届かない宛先
全てにおいて完璧な人間など居るわけもないし、
そんな人間が居てもつまらないだけだ。
だから、苦手分野があるというのはむしろ普通のことで、
それがあるからといって恥じる必要は皆無なのである。
まぁ、そもそも自分は人間じゃないんですけど。
で、そんな自分の苦手分野は何かといえば・・・・
そう、掃除である。
いや、掃除というか、家事炊事全般が自分の苦手分野だ。
特に料理はひどい。特に料理はひどい。
特にひどい料理なので2度言いました。
大体、あれですよ。
結構定期的に掃除は行ってるはずなのに、こんなに汚くなるなんてありえないですよ。
蜘蛛の巣は張りまくられるし、埃は積もりまくられるし。
これはもう悪いのは自分ではなく彼らなのではないでしょうか。
彼らが頑張りすぎなだけではないでしょうか。
そう現実逃避した思考に走る。
その思考を現実に引き戻したのは、2度の乾いた音。
コンコン、という、ノックの音。
続いて家の中に聞こえる、肉声。
>「14丁目3番地はこちらですか」
身動き一つせず、その声を聞いている。
住所?一体どこの?
もしかして、この家の住所だろうか。
そういえば自分は空き家だったここに勝手に住み着いてる身なので、
この家の住所を知らなかった。
なるほど、ここは14丁目の3番地だったのか。
自分がそう心の中で納得していると、扉の外に居た気配が、遠のいていくのを感じた。
扉のほうをよく見ると、どうやら下の隙間に何か差し込まれているようだ。
人の気配が完全に消えたのを確認した自分は、物音を出さずに扉に近づき、
差し込まれていたソレを引き抜いた。
「紙・・・・・・いや、手紙?」
差し込まれていたものの正体を認識して、疑問の声を上げる。
おかしい、自分でさえ知らなかったこの家の住所宛に、手紙が届くなんて。
友人の誰かが住所を調べて手紙を出した?
いや、そもそも友人なら、手紙など使わず直接自分と話をするだろう。
では遠いところにすんでいる知人か?
いや、だったらそもそも住所を調べようがない。だから手紙も届かないはず。
だとすると・・・・・
「・・・とりあえず・・・読んでみますか。」
そこまで言っていったん思考をストップさせ、手紙の封を開いた。
「・・・・なるほど・・・これは・・・」
全てを読み終えて、一拍置く。
そして、手紙を机の上に放り投げた。
「なんだ、間違い手紙ですか。」
恐らく、アンソニーという人は放蕩人で、ニナという人に、でたらめの住所を教えていたのだろう。
で、ニナという人はその住所を信じ、この手紙を出した。
そしてその住所がたまたま自分の家だったと。
なんというかまぁ、偶然に偶然を重ねた結果の結末だったわけですね。
「はぁ、馬鹿らしいです。無駄な時間をすごしました。
自分は掃除をしなければならないというのに。」
そう言いながら手紙に背を向け、掃除を始めようと準備をする。
・・・・しかし、出来ない。
数分後自分は、再びさっきの間違い手紙と向き合っていた。
「返事、だしてね・・・・・ですか。」
手紙の一文を読み返す。
彼女・・・・ニナさんは、アンソニーさんからの返事を欲しがっている。
もしここで自分がこの手紙を無視したら、ニナさんはまた手紙を送ってくるかもしれない。
それは困る。自分もそれの処理をしなくてはならないし、ニナさんも貴重な羊皮紙を消費することになる。
それでは誰も得をしない。
だから、ここで自分のするべきことは・・・・・
「・・・まぁ、ちょうど住所も書いてありますし、返事を一回返すくらいいいでしょう。
掃除はそれからです。」
誤解を解く。それが自分の至った答え。
机上の羽ペンを手に取った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ニナさんへ
まず最初に、アンソニーさんからの返事を期待してこの手紙を開いたなら、お詫び申し上げます。
ですが、このまま返事を返さずじまいでは、誰も得をしないのではないかと思い、ここに筆を取りました。
初めまして。自分の名前はアレル=リリーといいます。
貴方が手紙を差し出した、『14丁目3番地』の家の住人です。
ご存知の通り、自分は貴方の・・・・恐らくご家族の、アンソニーさんではありません。
恐らくアンソニーさんは、貴方に本来の住所ではない場所を教えたのだと思います。
それがたまたま自分の住んでいる家の住所だったのでしょう。
という訳で、この住所に手紙を送っても、貴方の望むものは得られないと思います。
貴方の期待を裏切ってしまったようで、申し訳ありません。
お詫びといっては何ですが、自分も微力ながら、アンソニーさんをお探しする手伝いをしたいと思います。
よければ、アンソニーさんについて、少しでもいいので教えてもらってもいいでしょうか。
強制は致しません。嫌だというのなら、返事は返さなくても結構です。
では、貴方達ご家族の、ますますのご健勝を祈って。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こんなもんかなっと。」
全てを書き終わった後、ペンを置く。
最後のほうは、自分のお節介心が出てしまった。
まぁ、これはこれでいい暇つぶしにはなると思いますし、
それに・・・・・家族が離れ離れなんて、そんな悲しいことはないでしょう?
だから、彼女達が無事また顔を合わせられればいい・・・そんな自分の願望も込めて、
最後の分を書き足した。
「さて・・・・アンソニーさん・・・・・か。」
望みなんてあんまりないけど、とりあえず動ける範囲で動いてみようかな。
そう思って家の扉を開ける自分の脳内には、
掃除のことなど、すっかりかき消されてしまっているのでした。
PL
始まった!よろしくおねがいしまーす!
