届かない宛先

GM [2012/06/17 03:08]
彼はアレル=リリー。
冒険者家業で名を上げつつある青年だ。

そんな体を張った仕事をする彼の休暇は、読書に充てられる。
・・・・・・はずだった。

「今日こそは、掃除しないといけませんね・・・」

蜘蛛の巣は何度払っても部屋の隅に張られている。
埃はなぜ積もるのか。

「う~ん」

考えようとして10分が過ぎたが、それを考えても意味が無いことに気がつく。

今はもう、正午を回っていた。
その時。

コンコン

外に通じる木製のドアが、ノックされた。

「14丁目3番地はこちらですか」

若い男の声が聞こえる。この廃屋の住所。
しばらく耳にしていなかった―――というよりもほぼ初めて聞いたこの家の住所に、
アレルは一瞬だけ戸惑い、息を潜めた。

ドアの向こうに立つ人物は、少し待った気配だったが、留守と思ったようだ。
下の隙間に、何かを差し込んで去った。
石畳と羊皮紙が擦れる音がした後、去りゆく足音が聞こえる。


アレルがその身のこなしで音もなく、気配をも消しドアに寄り、
隙を見計らって羊皮紙を引きぬく。

彼は慎重に羊皮紙を観察し、開いた。


///////////////////////////////////////////////////////

アンソニーへ


ニナです。

・・・元気? あ、わたしはね、何とか、元気だよ。
何とか って、変、だよね・・・。
ん、元気です。 すごい元気。 うん、フツーってところ?へへ

前に会ったのは、いつだったっけ・・・?
わ、忘れてなんかないよっ ええっと確か・・・お、覚えてるよ。
3年前、だったよね。

手紙を出すのは、5年ぶり・・・くらいかな?
ちゃんと、その時の手紙、読んでくれた?
来なかったよ、返事。 ・・・ちゃんと、届いてたのかなあ・・・?

ねえ、お母さん、心配してるよ。
わたしも、アンソニーが元気でやってるか、今どうしているか、心配してる・・・。

だから、ちゃんと返事、出してね。

お肉屋さんに言えば、届けてくれるって、きいたよ。
でも、どうなんだろう・・・?
ごめんね、アンソニーからも、お肉屋さんに、聞いてみてくれる・・・?


じゃあ、待ってます。

///////////////////////////////////////////////////////


そして、住所が書かれていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:
アレル=リリーはこちら!

NPCの注文が難しいでぇ・・・GMの引き出しにないタイプやでぇ

差出人は、放蕩人の家族らしいです。
おそらくアンソニーという人は、デタラメの住所を伝えていたのでしょう。
そして彼の消息は今のところ不明です。

アレルはどうするのでしょうか。

しばらくはこちらのカテゴリ「届かない宛先」を使用してくださいませ。
アレル=リリー [2012/06/17 23:56]
人間、誰しも苦手分野というものはある。
全てにおいて完璧な人間など居るわけもないし、
そんな人間が居てもつまらないだけだ。
だから、苦手分野があるというのはむしろ普通のことで、
それがあるからといって恥じる必要は皆無なのである。
まぁ、そもそも自分は人間じゃないんですけど。


で、そんな自分の苦手分野は何かといえば・・・・

「今日こそは、掃除しないといけませんね・・・」

そう、掃除である。
いや、掃除というか、家事炊事全般が自分の苦手分野だ。
特に料理はひどい。特に料理はひどい。
特にひどい料理なので2度言いました。

大体、あれですよ。
結構定期的に掃除は行ってるはずなのに、こんなに汚くなるなんてありえないですよ。
蜘蛛の巣は張りまくられるし、埃は積もりまくられるし。
これはもう悪いのは自分ではなく彼らなのではないでしょうか。
彼らが頑張りすぎなだけではないでしょうか。
そう現実逃避した思考に走る。


その思考を現実に引き戻したのは、2度の乾いた音。
コンコン、という、ノックの音。
続いて家の中に聞こえる、肉声。

>「14丁目3番地はこちらですか」

身動き一つせず、その声を聞いている。
住所?一体どこの?
もしかして、この家の住所だろうか。
そういえば自分は空き家だったここに勝手に住み着いてる身なので、
この家の住所を知らなかった。
なるほど、ここは14丁目の3番地だったのか。


自分がそう心の中で納得していると、扉の外に居た気配が、遠のいていくのを感じた。
扉のほうをよく見ると、どうやら下の隙間に何か差し込まれているようだ。
人の気配が完全に消えたのを確認した自分は、物音を出さずに扉に近づき、
差し込まれていたソレを引き抜いた。



「紙・・・・・・いや、手紙?」

差し込まれていたものの正体を認識して、疑問の声を上げる。
おかしい、自分でさえ知らなかったこの家の住所宛に、手紙が届くなんて。
友人の誰かが住所を調べて手紙を出した?
いや、そもそも友人なら、手紙など使わず直接自分と話をするだろう。
では遠いところにすんでいる知人か?
いや、だったらそもそも住所を調べようがない。だから手紙も届かないはず。
だとすると・・・・・

「・・・とりあえず・・・読んでみますか。」

そこまで言っていったん思考をストップさせ、手紙の封を開いた。




「・・・・なるほど・・・これは・・・」

全てを読み終えて、一拍置く。
そして、手紙を机の上に放り投げた。

「なんだ、間違い手紙ですか。」

恐らく、アンソニーという人は放蕩人で、ニナという人に、でたらめの住所を教えていたのだろう。
で、ニナという人はその住所を信じ、この手紙を出した。
そしてその住所がたまたま自分の家だったと。
なんというかまぁ、偶然に偶然を重ねた結果の結末だったわけですね。

「はぁ、馬鹿らしいです。無駄な時間をすごしました。
自分は掃除をしなければならないというのに。」

そう言いながら手紙に背を向け、掃除を始めようと準備をする。


・・・・しかし、出来ない。
数分後自分は、再びさっきの間違い手紙と向き合っていた。

「返事、だしてね・・・・・ですか。」

手紙の一文を読み返す。
彼女・・・・ニナさんは、アンソニーさんからの返事を欲しがっている。
もしここで自分がこの手紙を無視したら、ニナさんはまた手紙を送ってくるかもしれない。
それは困る。自分もそれの処理をしなくてはならないし、ニナさんも貴重な羊皮紙を消費することになる。
それでは誰も得をしない。
だから、ここで自分のするべきことは・・・・・

「・・・まぁ、ちょうど住所も書いてありますし、返事を一回返すくらいいいでしょう。
掃除はそれからです。」

誤解を解く。それが自分の至った答え。
机上の羽ペンを手に取った。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ニナさんへ


まず最初に、アンソニーさんからの返事を期待してこの手紙を開いたなら、お詫び申し上げます。
ですが、このまま返事を返さずじまいでは、誰も得をしないのではないかと思い、ここに筆を取りました。

初めまして。自分の名前はアレル=リリーといいます。
貴方が手紙を差し出した、『14丁目3番地』の家の住人です。

ご存知の通り、自分は貴方の・・・・恐らくご家族の、アンソニーさんではありません。
恐らくアンソニーさんは、貴方に本来の住所ではない場所を教えたのだと思います。
それがたまたま自分の住んでいる家の住所だったのでしょう。

という訳で、この住所に手紙を送っても、貴方の望むものは得られないと思います。
貴方の期待を裏切ってしまったようで、申し訳ありません。

お詫びといっては何ですが、自分も微力ながら、アンソニーさんをお探しする手伝いをしたいと思います。
よければ、アンソニーさんについて、少しでもいいので教えてもらってもいいでしょうか。
強制は致しません。嫌だというのなら、返事は返さなくても結構です。



では、貴方達ご家族の、ますますのご健勝を祈って。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「こんなもんかなっと。」

全てを書き終わった後、ペンを置く。
最後のほうは、自分のお節介心が出てしまった。
まぁ、これはこれでいい暇つぶしにはなると思いますし、
それに・・・・・家族が離れ離れなんて、そんな悲しいことはないでしょう?
だから、彼女達が無事また顔を合わせられればいい・・・そんな自分の願望も込めて、
最後の分を書き足した。

「さて・・・・アンソニーさん・・・・・か。」

望みなんてあんまりないけど、とりあえず動ける範囲で動いてみようかな。
そう思って家の扉を開ける自分の脳内には、
掃除のことなど、すっかりかき消されてしまっているのでした。






PL
始まった!よろしくおねがいしまーす!
アレルは手紙の返事を書いた後、
ギルドやら冒険者の店やらでアンソニーさんについて少し聞いて回りまーす。
まぁ今の段階じゃ情報なんて出ないと思うので、
「こういう人探してるからよかったら教えてねー。もしかしたらまた聞きにくるかもー」的な感じで!
GM [2012/06/22 12:07]
数日後。

再び、アレルの住まう廃屋の木戸が叩かれる。
しかし今度は本当に、アレルは不在だった。

朝日が昇り始める時間に、家主は帰宅する。
盗賊の心得があるこの半妖精は、自宅の玄関扉の隙間に紙が挟まれていることに、遠目からでも気がつくだろう。


///////////////////////////////////////////////////////

アレル=リリー様


変失礼しましたこと、深くお詫び申し上げます。
こちらの住所は、あなた様がお住まいになっていたなんて・・・。

アンソニー。いったいどこにいってしまったの・・・?

