海岸の冒険跡
気晴らしに散歩をしていたら、どうやらハザード河の方に来ていたようだ。
河の近くの風は涼しい。
暑いのが苦手な自分にとって、ここは絶好の避暑地だ。
でも、今日はその涼しい風も、自分の意識には入ってこない。
他にもっと気になるものを見つけたから。
手紙を見つけた。
欠けた瓶の中に入ってた、小さな手紙。
ハザード河の上流から流れてきたのだろうか。
手紙は水気を多分に含んでいて、インクも滲んでいる。
ともすれば、すぐに破けてしまいそうだ。
そんな手紙をなんとか開いて、中を読んでみる。
途切れ途切れに読める、拙い文。
書いたのは子供だろうか。
まるで何かを願うような文章だ。
欠けた瓶に願いを掛けて、この手紙を送り出したのだろうか。
だとしたらここで止めてしまうのは申し訳ない気がするけど・・・・
だからといって、このまま流しても手紙が完全に水没するだけか。
どうしようかな・・・・・
「...まぁ、話の種くらいにはなりますか...。」
少し悩んだ後小さくそう呟いて、手紙を持ったまま酒場へと足を向けた。
「アレル様」
酒場に入ってゆっくりしてると、背後から声を掛けられる。
振り向くと、そこにはタリカさんが居た。
「狩りの帰りですか?」
「はい、今帰宅したところです」
「ふふ、おかえりなさい。」
そう挨拶を交わす。
「―――アレル様、それは?」
手紙を見つけたタリカさんが、小首を傾げながらそう聞いてくる。
「えぇ、いいですよ。」
そういって彼女に手紙を渡す。
手紙を読み終えてからしばらく、タリカさんがそう言った。
そういえば、手紙の中には大きな銀木犀のことが書いてあったっけ。
「それはハザード河の畔にある村なのですか?」
「なるほど、しかし、わざわざ行くほどの事でもありませんよね。」
あぁ、そうだ。
せっかくだし、タリカさんにもアンソニーさんの事を聞こうかな。
そう思った矢先。
「ちょっと、これを何処で!?」
またもや背後から、大きな声を掛けられる。
しかし今度は、こちらから振り向くまでもなく、向こうから視界に入ってきた。
黒百合の次は野薔薇。今日は何かと花に縁がある。
「ここに来る途中の川岸で拾ったものです。」
こんにちは、と挨拶をしながら、声を掛けてきた人物―――エグランチエさんに、そう答える。
どうやら、エグランチエさんはこの手紙に心当たりがあるらしい。
そういえば先ほど、タリカさんがそのような事を言っていたっけ。
そう言って手を差し出すエグランチエさんに、えぇどうぞ、と手紙を差し出す。
受け取った手紙を、真剣な眼差しで読むエグランチエさん。
そして数秒後、その顔が嬉しそうにほころぶ。
不意にタリカさんが、鋭い口調でエグランチエさんの名前を呼ぶ。
その言葉を聞いて、エグランチエさんも体を強張らせた。
手紙から狂気を帯びたノーム?
中々おかしな現象だ。
「手紙の差出人は、狂ったノームに襲われでもしたのでしょうか。
・・・いや、文章を読むに、それはなさそうですね。
だとしたら、差出人に何らかの原因で狂ったノームの力が宿っているのか、
もしくは・・・・差出人自体がノームとか。」
最後は冗談っぽく、そう言う。
可能性があるとすれば差出人にノームの力が宿っている場合だけど・・・
それは一体、どういう状況なのか・・・考える。
「なんでしょう。この状況を説明できる単語が、喉元まで出掛かっているんですが・・・
・・・・うーん、ダメですね。今は少し思い出せません。
思い出したらまた、知らせようと思います。」
もどかしい気持ちを感じながら、そう伝える。
「・・・で、どうやら差出人はあまり正常な状態ではないようですが・・・・
もしかしたら会うのには少し危険が伴うかもしれません。
それでも貴方は会いに行くのですか?」
そう、エグランチエさんに問いかける。
「あら、貴方にしてはずいぶん察しが悪いですわ、アレルさん。
私がこの程度で自分の言葉を曲げるような女だと思って?」
「あはは、もちろん思っていませんよ。」
微笑みながら、そう答えた。
「会えるといいですね、その子に。
・・・あ、そうだ。そういえば自分も探し人をしてるんですが・・・
アンソニーさんと言う人を知りませんか?
まだ名前だけしか分かってないのですが・・・・」
そういえばと、二人に問いかけた。
PL
他人描写の難易度の高さ・・・・
タリカさんとエグランチエさんを描写させていただきました!