アレルは手紙の返事を書いた後、
ギルドやら冒険者の店やらでアンソニーさんについて少し聞いて回りまーす。
まぁ今の段階じゃ情報なんて出ないと思うので、
「こういう人探してるからよかったら教えてねー。もしかしたらまた聞きにくるかもー」的な感じで!
自分のような裏家業の人は、夜の闇に身を隠して行動することが多い。
だから、必然的に昼夜が逆転してしまうことも多い。
もちろんそうじゃない人もたくさん居るけれど、少なくとも自分は逆転しがちだ。
「ん~・・・・眠い・・・」
朝日で滲む視界を擦りながら、家への帰路を歩く。
そして、着く。
「・・・・・・ん?」
家に着いて一番最初に気付いたのは、玄関扉の隙間に刺さっている小さな紙。
この光景を、自分は見た事がある。
あれは何日前の出来事だったか。
スッ、ガチャッ。
紙を引き抜き、扉を開けて中に入る。
椅子に腰掛け、窓から射す朝日で手紙を読む。
家には明かりがない。
ランタンはおろか、蝋燭の一本すらも。
だから家では、夜に何かを読むというのは、よく晴れた日でないと不可能だ。
なので、太陽が昇っている今のうちに読むことにした。
「・・・・思い・・・出せない・・・?」
手紙を読み終わって気になったことを、率直に呟く。
ニナさんは、アンソニーさんのことを覚えていないのか?
いや、それはないはず。
だって、アンソニーさんに関する情報を、ニナさんはちゃんと記述してくれているではないか。
だから、完全に忘れているわけではないはず。
・・・・しかし、記述量が少なすぎる。
いや、人探しをするにおいては、十分な情報量だ。
これだけでも、アンソニーさんが見つかる可能性は大幅に上がる。
だから、自分はこの量に不満はない。
でも――――肉親が語る量としては、圧倒的に少ない。
性格とか、癖とか、肉親ならもっと色々書ける筈だ。
だが、彼女の手紙にはそれがない。
思い出せない?記憶が無くなっているのか?
いや、ただのど忘れの可能性もある。
なんにせよ、この手紙からでは深く予想することは不可能だ。
「・・・・・返事、書こうかな。」
一度思考をストップさせ、羽ペンを手に取る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ニナさんへ。
情報提供、ありがとうございます。
自分が好きでやっていることなので、迷惑だなんて考えなくてもいいですよ。
貴方から貰った情報を頼りに、自分のツテで、アンソニーさんを探してみたいと思います。
差し当たって、もっとたくさんの情報があると捜索が捗るのですが・・・・
性格、癖、特徴、口調。
どんなことでも良いのですが、思い出すことは出来なさそうですか?
出来ないようなら、無理にとは言いません。
思い出せたら、そのときにまたお手紙をいただけると助かります。
それでは、お元気で。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
PL
アンソニー設定ばっちこい!暗い設定ばっちこいですよ!
どんなくらい話も、ハッピーエンドにする!
出来なくても、最大限足掻く!それが私の生き様!
あ、ニナさんから貰った情報で、またギルドやら酒場やら知り合いに聞き込みを行いまーす。
へんな女とすれ違う。
アレルリんち見てたみたいだけど、僕と目が合ったら逃げてった。
・・・ははぁ、察したぞ。
僕はそういう機微にはビンカンなんだ。
分かっちゃうんだ、僕は。
今日も、ノックから始まる。
「こんにちは・・・どうも、こんにちは、散髪屋です・・・」
返事はない。心が折れそうになる。
ワクワクしてきた。
「・・・いませんかァ・・・散髪屋ですよォ、知ってるでしょおォ?
今そこで、ハサミも買ってきました・・・散髪、しましょうよ、ねえ・・・」
ジョキジョキ金属の擦れる音を立てながら、僕はドアの前で訴え続けた。
「あけろぉ、ヒゲも丁寧に剃ってやんよぉ、
つるっつるのぺっかぺっかに、スッキリスキンにしてやんよぉ!」
ドンドン!ドンドン!
「あけろう、はやくあけないと、いいかあ、こうかいするぞう、」
ドドドドン!!ドドドドン!!
「まァだわからないかあ・・・そうかあ、じゃあもうこうだ、
この、とりったての新鮮なシロアリをだ、おいしそうなお前のおうちに、
お見舞いしてやるからなあ、覚悟しろうッ!!ハッハッハーーーッ!!」
ドカン!!ドカン!!
「ウソだよバーカ、バーカ、ヴァーカ!!」
最高にスッキリしたので、本来の目的地に向かう。
明日もくるぞ。
エグランチエさんから興味深い話を聞けた。
「バッファロービルですか?」
どうやらそこに、アンソニー・ホプキンスさんという方が居るらしい。
年齢は初老・・・そういえば自分は、アンソニーさんの年齢を知らなかったっけ。
なんとなく若いイメージだったけど、初老でもおかしくはない。
それに、ホプキンスさんは聡明な方らしい。
もし仮にホプキンスさんが自分の探しているアンソニーさんとは違う方でも、
なにか、有益な情報が聞けるかもしれない。
ならば、行ってみる価値は十分あるかな。
「ありがとうございます。今度行ってみますね。」
重要な情報をくれたエグランチエさんに、お礼を言う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
最近、妙な嫌がらせを受けている。
家の隙間に落ち葉がこれでもかと詰められていたり。
干してあった布団にこれでもかと殴打痕が残っていたり。
玄関扉の蝶番が微妙にゆがんでいたり。
大して実害はないけど、なんとなく気味が悪い。そんな類の嫌がらせだ。
なにより自分の居ない時間にやっていくのが気味が悪い。
まぁ気にしてても仕方がないので、とりあえずは放置しておくことにしよう。
「さて・・・と。行ってみようかな。バッファロービル」
身支度をして、家の扉を開ける。
PL
とりあえずここまで!
鳥さんパスありがとうございます!
