海岸の冒険跡

GM [2012/06/17 03:05]
6月は、よく変化する。

太陽が天頂に近づき暑さは増すというのに、場所によっては雨季でもあり
寒暖の差が激しい。

「あっ」

エグランチエは、日除けのため頭に被っていた薄衣から顔を覗かせ、天を仰いだ。

「太陽が隠れてしまいましたわ」

雲に。
しかしそれは灰色の雲ではなく、青い空に浮かんだ、綿のような白い雲。


彼女はオラン南西の水辺に来ていた。
朝にこの天気を見て、今日は空の青と水の青の対比を楽しもうと思ったからだ。

足元は砂。
波が寄せてはかえす。
風が吹くとまだ少し肌寒い。

太陽が再び雲から現れた。

辺りが一気に光りだす。

眩しい、とエグランチエが目を細めると、砂浜にキラリと光るものを見つけた。

―――なにかしら?

少女のような好奇心で、駆け寄って手を伸ばす。

灰青色の精製されていないガラス瓶。
透明度が低いが、中に何が入っているのかは、わかる。

「まあ!」

コルクを開けるのももどかしそうに、エグランチエは瓶の中から羊皮紙を引っ張りだした。


東方語だった。

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ルイネは冒険がしたい。
だから、ルイネは冒険するんだ。
この手紙を冒険させるんだ。

この手紙を、窓の外、ハザード川の支流に向けて、投げるよ。

そうすると、この手紙は、どんな冒険をするのだろう?
ちゃんと、大きな川の流れに乗れたかな。
途中で枝に引っかかって、冒険が終わっていたりしていないかな。

・・・ううん! 心配、しない。

冒険、始める前に心配してたら、ルイネはずっと、冒険できない。

バイバイ、手紙さん。

・・・・・・どこにたどり着くんだい?

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:

っということで、エグランチエバージョンです!
かなり好き勝手に描写してしまいましたが、良かったでしょうか><

浜辺を歩いていたら瓶を拾いました。
「ルイネ」という差出人のようです。
性別・年齢・種族などはまだわかりません。

返信する場合、この羊皮紙に返事を書いて、
ハザード川の上流から流せば多分相手に届くでしょう。

お好きにどうぞ!

しばらくはこちらのカテゴリ「海岸の冒険跡」を使用してくださいませ。
エグランチエ [2012/06/17 22:40]


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ただいま、ルイネ。
僕が居ない間、元気にしてたかい?

流れるハザード河の先に僕を待っていた物が何だと思う?
そこには壮大な冒険と世界が広がっていたんだ。

さあ、今から僕が体験した出来事を語ろうか。
冒険に出る準備は出来たかい?



 僕を乗せた瓶の船はどんどんどんどんと流されてハザード河を下っていった。沈んだり浮いたり波に飲まれたりしながら、君達の村を抜けて森を抜けて草原を抜けてまた深い森に入っていった。

 そんな時だ、河の底から大きな影が僕に迫った、大きな魚だ。僕を小魚か小鳥と間違えたのだろう、きっとあの大きな口で食べてしまおうとしているに違いない。この河は魚のテリトリーだ、この瓶の船の旋回速度じゃとても奴から逃げ切れない。哀れ、僕の船はその魚に食べられてしまったんだ。

 ああ、無念なり、僕の冒険はここで終わってしまうのか。

 だがしかし不思議な事が起こった。魚に食べられたはずの僕の船はどうなったのか。なんと空を飛んでいたのだ、何が起こったというのだ。僕の船はまだ魚の口に挟まれたままだった。そう、この魚はより大きな鳥に捕えられていたんだ。

 その鳥は近くの河辺の岩に僕と魚を下ろした。巣まで運ぶのにはこの魚は重過ぎたのかもしれない。そして魚の口に挟まれた僕には目もくれずに未だピチピチ跳ねる魚のお腹を啄み始めた。

 そいつが魚を食べるのに夢中になっている隙に僕は逃げ出そうとしたんだ、そうしたらその鳥は鋭い眼差しをこちらに向けてきた。気付かれた!?いや、違う、僕じゃない、もっと奥を見ている、森の中だ。それからキョロキョロと辺りを見渡すと食べ掛けの魚を残して逃げるように飛び去ってしまった。代わりに森の木々を揺らして其処に現れたのは鳥よりももっともっと大きな熊だった。熊は僕を咥える魚を咥えると森の中を走り出した。
 
 木漏れ日が降り注ぎ其処彼処で鳥が歌う森林を進んで行く、もうずいぶんと深くまで入った。僕は何処に連れて行かれてしまうのだろうか、子供の待つ洞穴にでも向かっているのだろうか。いつしか日の漏れる木の葉の天井が途切れ陽光の直接降り注ぐ樹海の孤島のようなお花畑に辿り着いた。流石の熊も疲れたのだろうか、その花畑の隅に流れる湧き水の畔に腰掛けたんだ。束の間の平和な時間が過ぎる、その時間が終わりを告げたのはこの日差しが小さな雲に遮られた時だ。

