おまえと話せて、いい詩が浮かんだのさ 』

『 ありがとう、よかった、帰ってじっくり、形にしたい 』


『 また、な ─────

 

 

   「・・・またな、」

 

 

頭で組んだ腕も、少し、疲れて痛くなってところだ。

僕は、ベッドから足を下ろした。

 

────────────────────────────────────────

 あの日以来、ヒューには連絡してもいない。

ヒューから連絡があれば、ジョージから言伝もあるだろうから、と、
そのまま、今のところ、僕たちは、ぷっつりと途切れたままだ。


 窓から、通りを見下ろす。
もう、日が落ちる。家路を急ぐ人々が、足早に行き交っている。


 僕は今、あの日常の片隅に居る。


草原族であり、冒険者であり、渡世博徒にも片足を突っ込んで、

そして、歌うたい、だ。


とぼけちゃいるが、いやがおうにも、自分が特別になりつつあるのはわかってる。

只の歌うたい、というわけにはいかないことを。


じゃなきゃ、こんなにお天道様を鬱陶しいと感じたりするわけもない。


いろいろやりにくくなった。

だが、いろいろやりやすくもなった。


いろいろ自由も利かなくなってきた。

だが、いろいろ融通も利くようになってきた。

 

 人生は、どうやらツーペイだ。

 

そろそろ支度の時間だ。

僕は手始めに、僕ってカタガキを一旦止めてみることにした。


知り合いの小料理屋に頼み込んで、板前の見習いをやっている。


僕はしばらく、僕なりのカタギってものを身に付けることにした。


ヒューと向かい合って酌み交わすために、

俺の口先が嘘っぱちで終わらないために、

俺は、地に足をつけて、物事を知ることにした。


────────────────────────────────────────
────────────────────────────────────────


 俺は特別なんかじゃない。


 俺は、まずおまえと同じ世間を歩いてみないと、

何を語り合おうが、ホントのことには蓋をしたままだとわかって、

あの日、帰ったんだ。


 JGはできるから、ジャンは特別だから、

相手の事情を知りもしないで、やってみろだなんて言うんだ。

 俺はそう言われたら、どうしたらいい。

 

俺がなんでもないと思っていることを、
おまえのなんでもないと一緒にしちゃ話にならん。

俺が高いところから飛び降りるのになんでもなかったからと言って、
おまえにも大丈夫だから飛んでみろって言ってるようなもんだ。

そりゃ、そんな悠長なこと言ってられずに、
無理やりにでも飛び降りさせなきゃならないときも、
短くはない人生の中、一度や二度はあるかもしれないがな、

少なくとも、お前と酌み交わしたあの日は、そんな日じゃない。

自分はバクチに勝ったからって、
お前も勝てるからやってみろよ、

そんな胡散臭ェヤツの話、どう聞けってハナシだ。

良かれと思ってだと・・・そんなのが、一番タチが悪い。

挙句、やればできるなんて尤もらしい煽りが、一番クソだ。


だからってな、はじめっから一から十まで、
当たり前に相手がご膳立てしてくれるハナシなんてのもねえよ。


お前がせこい傍観者で終わるかどうかなんて、
ほんの小指の先ほどの、たったそれだけのモンだぜ。

そのたった小指の先っちょほど、こっちに顔を近づけてみろよ。


そして言うんだ。

 

   『 and then ? 』

 

お前が引き出すんだ。

高いところから安全に飛び降りるためには、

バクチにどうやって勝つのか、

噺家がどう面白いのか、


俺も訊くよ、

今日のテンポがどこで乱れたのか、

リズムを楽しめたのか、

俺の詩は伝わったのか、


お前がくれた、手紙のように。


興味を失うのは、俺がつまらない話をした後だっていいだろう?


友達だ、それぐらい付き合えよ、今度は。


────────────────────────────────────────


 よう、ヒュー。

つまんねえことで悩んでるらしいじゃねえか。

オレは煮物の加減で四苦八苦してるところだ。


誰しも、母ちゃんか誰かの真似事から始まるだろ。


どんな偉大な画家でも、だいたい真似から始めてるだろ。


 好きなだけ、真似たらいい。


納得いくまで真似たら、これ以上真似ようがないとこまでいけたら、


真似事しかできない、なんてセリフは、そこまでやってからだ。


真似事ってのは、そんなに浅くないぜ。


クラシックオーケストラなんて、壮大なコピーバンドだからな。

 

 要は、なんのために真似てんのかってことだろ。

 

 一生懸命、真似たらいいさ。