石皮病知名度判定:2d6+7 Dice:2D6[6,6]+7=19
そしてこの6ゾロである。
でもあえてまだ思い出せないことにします!
そのほうが面白そうだから!
あ、後お二人に、アンソニーしらない?と聞いておきまーす。
あるいは冒険者のお仕事だったり。
あるいは盗賊としてのお仕事だったり。
あるいは酒場で酔い潰れてそのまま泊まっていったり。
あるいは何かの目的で出かけたり。
そういう理由で、自分が家に居る時間は削られている。
「だからって、こう毎日続けられると・・・ちょっと気も滅入ってきますねぇ・・・」
ある日から毎日のように続く嫌がらせ。
決まって自分の居ない時間にやってくるそれは、
今日も例外なく家の隙間を葉っぱで埋めた。
「まったく・・・なんなんですかもう。
何でこう毎日毎日・・・・しかも微妙な嫌がらせばかり・・・
冬はまだしも、これからの季節に家を密閉されたらたまったものじゃありません。
なのにこの葉っぱと来たら・・・綺麗に隙間を埋めてくれます。
しかも何か今日の葉っぱ、いつもより硬いし・・・・
段々嫌がらせの微妙度が上がってきましたね・・・・
あーあー、ほら、無理に押し込んであったから葉っぱが
その形で固まってしまってるじゃありませんか。いつもは大丈夫だったのに。
いつもと違って今日は硬めの葉っぱだったからですかね・・・・
まったく、もっと自然を大切にしてほしいものです。」
愚痴愚痴言いながら、葉っぱを一枚一枚取り除いていく。
「押し花みたいになってたせいで水分も抜けてる・・・物凄いパリパリです。
これじゃまるで化石ですよ化石。
まったく、この葉っぱたちも可哀相ですね。
こんな石みたいに固められてしまって・・・・
・・・・・石みたいに・・・・・固められてしまって・・・・・」
自分で口走った言葉。
その言葉が、頭の中で反響する。
瞬間、頭の中でつながる無数の思考回路。
無数の記憶達。
冷や汗が額を伝う。掌を濡らす。
ぱりぱりの葉っぱが、手から滑り落ちて――――割れる。
「―――――――ッ」
嫌がらせの後始末をすることも忘れて、自分は駆け出した。
「何で気付かなかった・・・・・何で気付けなかった・・・・!」
町中を走り回りながら、歯を食いしばるようにそう呟く。
頭を駆け巡る、一つの記憶。
(まるで狂気を帯びたノームのような―――。)
あの時タリカさんは、確かにそう言っていた。
人が書いた手紙が何の理由もなしに精霊力を、
まして狂ったそれを帯びるなんてこと普通は有り得ない。
あるとすれば、それは差出人、もしくは受取人にその精霊力が宿っていた場合。
あの手紙を受け取ったのは自分だ。拾ったというほうが正しい。
そして自分には、狂った土の精霊力など宿っていない。
だから原因は差出人のほうにある。そこまでは前の自分も分かってたはず。
差出人に狂った土の精霊力が宿るには3つの方法がある。
1つは、差出人が手紙を執筆中に狂ったノームに襲われること。
しかしこれは手紙の内容から察するに違うだろうと、前の自分が結論を出した。
1つは、そもそも差出人自体が狂ったノームであること。
しかしこんなの与太話だ。あるわけがない。
1つは、とある病気にかかること。
体の中のノームの力が強くなりすぎて起こるその病気。
差出人がそれに罹っているとすれば、全て説明が付く。
・・・いや、むしろそれでしか、説明は付かない。
答えは一つしかなかった・・・・なのに・・・っ
「必要なときに出てこない知識に・・・・・何の価値があるっていうんですか・・・!」
そう自らに悪態をつく。
しかし、過去を呪ってばかりいても仕方ない。
今の自分に出来る最善の事は、エグランチエさんに、
少しでも早くこの事を伝えることだ。
だから自分は、走る。走る。
見つからない。彼女の姿が、無い。
香草亭にも、ミノタウロス亭にも。
パン屋にも、噴水広場にも。
雑貨店にも、グレイウォールにも。
埠頭にも、自室にも。
彼女が居そうなところは全て探した。
なのに見つからない。
「はー・・・・はー・・・・」
走り回って荒れた呼吸を、一度整える。
焦るな、アレル。冷静に考えろ。
彼女が他に行きそうなところを、探すんだ。
彼女は今、何かにはまっていたりしただろうか。
賭け事とか、食べ歩きとか。
裁縫だとか、絵描きだとか。
自分の記憶の中で、彼女が熱中していたものは―――。
手紙。
「―――!あそこだ・・・・!」
足は再び、駆け出す。
「見つ・・・・・・けた・・・・っ!」
ハザード川、水辺。
そこで佇む金髪の少女の姿を見つけて、安堵の声を上げる。
流れてくる手紙を探していたのだろうか。
その視線は、川の中に投げ込まれている。
自分が安堵の声をあげると共に、彼女はこちらを驚いたように振り向いた。
「あら、アレルさんじゃありませんの。
そんなに急いで、どちらに行かれるつもりなの?」
彼女は優雅に、そう聞いてくる。
自分はその質問には答えず、一歩、二歩と歩を進めた。
「手紙の・・・・・ゲホッ!・・・手紙の精霊力の正体が、分かりました・・・・」
荒れる呼吸をなんとか押さえ、振り絞るようにそう伝える。
まぁ!と声を上げるエグランチエさん。
「すごいわっアレルさん!