 驚いたんだ、それは突然と訪れた。一つの影が僕を咥える魚と熊を覆い隠したんだ。そう、雲だと思っていた、違かった。その影はまるで雷のような雄叫びと共に瞬く間に熊の腕程もある鉤爪で熊を仕留めると同じく巨大なクチバシで僕を咥えたんだ。そしてその巨大な足で熊を掴むと再び空へと舞い上がった。巨大な獅子の体と鷲の顔と翼を持つ魔獣、グリフォン、たしかそんな名前の怪物だ。恐らくこの日差しに晒され光を反射した僕の瓶の船の輝きを宝石か何かと間違えたのだろう、奴は怪物のくせに貴婦人の様に宝石が大好きなんだ、まったく代わった怪物だ。そのまま僕はさらに遠くの岩山に連れ去られる事になった。この冒険はどうなってしまうのか。こんな時だが眼下に広がる世界と来たらどうだ、あそこはオランか、あれはエレミアか、あれがレックスか。こんな状況でも広がる世界に心を奪われてしまうのは冒険家として仕方が無いことなんだ。

 それからしばらくして僕は岩山の頂辺りの崖にあるグリフォンの巣に横たわっていた、目の前の金銀財宝と共に。この宝の山を君に見せて上げたいよ、すんごいんだ。グリフォンは先程の熊の肉に夢中になっている。さて、どう逃げ出そうか、気付かれればまたあのクチバシが待っている、慎重に動かねば。だが僕みたいな冒険家にはどんな時にでもチャンスは訪れるものなんだ、この巣から山肌へと続く細い岩の裂け目の影からこの財宝を狙う冒険者達が訪れたんだ。

 二人組の冒険者は片方は剣と盾、もう片方が大きな両手剣を持っている。彼らは食事に夢中のグリフォンに背後から静かに近寄ると一斉に攻撃を仕掛けた。轟く雷のような鳴き声、だがグリフォンの羽毛はそこらの鳥とは訳が違う、その羽毛は鋼鉄の鎧の様に堅い。彼らの攻撃を跳ね除けて、逆にその巨大な爪がいとも容易く冒険者達の鎧を引きちぎる。まるで勝負にならなかった、冒険者達は一目散に元来た岩の裂け目に逃げ込んだ。もちろん食事を邪魔されたグリフォンは怒っている、彼らを逃がすような真似はしない。

 だけど僕には見えたんだ、その時の冒険者達の表情が。その目の輝きは臆病風に吹かれた者のそれではなかった。そう、彼等は罠を仕掛けていた、岩の裂け目を抜けた先、其処には二人の冒険者の仲間が待ち構えていた、その二人の手には巨大な石弓が握られている。逃げ出した冒険者達を追い狭い岩の裂け目に入り込んだグリフォンはその巨躯と翼が邪魔をして思うように動くことが出来ない。そこに二本の太矢が走りその巨躯へと深々と突き刺さる。雷のような鳴き声が轟く、逃げ出した冒険者達は振り返り再び剣を構えた、形勢逆転だ、戦いの流れが変わった。

 それから僕はその勇敢な冒険者達に連れられてグリフォンの巣を脱出する事に成功したんだ、とんだスペクタクルだ。そしてその冒険者達に見送られて僕は再び君の元へハザード河を瓶の船で出発したと言うわけさ。



どうだい、すんごい冒険だろう。
君にも見せて上げたい物ばかりだ。

君の行きたい所は何処だい?
手紙の僕が何処でも代わりに行ってきてあげるよ。

そうだ、瓶に入っている金貨はただの金貨じゃない。
グリフォンの巣からのルイネへのお土産だよ。


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――――っと、こんな物かしら?
ふふっ、どう?題して『手紙の冒険記』よ。

それにしても可愛らしい手紙だこと。
自分の代わりに手紙に冒険をさせようだなんて。

さてと、手紙を同じ瓶にしまって一枚金貨を入れてと。
明日ハザードの河に流しに行きましょう。


差し出し人の元にキチンと届けるのよ。
頑張るのよ、手紙のあなたは勇敢な冒険者なのですから。

そんな願いを込めて手紙と瓶の船に口付けをして、
もう夜更けだもの、今日はゆっくりと寝る事にしました。


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いきなり長文すいませんっ!よろしくお願いします!
流石に長いので新しい羊皮紙を使った事にします^^
そしてしょうさんのエグ描写が僕以上にエグっぽいです(笑)

■行動
お返事はルイネ君の表現そのままにお手紙その物が冒険したような。
そんな文章を書いてハザード河上流から流します。
そして50ガメルと羊皮紙を一枚消費します、エゴロジー!