JGなにやってんですかwww
その名の通り、オランの中央を通る、大きな街道。
人通りも多いし、立ち並ぶ店も多い。
いつも賑やかな、オランの背骨部分。
そんな場所だから、目当ての店を探すのは少し苦労すると思ったんだけど・・・
存外、すぐに見つかった。
香ばしい匂いが、その店の存在を強調していたからだ。
チラリと、店内をのぞく。
居たのは、金髪の若い女性と肉を切り落としている男性。
恐らく女性のほうがジョディ夫人で、男性のほうがホプキンスさんだろう。
男性のほうを、よく観察する。
真っ白な髪に、青い瞳。
年齢は4,50といったところだろうか。
手紙に書かれていたアンソニーさんとは、大きく異なる姿。
外れか・・・そう心の中で落胆する。
でもせっかくきたのだからと、食事ついでに話を聞くことにした。
アンソニーさんについて尋ねると、ジョディさんは、その外見には似つかわしくない
大声で、主人の名前を呼んだ。
ほどなくして、肉汁で濡れた手を拭きながら主人がやってくる。
「ハイハイ、なんだ? ・・・ゲッ、お、お前は!!」
自分の顔を見てすぐ、そんな声を上げるホプキンスさん。
思わずキョトンとしてしまう。
・・・だが、次の発言で正気に戻る。
手紙。
そのキーワードに、耳がピクリと反応する。
瞬間、最初に送られてきた手紙の内容を思い出した。
お肉屋さんに言えば、届けてくれるって、きいたよ。
そうして彼は、本来の威厳を携えて、自分にそう聞いてきた。
「あぁ、じゃあ鶏を貰ってもいいでしょうか。
出来れば調理していただけるとありがたいのですけど。」
ジョディさんにそうお願いしてから、ホプキンスさんのほうに向き直る。
「・・・・さて、正直ここにはあまり期待はしてなかったのですが・・・・
とんでもない当たりを引いたようです。
お聞きしたいことは山ほどあるのですが・・・そうですね、一つずつ質問していきましょうか。
一つ。つい先日、自分の家に手紙が届きました。
住所も差出人も宛先も知らない、間違い手紙です。
そしてその手紙には、"お肉屋さんに言えば、手紙を届けてくれる"と、
そう書かれていました・・・・・。
・・・ホプキンスさん。貴方は、"14丁目3番地"に手紙を届けましたか?」
人差し指を立てて、ホプキンスさんにそう問いかける。
答えがYESであったなら、次の質問だ。
「一つ。その手紙は、ニナさんと言う人からアンソニーさんと言う人に向けてのものでした。
ホプキンスさん。貴方は、ニナさんとアンソニーさんを知っていますか?」
これもYESであったなら、次の質問だ。
「一つ。自分は今、ちょっとしたお節介心でアンソニーさんの行方を捜索しています。
ホプキンスさん。貴方は、アンソニーさんの居場所を知っていますか?」
核心に迫る質問。
これで答えがYESだったなら、自体は一気に急前進だ。
少し手のひらに冷や汗をかく。
「あぁ、それと・・・・ニナさん、アンソニーさんのことについて何か知っていることがあれば、
教えていただけると非常に助かります。
特にニナさん。手紙でのやり取りを見る限り、記憶障害のような症状が見られますが・・・」
仮に居場所が分からなくても、他に何かを得てから帰ろうと、
最後に質問を付け加えた。
PL
ククク・・・うかつに他人描写が出来ない・・・!
ニナとアンソニーのこと聞きまくります!
今日は変装をする。
僕だから、あんやろうは出てこねえんだ。
ちんたまのちっせえやろうだぜ。
なるほど、ついてないのかもしれん。
もとい。
今日もやってきた。
「 あ 」
・・・あの女・・・ッ!
物陰から様子を伺っていると、
なんてことだ!
窓や壁の隙間に、葉っぱねじ込んでやがる・・・ッ!
あれは、僕が初日にやったひまつぶしじゃないか・・・ッ?
「 Damn it !! 」
まさか、あれが噂の葉っぱ隊ってやつか?
何かの儀式なのか?
「・・・狂ってる・・・」
S・H・I・T・!