それで、いったいどんな理由だったのかしら?」
「石皮病。」
彼女の問いに、自分は短く答えた。
彼女の表情が、少し曇る。
「体の中のノームの力が大きくなりすぎて引き起こされる病気。
病の進行度に比例して、足元から、徐々に石化していく病気です。
はじめに足首が、次に膝が、その次に腰が、そして胸が石化します。
この時点で病人は呼吸ができなくなり死亡する訳ですが・・・・
それでもこの病は進行を続け、最終的に患者を石像の様に
してしまう恐ろしい病気です。
・・・差出人は、その病に罹っている可能性がある。」
一つ一つ、丁寧にエグランチエさんに教えていく。
自分の呼吸も、大分整ってきた。
「石皮病の進行スピードは約2週間です。・・・・・エグランチエさん。
・・・・・貴方が最初に手紙を拾ってから、今日で何日目ですか・・・・・?」
確かめるように、そう問いかける。
会うなら急いだほうが良い。そう助言も付け加えて。
自分の説明を聞くや否や、彼女はその場を去っていった。
「エグランチエさん・・・・・。
頼みますから、自分を道化だけにはしないでくださいよ・・・・・。」
去り行く背中に、そう願いを託した。
PL
ついにエグにストーンスキンについて教えるときが来たか・・・・
というわけで教えちゃいます!すっごい詳しいよ!だって6ゾロ!
あ、葉っぱの件は適当です(キリッ
ヒューゲルの準備(心の)を待つ間、
僕は茶飲みギャルズでもひっかけにいくことにした。
そうしたら、ギャルっつうか、おてんばがランニングしてた。
「おい、エグ!」
可愛らしい顔して、フリフリのおベベ着て、
真顔で黙々とランニングしちゃうところが、
エグランチエのシュールなところだ。
じゃあ、勝負するか!?
走りで僕に勝てんのか!?
やれんのか!?オイッ!!
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PL:
事情を教えろ
新たに外部から取り寄せていることが見つかってしまったら。
パダを旅立って五日目、この日は偶然見つけた川辺の一本の木の下で夜を明かす事にしたの。ルイネ君はテントを張ってすぐに眠りについてしまいました、日に日に減っていく彼の口数と表情はその小さな体に疲労が溜まってきているのが目に見えてわかりました。ただでさえ慣れない長旅だもの、彼の体がすぐに悲鳴を上げるのは想像に難くありませんでした、そしてそれはこの私にも言えることです。私の足にも疲労という名の足枷が痛みという形となって姿を現し始めていました。靴を脱いでから今日は念入りに足を解したの。ふふ、私のこの素足だけを見てそれがうら若き乙女のものだと思える方は世界に何人いるのかしら。今夜はせめて水浴びくらいはしておきましょう。ひどい臭いだわ、エグランチエ。こんな姿をジュリアさんが見たらなんて言うかしら。明日の朝、ルイネ君にも勧めましょうか、もしかしたら気分転換になるかもしれませんわ。
出発当初はルイネ君からの質問や振られる話題に忙しかったのに、今は私から彼に話しかける事の方が多いくらい。本物の冒険はどう、広い世界を歩くのって気持ちが良いでしょう?笑顔でなるべく楽しげにそう投げかけても、帰ってくるのは、うんとか、そうとか、連れないものばかり。ルイネ君が気疲れしているのは間違いないわ、でも、ため息が出てしまいます。寂しいわ、ルイネ君。私はあなたの為に...違うわ、違うでしょう。私のため、でもあるのですわ。がんばりましょう、この旅が終わる頃にはルイネ君の顔に笑顔が戻っている事を信じましょう。
その日からまた数日後、私たちの前に迫っていた大きな丘を越えると、グロムザル山脈を青く霞ませていた空気の衣が薄らいでいてようやくとその山の素顔を見れるようになりました。頂上が白く染まった剣の先のような山々と、その間に敷かれた白銀の絨毯のように連なる巨大な氷の塊。目に見えて動かずとも大きな軋む音を立て十分に流動的に見えるその氷河は私達の隣を流れる川の先へと繋がっていました。この川の水源地に違いありません。息を呑むような絶景にルイネ君が感嘆の声を上げました。私がもうすぐ目的地に着くわと言うとルイネ君の笑顔がずいぶん久しくも思える笑顔を見せてくれました。