■アイテム
羊皮紙10枚購入
→そのうち一枚を消費します。
ガメル
3525→3465


GM [2012/06/19 23:36]
「―――――なんてこったい」

この手紙は、ルイネが想像するよりもはるかに、勇敢だった。

ルイネの手は震えた。
感情が昂ぶって、震えた。

こんなことは初めてだ。

いつも、手が震えるときは、灰色の時間だった。
ああまたか。また苦しい時間が訪れるんだ。っていう、サインだった。
耐え忍ぶだけの時間が、四角い積み木のように、ルイネのタスクとして訪れる。

でもこれは、ちがう。

ルイネの体は、―――楽しいことを見つけた時にも、震えるんだ!
知らなかった。


手のひらの金貨をもてあそぶ。
にぎる。
開いて、見る。

感触としての実感と、視覚としての実感。両方でルイネは金貨を認めた。


「すごい」

「・・・すごい!すごい!」

どんどん、と床板の上で跳ねる。

「本当に、冒険って、あるんだ・・・!」


ルイネはもう一度手紙に触れた。


「ぐ り、ふぉん?」

手紙の文字を落ち着いて読むことができない。
目の前が、キラキラで。

「お花畑・・・」

オラン!すぐそこの、オラン!
そこの近くには、あの、レックス!
そして砂漠の町のエレミア!

ルイネの頭の中の知識が、現在進行系になる。

これらは、作り話なんかじゃなかった。実際にある、現実の場所なんだ。


むかしむかしと聞いた空中の都市。
想像しきれずルイネの中でつまんなくなってる冒険者の街。
これって全部、本当だったんだ。

ルイネは、本の中だけが楽しい作り話で、現実なんてつまらない、談合で予定調和の世界だって思ってた。

でも、違うんだ。

冒険者はグリフォンと戦う。

ルイネも、戦いたい。
元気な体で、戦う場面に身を置きたい!

―――ねえ、手紙!おしえてよ。


ルイネは机と対になった椅子に行儀よく腰を掛け、手紙に文字を書くよ。


「手紙 さま・・・ っと」


///////////////////////////////////////////////////////

手紙さま。

ルイネの近くにいると、手紙は勇敢をなくしちゃう。
そう思ったから、ルイネはもう一度、手紙を手放すよ。

ここを離れた手紙は、どれだけいきいきしているんだろう。


―――いきいきしてるって?おかしいね。
きみは、しゃべるの?動くの?
魔法なの?

ねえ。
どっちが魔法?

ルイネのそばのものは、動かないし喋らないよ。
・・・どっちが通常?

このペン立てにささった指人形は、本当は動いているの?動いていないの?
ルイネが見ているから、動かないの?
ルイネが目をつぶる夜には、動き出す?

夜中って、どうなってるの。

手紙は、一日の変わり目を見たことがある?
それって、どういう風になってるの。

真っ暗な夜を、白い風が吹いて、朝にするの?
ハケでなぞるように、朝のオーロラがルイネの家の屋根をも掃いていく?


ルイネは知らないことだらけだ。
知りたい、見たい、実感したい。

ねえ、手紙。
どうやったらルイネを連れて行ってくれるの。

待ち合わせしようよ。
ルイネだけに教えて。
いつ、どこで待っていれば、手紙の見た世界に飛び込めるの?

月夜の晩に、   そうだ!あのうちの大きな銀木犀の下じゃ、だめ?

ルイネも行きたい。
変化にあふれた、つらくて楽しい不思議な世界を見たいんだ。


///////////////////////////////////////////////////////


「手紙さん、聞こえる?」


「・・・・・・ ダメなの?」


「じゃあもう一回!」


ルイネは、そーっと、そーっと、
かどが白く欠けたビンを、窓の外に落とした。

窓の外からは、温く湿った風が銀木犀の香りを運んでくる。
ルイネはこれだけでもワクワクするというのに、
もし待ち合わせなんかしちゃったら、倒れちゃうだろう。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:

鳥どんー!
パッションにお応えできているかどうか・・・というより、おんぶにだっこさせてもらいます(笑)
フォー!