僕は震えた。
物陰に隠れて、女が去るのを待つ。
女はひとしきりやって気が済んだのか、
或いは、途中で我に返ったのか、
急に周りをきょときょと見回しだすと、
浮かれたようなギャロップから、ぎこちないスキップを始め、
へたくそ過ぎて転びそうになってから、小走りに去っていった。
あれがパッテェだとかいう葉っぱ隊の女首領だとすると、
かなり猟奇的なパーティだと予測される。
おい、待てJG、お前はパティに会った事あるだろ。
ああ、ある。あったあった。
よかった、あれはパティじゃない。
とにかくわかったことは、
あの女が、とてつもなくヤバイってことだ。
あのあばら家が、燃えてなくなる日も、そう遠くないだろう。
どうでもいい。僕は僕の日課、強迫観念CP-15を果たすだけだ。
「こんにちは、こんにちは、」
コンコン
「居ないのかい?ちょっと出てきておくれよ、あたしだよ、」
「あたしゃ、メノウだよ・・・この、いけずぅ、」
ドアノブに、通気性の良いカツラを引っ掛けて、
『新商品です、お試しください』
と張り紙を残し、
僕も走り去った。
彼が自分の探していた"アンソニーさん"である事。
ニナさんは既に死んでしまってるという事。
昔は冒険者だった事。
その後親の店を継ぎ、ジョディさんというパートナーを手に入れた事。
ニナさんの手紙を見つけた事。
それを燃やした事。
死んだはずのニナさんから手紙が届いた事。
それを適当な住所に誘導したら、自分が来た事。
全てを、彼の口から聞く。
言いながら、頭を抱えるアンソニーさん。
厨房からは、ジョディさんの鼻歌が聞こえてくる。
「そう・・・・・ですか。分かりました、そうしましょう。」
本当にそれでいいのか。
頭の中で疑問が反響するが、それを無視して、そう答えた。
奥からは、肉の焼ける香ばしい匂いがする。
そろそろ完成だろうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・やっぱり、納得は出来ませんね。」
数日後、自分はかつてニナさんが住んでいたという家の前まで来ていた。
最初は手紙に書かれていた住所がニナさんの家なのかと思ったが、どうやらそれは違ったようで、
実際には、自分とは違う方向の街外れにあったボロ家がそうだった。
時刻は夜。
自分は今から、"あるもの"を手に入れるために、この家を捜索する。
頭には通気性の良い鬘。なぜかドアノブに掛かっていたので、持ってきた。
一応これで変装にはなってるだろう。
「しかし・・・・これはまたひどく荒廃した家ですね・・・・」
目の前の建物を眺めてそう呟く。
もう何年、いや何十年も人が住んでいなかったのだろう。
壁の木は剥がれ、柱は押せば動き、今にも崩れてしまいそうだ。
ギルドで過去の情報を集めていなければ、ここに人が住んでいたかどうかも分からなかったかもしれない。
「まぁ、見つけたからには、こっちのものです。
探し当てますよ・・・・・・ハッピーエンドへの切符を。」
そう意気込み、今にも崩れそうな家の中に、足を踏み入れていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ほんと、どうすっかなァ・・・・・」
あの"14丁目の3番地"の住人が帰った後、俺は頭を抱えて悩んだ。
もちろん店は閉店まで続けたさ。親から受け継いだもんに泥は塗れねぇからな。
だが、店を閉めた後は・・・・・俺はずっと、部屋に篭りっ放しだ。
「アンちゃん、大丈夫ぅ?」
あまりに篭りすぎて心配になったのか、ジョディが扉の向こうから声をかけてくる。
「ん、あぁ、大丈夫だよ。」
そう答える。ジョディに心配はかけられねぇからな。・・・・・そう、かけられねぇんだ。
さっさとこの件は終わらせちまわねぇと。
ジョディにも、生まれてくる子供にも、こんな顔は見せられねぇ。
「ふうぅぅぅぅぅぅ・・・・・よし、考えろ、俺。」
深呼吸一つ、気持ちを切り替える。
まず今のニナの状態から考えようじゃないか。
俺の冒険者としての経験が語るに、今のニナは『怨霊』のような状態になっちまってるんだと思う。
怨霊・・・・つまり、アンデッドってやつだ。
アンデッドっていやぁ・・・・あいつに頼るしかねぇなァ。
俺と同じ、例の事件での数少ない生き残り。
あいつのコネのおかげで、俺も助かったんだよな。
一度返した借りをもう一回借りるのはちょっと気が引けるが・・・・今はそんな事は言ってられねぇ。
早速明日あたりにでも、あいつの元を尋ねてみるとするか。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「これでもない・・・・これも違う・・・・」
ボロボロの家の中を漁る。
腐食した木が、廃れた家具が、積もった埃が散乱した家内。
一見して、どこからどこまでが部屋なのかも分からない。
そんな家の中を、漁る。
いい気はしない。
家主が死んでしまった家を漁るなんて、誰だっていい気はしないだろう。
でも、自分は漁る。
それが自分の、役目のような気がしたから。
「・・・・・!ここ・・・・」
見つけたのは、ベッドのある部屋。
ぱっと見、今までの部屋となんら変わりはない。
腐食した木、廃れた家具、積もった埃。
でも、その中に埋もれている、可愛らしい小物類であっただろう物が、
この部屋の住人が年頃の少女だったのだと告げる。
「女性の部屋を漁るのは気が進みませんが・・・・許してくださいね、ニナさん・・・」
そう言いながら、部屋の瓦礫をひっくり返す。
探し物を探し当てるために、部屋の隅から隅まで探し回る。
でも、無い、無い、無い。
ここには何もないのだろうか。絶望が頭を支配する。
残るはこの部屋のベッドのみ。ここになければ、もう・・・・・
暗い気持ちで、ベッドを調べる。
―――そこに、あった。
「・・・・・!」
見つけたそれに息を呑み、破れないように注意しながら、広げる。
目がそれに刻まれている文字を追う。
・・・間違いない。
「・・・・・見つけた・・・・・!」
歓喜の声をなんとか抑え、夜の闇に紛れて自分は走り出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あいつのところに言ったら、「数日後にもう一回来てくれ」だと。
んで、今日がその数日後。
ニナには、手紙を出した。
アンソニーを見つけた。○月×日の夜に、ある場所に来てほしいって内容の手紙だ。
店は今日は休業にした。
ジョディには、旧友と久しぶりに飲みにいって来るって言い繕った。
最愛の妻に吐いた、最初の嘘だ。
この嘘を帳消しにするためにも・・・・今日で終わらせてみせる。
そう決意して、俺は家を出た。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「い・・・居ない・・・・・・!?」
「そうなの、ごめんねぇ。」
夜分遅くに申し訳ありませんとアンソニーさん宅の扉を叩けば、出てきたのは寝巻き姿のジョディさんだった。
聞けば、アンソニーさんは朝早くから出かけているらしい。
「朝早くからこんな時間までですか!?」
「うん、旧友と飲みに行くって。」
いくらなんでも、遅すぎる・・・・・!本当に飲みにいったのだろうか・・・・
・・・・もしや・・・・まさか・・・・
「アンソニーさんは、飲みにいく以外には何も言ってませんでしたか?」
「うーん・・・言ってたってわけじゃないけど・・・・そういえば前に一度、
神殿のほうに行くって言ってたなぁ。そのときはすぐ帰ってきたんだけどぉ。」
神殿・・・・・間違いない・・・・!