いいえ、そんなの。

アレル様には関係、ないんです。
だからご迷惑かけることは、できません。。

でも、せっかく、ご協力を申し出ていただいたのだから、
素直にお願いしたほうが、いいのかしら。

・・・そうね。
アンソニーのことを書くだけなら、ご迷惑には、ならないかしら。
あのね、確か・・・


髪は薄い茶色で、瞳はグリーン。
年齢は・・・今は・・・22だった、かしら。
あとは・・・あとは・・・

あれ・・・?わたし、なんで思い出せないんだろう・・・。

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:
じつは、アンソニーについてのネタを解禁するかしまいかで悩んでいます。
くらいよ!くらいよ!>ネタ
アレル=リリー [2012/06/22 21:50]
自分にとって朝とは、一日が終わる時間だ。
自分のような裏家業の人は、夜の闇に身を隠して行動することが多い。
だから、必然的に昼夜が逆転してしまうことも多い。
もちろんそうじゃない人もたくさん居るけれど、少なくとも自分は逆転しがちだ。

「ん~・・・・眠い・・・」

朝日で滲む視界を擦りながら、家への帰路を歩く。
そして、着く。

「・・・・・・ん?」

家に着いて一番最初に気付いたのは、玄関扉の隙間に刺さっている小さな紙。
この光景を、自分は見た事がある。
あれは何日前の出来事だったか。

スッ、ガチャッ。

紙を引き抜き、扉を開けて中に入る。




椅子に腰掛け、窓から射す朝日で手紙を読む。
家には明かりがない。
ランタンはおろか、蝋燭の一本すらも。
だから家では、夜に何かを読むというのは、よく晴れた日でないと不可能だ。
なので、太陽が昇っている今のうちに読むことにした。


「・・・・思い・・・出せない・・・?」

手紙を読み終わって気になったことを、率直に呟く。
ニナさんは、アンソニーさんのことを覚えていないのか?
いや、それはないはず。
だって、アンソニーさんに関する情報を、ニナさんはちゃんと記述してくれているではないか。
だから、完全に忘れているわけではないはず。
・・・・しかし、記述量が少なすぎる。
いや、人探しをするにおいては、十分な情報量だ。
これだけでも、アンソニーさんが見つかる可能性は大幅に上がる。
だから、自分はこの量に不満はない。
でも――――肉親が語る量としては、圧倒的に少ない。
性格とか、癖とか、肉親ならもっと色々書ける筈だ。
だが、彼女の手紙にはそれがない。
思い出せない?記憶が無くなっているのか?
いや、ただのど忘れの可能性もある。
なんにせよ、この手紙からでは深く予想することは不可能だ。

「・・・・・返事、書こうかな。」

一度思考をストップさせ、羽ペンを手に取る。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ニナさんへ。


情報提供、ありがとうございます。
自分が好きでやっていることなので、迷惑だなんて考えなくてもいいですよ。

貴方から貰った情報を頼りに、自分のツテで、アンソニーさんを探してみたいと思います。
差し当たって、もっとたくさんの情報があると捜索が捗るのですが・・・・
性格、癖、特徴、口調。
どんなことでも良いのですが、思い出すことは出来なさそうですか?
出来ないようなら、無理にとは言いません。
思い出せたら、そのときにまたお手紙をいただけると助かります。

それでは、お元気で。



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PL
アンソニー設定ばっちこい!暗い設定ばっちこいですよ!
どんなくらい話も、ハッピーエンドにする!
出来なくても、最大限足掻く!それが私の生き様!

あ、ニナさんから貰った情報で、またギルドやら酒場やら知り合いに聞き込みを行いまーす。

JG [2012/06/23 07:31]

 へんな女とすれ違う。

アレルリんち見てたみたいだけど、僕と目が合ったら逃げてった。

・・・ははぁ、察したぞ。

僕はそういう機微にはビンカンなんだ。

分かっちゃうんだ、僕は。

 

 今日も、ノックから始まる。


「こんにちは・・・どうも、こんにちは、散髪屋です・・・」


返事はない。心が折れそうになる。

ワクワクしてきた。


「・・・いませんかァ・・・散髪屋ですよォ、知ってるでしょおォ?

今そこで、ハサミも買ってきました・・・散髪、しましょうよ、ねえ・・・」


ジョキジョキ金属の擦れる音を立てながら、僕はドアの前で訴え続けた。


「あけろぉ、ヒゲも丁寧に剃ってやんよぉ、
つるっつるのぺっかぺっかに、スッキリスキンにしてやんよぉ!」


ドンドン!ドンドン!


「あけろう、はやくあけないと、いいかあ、こうかいするぞう、」


ドドドドン!!ドドドドン!!


「まァだわからないかあ・・・そうかあ、じゃあもうこうだ、


この、とりったての新鮮なシロアリをだ、おいしそうなお前のおうちに、

お見舞いしてやるからなあ、覚悟しろうッ!!ハッハッハーーーッ!!」


ドカン!!ドカン!!


「ウソだよバーカ、バーカ、ヴァーカ!!」


最高にスッキリしたので、本来の目的地に向かう。

 

 

明日もくるぞ。

エグランチエ [2012/06/24 21:41]


どうやら私の一言でタリカを怒らせてしまったみたい。
もう、普段怒らないだけに、こうなると手が負えないの。


「エグランチエ様はいつもそう。興味の有る事と無い事の差ときたら。
 木を見て森を見るのです。もう少し色んな物事にも目を向けないと。」

「―――タリカ、あなたの言うとおりだわ。
 森はあなたの故郷でしたね。酷い事を言ってしまいました。」

「タリカのことではありません。
 エグランチエ様の為に言っているのです。」

「ごめんなさい、タリカ。」


たまに思うのです、タリカの瞳には世界がどう見えているのかなって。
私は都会育ち、彼女は森育ち、価値観が同じであるはずが無いのです。

タリカは私の好奇心の向く先々を知り尽くしているようにも思えます。
だからどんな些細な事でも私は彼女の話を聞くのが大好きだったの。

自分の心無い一言が本当に恥かしい、もう少し勉強しませんと。
森生まれはすごい、私は改めてそう思いました。



―――



「アンソニー?」


会話の中でアレルさんの持ち出した名前。
アレルさんはどうやらこの方の事を探しているみたい。

でも失礼だとは思いますけれど。
アンソニーなんて、とてもありふれた名前。

私の頭に浮かぶアンソニーさんの数は決して多くはありませんが、
そのアンソニーさんがアレルさんの目的の方である可能性は低そうです。

それでもアレルさんはこの手紙を見つけてくださったのだもの。
私は少しでも彼の力になれたらと思いました。


「―――お肉屋さんのホプキンスさんの事かしら?ほら、中央通の。
 あそこのお店のお肉は少しだけ癖があるのですけれど美味しいの。」

「初老のとても紳士的で非常に聡明な方よ、何でも知っているわ。
 ジョディさんという綺麗な奥さんをお持ちなの。仲の良い夫婦よ。」

「店名はバッファロー・ビル精肉店だったかしら。」


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森生まれのタリカさんの樹に対する拘りは計り知れません。
アレルさんにそれっぽいキーワードを出してみたりしました。
どう料理して頂いても構いませぬ、同じ名前のまったくの人違いかも^^




アレル=リリー [2012/06/25 22:17]
エグランチエさんにお説教するタリカさんをまぁまぁと宥めていると、
エグランチエさんから興味深い話を聞けた。

「―――お肉屋さんのホプキンスさんの事かしら?ほら、中央通の。
 あそこのお店のお肉は少しだけ癖があるのですけれど美味しいの。」

「初老のとても紳士的で非常に聡明な方よ、何でも知っているわ。
 ジョディさんという綺麗な奥さんをお持ちなの。仲の良い夫婦よ。」

「店名はバッファロー・ビル精肉店だったかしら。」

「バッファロービルですか?」

どうやらそこに、アンソニー・ホプキンスさんという方が居るらしい。
年齢は初老・・・そういえば自分は、アンソニーさんの年齢を知らなかったっけ。
なんとなく若いイメージだったけど、初老でもおかしくはない。
それに、ホプキンスさんは聡明な方らしい。
もし仮にホプキンスさんが自分の探しているアンソニーさんとは違う方でも、
なにか、有益な情報が聞けるかもしれない。
ならば、行ってみる価値は十分あるかな。

「ありがとうございます。今度行ってみますね。」

重要な情報をくれたエグランチエさんに、お礼を言う。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



最近、妙な嫌がらせを受けている。
家の隙間に落ち葉がこれでもかと詰められていたり。
干してあった布団にこれでもかと殴打痕が残っていたり。
玄関扉の蝶番が微妙にゆがんでいたり。
大して実害はないけど、なんとなく気味が悪い。そんな類の嫌がらせだ。
なにより自分の居ない時間にやっていくのが気味が悪い。
まぁ気にしてても仕方がないので、とりあえずは放置しておくことにしよう。

「さて・・・と。行ってみようかな。バッファロービル」

身支度をして、家の扉を開ける。








PL
とりあえずここまで!
鳥さんパスありがとうございます!
JGなにやってんですかwww

サブGM [2012/06/27 23:01]

「さて・・・と。行ってみようかな。バッファロービル」

ぎぎぎ、と家の扉を開ける。
嫌がらせのせいか、前より開きづらくなっている気がする。
――問題は、それが自分の気のせいでもおかしくないぐらいに、元からボロい扉だということだが。


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エグランチエの言っていた店はすぐに見つかった。

肉の串焼きの焼ける香ばしい匂いが辺りに漂っている。
軒先には大きな角の生えた馬頭が提げられており、
それと同じぐらいに威圧的な風貌の主人がカウンターの中で肉を切り落としている。

その手前では、そんな背景にそぐわない美しい金髪の若い女性が店番中だ。
どうやら、これが噂の美人、ジョディ夫人ということなのだろう。


「あー・・・やっぱり外れ、ですかね」

アレルは店の前で呟く。
そう、ニナからの手紙にはこうあったはずだ。

アンソニーは髪は薄い茶色で、瞳はグリーン、現在の年齢は22。

だがどうだろう、目の前で豪快な包丁さばきを見せているアンソニー主人は、
髪は薄い茶色だったのかもしれないが、少なくとも今は一本も残っていない。
目は青いし、年齢はといえば40代から50代といったところだろう。

「まぁ、折角来たんだから聞いてみるだけでも聞いてみましょう」

それに、この串焼きを今日の朝食兼昼食にするのも悪くない。



「ごめんください、これを・・・そうですね、2本頂けますか。
 ・・・それから、こちらにアンソニーという人が居ると聞いたのですが」

「毎度ありがとうございまぁす。1ガメルですぅ。
 はい、居ますよぉ。・・・おぉーい、アンちゃぁん、お客さんだよぉ!」

アレルがアンソニーについて尋ねると、ジョディは見た目とは裏腹の大声で店主を呼び出した。

「ハイハイ、なんだ? ・・・ゲッ、お、お前は!!」

肉汁で濡れた手を拭きながらやってきた店主は、アレルを見るなりたじろいで飛び退った。

「おいおい、手紙ならもう届けてやっただろう?
 まだ何か――」

「やだ、アンちゃんってばぁ、どうしちゃったの?」

店主の頭に浮かぶ汗を、夫人がゆっくり拭いてやると、店主はひとまず落ち着いたようだ。


「ああ――すまんな、お客さん。どうやら俺の勘違いだったようだ。
 お詫びに、好きな肉をサービスしとくぜ。適当に選んでくれ、ジョディが包むからよ。
 
 で、何が聞きたいんだ?」

カウンターにどっしりと構え、本来の威厳を取り戻した店主がアレルに尋ねる。

「ごめんねぇ、アンちゃん最近、ちょっと色々あってねぇ。
 あ、牛と豚と鳥、どれがいい?」

一方、ジョディはテキパキと作業を進めている。
頼めばこの場で調理もしてくれそうだ。



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――また、へんな女がいるな。

アレルの家の前で日課をこなすジャンの視界の隅に、
小走りで去っていく女の人影が映る。

だが、ここはもともと勝手に空き家に住み着いて咎められないような町外れだ。
へんな奴の一人二人、このあたりの住民はまるで気にも留めない。

ジャンもまた、付近の住民と同様かもしれない。
......いや、むしろジャンもへんな奴の一人だろうか。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブGM(ここあ)より:

おまたせしました!
アレルート進行であります。どうでしょうか...!(ノノ

GMからもまったく設定とか聞かず雰囲気で乗り込んだエグルートの方とは違って(笑)、
こちらはアンソニーネタについてGMに確認しております。
その上で自由にやれとのことなので、自由に動かしてみてます。うふふ。(''*

アレル=リリー [2012/06/28 22:40]
中央通。
その名の通り、オランの中央を通る、大きな街道。
人通りも多いし、立ち並ぶ店も多い。
いつも賑やかな、オランの背骨部分。

そんな場所だから、目当ての店を探すのは少し苦労すると思ったんだけど・・・
存外、すぐに見つかった。
香ばしい匂いが、その店の存在を強調していたからだ。
チラリと、店内をのぞく。

居たのは、金髪の若い女性と肉を切り落としている男性。
恐らく女性のほうがジョディ夫人で、男性のほうがホプキンスさんだろう。
男性のほうを、よく観察する。

真っ白な髪に、青い瞳。
年齢は4,50といったところだろうか。
手紙に書かれていたアンソニーさんとは、大きく異なる姿。
外れか・・・そう心の中で落胆する。
でもせっかくきたのだからと、食事ついでに話を聞くことにした。

「ごめんください、これを・・・そうですね、2本頂けますか。
 ・・・それから、こちらにアンソニーという人が居ると聞いたのですが」

「毎度ありがとうございまぁす。1ガメルですぅ。
 はい、居ますよぉ。・・・おぉーい、アンちゃぁん、お客さんだよぉ!」

アンソニーさんについて尋ねると、ジョディさんは、その外見には似つかわしくない
大声で、主人の名前を呼んだ。
ほどなくして、肉汁で濡れた手を拭きながら主人がやってくる。

「ハイハイ、なんだ? ・・・ゲッ、お、お前は!!」

自分の顔を見てすぐ、そんな声を上げるホプキンスさん。
思わずキョトンとしてしまう。
・・・だが、次の発言で正気に戻る。

「おいおい、手紙ならもう届けてやっただろう?
 まだ何か――」

手紙。
そのキーワードに、耳がピクリと反応する。
瞬間、最初に送られてきた手紙の内容を思い出した。




お肉屋さんに言えば、届けてくれるって、きいたよ。






「ああ――すまんな、お客さん。どうやら俺の勘違いだったようだ。
 お詫びに、好きな肉をサービスしとくぜ。適当に選んでくれ、ジョディが包むからよ。
 
 で、何が聞きたいんだ?」

ジョディさんに宥められて、ホプキンスさんが落ち着きを取り戻す。
そうして彼は、本来の威厳を携えて、自分にそう聞いてきた。

「あぁ、じゃあ鶏を貰ってもいいでしょうか。
出来れば調理していただけるとありがたいのですけど。」

ジョディさんにそうお願いしてから、ホプキンスさんのほうに向き直る。

「・・・・さて、正直ここにはあまり期待はしてなかったのですが・・・・
とんでもない当たりを引いたようです。
お聞きしたいことは山ほどあるのですが・・・そうですね、一つずつ質問していきましょうか。

一つ。つい先日、自分の家に手紙が届きました。
住所も差出人も宛先も知らない、間違い手紙です。
そしてその手紙には、"お肉屋さんに言えば、手紙を届けてくれる"と、
そう書かれていました・・・・・。
・・・ホプキンスさん。貴方は、"14丁目3番地"に手紙を届けましたか?

人差し指を立てて、ホプキンスさんにそう問いかける。
答えがYESであったなら、次の質問だ。

「一つ。その手紙は、ニナさんと言う人からアンソニーさんと言う人に向けてのものでした。
ホプキンスさん。貴方は、ニナさんとアンソニーさんを知っていますか?

これもYESであったなら、次の質問だ。

「一つ。自分は今、ちょっとしたお節介心でアンソニーさんの行方を捜索しています。
ホプキンスさん。貴方は、アンソニーさんの居場所を知っていますか?

核心に迫る質問。
これで答えがYESだったなら、自体は一気に急前進だ。
少し手のひらに冷や汗をかく。

「あぁ、それと・・・・ニナさん、アンソニーさんのことについて何か知っていることがあれば、
教えていただけると非常に助かります。
特にニナさん。手紙でのやり取りを見る限り、記憶障害のような症状が見られますが・・・」

仮に居場所が分からなくても、他に何かを得てから帰ろうと、
最後に質問を付け加えた。










PL
ククク・・・うかつに他人描写が出来ない・・・!
ニナとアンソニーのこと聞きまくります!
JG [2012/06/30 04:50]

 今日は変装をする。

僕だから、あんやろうは出てこねえんだ。

ちんたまのちっせえやろうだぜ。

 

 なるほど、ついてないのかもしれん。

 

もとい。

 

今日もやってきた。

 

「 あ 」

 

・・・あの女・・・ッ!

 

物陰から様子を伺っていると、

なんてことだ!

窓や壁の隙間に、葉っぱねじ込んでやがる・・・ッ!

 

あれは、僕が初日にやったひまつぶしじゃないか・・・ッ?


「 Damn it !! 」


まさか、あれが噂の葉っぱ隊ってやつか?

何かの儀式なのか?


「・・・狂ってる・・・」


S・H・I・T・!


僕は震えた。


物陰に隠れて、女が去るのを待つ。


女はひとしきりやって気が済んだのか、

或いは、途中で我に返ったのか、

急に周りをきょときょと見回しだすと、

浮かれたようなギャロップから、ぎこちないスキップを始め、

へたくそ過ぎて転びそうになってから、小走りに去っていった。


あれがパッテェだとかいう葉っぱ隊の女首領だとすると、

かなり猟奇的なパーティだと予測される。


おい、待てJG、お前はパティに会った事あるだろ。

ああ、ある。あったあった。


よかった、あれはパティじゃない。


とにかくわかったことは、

あの女が、とてつもなくヤバイってことだ。


あのあばら家が、燃えてなくなる日も、そう遠くないだろう。


どうでもいい。僕は僕の日課、強迫観念CP-15を果たすだけだ。


「こんにちは、こんにちは、」


コンコン


「居ないのかい?ちょっと出てきておくれよ、あたしだよ、」

 

 

「あたしゃ、メノウだよ・・・この、いけずぅ、」

 

 

ドアノブに、通気性の良いカツラを引っ掛けて、

『新商品です、お試しください』

と張り紙を残し、

 

僕も走り去った。

サブGM [2012/07/03 23:07]
ジャンは物陰に隠れ、
とてつもなくヤバイ女の所業、あるいは儀式を見守る。

イカれてやがる、あの女――化けモンじゃねぇか?



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アレルの注文を受けたジョディは、カウンターの奥の調理場に引っ込んだ。
ほんのりと香ばしい匂いと、ぐつぐつと煮立つ鍋の音が店先まで届いている。
少し遅い朝の中央通、穏やかな時間の流れ。

まるでその流れに棹さすように、アレルは人差し指を、す、と立てた。


「一つ。つい先日、自分の家に手紙が届きました。
 住所も差出人も宛先も知らない、間違い手紙です。」
 
――アンソニーの商売用の笑顔が固まった。間違い、手紙、だと?


「そしてその手紙には、"お肉屋さんに言えば、手紙を届けてくれる"と、
 そう書かれていました・・・・・。」

「あ、あんのやろう・・・ッ! まるでわかっちゃいねぇッ」

天を仰ぎ、小声で悪態をつく。
この間のこと、そして間違い手紙が届いたという気障な客。
そうか、よりによって!


「・・・ホプキンスさん。貴方は、"14丁目3番地"に手紙を届けましたか?」

「・・・・・・ああッ」

どんっ。
手をつき、カウンターからぐっと乗り出す。
よりによって、

「・・・お、お前、なんでそんなわけの分からん住所に住んでやがるんだよッ・・!!」

アンソニーは押し殺した声で、目を剥き、アレルに向かって恨み言を投げつける。
それからハッと思い直したように、首を横にぶんぶんと振り、

「――いや。すまん、アンタは悪くないよな、ああ、悪くない・・・そうだ・・・」

観念した、という表情で、カウンターの上に力なく崩れ落ちた。
しょんぼりとした初老の店主は、なんだか先ほどまでよりもとても老けて見える。



----------------------------------------------------------------------


「・・・全部、悪いのは俺なんだよ」


カウンターの奥の調理場から、ぐつぐつ、ことことと鍋の音が響く。

「ニナは・・・俺の昔馴染みだ」

「この辺の通りはな、数十年前はもうちょいと店もまばらでな。
 丁度いい子供の遊び場で――俺とニナの庭のようなもんだった。
 ああ、何が楽しかったんだかわかんねぇけど、二人で石畳の数を日がな一日数えたりなんかしてなぁ・・・」

この店の客は現在アレルの他には居ないが、後ろの通りは絶え間なく人が通って行く。
きゃはは、と声を上げながら小さな子供たちが走っていった。

「それから俺が16の時だ。親父と喧嘩した勢いでな、
 肉屋なんてやってられるか、俺は冒険者になる、なんてな、ここの家を出たんだよ。
 ま、あれだ。俺も若かったんだ。
 
 ・・・それからはお決まりのコースだ。
 しばらくは調子よく行ったが、ある時でかいヤマにぶちあたって仲間が沢山死んじまった。
 俺も足をやられちまったし、情けない事に怖くなってなぁ、引退せざるを得なかったよ」

よくよく見れば、アンソニーのがっしりとした腕には古い傷のようなものが大きく残っている。

「ま、それはいいんだ、旅の中で肉の取り扱いにも慣れたしな。
 ちょっと遠回りだったがいい修行だったよ、はははッ。
 
 だがなぁ、俺がオランに数年ぶりに戻ってきたらよぉ。
 
 ――ニナまで、死んじまってたんだ」

流行病だった、ニナは運が悪かったんだ――とニナの母親からは聞いた。
だが気を落としたからか、それからすぐにニナの母親も悪い風邪を抉らせて死んでしまった。


「――それから俺はこの店を継いだ。
 あのホプキンスの放蕩息子に務まるわけがない、っつーんで最初の評判は最悪だったけどよ、
 それでもがむしゃらにやってりゃなんとかなるもんだなァ。
 仲間と俺の治療費で作った借金も、何とか返せたぜ。