エグランチエ [2012/06/20 01:35]



「坊ちゃん、ルイネ坊ちゃん。」

こんこん。

ルイネの部屋の戸を叩く音。
手紙さんを送り出して、ルイネはそれを隠すように振り向いた。

「あらまあ、何をして遊んでいたのですか?」

入ってきたのはメリンダ。
優しいおばさん、ルイネのママのような人。
何時もの様に右手の指先を握ってルイネにお辞儀をした。

ルイネはメリンダが好き。
いつも暖かくて、いつもニコニコと笑ってるから。

メリンダは不思議な力を持っている。
ルイネがどんなウソを付いてもすぐに見抜いてしまう。

でも今回だけはどうしても隠したかったんだ。
手紙さんがルイネの元にもう帰って来なくなるような気がしたから。

「なんでもないよ。」

そう答えても、メリンダの顔はニコニコしてる。
まるでルイネの事を一部始終見ていたかのように頷いてこう言ったんだ。

「あらあら、そうですか。じゃあ、内緒にしないといけませんね。」

ほら、もうバレてしまっている。
きっとメリンダは魔法使いかなにかに違いない。

「お坊ちゃま、そろそろあそこに行きませ―――。」

「いきたくないっ。」

いつもニコニコのメリンダもこの時だけは悲しい顔になるんだ。
だからこの時間がルイネは嫌い、でもあそこに行きたくないんだ。

修道院、古い石造りの建物で。
真っ黒な石像が入り口に飾られているんだ。
その真っ黒な石像をみんなはまーふぁさまと呼んでいたよ。

ルイネは石像が嫌い、怖いんだ。

中のみんなといえば幽霊のように真っ白な服を着てだんまりと歩いてる。
大きな建物の中をその人たちの足音がただ響いているんだ。

メリンダはルイネをそこに連れて行って、
いつも怖い顔のおじさんの難しい話を聞きに行く。

そしてそこに行くとメリンダはまた悲しそうな顔をする。
それから無理な笑顔をルイネに作るんだ、その笑顔だけ好きになれない。

でもそうも言っていられない。
メリンダを困らせたくなかったんだ。

「わかったよ、メリンダ。」

しぶしぶと外装に着替えようとしたら、僕は転んだ。
何にも躓いたわけじゃないよ、足が動かなくなったんだ。

「お坊ちゃまっ!」

僕の方が吃驚する位の声を出してメリンダがルイネを起こした。
メリンダ、お願いだから、ルイネにそんな顔をしないで。

手がまた震えた。指先がむず痒い。
灰色の時間がルイネに迫る。

修道院の怖い顔のおじさんはルイネは『石皮病』だと言っていた。

手紙さん、僕の約束守ってくれるかな。
僕は約束を守れるのかな―――。


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食玩のラムネの様な出番だった最初の日記に続いて、
次の日記は出番が無いという我がPCエグランチエ。

二連投します、エグランチエサイドの日記も書きます!
待ち合わせとか、どうするんだエグランチエ!(笑)

そしてルイネ君の設定を勝手に作ってしまいました。
大丈夫でしょうか。もし拙い感じでしたらすぐにでも修正いたしますーっ><


※真っ黒な石像というのは元は綺麗な象が古ぼけて日焼けしたものです。
エグランチエ [2012/06/20 21:24]


―――ん?


河岸に転がる瓶なんかが気になったのは中に手紙が入っていたからだ。
最近、何かと手紙と縁がある、自宅に届いた間違い手紙を連想していた。

拾い上げ瓶に着いた土を落とし水浸しとなった手紙を中から取り出してみる。
恐らくはハザード河を流れる最中で蓋が外れてしまったのでしょう。
よく川の底に沈まずにこの岸まで漕ぎ着けたものです。

その手紙をなんとか破かずに広げられたものの、残っていたのは一部分だけ。
残った部分に書かれた文字も大部分が水に消えてしまっていた。


///////////////////////////////////////////////////////

(ここから上も文章があったようだが、破れて失われていた。)

――――魔法?

―――――――ものは、動かないし喋らない――
――――――――――

――――――――――――人形は――――動いているの?動い――――――
ルイネが見ているから、動かないの?
ル――――――――夜には、動き出す?

―――――どうなってるの。

――――――――――――――――――――
それって、どう――――なってるの。

真っ暗な夜――――風――――――にするの?
ハケでなぞるよう――――――――が――――家の屋根をも掃いていく?

ルイネ――らないことだらけだ。
――――――たい、実感したい。

ねえ―――。
どうやったら―――――――――てくれるの。

待ち合わせし――――
――――――教えて。
いつ、どこで待っていれば――――――――――――――――

月夜の晩に――――――――――――――大きな銀木犀の下――――――

ルイネも行――――

(ここから下も文章があったようだが、破れて失われていた。)

///////////////////////////////////////////////////////


残った文章から子供が書いた物と予想が出来た。
どうやら差出人は何かを不満に思い、人形を動かす方法が知りたいらしい。
魔法で動く人形といえば思い出すのはネロス候の屋敷の魔法装置である。
あの骸骨や腐肉の塊を思い起こせばイヤな予感がしないでもない。

差出人は魔術師の子なのでしょうか?
月夜の晩に、大きな銀木犀の下?