「・・・・アンちゃんねぇ、何だか思いつめた顔してたよぉ。
旧友と飲むのに、まるで自分で自分を追い詰めてるような顔だったなぁ。」
「・・・・アンソニーさんの行き先に、心当たりはありませんか?」
「うん、あるよぉ。アンちゃん前、自分の思い出の場所だって連れて行ってくれた場所があるんだ。
昔はよく幼馴染の子とここでよく遊んだんだーって。」
「よければその場所。教えていただきたいです。」
「いいよぉ。でもぉ・・・・一つお願いしてもいい?」
「なんでしょう?」
「アンちゃんをねぇ、助けてあげてほしいんだ。
多分今ね、、すごく心に余裕がなくなってると思うの。だから変なこととかするかもぉ。
もしそうなったら、止めてあげてほしいんだ。ちょっとくらい手荒にしてもいいよぉ。」
「いいんですか?」
「うん、アンちゃんが帰ってきたら、私が慰めてあげるんだぁ。
おいしい料理作って笑顔で迎えてあげてぇ・・・・
ふふ、私って良いお嫁さんでしょ?」
「・・・えぇ、本当に。アンソニーさんがうらやましいです。
・・・では、行ってきます!」
「いってらっしゃい~」
ジョディさんの声を背に、再び走り出す。
間に合うといいけど・・・・・!
PL
あまりにも長いのでここで一度区切り!
明日にでももう1つ投稿します!
終末に加速するぜ!
アンソニーはこの件を終わらせるために旧友の神官から祓魔用のアイテムを貸してもらう。
そしてニナを祓うために、ニナスペクターをある場所に呼び出し、自分も店を開けて出て行ったという感じ。
ジョディはアンソニーの嘘を実は見破ってたりすると燃えますよね(キリッ
この道を、このまま奥に行けば、開けた場所に出るはずだ。
周りはどっかから持ってきたんだか分からないような廃材で埋め尽くされていて、
その真ん中に、広場みてぇな空間がある。
男心をくすぐる、秘密基地のような場所だ。
そら、見えてきた。
「・・・・懐かしいなァ。」
目的地に着いて、ポツリと一言漏らす。
昔はよく、ニナと一緒にここで遊んだっけなぁ・・・・
あいつはここが好きだった。
引っ込み思案だったからな。誰も人が来ないここは、
あいつにとっては落ち着ける空間だったんだろう。
んで、俺もそれに付き合って・・・・ここは2人だけの秘密の場所にしたんだ。
小さかったあいつと指きりしたのを、今でも覚えてるぜ。
「・・・ここで逝けるのなら、あいつも本望だろう。」
ポケットの中に入れた護符を握り締めながら、そう呟く。
俺の旧友から貸してもらった、退魔の護符。
なんでもこれを怨霊どもに当てると、やつらは泣き叫びながら
霧散して、天に還るらしい。
詳しい話はしらねぇけど、とりあえずこれを当てればニナはこの世から消えるって事だ。
効果は一回しかもたねぇし、本当は結構値が張る品らしいが・・・・・
旧友のコネに感謝ってとこだな。持つべきものは出世頭の友人だぜ。
「もうそろそろ約束の時間か・・・・・。
あいつは生真面目だからな。時間を指定したら絶対にその時間ぴったりにきやがる。
遅刻もしねぇし、五分前行動もしねぇ。だから、もうすぐ・・・・・」
「アンソニー?」
そら、きた。
ゆっくりと、声がしたほうに振り向く。
透き通った白い体に、俺の記憶の中の昔馴染みとまったく同じ姿。
――――怨霊と化したニナが、そこに居た。
「久しぶりだな。ニナ。」
「・・・・アンソニー、じゃない?」
おどおどとした、小動物みてぇな目が、俺を眺め回す。
・・・やっぱり、わからねぇか。
「アンソニーはどこ・・・・・?」
「いるよ、目の前に。」
「・・・貴方が、アンソニー?
ううん、違うわ。アンソニーはまだ20代だもの。」
「そうだな。お前が死んだとき、俺はまだ20代だった。
あの頃は、俺もやんちゃだったなァ・・・」
「やめて、おじさん・・・アンソニーの振りをしないで・・・」
「昔は良く、中央通の石畳を数えたり、ここで雑談したりして過ごしたよな。
それがどうだ。今では俺も、自分の店を持って、家族を持って・・・・」
「やめて・・・・やめて・・・・・」
「なぁ、覚えてるかニナ?お前がまだ9つだったとき。
近所のいじめっ子にやられて泣きべそかいてるお前を、俺が―――」
「やめて!!!」
突然の大声に、思わず口を噤む。
小動物みたいだった目が、今では猛禽類のように、鋭く俺を睨み付ける。
「アンソニーは、貴方みたいに真っ白な髪じゃない!そんな濁った目なんかしてない!
アンソニーの名前を騙るのは、やめて!!!」
剥き出しの嫌悪感が、俺の肌を突き刺す。
周りの廃材が、がたがたと揺れてる気がした。
「・・・・なぁ、ニナ。本当にわからねぇのか?」
「それ以上喋らないで!それ以上アンソニーの振りをするなら、私は容赦しないわ!」
「なぁ、ニナ、おい。頼むから聞いてくれよ・・・・」
「喋らないでっていってるでしょ!」
「ニナ・・・・」
「黙・・・」
「聞けっつってんだよ!ニナ!!」
今度は俺が、大声を上げる。
ニナの体が、びくっと跳ねた。
「いいか!ニナ!?お前が死んでから、もう30年近くも経ってるんだぞ!?
人間ってのは年を重ねるごとに老いるもんなんだ!