 そんで仕事に明け暮れてただけのジジイに、今更綺麗なヨメさんが出来たりしてよぉ、ははッ。
 幸せってのは、こういう事なんだろうな、って思うぜ」

その様子からして新婚なのだろう、ジョディの話題には、ニヤニヤと嬉しそうな様子を隠せない。
喜びに輝いたその目は、間近で見ると少しグリーンがかって見えた。
加齢で濁っているが、昔は綺麗な緑色だったのかもしれない。


「まあ、そんでジョディが来てくれてから少し暇ができるようになってよ。
 ある日、昔使ってた俺の部屋を片付ける事にした。
 笑ってくれよ、数十年間、そんな事にも気が回す余裕が無かったんだよ。
 
 ――そしたら、ニナからの手紙が出てきた」


喧嘩して家を出たときのそのまま、乱れに乱れた部屋の中から、見覚えのない木の箱が出てきた。
中には古い羊皮紙が沢山詰まっている。
どうやらニナが病気の間に書いていたものらしい。

長い時を経た手紙はボロボロでほんの一部しか読みとる事はできなかったが、
アンソニーが推測するに、どうやらニナはアンソニーの父親にこれを託していたようだ。

"もし行方が分かったら、アンソニーに宛てて届けてください"、と。

放蕩息子たるアンソニーはもちろん父親に行方なんか知らせなかったから、
仕方なくここに置いてあったのだろう。


「中身は・・・ま、あれだ、詳しくは言わねぇけどよ。
 俺が家を出る前に、いや、ニナが死んじまう前に読んでりゃあな。
 俺はいまごろ、ニナと一緒に暮らしてたかもしれねぇな、と思うようなもんだった」

――それか、俺があいつの気持ちに気づいてやっていればな。

まあ、全部もう遠い昔のことだ。
そうアンソニーは力なげに笑う。

「・・・迷ったが、俺はその古い手紙を箱ごと燃やしたんだ。
 ジョディの知らねぇ昔の事を考えてジメジメしてたらよ、あいつに悪いからな」

肉屋の小さな裏庭、昔良く遊んだその場所で。

「だがその晩からだ、俺はニナの夢を見るようになった。
 窓の外から声が聞こえるんだよ、"わたしの手紙を届けて"ってなぁ......。
 
 あんまり俺がうなされるもんで、ジョディは心配して神殿に相談しにいったらしい。
 気が落ち着くまじないも何度か掛けて貰ったが、一番効いたのはお祓いだったかもな。
 しばらくして、夢は見なくなったんだ」

「そしたらよぉ、ある日だ。
 店宛てに手紙が届いた――ああ、もう死んだニナからだよ!」

そうとうゾッとしたのだろう、その事を話すアンソニーの顔は青い。

「そうさ、何だかしらねぇが、
 ニナは肉屋に手紙を出せば俺の親父に届けて貰えると思ってるんだ。

 でもアンソニーは俺なんだが、でも俺じゃないんだ。
 死んだニナの中じゃあ、あの頃から時間が止まってやがる・・・」

アンソニーはこのジイさんだ、そう伝えたところでニナは喜ぶだろうか?

それに、死人から手紙が来たなんてジョディに言えば。
とうとう俺が狂っちまったと不安がるんじゃないか。
いや、それどころか気味が悪くて家を出ていっちまうかもしれない。
いや、今のジョディに負担を掛ければ、腹の中の子はどうなる?
――それだけは、避けたい。


「だから、俺はジョディに黙って返事を返したんだよ。

 "アンソニーは14丁目の3番地に住んでると聞いた。それ以上は知らん。
  今まで来た手紙はこっちで届けておいた。
  だから、次からは直接そっちに手紙を出すように"

 ――ってな。
 それで手紙が戻ってくるか、返事が戻ってこないかすりゃあ諦めるだろうと。
 
 で、しばらく忘れていたら、今日だ。
 てっきり、その銀色の髪を見て、ついにニナが化けて出てきたのかと・・・。
 
 まさか、そんな聞いたこともない住所が存在してて、住んでる奴がいたとは・・・。
 本当にすまん、お前さんにはとんだ迷惑をかけちまったなァ・・・」

バツの悪そうな顔で、頭を下げるアンソニー。

「まあ、そんなワケだ。
 見も知らぬお前さんにはこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかねぇ。
 来た手紙は捨てちまってくれよ、あとは元凶の俺がどうにか・・・」

「・・・・・・どうすりゃいいんだか・・・わかんねぇけどよぉ・・・」

焦燥した様子でアンソニーが頭を抱えると、
カウンターの奥から、何も知らぬジョディのごきげんな鼻歌が響いてきた。
なんとも可愛らしい。

「・・・あぁ、どうにかしなきゃなんねぇんだ、大丈夫だ、どうにかする!
 だから、お前さんちに届いたおかしな手紙のことは忘れてくれ。
 ほんと、変なもんに関わらせちまって悪かったな」


そこまで話すと、もうすぐ鳥肉は茹で上がる頃合いだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブGM(ここあ)より:

大変、おまたせしました...っ。
鳥さんの投げ込んだ設定が事件の中心になるって面白いなとか張り切ったものの、
まとめるの案外大変だったでぇ。。><
でも、楽しい。
というわけで、アレル探偵のシティルート、いきなりの真相編ですっ

ニナは古い手紙の入っていた箱に取り付いていた幽霊で、
箱を燃やされてしまったために居場所をなくし、自分の住んでいた家(のある場所)に戻りました。
(物品に取り憑いたファントムが、物品を壊されるとどうなるか分からなかったのですが、
 今回はその時にスペクター化したという感じで考えてます)

それからニナ家の現在の住民か、
あるいは裏庭付近をたまたまほっつき歩いてた可哀想な女性あたりに憑依し、
アレルと文通することになったというわけです。
幽霊なので、どうもいろいろと意識がブレているようです。

ジャンが見たへんな女は、たぶんそのニナが取り憑いた女性なのでしょう。
......または、まったく関係ないアレルのヤバイストーカーかもしれませんが(''*
少なくともパティじゃないですYO!w

というわけで、アレルは家に帰ればへんな女の足跡を追うこともできますし、
もしかしたらジャンに聞いてみることもできるかもしれませんし、
葉っぱに紛れて新しい手紙が隙間に詰まっているかもしれませんし、
もともと手紙に書かれているニナの住所を訪ねれば、ニナの取り憑いた女性に会う事は可能でしょう。
また、今まで通り住所に手紙を出せば、ニナ(&女性)の元には届きます。


アレル探偵はこのゆうれい手紙事件を解決してもいいし、しなくてもいい。
幽霊が取り憑いてオランの街中をうろうろしているわけですから、
ほっておいても時間の問題、そのうち誰かに見つかって除霊されることでしょう。

もし展開に必要ならば、NPC等の反応も作っちゃってOKです。(ニナ含む)
もちろんレスが必要そうならこちらから返します!(''

アレル=リリー [2012/07/05 01:57]
ホプキンスさんから、事の顛末を全て聞いた。

彼が自分の探していた"アンソニーさん"である事。
ニナさんは既に死んでしまってるという事。
昔は冒険者だった事。
その後親の店を継ぎ、ジョディさんというパートナーを手に入れた事。
ニナさんの手紙を見つけた事。
それを燃やした事。
死んだはずのニナさんから手紙が届いた事。
それを適当な住所に誘導したら、自分が来た事。
全てを、彼の口から聞く。


>「まあ、そんなワケだ。
> 見も知らぬお前さんにはこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかねぇ。
> 来た手紙は捨てちまってくれよ、あとは元凶の俺がどうにか・・・」

>「・・・・・・どうすりゃいいんだか・・・わかんねぇけどよぉ・・・」

言いながら、頭を抱えるアンソニーさん。
厨房からは、ジョディさんの鼻歌が聞こえてくる。

>「・・・あぁ、どうにかしなきゃなんねぇんだ、大丈夫だ、どうにかする!
> だから、お前さんちに届いたおかしな手紙のことは忘れてくれ。
> ほんと、変なもんに関わらせちまって悪かったな」

「そう・・・・・ですか。分かりました、そうしましょう。」


本当にそれでいいのか。
頭の中で疑問が反響するが、それを無視して、そう答えた。
奥からは、肉の焼ける香ばしい匂いがする。
そろそろ完成だろうか。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「・・・・・やっぱり、納得は出来ませんね。」

数日後、自分はかつてニナさんが住んでいたという家の前まで来ていた。
最初は手紙に書かれていた住所がニナさんの家なのかと思ったが、どうやらそれは違ったようで、
実際には、自分とは違う方向の街外れにあったボロ家がそうだった。
時刻は夜。
自分は今から、"あるもの"を手に入れるために、この家を捜索する。
頭には通気性の良い鬘。なぜかドアノブに掛かっていたので、持ってきた。
一応これで変装にはなってるだろう。

「しかし・・・・これはまたひどく荒廃した家ですね・・・・」

目の前の建物を眺めてそう呟く。
もう何年、いや何十年も人が住んでいなかったのだろう。
壁の木は剥がれ、柱は押せば動き、今にも崩れてしまいそうだ。
ギルドで過去の情報を集めていなければ、ここに人が住んでいたかどうかも分からなかったかもしれない。

「まぁ、見つけたからには、こっちのものです。
探し当てますよ・・・・・・ハッピーエンドへの切符を。」

そう意気込み、今にも崩れそうな家の中に、足を踏み入れていく。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ほんと、どうすっかなァ・・・・・」

あの"14丁目の3番地"の住人が帰った後、俺は頭を抱えて悩んだ。
もちろん店は閉店まで続けたさ。親から受け継いだもんに泥は塗れねぇからな。
だが、店を閉めた後は・・・・・俺はずっと、部屋に篭りっ放しだ。

「アンちゃん、大丈夫ぅ?」

あまりに篭りすぎて心配になったのか、ジョディが扉の向こうから声をかけてくる。

「ん、あぁ、大丈夫だよ。」

そう答える。ジョディに心配はかけられねぇからな。・・・・・そう、かけられねぇんだ。
さっさとこの件は終わらせちまわねぇと。
ジョディにも、生まれてくる子供にも、こんな顔は見せられねぇ。