しかし子供の書く文章だ、不吉な予感も何も悪戯の可能性が高い。
そもそも瓶に入れた手紙なんて宛先人がいるのかどうかすら怪しいものだ。

「...まぁ、話の種くらいにはなりますか...。」

その手紙をしまうと、街道へと戻り再び酒場へと歩き出した。



―――



「―――アレル様、それは?」

「あぁ、先ほど川岸で見つけた瓶に入れられていた手紙です。
 子供が書いた物だと思うのですが、どうにも気になってしまいまして。」

タリカはフラン様への手紙を届けた後、
グレイを連れてミノタウロス亭に寄っていた。

「よろしければタリカにも見せてください。」

アレル様の言うとおり、その手紙は子供が書いたもののようだ。
手紙の大部分は失われてしまっている、でも何かしらの強い思いを感じ取れた。
それに気のせいだろうか、この手紙から僅かに感じるこの気配は...?

ひとまずこの手紙の差出人、もしくは宛先人の手掛りとなるのは、
幾度か登場するルイネという名前と大きな銀木犀だ。

「大きな銀木犀といえば、タリカは一つ思い当たる物があります。
 いつもより遠い所にグレイと狩りに出掛けた時に小さな村で見かけました。」

「それはハザード河の畔にある村なのですか?」

「はい、畔を歩いて遠出をしましたから。
 銀木犀はこのオランではよく見かける木なのですけれど、
 その村の銀木犀はとても立派だったから印象に残っていました。」

「なるほど、しかし、わざわざ行くほどの事でもありませんよね。」

「ふふっ、でもアレル様はこの手紙を拾ってこられた。
 縁と言うものは、どこにどう結びつくかわからないものですよ。」

「はぁ、手紙の面倒事はもう間に合っていますよ...。」


アレル様は他にも手紙の縁を抱えているのだろうか?
そういうタリカもつい先ほど手紙による縁を授かった。
今、オランで手紙を出すのが流行っているのだろうか?

「そういえばエグランチエ様も川岸で手紙を拾ったと言っていました。
 まさかとは思いますが、エグランチエ様が厄介事に手を出して―――。」

タリカはアレル様から受け取った手紙を返そうとすると、
その手紙に突然と伸びた第三者の手が奪い去った。

噂をすれば影がさす。
やっぱり、エグランチエ様だ。



―――



「ちょっと、これを何処で!?」

「ここに来る途中の川岸で拾ったものです。」

「やっぱり!まさかお返事が来るなんて!嬉しいわっ!
 ふふふっ、ずっと待っていたの、でももう諦めようとしていたのに!」

「ははは、まさかエグランチエさんがそんなに喜ぶものだとは。」

「ありがとう、アレルさん。この手紙は私が頂きますわ。」

でも何よこれ、破けてしまっていますわ。
それに水浸しですし、文字も掠れて消えてしまっていますし。

どれどれ。ふむふむ。
まあまあまあ。

月夜の晩に待ち合わせ?文通を始めてもう会いたいだなんて。
どうしましょうか、私が相手だと知ってがっかりしないかしら。

「いきなり待ち合わせだなんて。ふふふっ。
 でもどこでしょうか、場所がわからないわ。」

「エグランチエ様、その手紙の待ち合わせの場所。
 もしかしたらですけれど、タリカに検討が付きます。」

「まあ、本当に?銀木犀が何だかもわかりませんわ。
 ぎんもく、くず?と読むのかしら?それはどんな物なの?」

「...ぎんもくせいです、エグランチエ様。木です、植物です。」

「木なんてどれも一緒なのに、ずいぶん難しい名前を付けるのね。
 でも流石はタリカですわ、その場所を私に教えて頂けるかし――」

「――エグランチエ様。」

喜び踊るような気分の私を制すようにタリカは私の名前を呼びました。
私は思わず体を強張らせた、まるで敵の襲来を知らせるような口調だったから。

「その手紙から僅かですがただならぬ精霊の気配を感じます。
 気のせいだといいのですけれど、くれぐれもお気をつけて。」

「ただならぬ、精霊?」

「ええ、まるで狂気を帯びたノームのような―――。」


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どしどしといくぜぇ、しかし長くなってしまったので一度切ります。
まさかの三連投になります、次は手紙を書きます、出します。

しょうGMの素敵世界観が大好きです。
ルイネの手紙のような文章とか素敵過ぎです。

そしてアレルさんとタリカさんを使わせて頂きましたー!
もし修正が必要でしたらお気軽に、エグランチエの利用もお気軽に^^

アレル=リリー [2012/06/21 23:43]
ザブン、ザブンと、水の音が響く。
気晴らしに散歩をしていたら、どうやらハザード河の方に来ていたようだ。
河の近くの風は涼しい。
暑いのが苦手な自分にとって、ここは絶好の避暑地だ。
でも、今日はその涼しい風も、自分の意識には入ってこない。
他にもっと気になるものを見つけたから。