俺が、アンソニーが、昔と同じ姿でいられるわけないだろうが!」
思わず、口調が荒くなる。
ニナは俯きながら、震えていた。
「違う・・・ちがう・・・チガウ・・・・」
「違わねぇ!俺はアンソニーだ!正真正銘、アンソニー=ホプキンスだ!
お前と一緒に楽しく過ごしていた、アンソニーなんだよ!」
「う・・・・ううぅぅぅうぅぅぅ・・・・」
俺の言葉に、ニナは頭を抱えながら呻く。
まぁ、当然だろう。ニナにとっちゃ、信じがたい事実だろうからな。
だから俺は、今度は気遣うように優しく口を開いた。
「・・・なぁ、ニナ。俺が悪かったよ。
お前をおいて、冒険者なんざになっちまった俺が悪いんだ。
親父と喧嘩して、頭に血が上ったんだ。お前の気持ちも考えずに、突っ走っちまった。
手紙もよ、俺の元まで届かなかったから、返事を書きようもなかった。」
「・・・・アンソニー・・・・アンソニー・・・・」
「全部俺が悪かった。申し訳ない、このとおりだ。
・・・・なぁ、ニナ。だからよ・・・・もう化けて出るなんて真似はよせ。
お前が化けて出るほど俺を恨んでたのは仕方ねぇ。
当たり前だわな。誰だって恨むだろうさ。
なぁ、ニナ。これでチャラにしねぇか?俺の謝罪でさ。
俺も出来ればお前に泣き叫ばせたくなんざないんだ。
だから、な?頼むよ、ニナ・・・・」
そう説得しつつも、右手はポケットに入れ、護符を握る。
使いたくはないんだがな・・・・
「アンソニー・・・置いてった・・・・アンソニー・・・・返事がなかった・・・」
「あぁ、そうだな。俺が悪いんだ。全部、全部。」
「アンソニー・・・アンソニー・・・アンソニーアンソニーアンソニー・・・・」
「・・・・・ニナ?」
何だか様子が変だ。
そう直感的に感じた俺は、護符を出して、身構えた。
「アンソニー!置いてった!アンソニー!無視した!
アンソニー!アンソニー!アンソニー!アンソニー!アンソニー!アンソニー!
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー
アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー!!!」
目を見開きながら、狂ったように俺の名前を連呼するニナ。
背筋が凍るような感覚を覚える。目の前にいるのがニナじゃないように感じる。
近くの廃材たちが、ガタガタと震えだした。
「アンソニーアンソニーアンソニーアンソニーアンソニー!!!!」
頭を抱えて、ぶんぶん振り回すニナ。
途端、二ナの後ろの廃材が、ふわっと浮いて、俺めがけて飛んできやがった!
「くそったれ・・・・!殺そうとするほど俺が憎いかよ・・・・!
上等だニナ!お前はこの手で・・・・成仏させてやる!!」
そう言い放って、前に・・・ニナの方に駆け出す。
廃材が当たるが早いか、護符がニナに当たるのが早いか・・・・・!
頼む・・・・!届いてくれ・・・・・!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
石畳の上を、全力で駆け抜ける。
視界にはさまざまな景色が映るが、今はそんなものを気にしている余裕はない。
急げ、アレル。
もっと早く!もっと速く!もっと疾く!
カンカンカンと、石畳を踏む音が耳に残る。
かつてのニナさんとアンソニーさんも、この音を聞きながら遊んでいたのだろうか。
そんな事を考える。
それは、幻。
目の前を走る。小さな子供達。
楽しそうに、顔を綻ばせて走っている。
子供達を後ろから追いかけ、届け、届けと、手を伸ばす。
すると、その幻は消え去った。
「・・・・次は、届かせる・・・・絶対に・・・!」
あの子供達の未来が居るであろう場所に向かいながら、そう決意を固めた。
「ハッ・・・・ハッ・・・ハッ・・・・ハッ・・・」
断続的に呼吸を繰り返す。
体から汗が噴出す。水分が失われていく。
体力も底を尽きかけている・・・・・でも、止まれない。
もう少し・・・・あと少し・・・・
そうして着いたのは、まるで秘密基地のような場所。
廃材で囲まれた、小さな広場。
子供達にとっては、十分な広さ。
―――その、真ん中。
「ア・・・・アンソニーさん・・・・!」
初老の男性が、白く透き通った女性と、会話をしている。
いや、あれは会話なのだろうか。
女性のほうは目を見開き、ずっと口を動かし続けている。
それを男性は、身構えながら見続けている。
男性の手には、護符のようなもの。
「あの・・・護符・・・・!」
あれが、アンソニーさんが神殿で手に入れたものだろうか。
だとしたら、まずい。
きっとあの護符には、不死を祓うような効果があるはず。
あれを女性・・・・おそらくニナさんに当てれば、その時点でニナさんは・・・・
それはダメだ。それではダメなんだ。
止めないと。そう思った瞬間。
「――――――――――――――――!!!!」
ニナさんが何かを叫び、それと同時に、後ろの廃材が浮き上がった!
廃材はアンソニーさん目掛け、まっすぐ飛んでいく!
そしてアンソニーさんも目の前に護符を携え、ニナさんに突撃していく!
「ッ!駄目です!!!」
叫ぶと同時に、自分も駆け出す。
間に合うか・・・・・!?いや、間に合うか間に合わないかじゃない!間に合わせる!
さっきは届かなかったこの手・・・・今度は、届かせるために!!
「はあああぁぁぁあああぁぁあぁぁあああ!!!!」
ぐんぐん加速する!あとちょっと!もうちょっと!
届け!届け!!届け!!!
「届けええええええええええええええッ!!!!!」
叫びながら、伸ばす手。
それが、アンソニーさんの持つ護符に・・・・・・届いた!!!