学院で調べた情報が正しければこの辺りにヘンルーダが群生しているはずです。そしてコカトリスたちの巣も存在しているはずです。辺りを見渡して歩いてみれば目に付くのは灰色の岩肌とその上に苔のように生える小さな雑草ばかり、そこに動くものといえば私たちとその頭上を流れるオランで見えたものと何も変わらない雲だけです。コカトリスはおろか動物の影ひとつ見つかりません。そんな私たちを山が小馬鹿にするように冷たい風がひゅるりと吹き抜けました。
「この辺りにヘンルーダがあるの?」
ルイネ君の言葉にええと答えこう続けました。
「そのはずなの。あの学院の情報が間違っていなければ...ですけれど。」
「...。」
しばらく二人でヘンルーダを探して歩きました。これまでの道のりでヘンルーダの形については地面にと絵に描いてみたり色や性質や色々と探す手掛かりとなるようにルイネ君には伝えてありました。岩の上に不規則に群がる小さな茂みを渡り歩くように探し続ける私達、一向にそれらしい草は見つかりませんでした。ここにあるはずなの、学院の書籍にはそう書いてあったの、あの賢者様はそう言っていたの。ここにきて、ここまできてその情報が誤りだなんてあんまりですわ。でも無情にも時間は一刻一刻と過ぎていきやがて青く澄み切っていた空は橙色に染まり出しました。
「...きっと、あるはずよ。よく探していきましょう。
鶏のような動物を見かけたら私にすぐ教えてくださいね。」
「...うん。」
「がんばりましょう...ね。」
すでに太腿まで石と化したルイネ君を撫でながらそう言いました。メリンダさんは言っていました、私の手紙に喜んでいた時はルイネ君の病気はまるで息を潜ませるかのように進行しなかったと。今の石化の進行速度はまるでルイネ君のその心境を私に曝け出させているかのように感じてなりませんでした。ここで見つける事が出来なければ、ルイネ君はきっと...そんな私の心境を逆に覗いたかのようにルイネ君がこう返しました。
「...僕はもう...メリンダに会えないのかもしれないね。」
「ルイネ君...?」
「だって、もう帰れないよ。帰るまでの間にきっと僕は石になってしまうよ。だから―――」
「―――見つけるわよっ!」
そして弱音を吐いたルイネ君に私は怒鳴ってしまったの。
それから怯えたように私を見つめるルイネ君の肩を掴んでこう言いました。
「必ず見つけるから、私を信じて。野薔薇を、自分をどうか信じて。
一緒に帰って、元気な声でメリンダさんにただいまって言いましょう。」
「うん。わかった、野薔薇。」
そう答えてくれたのが本当に嬉しくてルイネ君を抱きしめると私の耳元でルイネ君があっと声を上げてそれから忙しなく私の肩を叩きながらこう言ったのです。―――ねえ。ねえ、野薔薇、見て!見て!アレを見て!そう指差す方向に。いつの間にか涙に曇っていた視界を向ければ、そこには鶏のような魔物が一匹。
「あれ見て、野薔薇、鶏のような魔物がいるよっ!
もしかしてあれがグリフォン?手紙に登場した魔物っ!?」
「いいえ、違うわ。あれは、コカトリスよ。」
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パダからここまでの間をもう少し事件を起こしたかったりしましたが省略します...w
後もう少しです、次か、またその次の日記で終わらせます^^
※グロムザル山脈の位置と現実の世界地図を見比べて、そしてパダの隣に流れる名前不明の川を現実世界の長江やガンジス川を参考にしまして、その川の水源を氷河とさせて頂いてます。コカトリスの住みそうな荒野と川を共存させる為と言うのを理由にした僕の脳内世界観です^^;
『僕は何かを犠牲にしてまで生きていたくなんか無いんだ。
野薔薇や他の大人のように乱暴を働いてまで生きていたくない。』
『野薔薇・・・。でも、でも・・・。どうしてこんな辛いに思いをしないといけないの?』
『あなたが生きているからですわ』
『何の為に・・・。』
『そんな価値、僕になんてあるはず無いよ。』
『いいえ、この世に生まれたすべての生き物にそれだけの価値があるわ。
あなたにも私にも、あのコカトリスにも、フィリモンドにも平等に。』