手紙を見つけた。


欠けた瓶の中に入ってた、小さな手紙。
ハザード河の上流から流れてきたのだろうか。
手紙は水気を多分に含んでいて、インクも滲んでいる。
ともすれば、すぐに破けてしまいそうだ。
そんな手紙をなんとか開いて、中を読んでみる。

途切れ途切れに読める、拙い文。
書いたのは子供だろうか。
まるで何かを願うような文章だ。
欠けた瓶に願いを掛けて、この手紙を送り出したのだろうか。
だとしたらここで止めてしまうのは申し訳ない気がするけど・・・・
だからといって、このまま流しても手紙が完全に水没するだけか。
どうしようかな・・・・・

「...まぁ、話の種くらいにはなりますか...。」

少し悩んだ後小さくそう呟いて、手紙を持ったまま酒場へと足を向けた。






「アレル様」

酒場に入ってゆっくりしてると、背後から声を掛けられる。
振り向くと、そこにはタリカさんが居た。

「狩りの帰りですか?」

「はい、今帰宅したところです」

「ふふ、おかえりなさい。」

そう挨拶を交わす。


「―――アレル様、それは?」

手紙を見つけたタリカさんが、小首を傾げながらそう聞いてくる。

「あぁ、先ほど川岸で見つけた瓶に入れられていた手紙です。
 子供が書いた物だと思うのですが、どうにも気になってしまいまして。」

「よろしければタリカにも見せてください。」

「えぇ、いいですよ。」

そういって彼女に手紙を渡す。



「大きな銀木犀といえば、タリカは一つ思い当たる物があります。
 いつもより遠い所にグレイと狩りに出掛けた時に小さな村で見かけました。」

手紙を読み終えてからしばらく、タリカさんがそう言った。
そういえば、手紙の中には大きな銀木犀のことが書いてあったっけ。

それはハザード河の畔にある村なのですか?」

「はい、畔を歩いて遠出をしましたから。
 銀木犀はこのオランではよく見かける木なのですけれど、
 その村の銀木犀はとても立派だったから印象に残っていました。」

「なるほど、しかし、わざわざ行くほどの事でもありませんよね。」

「ふふっ、でもアレル様はこの手紙を拾ってこられた。
 縁と言うものは、どこにどう結びつくかわからないものですよ。」

「はぁ、手紙の面倒事はもう間に合っていますよ...。」

あぁ、そうだ。
せっかくだし、タリカさんにもアンソニーさんの事を聞こうかな。
そう思った矢先。

「ちょっと、これを何処で!?」

またもや背後から、大きな声を掛けられる。
しかし今度は、こちらから振り向くまでもなく、向こうから視界に入ってきた。
黒百合の次は野薔薇。今日は何かと花に縁がある。

「ここに来る途中の川岸で拾ったものです。」

こんにちは、と挨拶をしながら、声を掛けてきた人物―――エグランチエさんに、そう答える。

「やっぱり!まさかお返事が来るなんて!嬉しいわっ!
 ふふふっ、ずっと待っていたの、でももう諦めようとしていたのに!」

どうやら、エグランチエさんはこの手紙に心当たりがあるらしい。
そういえば先ほど、タリカさんがそのような事を言っていたっけ。

「ははは、まさかエグランチエさんがそんなに喜ぶものだとは。」

「ありがとう、アレルさん。この手紙は私が頂きますわ。」

そう言って手を差し出すエグランチエさんに、えぇどうぞ、と手紙を差し出す。
受け取った手紙を、真剣な眼差しで読むエグランチエさん。
そして数秒後、その顔が嬉しそうにほころぶ。

「いきなり待ち合わせだなんて。ふふふっ。
 でもどこでしょうか、場所がわからないわ。」

「エグランチエ様、その手紙の待ち合わせの場所。
 もしかしたらですけれど、タリカに検討が付きます。」

「まあ、本当に?銀木犀が何だかもわかりませんわ。
 ぎんもく、くず?と読むのかしら?それはどんな物なの?」

「...ぎんもくせいです、エグランチエ様。木です、植物です。」

「木なんてどれも一緒なのに、ずいぶん難しい名前を付けるのね。
 でも流石はタリカですわ、その場所を私に教えて頂けるかし――」

「――エグランチエ様。」

不意にタリカさんが、鋭い口調でエグランチエさんの名前を呼ぶ。
その言葉を聞いて、エグランチエさんも体を強張らせた。

「その手紙から僅かですがただならぬ精霊の気配を感じます。
 気のせいだといいのですけれど、くれぐれもお気をつけて。」

「ただならぬ、精霊?」

「ええ、まるで狂気を帯びたノームのような―――。」

手紙から狂気を帯びたノーム?
中々おかしな現象だ。

「手紙の差出人は、狂ったノームに襲われでもしたのでしょうか。
・・・いや、文章を読むに、それはなさそうですね。
だとしたら、差出人に何らかの原因で狂ったノームの力が宿っているのか、
もしくは・・・・差出人自体がノームとか。」