護符を思いっきりひったくり、アンソニーさんを突き飛ばす!
と、同時
ガンッ!!
視界が、赤に染まった。
地面に倒れ伏す自分。
頭を生暖かいものが伝っている感触がする。
近くには、さっき飛んできていた廃材。
視界がくらくらする。
「お、おい!?大丈夫かあんた!?」
近くから、声が聞こえる。
この声は、アンソニーさんだろうか。
「あ・・・・・あ・・・・・私・・・・!」
そしてもう一人、女性の声が聞こえる。
恐らくこの声が、ニナさんだろう。
ぐぐぐっと、体を起き上がらせる。
「・・・・間に・・・あった・・・・・」
呟きながら、アンソニーさんと、そしてニナさんのほうに目を向ける。
「無事・・・ですね、二人とも。良かった・・・・」
「よくねぇよ!あんた、どうしてここに来たんだ!?」
「どうしてって・・・お二人を・・・助けるためです・・・・」
頭から流れ出る血を抑えながら、そう言う。
そして、ニナさんのほうに向き直った。
「初めまして、ニナさん・・・・アレルです・・・・」
「あ、貴方がアレル様ですか・・・!?す、すいません・・・!
私、急に我を忘れて・・・・それで、こんな事に・・・・」
「いいんですよ・・・・仕方のないことです・・・・」
今にも泣き出しそうなニナさんを、たしなめる。
そう、仕方のないことなのだ。
ホーントというのは、生前に強い未練や、恨みを持った人がなるもの。
それ故にホーントになった人というのは、最初は総じて自我を持っていることが多い。
自分の意思で恨みや未練を晴らすからこそ、彼らは無事成仏できるのだ。
しかし、時が経つにつれて、ホーントはその自我を失っていくことがある。
それは、長いときが経つにつれて、恨みや未練という感情だけが強く残ってしまい、
なぜ自分がホーントになったのかという理由を、忘れてしまうからだ。
自らの存在理由を忘れてしまったホーントは、最終的に自我を完全に失くし、
完全な悪霊になる・・・・・そうどこかで聞いた。
ニナさんは、ホーントになってからもう30年近く経っている。
これだけの時間を過ごして尚、完全に自我を失ってないほうが、凄いのだ。
「ニナさん・・・・貴方は、自分がホーントに・・・幽霊になった理由を覚えていますか?」
「え、えっと・・・・いいえ・・・・そういえば、私、何で・・・・」
「だと思いました・・・。
・・・アンソニーさん。貴方は、ニナさんが自分を恨んでいたから怨霊になった。
そう思っているのではないですか?」
「あ、あぁ・・・・そうだが・・・・」
「やっぱり・・・・・貴方達は、どこまでもすれ違う運命のようですね・・・」
苦笑しながら、そう言った。
「それって、どういう・・・・」
「これを見てください。」
口を開くアンソニーさんを制して、自分は懐から一通の手紙を取り出す。
もう風化してしまい、ぼろぼろになってしまった手紙だ。
「それは・・・?」
「これは、ニナさんの部屋から見つかった手紙です。
朗読しましょう。」
そう言って、手紙を広げた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
アンソニー
私ね、もうあまり長くないみたい。
あ、なんか字が震えちゃってるね・・・えへへ・・・読みにくくてごめんなさい。
お母さんは大丈夫だって言ってくれたけど・・・・私の体だもん、わかるんだ・・・。
私ね、きっともうすぐしんじゃうんだなぁって・・・・そう思うの。
ねぇ、アンソニー・・・いじめっ子のときの事、覚えてる・・・?
私が9つの時、近所のいじめっ子にいじめられて泣いてたら、アンソニーったら、
私を抱きしめて「安心しろ。今度からは俺が守ってやる」って言ってくれたんだよ・・・?
覚えてるかなぁ・・・・?私は覚えてるよ・・・・凄く嬉しかった・・・。
あの時アンソニーに抱きしめられた時ね、すごく・・・胸の奥が暖かくなったの・・・・
私・・・・もう一度あんな風になりたいなぁ・・・胸がポワーって・・・暖かくなるの・・・。
死ぬ前に、もう一度だけでいいから・・・アンソニーに、抱きしめてほしいなぁ・・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
朗読を終えて二人の様子を見れば、二人とも俯き、無言で居た。
二人が何を考えているのか、自分には分からない。けれど・・・・
「アンソニーさん。
ニナさんは決して、貴方を恨んで怨霊と化したんじゃない。
ただ、小さな願い・・・それを叶えてほしいがためにこのような姿になったのです。」
「ニナさん。
貴方が忘れているというのなら、自分が教えてあげましょう。貴方の存在理由を。
貴方は、アンソニーさんにもう一度、抱きしめてほしい・・・・そう願ったんです。
そしてその願いは、未練となり・・・貴方を怨霊へと変化させた。
違いますか?」
「そう・・・私、もう一度、あの感覚を味わいたくて・・・それで・・・・」
「くっ・・・・すまねぇ・・・・!本当に・・・!申しわけねぇ・・・・!」
「ア、アンソニー・・・泣かないで・・・・!
ううん、アンソニーは悪くないんだよ・・・私がわがままだったから・・・・」
「違う・・・違うんだ・・・俺が全部悪いんだ・・・・
くそっ・・・・俺は、なんて野郎なんだ・・・!」
「アンソニー・・・」
二人のやり取りを、見守る。
そこには、先ほどまでのような敵対心はなく、
ただ、互いを思いやる気持ちで溢れていた。
きっと、彼らが子供の頃は、こうやって互いを思いやりながら過ごしていたのだろう。
そう思うと、この光景が、とても微笑ましいものに見えた。
「・・・・では、抱きしめて差し上げてはいかがですか?」
一通り見守った後、そうポツリと呟く。
「え・・・でも・・・」
「そうだ、今のニナは幽霊なんだぜ?抱きしめてやろうにも俺じゃ触ることもできねぇ。」
「そうですね。確かに不可能です・・・・そのままでは。」
ニィっと、口の端をゆがませながらそう言う。
「でも、誰かを媒体にするとしたら?