「ふうぅぅぅぅぅぅ・・・・・よし、考えろ、俺。」

深呼吸一つ、気持ちを切り替える。

まず今のニナの状態から考えようじゃないか。
俺の冒険者としての経験が語るに、今のニナは『怨霊』のような状態になっちまってるんだと思う。
怨霊・・・・つまり、アンデッドってやつだ。
アンデッドっていやぁ・・・・あいつに頼るしかねぇなァ。
俺と同じ、例の事件での数少ない生き残り。
あいつのコネのおかげで、俺も助かったんだよな。
一度返した借りをもう一回借りるのはちょっと気が引けるが・・・・今はそんな事は言ってられねぇ。
早速明日あたりにでも、あいつの元を尋ねてみるとするか。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「これでもない・・・・これも違う・・・・」

ボロボロの家の中を漁る。
腐食した木が、廃れた家具が、積もった埃が散乱した家内。
一見して、どこからどこまでが部屋なのかも分からない。
そんな家の中を、漁る。
いい気はしない。
家主が死んでしまった家を漁るなんて、誰だっていい気はしないだろう。
でも、自分は漁る。
それが自分の、役目のような気がしたから。

「・・・・・!ここ・・・・」

見つけたのは、ベッドのある部屋。
ぱっと見、今までの部屋となんら変わりはない。
腐食した木、廃れた家具、積もった埃。
でも、その中に埋もれている、可愛らしい小物類であっただろう物が、
この部屋の住人が年頃の少女だったのだと告げる。

「女性の部屋を漁るのは気が進みませんが・・・・許してくださいね、ニナさん・・・」

そう言いながら、部屋の瓦礫をひっくり返す。
探し物を探し当てるために、部屋の隅から隅まで探し回る。
でも、無い、無い、無い。
ここには何もないのだろうか。絶望が頭を支配する。
残るはこの部屋のベッドのみ。ここになければ、もう・・・・・
暗い気持ちで、ベッドを調べる。




―――そこに、あった。



「・・・・・!」

見つけたそれに息を呑み、破れないように注意しながら、広げる。
目がそれに刻まれている文字を追う。
・・・間違いない。

「・・・・・見つけた・・・・・!」

歓喜の声をなんとか抑え、夜の闇に紛れて自分は走り出した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あいつのところに言ったら、「数日後にもう一回来てくれ」だと。
んで、今日がその数日後。

ニナには、手紙を出した。
アンソニーを見つけた。○月×日の夜に、ある場所に来てほしいって内容の手紙だ。

店は今日は休業にした。
ジョディには、旧友と久しぶりに飲みにいって来るって言い繕った。
最愛の妻に吐いた、最初の嘘だ。
この嘘を帳消しにするためにも・・・・今日で終わらせてみせる。
そう決意して、俺は家を出た。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「い・・・居ない・・・・・・!?」

「そうなの、ごめんねぇ。」

夜分遅くに申し訳ありませんとアンソニーさん宅の扉を叩けば、出てきたのは寝巻き姿のジョディさんだった。
聞けば、アンソニーさんは朝早くから出かけているらしい。

「朝早くからこんな時間までですか!?」

「うん、旧友と飲みに行くって。」

いくらなんでも、遅すぎる・・・・・!本当に飲みにいったのだろうか・・・・
・・・・もしや・・・・まさか・・・・

「アンソニーさんは、飲みにいく以外には何も言ってませんでしたか?」

「うーん・・・言ってたってわけじゃないけど・・・・そういえば前に一度、
神殿のほうに行くって言ってたなぁ。そのときはすぐ帰ってきたんだけどぉ。」


神殿・・・・・間違いない・・・・!

「・・・・アンちゃんねぇ、何だか思いつめた顔してたよぉ。
旧友と飲むのに、まるで自分で自分を追い詰めてるような顔だったなぁ。」


「・・・・アンソニーさんの行き先に、心当たりはありませんか?」

「うん、あるよぉ。アンちゃん前、自分の思い出の場所だって連れて行ってくれた場所があるんだ。
昔はよく幼馴染の子とここでよく遊んだんだーって。」


「よければその場所。教えていただきたいです。」

「いいよぉ。でもぉ・・・・一つお願いしてもいい?」

「なんでしょう?」

「アンちゃんをねぇ、助けてあげてほしいんだ。
多分今ね、、すごく心に余裕がなくなってると思うの。だから変なこととかするかもぉ。
もしそうなったら、止めてあげてほしいんだ。ちょっとくらい手荒にしてもいいよぉ。」


「いいんですか?」

「うん、アンちゃんが帰ってきたら、私が慰めてあげるんだぁ。
おいしい料理作って笑顔で迎えてあげてぇ・・・・
ふふ、私って良いお嫁さんでしょ?」


「・・・えぇ、本当に。アンソニーさんがうらやましいです。
・・・では、行ってきます!」

「いってらっしゃい~」


ジョディさんの声を背に、再び走り出す。
間に合うといいけど・・・・・!









PL
あまりにも長いのでここで一度区切り!
明日にでももう1つ投稿します!
終末に加速するぜ!


アンソニーはこの件を終わらせるために旧友の神官から祓魔用のアイテムを貸してもらう。
そしてニナを祓うために、ニナスペクターをある場所に呼び出し、自分も店を開けて出て行ったという感じ。

ジョディはアンソニーの嘘を実は見破ってたりすると燃えますよね(キリッ
サブGM [2012/07/06 23:31]

バッファロー・ビル精肉店を後にして、
アレルは走る。




がんがんがん、
勢い良く降りた階段の振動が、大きな馬頭の角を揺らす。
その影を目の端に捉えるが、今はどうでも良い。





急げ、アレル。
――自分の足は、身体は。もっともっと速いはず!



かんかんかんかん。


十万都市オランの中央通も、夜が深まれば静かなものだ。
昔アンソニーとニナが数えたという、石畳。
それを踏む音だけが街中に響く。



――この石畳の音は、数十年前と一緒かもしれませんね。



アレルは一瞬、幻を見た。
小さな子供たちが笑いながら自分の前を走っている。
それは楽しそうに。



アレルはそれをつかもうと更にスピードに乗る、
だがその瞬間、スッと掻き消えた。




過去と今が入り交じる、不思議な月夜を、走る、走る――。







アレル=リリー [2012/07/07 03:51]
カツン、カツンと、石畳を歩く。
この道を、このまま奥に行けば、開けた場所に出るはずだ。
周りはどっかから持ってきたんだか分からないような廃材で埋め尽くされていて、
その真ん中に、広場みてぇな空間がある。
男心をくすぐる、秘密基地のような場所だ。
そら、見えてきた。

「・・・・懐かしいなァ。」

目的地に着いて、ポツリと一言漏らす。
昔はよく、ニナと一緒にここで遊んだっけなぁ・・・・
あいつはここが好きだった。
引っ込み思案だったからな。誰も人が来ないここは、
あいつにとっては落ち着ける空間だったんだろう。
んで、俺もそれに付き合って・・・・ここは2人だけの秘密の場所にしたんだ。
小さかったあいつと指きりしたのを、今でも覚えてるぜ。

「・・・ここで逝けるのなら、あいつも本望だろう。」

ポケットの中に入れた護符を握り締めながら、そう呟く。
俺の旧友から貸してもらった、退魔の護符。
なんでもこれを怨霊どもに当てると、やつらは泣き叫びながら
霧散して、天に還るらしい。
詳しい話はしらねぇけど、とりあえずこれを当てればニナはこの世から消えるって事だ。
効果は一回しかもたねぇし、本当は結構値が張る品らしいが・・・・・
旧友のコネに感謝ってとこだな。持つべきものは出世頭の友人だぜ。

「もうそろそろ約束の時間か・・・・・。
あいつは生真面目だからな。時間を指定したら絶対にその時間ぴったりにきやがる。
遅刻もしねぇし、五分前行動もしねぇ。だから、もうすぐ・・・・・」

「アンソニー?」

そら、きた。

ゆっくりと、声がしたほうに振り向く。
透き通った白い体に、俺の記憶の中の昔馴染みとまったく同じ姿。
――――怨霊と化したニナが、そこに居た。

「久しぶりだな。ニナ。」

「・・・・アンソニー、じゃない?」

おどおどとした、小動物みてぇな目が、俺を眺め回す。
・・・やっぱり、わからねぇか。

「アンソニーはどこ・・・・・?」

「いるよ、目の前に。」

「・・・貴方が、アンソニー?
ううん、違うわ。アンソニーはまだ20代だもの。」


「そうだな。お前が死んだとき、俺はまだ20代だった。
あの頃は、俺もやんちゃだったなァ・・・」

「やめて、おじさん・・・アンソニーの振りをしないで・・・」

「昔は良く、中央通の石畳を数えたり、ここで雑談したりして過ごしたよな。
それがどうだ。今では俺も、自分の店を持って、家族を持って・・・・」

「やめて・・・・やめて・・・・・」

「なぁ、覚えてるかニナ?お前がまだ9つだったとき。
近所のいじめっ子にやられて泣きべそかいてるお前を、俺が―――」

「やめて!!!」

突然の大声に、思わず口を噤む。
小動物みたいだった目が、今では猛禽類のように、鋭く俺を睨み付ける。

「アンソニーは、貴方みたいに真っ白な髪じゃない!そんな濁った目なんかしてない!
アンソニーの名前を騙るのは、やめて!!!」


剥き出しの嫌悪感が、俺の肌を突き刺す。
周りの廃材が、がたがたと揺れてる気がした。

「・・・・なぁ、ニナ。本当にわからねぇのか?」

「それ以上喋らないで!それ以上アンソニーの振りをするなら、私は容赦しないわ!」


「なぁ、ニナ、おい。頼むから聞いてくれよ・・・・」

「喋らないでっていってるでしょ!」

「ニナ・・・・」

「黙・・・」


「聞けっつってんだよ!ニナ!!」


今度は俺が、大声を上げる。
ニナの体が、びくっと跳ねた。

「いいか!ニナ!?お前が死んでから、もう30年近くも経ってるんだぞ!?
人間ってのは年を重ねるごとに老いるもんなんだ!
俺が、アンソニーが、昔と同じ姿でいられるわけないだろうが!」


思わず、口調が荒くなる。
ニナは俯きながら、震えていた。

「違う・・・ちがう・・・チガウ・・・・」

「違わねぇ!俺はアンソニーだ!正真正銘、アンソニー=ホプキンスだ!
お前と一緒に楽しく過ごしていた、アンソニーなんだよ!」


「う・・・・ううぅぅぅうぅぅぅ・・・・」


俺の言葉に、ニナは頭を抱えながら呻く。
まぁ、当然だろう。ニナにとっちゃ、信じがたい事実だろうからな。
だから俺は、今度は気遣うように優しく口を開いた。

「・・・なぁ、ニナ。俺が悪かったよ。
お前をおいて、冒険者なんざになっちまった俺が悪いんだ。
親父と喧嘩して、頭に血が上ったんだ。お前の気持ちも考えずに、突っ走っちまった。
手紙もよ、俺の元まで届かなかったから、返事を書きようもなかった。」