最後は冗談っぽく、そう言う。
可能性があるとすれば差出人にノームの力が宿っている場合だけど・・・
それは一体、どういう状況なのか・・・考える。

「なんでしょう。この状況を説明できる単語が、喉元まで出掛かっているんですが・・・
・・・・うーん、ダメですね。今は少し思い出せません。
思い出したらまた、知らせようと思います。」

もどかしい気持ちを感じながら、そう伝える。

「・・・で、どうやら差出人はあまり正常な状態ではないようですが・・・・
もしかしたら会うのには少し危険が伴うかもしれません。
それでも貴方は会いに行くのですか?」

そう、エグランチエさんに問いかける。

「あら、貴方にしてはずいぶん察しが悪いですわ、アレルさん。
私がこの程度で自分の言葉を曲げるような女だと思って?」

「あはは、もちろん思っていませんよ。」

微笑みながら、そう答えた。

「会えるといいですね、その子に。

・・・あ、そうだ。そういえば自分も探し人をしてるんですが・・・
アンソニーさんと言う人を知りませんか?
まだ名前だけしか分かってないのですが・・・・」

そういえばと、二人に問いかけた。








PL
他人描写の難易度の高さ・・・・
タリカさんとエグランチエさんを描写させていただきました!

石皮病知名度判定:2d6+7 Dice:2D6[6,6]+7=19

そしてこの6ゾロである。
でもあえてまだ思い出せないことにします!
そのほうが面白そうだから!

あ、後お二人に、アンソニーしらない?と聞いておきまーす。

タリカ [2012/06/22 16:54]

「木なんてどれも一緒なのに、ずいぶん難しい名前を付けるのね。
 でも流石はタリカですわ、その場所を私に教えて頂けるかし――」

「――エグランチエ様。」

「その手紙から僅かですがただならぬ精霊の気配を感じます。
 気のせいだといいのですけれど、くれぐれもお気をつけて。」

「ただならぬ、精霊?」

「ええ、まるで狂気を帯びたノームのような―――。」

「手紙の差出人は、狂ったノームに襲われでもしたのでしょうか。
・・・いや、文章を読むに、それはなさそうですね。
だとしたら、差出人に何らかの原因で狂ったノームの力が宿っているのか、
もしくは・・・・差出人自体がノームとか。」

「それはなかなかおもしろい意見ですね」

ノームからの手紙。
ノームならばそれなはんと素敵なものだろうか。
もちろん、正常なノームだったのならば、の話だが。
狂気を帯びているともなれば人間だってぞっとしない。

タリカはアレルに頷き、そしてエグランチエに振り返る。


「――エグランチエ様」

 先ほどより鋭い声だ。

「『木なんてどれも一緒なのに』とは聞き捨てなりませんね。
 人間やドワーフ、エルフが居るように木々にも様々な種類があります。
 葉が尖っているもの、丸いものがあるのは知っていらっしゃいますか?
 そして一つ人間をとっても様々な人がいるように、同じ種類の木でも色々な木がいるんです。
 葉の色だって似ているようでそれぞれ違うんです。
 いいですか?」

 ぶつぶつ。
 ぶつぶつ。

「あ、あのタリカ...?」

 エグランチエはたじろぐが構わずタリカの説教が続く。

「そもそも、エグランチエ様は学院では森については習わないのでしょうか?
 それなりの知識を持った賢者だというのに、まったく」

 ぶつぶつ。
 ぶつぶつ。

「あ、あの・・・ごめんなさい」

 ああ、哀れな勇者エグランチエはしょんぼりしてしまった!


「まあまあ、タリカさん」

二人の様子を面白そうに眺めていたアレルが助け舟を出す。
二人のこんなやりとりは珍しい。
なかなかに面白いものだったがそろそろ話を進めたい頃合いだ。

「ところで...」

――――――――――――――――――――――――――――――

 がるふぉ@タリカ:

  木について小一時間問い詰めます(笑)
  アンソニーについてはうまい返しが思いつかなかったので、ひとまずその前で止めておきました!