ニナさんが誰かに憑依し、擬似的に実体を得ることが出来れば?」
「あ、あんた・・・・まさか・・・・」
「そ、そんな・・・申し訳ないです・・・」
「ニナさん。自分は最初に言いました。『出来る限りのことはします』ってね。
・・・自分を嘘つきにしないためにも、ぜひ使ってはくれませんかね。」
そう言いながら、両手を広げ、迎える体勢になる。
「どうぞ。」
笑顔を、ニナさんに向けた。
PL
な、なげぇ・・・・深夜テンションで書ききりました!
護符とかホーントの自我の話とかは完全に作り話です(キリッ
微笑ましい光景だ。
不意に、ニナさんから話しかけられた。
「・・・それは、何ででしょう?」
143枚の石畳。
「こんな住所にするの・・・アンソニーしかいないんじゃ、って・・・」
「・・・なるほど。我ながら・・・・良い・・・・住所です・・・。」
そこまで言って、自分の意識は急速に沈んでいった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
誰かに抱きしめられている感覚がする。
なんだろう、この懐かしい気持ち。
幼い頃、同じような体験をしたことがある気がする。
・・・・あぁ、分かった。
父に抱擁してもらったときと、同じ感覚なんだ。
暖かくて、安心する気持ち。
思わずニナさんが化けて出てしまったのも頷ける。
出来れば、もう少しこのまま暖かさを感じていたいな・・・・そんな事を思うけど、
でも・・・・やっぱり駄目ですね。これは、ニナさんに与えられた抱擁なんですから。
ニナさんだけが受け取れる、抱擁なのだから。
おずおずと口を開き、もう自分の中にニナさんは居ない事を伝える。
頬に暖かいものが伝っている。顔が先ほどまで笑顔だったような感覚がする。
・・・・ニナさんは、無事成仏できたようですね。
「む、失礼です。どこをどうみても男じゃないですか。
・・・・こちらこそ、貴方達から手紙をもらえてよかった。」
最初にちょっとむくれて・・・次の言葉は笑顔で。
チラリと空を見上げれば、もう夜が明けようとしていた。
今の彼の瞳は、綺麗な緑色に見える。
英雄になるのに、向き不向きなんかないんです。
ただ、助けたいと思った人のために全力を尽くせるかどうか。
英雄になるための条件なんて、それだけだと・・・・自分は思ってます。」
だから、ジョディさんとお腹の中の子供を守ろうとした貴方もまた、英雄なんですよ。
そう言って、自分も笑った。
「・・・おおっと! そうだ兄さん」
別れ際に、アンソニーさんから呼び止められた。
「おや、それは助かりますね。おいしい食べ物が安く手に入る。
これほど嬉しい事はありません。」
「いえいえそんな、気持ちだけで十分ですよ。
・・・・でも、ふふ、少し期待して待っていましょうか。」
「えぇ、もちろんです。あとは誰宛かも書いておいてほしいですね。
―――アレル=リリー宛ってね。」
あれから、数日。
自分は特に何事もなく過ごしている。
変わったことといえば、一度だけ天候が崩れて家が雨漏りしてしまったことと、
いたずらの頻度が少なくなった・・・様な気がする事だろうか。
そんな自分の下に、2通の手紙が届く。
1通目はアンソニーさんからで、簡単な礼を述べたもの。
そして2通目は・・・・ニナさんからの手紙だ。
紙の端に血が滲んでいるところを見ると、どうやらあの時に書いたものらしい。
自分の手で書かれた、自分じゃないものからの手紙・・・・不思議な感覚だ。
「ふふ・・・でも、悪い気分じゃありません。」
そして、手紙と一緒に届いたものがある。
銅製の板に"オラン14丁目3番地"と書かれたそれは、どうやらドアプレートのようだ。
一緒についてきた手紙を読んでみる。
「・・・ですって。まったく、無茶を言ってくれますね。」
顔をほころばせながらそう言って、ドアプレートを手に入り口のほうまで歩く。
そしてそれをぼろぼろの玄関扉に掛ければ、どことなく"人の家"という感じは出ただろうか。
「・・・良い贈り物をしてもらいました。」
そう呟きながら、家の中へ入っていく。
ゆったりとお茶を飲みながら、一息つく。
遠くで子供の喧嘩の声が聞こえるのも、
犬の鳴き声が聞こえるのも、全て平和な日常。
どんなところだって、住めば都になるのだ。
そんな事を思って―――
「あいたっ!」
―――いたら、積み上げていた本が崩れ落ちて、頭に当たった。
「ったたた・・・・あー・・・そうだった・・・・家の掃除をしないといけないんだった。
すっかり忘れてましたよ・・・・はぁぁぁぁ・・・・・
だれか、自分の掃除を手伝ってくれる"英雄"は居ないんですかねぇ・・・」
深く溜息をつきながら、空を仰いでそう言う。
すると、窓の外の景色が見えた。
「・・・まぁ、空もこんなに綺麗だし、頑張ってみようかな。」
そう言って、よっと立ち上がった。
オランは、今日も晴天だ。
PL
終わった!届かない宛先編、完!
というわけで、アレルートはこれにて終了としますー!
GM、SGM、及びPLの皆様、本当にお疲れ様でした!
感想等はまた別個であげるとして、とりあえずは事務的な部分!
経験点:500点
報酬:ドアプレート
確かにいただきましたー!