「・・・・アンソニー・・・・アンソニー・・・・」

「全部俺が悪かった。申し訳ない、このとおりだ。
・・・・なぁ、ニナ。だからよ・・・・もう化けて出るなんて真似はよせ。
お前が化けて出るほど俺を恨んでたのは仕方ねぇ。
当たり前だわな。誰だって恨むだろうさ。
なぁ、ニナ。これでチャラにしねぇか?俺の謝罪でさ。
俺も出来ればお前に泣き叫ばせたくなんざないんだ。
だから、な?頼むよ、ニナ・・・・」

そう説得しつつも、右手はポケットに入れ、護符を握る。
使いたくはないんだがな・・・・

「アンソニー・・・置いてった・・・・アンソニー・・・・返事がなかった・・・」

「あぁ、そうだな。俺が悪いんだ。全部、全部。」

「アンソニー・・・アンソニー・・・アンソニーアンソニーアンソニー・・・・」


「・・・・・ニナ?」

何だか様子が変だ。
そう直感的に感じた俺は、護符を出して、身構えた。

「アンソニー!置いてった!アンソニー!無視した!
アンソニー!アンソニー!アンソニー!アンソニー!アンソニー!アンソニー!
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー!!!」


目を見開きながら、狂ったように俺の名前を連呼するニナ。
背筋が凍るような感覚を覚える。目の前にいるのがニナじゃないように感じる。
近くの廃材たちが、ガタガタと震えだした。

「アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー!!!!」

頭を抱えて、ぶんぶん振り回すニナ。
途端、二ナの後ろの廃材が、ふわっと浮いて、俺めがけて飛んできやがった!

「くそったれ・・・・!殺そうとするほど俺が憎いかよ・・・・!
上等だニナ!お前はこの手で・・・・成仏させてやる!!」

そう言い放って、前に・・・ニナの方に駆け出す。
廃材が当たるが早いか、護符がニナに当たるのが早いか・・・・・!
頼む・・・・!届いてくれ・・・・・!





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




石畳の上を、全力で駆け抜ける。
視界にはさまざまな景色が映るが、今はそんなものを気にしている余裕はない。
急げ、アレル。
もっと早く!もっと速く!もっと疾く!

カンカンカンと、石畳を踏む音が耳に残る。
かつてのニナさんとアンソニーさんも、この音を聞きながら遊んでいたのだろうか。
そんな事を考える。

それは、幻。
目の前を走る。小さな子供達。
楽しそうに、顔を綻ばせて走っている。
子供達を後ろから追いかけ、届け、届けと、手を伸ばす。
すると、その幻は消え去った。

「・・・・次は、届かせる・・・・絶対に・・・!」

あの子供達の未来が居るであろう場所に向かいながら、そう決意を固めた。








「ハッ・・・・ハッ・・・ハッ・・・・ハッ・・・」

断続的に呼吸を繰り返す。
体から汗が噴出す。水分が失われていく。
体力も底を尽きかけている・・・・・でも、止まれない。
もう少し・・・・あと少し・・・・


そうして着いたのは、まるで秘密基地のような場所。
廃材で囲まれた、小さな広場。
子供達にとっては、十分な広さ。
―――その、真ん中。

「ア・・・・アンソニーさん・・・・!」

初老の男性が、白く透き通った女性と、会話をしている。
いや、あれは会話なのだろうか。
女性のほうは目を見開き、ずっと口を動かし続けている。
それを男性は、身構えながら見続けている。
男性の手には、護符のようなもの。

「あの・・・護符・・・・!」

あれが、アンソニーさんが神殿で手に入れたものだろうか。
だとしたら、まずい。
きっとあの護符には、不死を祓うような効果があるはず。
あれを女性・・・・おそらくニナさんに当てれば、その時点でニナさんは・・・・
それはダメだ。それではダメなんだ。
止めないと。そう思った瞬間。

「――――――――――――――――!!!!」

ニナさんが何かを叫び、それと同時に、後ろの廃材が浮き上がった!
廃材はアンソニーさん目掛け、まっすぐ飛んでいく!
そしてアンソニーさんも目の前に護符を携え、ニナさんに突撃していく!

「ッ!駄目です!!!」

叫ぶと同時に、自分も駆け出す。
間に合うか・・・・・!?いや、間に合うか間に合わないかじゃない!間に合わせる!
さっきは届かなかったこの手・・・・今度は、届かせるために!!

「はあああぁぁぁあああぁぁあぁぁあああ!!!!」

ぐんぐん加速する!あとちょっと!もうちょっと!
届け!届け!!届け!!!

「届けええええええええええええええッ!!!!!」

叫びながら、伸ばす手。
それが、アンソニーさんの持つ護符に・・・・・・届いた!!!
護符を思いっきりひったくり、アンソニーさんを突き飛ばす!
と、同時


ガンッ!!

視界が、赤に染まった。




地面に倒れ伏す自分。
頭を生暖かいものが伝っている感触がする。
近くには、さっき飛んできていた廃材。
視界がくらくらする。

「お、おい!?大丈夫かあんた!?」

近くから、声が聞こえる。
この声は、アンソニーさんだろうか。

「あ・・・・・あ・・・・・私・・・・!」

そしてもう一人、女性の声が聞こえる。
恐らくこの声が、ニナさんだろう。
ぐぐぐっと、体を起き上がらせる。

「・・・・間に・・・あった・・・・・」

呟きながら、アンソニーさんと、そしてニナさんのほうに目を向ける。

「無事・・・ですね、二人とも。良かった・・・・」

「よくねぇよ!あんた、どうしてここに来たんだ!?」

「どうしてって・・・お二人を・・・助けるためです・・・・」

頭から流れ出る血を抑えながら、そう言う。
そして、ニナさんのほうに向き直った。

「初めまして、ニナさん・・・・アレルです・・・・」

「あ、貴方がアレル様ですか・・・!?す、すいません・・・!
私、急に我を忘れて・・・・それで、こんな事に・・・・」


「いいんですよ・・・・仕方のないことです・・・・」

今にも泣き出しそうなニナさんを、たしなめる。
そう、仕方のないことなのだ。
ホーントというのは、生前に強い未練や、恨みを持った人がなるもの。
それ故にホーントになった人というのは、最初は総じて自我を持っていることが多い。
自分の意思で恨みや未練を晴らすからこそ、彼らは無事成仏できるのだ。
しかし、時が経つにつれて、ホーントはその自我を失っていくことがある。
それは、長いときが経つにつれて、恨みや未練という感情だけが強く残ってしまい、
なぜ自分がホーントになったのかという理由を、忘れてしまうからだ。
自らの存在理由を忘れてしまったホーントは、最終的に自我を完全に失くし、
完全な悪霊になる・・・・・そうどこかで聞いた。
ニナさんは、ホーントになってからもう30年近く経っている。
これだけの時間を過ごして尚、完全に自我を失ってないほうが、凄いのだ。

「ニナさん・・・・貴方は、自分がホーントに・・・幽霊になった理由を覚えていますか?」

「え、えっと・・・・いいえ・・・・そういえば、私、何で・・・・」

「だと思いました・・・。
・・・アンソニーさん。貴方は、ニナさんが自分を恨んでいたから怨霊になった。
そう思っているのではないですか?」

「あ、あぁ・・・・そうだが・・・・」

「やっぱり・・・・・貴方達は、どこまでもすれ違う運命のようですね・・・」

苦笑しながら、そう言った。

「それって、どういう・・・・」

「これを見てください。」

口を開くアンソニーさんを制して、自分は懐から一通の手紙を取り出す。
もう風化してしまい、ぼろぼろになってしまった手紙だ。

「それは・・・?」

「これは、ニナさんの部屋から見つかった手紙です。
朗読しましょう。」

そう言って、手紙を広げた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



アンソニー

私ね、もうあまり長くないみたい。
あ、なんか字が震えちゃってるね・・・えへへ・・・読みにくくてごめんなさい。

お母さんは大丈夫だって言ってくれたけど・・・・私の体だもん、わかるんだ・・・。
私ね、きっともうすぐしんじゃうんだなぁって・・・・そう思うの。

ねぇ、アンソニー・・・いじめっ子のときの事、覚えてる・・・?
私が9つの時、近所のいじめっ子にいじめられて泣いてたら、アンソニーったら、
私を抱きしめて「安心しろ。今度からは俺が守ってやる」って言ってくれたんだよ・・・?
覚えてるかなぁ・・・・?私は覚えてるよ・・・・凄く嬉しかった・・・。
あの時アンソニーに抱きしめられた時ね、すごく・・・胸の奥が暖かくなったの・・・・
私・・・・もう一度あんな風になりたいなぁ・・・胸がポワーって・・・暖かくなるの・・・。


死ぬ前に、もう一度だけでいいから・・・アンソニーに、抱きしめてほしいなぁ・・・・




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

朗読を終えて二人の様子を見れば、二人とも俯き、無言で居た。
二人が何を考えているのか、自分には分からない。けれど・・・・

「アンソニーさん。
ニナさんは決して、貴方を恨んで怨霊と化したんじゃない。
ただ、小さな願い・・・それを叶えてほしいがためにこのような姿になったのです。」

「ニナさん。
貴方が忘れているというのなら、自分が教えてあげましょう。貴方の存在理由を。
貴方は、アンソニーさんにもう一度、抱きしめてほしい・・・・そう願ったんです。
そしてその願いは、未練となり・・・貴方を怨霊へと変化させた。
違いますか?」

「そう・・・私、もう一度、あの感覚を味わいたくて・・・それで・・・・」

「くっ・・・・すまねぇ・・・・!本当に・・・!申しわけねぇ・・・・!」

「ア、アンソニー・・・泣かないで・・・・!
ううん、アンソニーは悪くないんだよ・・・私がわがままだったから・・・・」


「違う・・・違うんだ・・・俺が全部悪いんだ・・・・
くそっ・・・・俺は、なんて野郎なんだ・・・!」

「アンソニー・・・」


二人のやり取りを、見守る。
そこには、先ほどまでのような敵対心はなく、
ただ、互いを思いやる気持ちで溢れていた。
きっと、彼らが子供の頃は、こうやって互いを思いやりながら過ごしていたのだろう。
そう思うと、この光景が、とても微笑ましいものに見えた。

「・・・・では、抱きしめて差し上げてはいかがですか?」

一通り見守った後、そうポツリと呟く。

「え・・・でも・・・」

「そうだ、今のニナは幽霊なんだぜ?抱きしめてやろうにも俺じゃ触ることもできねぇ。」

「そうですね。確かに不可能です・・・・そのままでは。」

ニィっと、口の端をゆがませながらそう言う。

「でも、誰かを媒体にするとしたら?
ニナさんが誰かに憑依し、擬似的に実体を得ることが出来れば?」

「あ、あんた・・・・まさか・・・・」

「そ、そんな・・・申し訳ないです・・・」

「ニナさん。自分は最初に言いました。『出来る限りのことはします』ってね。
・・・自分を嘘つきにしないためにも、ぜひ使ってはくれませんかね。」

そう言いながら、両手を広げ、迎える体勢になる。

「どうぞ。」

笑顔を、ニナさんに向けた。












PL
な、なげぇ・・・・深夜テンションで書ききりました!

護符とかホーントの自我の話とかは完全に作り話です(キリッ
サブGM [2012/07/13 02:13]






なぜか、ここは昔から変わらない。



誰かが廃材を積んでそのまま場所ごと廃棄されたような、
大都市特有のせわしない時間の流れから取り残された小さな空間。



今夜の月は美しい。
それら全てが夢のなか、幻のように思えるほどだ。



その光に照らされた小さな空間で、

過去に生きるものと、今を生きるものが相まみえ、

過去を問い、今を叫び、廃材ががたがたと浮き、

そして――。




――瞬く間に、アレルが飛び込んだ。




ガンッ。


白い肌に流れる暖かな赤いもの。
......これは幻ではなく、ひとの血だ。


「おいニナッ!!!だいじょ・・・」
  「ああああああッアンソニぃいいいッ!!!」


そう同時に叫んでから、


「・・・・・・?!」


ふたりはそれはお互いのものではないと知り、我に返る。



そして、




止まった針が動きだした。



----------------------------------------------------------------------




ニナは身体が弱いというわけじゃあなかったが、何より細くて小さいやつだった。
だから近所の悪ガキどもに目を付けられることも多く、よく面倒を見てたもんだ。


「おいバカども、おまえらも串焼きにされたいってのか!
 それとも・・・ミンチにされてぇのかァッ?!」


俺が肩をいからせて怒鳴っときゃぁ、オランの中央通に敵うやつはいねぇ。
大抵俺はガキどもを一喝して散らしたあと、何となくここまで二人できたもんだ。

よく、心配して言ったっけな。


「おい、肉食えよニナ。肉。食わねぇと死ぬぞ?
 めちゃくちゃ細いじゃねぇか」

「えーっ、やだやだ、アンソニーんちのお肉好きじゃないもん!
 ちょっとくさいし!」

「こんの、てめぇ! 言いやがったな!
 それがオトナの味だろうが!」

べしっ、と銀色の小さい頭を叩くことなんかは日常茶飯事だ。


「「あはははははっ」」


俺の評判は当時から最悪で、ニナの母親にも良く付き合うなと言われたもんだ。
それでもニナは俺を慕ってよく後からついてきた。

考えてみると、そんなガキ大将を慕ってくれたってのに、何にもしてやれなかったな・・・。



----------------------------------------------------------------------



「・・・なんだ、そんな事かよ」



思わず、口をつく。

――"もう一度抱きしめてほしい"。
ニナの願いはまるで子供見てぇなモンだった。


もっともっとしてやれなかった事は沢山あったろうに。


畜生、


「遅ぇんだよ、てめぇ」


気づくのが、遅ぇよ。


がくり、と膝をついて、ニナ――だったもの――を見上げた。


ああ、銀色に透き通ってるなぁ。
・・・あれからこんな綺麗になったんだな、お前。

いや、この世のものじゃないような美しさってのは、こういうのを言うのか?




「・・・・では、抱きしめて差し上げてはいかがですか?」

変な所に住んでる姉ちゃんが、ニィと口の端を歪めながらそういった。

「え・・・でも・・・」

「そうだ、今のニナは幽霊なんだぜ?抱きしめてやろうにも俺じゃ触ることもできねぇ。」


こんなもん、触ったらバチがあたりそうだ。
俺が触れるようなもんじゃ・・・。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブGM(ここあ)より:

続く!


サブGM [2012/07/13 03:18]



「どうぞ。」


アレルが両手を広げ、迎え入れる。
ニナは戸惑い、どうしたら、とアンソニーの顔をちらりと見る。


「・・・・・・」

黙ったまま答えない。

だけどニナには分かる。
これは欲しい物を我慢してる時のアンソニーの顔だ。



「ありがとう、アレルさん・・・」


「あの・・・」


「あの・・・わたし」


長い時を経て、ニナの意識は一つに定まり辛くなっている。
それを必死にとどめるように、ニナは言葉を切りながら話す。



「わたし・・・変だな・・・って、思ってたん、です」


「手紙の住所・・・"14丁目3番地"・・・変だな・・・って・・・」


確かに俺の聞いたことがない住所なら、
ニナだって聞いたことはないだろうな。
アンソニーは自分の愚かな策を反省する表情を浮かべている。


「ううん・・・ちがうの・・・違う・・・」


アンソニーの表情を見て、首を振る。


「・・・覚えてた・・・」


「・・・ひゃくよんじゅうさん、こ」


「・・・わたしの家から・・・アンソニーの家まで・・・」


143枚の、石畳。


「こんな住所にするの・・・アンソニーしかいないんじゃ、って・・・」


二人だけで数えたもの。


「――ああ、物覚えの悪いお前にしちゃあ、上出来だぜ。
 ニナから手紙がきて、何となくその数字が浮かんだんだ。
 まったく俺もとんだ大馬鹿者だ」


黙って聞いていたアンソニーは、
その頬から流れ落ちるものにはまるで気にも留めず、
嬉しそうな笑顔を浮かべながら、ニナを褒めた。


「・・・それも知ってる・・・」


「ハハッ、てめぇ、うるせえよ!
 
 よく頑張ったな」


「・・・・・た、・・・くれる・・・?」


「ああ――」




----------------------------------------------------------------------




――それからしばらくのことを、アレルは覚えていない。





気づけば、アンソニーの胸の中に顔を埋めていた。
そして、自分の顔は笑顔を作っていたように思う。


「・・・・・・」

「・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・あ、あの。アンソニーさん? もう自分なんですが」


「うぉ?! おぉ、すまん」


ずっと自分の身を離そうとしないアンソニーに、
声をかけるのに時間を要したのも、アレルの優しさだろうか。



「いやぁ、俺、お前さんのことをずっとおネェちゃんだと思ってたぜ。

 がはは、ありがとうよ、14丁目3番地の兄さん!
 兄さんが住んでてくれて、本当に助かったぜ」


すっかり空は白みがかっている。
もうすぐ朝だ。


「なんて言うんだこういうの、
 困ってる俺たちの横から、サッと出てきてよぉ。
 こう・・・こんがらがってるもんを全部、あっと言う間に繋いじまった。

 ああ、わかった。

 あんたは俺達の英雄――だな!」


ほんとは俺も英雄になりたかったんだけどよ、やっぱり向いて無かったんだろうな。
よーーーく分かったよ。
そう言って、アンソニーは笑った。



こうして笑っていると、アンソニーの目は緑色に見える。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブGM(ここあ)より:

続いた!
もうちょっと後日談のためのことを書きたいですが、
(フレーバー記念品についてなど)
それは寝落ちてなかったらということで。
無かったらアレルさんは好きに書いちゃってくださいませ。

あ、退魔の護符は流石に高そうなのとオリジナルなのとで、
アンソニーが神殿のお友達に返してきた、ということでお願いします(''*


一応流れをまとめますと、

アンソニーに呼び出されたニナ(自分の姿で行きたい)→憑依を中止、
小さい廃材の広場にて、スペクター姿で待つ。
アンソニーに現実をつきつけられて、思い出の場所に束縛されたファントム化をしそうに。
(スペクターは廃材を動かせないので......!)
それからアレルの一撃で、ファントム化を阻止。
スペクターニナに憑依をさせたアレルが願いを果たし、無事天に帰っていった。
(退魔の護符は使わずに返却)

というところでしょうか!


アレリーはおっさんに身を投げ出す勇者(''*


サブGM [2012/07/13 22:43]



「・・・おおっと! そうだ兄さん」

別れ際、アンソニーがアレルを呼び止めた。

「肉が食いたきゃいつでも来てくれよ。
 タダってのは流石に厳しいが、兄さんには特別に安くするからよ!」

「それと、少し落ち着いたら礼を送らせてもらうぜ。
 つっても、ウチにゃ金もねぇしそんな大したもんは無理だけどな」

寝不足が続いていたのか、目の下には隈が残ったままだ。
それでもアンソニーはすっきりした表情で、にやりと笑ってこう言った。

「宛先は、"14丁目3番地でいいんだろ?"」



----------------------------------------------------------------------



「それ、結局使わなかったんですか」

ことん。
と大きな羽根のついたペンをインク瓶に立てながら、
仰々しい祭服を身に纏った壮年女性が顔を上げる。


「ああ、ああ、いいんですよ。
 使わないで済むには越したことはないのです、
 そういったもので強制的に浄化するということは、やはり最終手段ですから」


頭を下げる男に対し、ゆっくりとした穏やかな口調で取り成す。

男からペンダントのようなものを受け取り、


「わたくしもあれや、これやと、忙しいものですから。
 またいつでもすぐに――とはいきませんけれど・・・」
 
「・・・ふふ。
 貴方の目を見ていると――あの冒険の日々を思い出しますね」

司祭は大きな窓枠の向こうを見つめる。
窓からは明るい日差しが長い筋となり、絨毯をきらきらと照らしている。


「アリス様、お時間です」

ノックの音と共に、ドアの向こうから若い神官の声。


「・・・さあ、昔話はもう終わりね。
 
 またいつか会いましょう。
 "貴方に至高神のご加護がありますように"――」

聖印を切る。



----------------------------------------------------------------------



オランの昼下がり。
今日も変わらず、中央通は人でごった返している。


「あ、エグちゃぁん! いらっしゃぁい。
 今日は、お友達も一緒?」


たまにはあの店に――そう思い立ったエグランチエは、
タリカと共にバッファロー・ビル精肉店を訪れていた。
肉屋の奥さんは、相変わらず綺麗で元気そうだ。
しかしかなりお腹が大きくなってきている。

「そうそう、もうすぐねぇ、生まれるの」

それでもいつもどおりテキパキと注文をこなしながら、
幸せそうにエグランチエとタリカに話しかける。

店の奥には、黙々と肉を切り捌いている店主の姿が見える。
・・・普段は元気な店主なのだが、今日はいやに静かだ。


「ねぇねぇ、聞いてぇ?
 こないだアンちゃん――、あ、ウチの主人がね?
 
 朝になるまでずーーーっと友達と飲んで帰ってきてね、
 へらへらへらへらしちゃってさぁ、
 それが収まったと思ったら、
 急に子供の名前を変えたいって言うんだよぉ。
 もう、とっくに二人で決めてたのにぃ。
 ひどいよねぇ?

 だから私ぃ、『アンちゃん、飲み過ぎだよっ』って言ったの。
 うふふっ」


「・・・だから、反省してるって・・・」

――よく見ると店主の頬が少し赤く腫れている気がする。
店主が至ってまじめに、粛々と作業に取り組んでいるのは
妻の怒りが通り過ぎるのを待っているということらしい。


「でもね」

肉屋の妻は、声をひそめ手を添えて、
エグランチエとタリカにだけ聞こえるように続けた。


「女の子だったらニナ・・・っていうのは絶対! 却下だけどぉ、
 男の子だったらアレル・・・っていうのはぁ、わたしも良いかなぁ~って思うんだぁ。
 英雄の名前なんだって。
 ね、いいよねぇ?」

アンちゃんには内緒ね、これはあのお店のお菓子買ってもらうまで内緒なの。
そう言って、妻は目を細める。
歳の差夫婦ではあるが、どうやら妻のほうが上手らしい。


からんからん、とサンダルを踏み鳴らして、
近所の親子が鼻歌交じりに通りすぎていった。



----------------------------------------------------------------------



アレルの家への嫌がらせは、あれから少し収まった。
――とアレルは思う。


しばらくして、アンソニーから荷物が届いた。
中には二通の手紙――ひとつはアンソニーが簡単な礼を述べたもの、
もう一つは、"ニナより"と書かれた手紙だった。

どうやら、あの時に書いたものらしく、自分の血が少しだけ端に滲んでいる。
――自分の手で書いた幽霊からの手紙。
これはなんとも、不思議な感覚だ。

そしてもうひとつ――"14丁目3番地"と書かれたドアプレート。

"本当に人が住んでるのか、配達人も苦労したって聞いた、
オランにゃお前さんに手紙を届けたい人も沢山いるだろうよ、
あんたに救えるやつは沢山いるんだ、これからもよろしく頼むぜ"
......とはアンソニーの弁だ。

一応ボロボロのドアに掛けておくと、人の家、という感じは出てきた、と思う。
それできっと、嫌がらせをしなくなったものも居るのだろう。



あっちで喧嘩をした子供がやりあう声が響き、
あっちでは野良犬がワンワンとうるさい。
かと思えば、妙に着飾った女が号泣しながら歩いて行ったり、
それを追いかけて何をやって暮らしてるのか良くわからない男が走って行ったりする。


相変わらずこの界隈は、何がやってきてもおかしくないような、
そんな独特な空気を纏っている。


・・・まあ、それでも住めば都って所でしょうか。


ゆったりと茶を飲みながら、アレルは一息ついた。



――本が崩れ落ちてきて、頭に当たった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブGM(ここあ)より:

「届かない宛先」これにて(GM側進行としては)終結です!
お疲れ様でした&お待たせいたしました。
〆レスは自由に書いてください
(例えば肉屋にアレルもついていったとか)


最後にニナから来た手紙の内容がありませんが、
これはしょうGMから(余裕があれば)後から書いてもらいたいなー!
とか思ってます。


■アレルへの報酬

経験点500 + 「銅製のドアプレート(※)」

※バッファロー・ビル精肉店の店主アンソニーが、お礼のために知り合いの職人に作って貰ったもの。
 シンプルな15cm×5cmほどの長方形の板に、"オラン14丁目3番地"という東方語の文字と飾り枠が彫られている。
 非売品。

一応飾ったことになりましたが、要らなかったら、気づかない間に取れたりしてください(''*


追記:鳥さんからご推薦のEDテーマ
アレル=リリー [2012/07/14 00:36]
目の前でニナさんとアンソニーさんが話している。
微笑ましい光景だ。


「ありがとう、アレルさん・・・」


「あの・・・」


「あの・・・わたし」


不意に、ニナさんから話しかけられた。


「わたし・・・変だな・・・って、思ってたん、です」


「手紙の住所・・・"14丁目3番地"・・・変だな・・・って・・・」


「・・・それは、何ででしょう?」


「・・・覚えてた・・・」


「・・・ひゃくよんじゅうさん、こ」


「・・・わたしの家から・・・アンソニーの家まで・・・」


143枚の石畳。


「こんな住所にするの・・・アンソニーしかいないんじゃ、って・・・」


「・・・なるほど。我ながら・・・・良い・・・・住所です・・・。」


そこまで言って、自分の意識は急速に沈んでいった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



誰かに抱きしめられている感覚がする。
なんだろう、この懐かしい気持ち。
幼い頃、同じような体験をしたことがある気がする。
・・・・あぁ、分かった。
父に抱擁してもらったときと、同じ感覚なんだ。
暖かくて、安心する気持ち。
思わずニナさんが化けて出てしまったのも頷ける。
出来れば、もう少しこのまま暖かさを感じていたいな・・・・そんな事を思うけど、
でも・・・・やっぱり駄目ですね。これは、ニナさんに与えられた抱擁なんですから。
ニナさんだけが受け取れる、抱擁なのだから。

「・・・あ、あの。アンソニーさん? もう自分なんですが」

「うぉ?! おぉ、すまん」

おずおずと口を開き、もう自分の中にニナさんは居ない事を伝える。
頬に暖かいものが伝っている。顔が先ほどまで笑顔だったような感覚がする。
・・・・ニナさんは、無事成仏できたようですね。

「いやぁ、俺、お前さんのことをずっとおネェちゃんだと思ってたぜ。

 がはは、ありがとうよ、14丁目3番地の兄さん!
 兄さんが住んでてくれて、本当に助かったぜ」

「む、失礼です。どこをどうみても男じゃないですか。
・・・・こちらこそ、貴方達から手紙をもらえてよかった。」

最初にちょっとむくれて・・・次の言葉は笑顔で。
チラリと空を見上げれば、もう夜が明けようとしていた。

「なんて言うんだこういうの、
 困ってる俺たちの横から、サッと出てきてよぉ。
 こう・・・こんがらがってるもんを全部、あっと言う間に繋いじまった。

 ああ、わかった。

 あんたは俺達の英雄――だな!」

ほんとは俺も英雄になりたかったんだけどよ、やっぱり向いて無かったんだろうな。
よーーーく分かったよ。
そう言って、アンソニーさんは笑った。
今の彼の瞳は、綺麗な緑色に見える。

「違いますよ。アンソニーさん。
英雄になるのに、向き不向きなんかないんです。
ただ、助けたいと思った人のために全力を尽くせるかどうか。
英雄になるための条件なんて、それだけだと・・・・自分は思ってます。」

だから、ジョディさんとお腹の中の子供を守ろうとした貴方もまた、英雄なんですよ。
そう言って、自分も笑った。



「・・・おおっと! そうだ兄さん」

別れ際に、アンソニーさんから呼び止められた。

「肉が食いたきゃいつでも来てくれよ。
 タダってのは流石に厳しいが、兄さんには特別に安くするからよ!」

「おや、それは助かりますね。おいしい食べ物が安く手に入る。
これほど嬉しい事はありません。」

「それと、少し落ち着いたら礼を送らせてもらうぜ。
 つっても、ウチにゃ金もねぇしそんな大したもんは無理だけどな」

「いえいえそんな、気持ちだけで十分ですよ。
・・・・でも、ふふ、少し期待して待っていましょうか。」

「宛先は、"14丁目3番地でいいんだろ?"」

「えぇ、もちろんです。あとは誰宛かも書いておいてほしいですね。
―――アレル=リリー宛ってね。」





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





あれから、数日。
自分は特に何事もなく過ごしている。
変わったことといえば、一度だけ天候が崩れて家が雨漏りしてしまったことと、
いたずらの頻度が少なくなった・・・様な気がする事だろうか。

そんな自分の下に、2通の手紙が届く。
1通目はアンソニーさんからで、簡単な礼を述べたもの。
そして2通目は・・・・ニナさんからの手紙だ。
紙の端に血が滲んでいるところを見ると、どうやらあの時に書いたものらしい。
自分の手で書かれた、自分じゃないものからの手紙・・・・不思議な感覚だ。

「ふふ・・・でも、悪い気分じゃありません。」


そして、手紙と一緒に届いたものがある。
銅製の板に"オラン14丁目3番地"と書かれたそれは、どうやらドアプレートのようだ。
一緒についてきた手紙を読んでみる。


"本当に人が住んでるのか、配達人も苦労したって聞いた、
オランにゃお前さんに手紙を届けたい人も沢山いるだろうよ、
あんたに救えるやつは沢山いるんだ、これからもよろしく頼むぜ"


「・・・ですって。まったく、無茶を言ってくれますね。」

顔をほころばせながらそう言って、ドアプレートを手に入り口のほうまで歩く。
そしてそれをぼろぼろの玄関扉に掛ければ、どことなく"人の家"という感じは出ただろうか。

「・・・良い贈り物をしてもらいました。」

そう呟きながら、家の中へ入っていく。



ゆったりとお茶を飲みながら、一息つく。
遠くで子供の喧嘩の声が聞こえるのも、
犬の鳴き声が聞こえるのも、全て平和な日常。
どんなところだって、住めば都になるのだ。
そんな事を思って―――


「あいたっ!」


―――いたら、積み上げていた本が崩れ落ちて、頭に当たった。


「ったたた・・・・あー・・・そうだった・・・・家の掃除をしないといけないんだった。
すっかり忘れてましたよ・・・・はぁぁぁぁ・・・・・
だれか、自分の掃除を手伝ってくれる"英雄"は居ないんですかねぇ・・・」

深く溜息をつきながら、空を仰いでそう言う。
すると、窓の外の景色が見えた。

「・・・まぁ、空もこんなに綺麗だし、頑張ってみようかな。」

そう言って、よっと立ち上がった。





オランは、今日も晴天だ。











PL
終わった!届かない宛先編、完!
というわけで、アレルートはこれにて終了としますー!
GM、SGM、及びPLの皆様、本当にお疲れ様でした!

感想等はまた別個であげるとして、とりあえずは事務的な部分!

経験点:500点
報酬:ドアプレート

確かにいただきましたー!