エグランチエ [2012/06/22 23:21]


『―――はい、御父様』


少女は幼い頃から厳しく育てられた。
言付けを守り我侭を言わない大人しく内向的な人形のような少女だった。

その少女の父親は仕立て屋の長男として生まれた。ふとした偶然から自分の仕立てた衣服が貴族の目に入り、それがたいそう気に入られ貴族の顧客を持つようになった。それゆえか非常にプライドが高く近所には自分もさも貴族の仲間であるかのように高慢な態度を取っていた。まるで町人貴族のような小さい男だった。貴族にはへこへこと頭を下げて隣の家には威張り散らす嫌われ者だった。

そんな父親を持ったが故に少女の躾は厳しかった。いざ貴族の顧客の前に出した時に父親が恥をかかないようにする為だ。そしてあわよくば娘を顧客の貴族のお気に召させて正真正銘の貴族としての仲間入りをしようとしていたからだ。貴族と平民の通婚など今までに例がないが、過去の奇跡から父親は自分の野心に、綺麗な言い方をすれば自分の夢にとても正直だったのだ。

少女は部屋の中で育った。まるで貴族のような豪勢な服を着せられ、貴族のように馬車に乗り、貴族のように学院に通った。父親は厳しかったが父親は父親なりにその娘を愛していたのだ。娘の頬を叩いた事はただの一度も無かった、ある事件が起こるまでは。その少女に平民の男友達が出来たのだ。


『部屋の中で、じっとしていて楽しいの?』『...』『ねえ』『...』『綺麗な服だね』『...』『どうして黙っているの?』『御父様が貴方達の様な人と言葉を交わしてはならないと仰っていました』『どうして?』『...』『ねえ、一緒に遊ぼうよ』『遊...ぶ?』『そうさ、外に出てさ。きっと楽しいよ』『...』『君は僕達の遊ぶ姿を窓からずっと見ていただろう?』『...』『君の名前は?』『.........エグ...ランチエ』


それまで私は外の世界を知らなかった。


―――


魔法?動かない人形?
真っ暗な夜?何の事でしょう?

でも恐らくは子供の文字。以前の手紙と同じ字体。
それほど深い意味が込められた物では無いとは思います。


冒険に出たがっていた、世界を見たい。
以前の手紙からはその思いが溢れ出ているようでした。

私のあの手紙を見て、ルイネ君はどういう気持ちになったのでしょう。
消えてしまった文字の向こうに思いを馳せつつ、筆を取りました。


それにしても、狂気を帯びたノームの気配とははたして...。


///////////////////////////////////////////////////////


やあ、ルイネ、またあったね。
君が望む限り僕の冒険は終わらないよ。


 だが冒険には危険が付き物だ。旅先で何が待ち構えているかわからないからね。楽しい事や嬉しい事も、辛い事や悲しい事もある。時には何かを失ってしまう時もあるんだよ。ルイネ、聞いてくれ、僕はどうやら記憶を失ってしまった。覚えているのは自分が冒険家である事と自分の名前とルイネとの約束だけだ。

 ハザード河を下っていく中で僕の瓶の船は難破をしてしまったらしい。先の冒険で限界が来ていたのだろう。気づいた時にはオランの川岸に転がっていた、親切な冒険者が僕を助けてくれていなければ僕は命を失っていただろう。その優しき冒険者アレルとタリカの事を僕は忘れない。だが失った物はあまりにも多い。中でも記憶の欠落はあまりにも辛い、君がくれた僕へのメッセージが消えてなくなってしまったんだ。本当にすまない。

 それでももちろん僕の冒険が終わるわけではない、僕に出来る事は旅をする事だけだからね。ルイネ、僕の正体が気になるかい?どうして手紙なんかが動くのか不思議に思うかい?だけど考えてみて、手紙はそもそも旅に出るものなんだ、手紙はみんな冒険家なんだ。想像してごらん世界中で色んな手紙が人の手を伝い旅をしているんだ。このオランにも今たくさんの冒険家たちが行きかっている。決して僕は特別な手紙じゃないんだ。

 ルイネ、一つ君にお願いがある。僕にはもう君の名前と君との約束しか思い出せない、だから君が伝えたかった事をもう一度僕に伝えてくれるかい?手紙ででは無いよ、君の口で、言葉で僕に伝えて欲しい。約束は覚えているよ、忘れるものか。月夜の晩に、そうだ、次の満月の夜に大きな銀木犀の木の下で僕と落ち合おう。そしてその時にこの手紙、僕を一緒に連れて行って欲しい。

 今回はもしかしたらルイネが期待したような壮大な冒険は出来なかったかもしれない、でもまた君と言葉を交わすことが出来て本当に嬉しい。ありがとう、ルイネ。


世界はいつでも君を待っているよ。
そうだ、僕の名前は野薔薇というんだ。

満月の夜を楽しみにしているよ。


///////////////////////////////////////////////////////


私はこの手紙にある魔法を掛けたの。
それは探知の魔法、付与した物の所在を知る事の出来る魔法よ。

タリカの情報は正確です。ですがこのルイネ君の言う場所と同じ場所なのか。
誰にもわからなかったから私は失礼とは思いつつも保険を掛けたのです。

さあ、もう一度、ルイネ君の元へ届けるのよ。
今度のあなたは正真正銘の魔法の手紙なのですから。


―――私はふと窓の外を見ました。そこには夜の帳に浮かぶ月。


私は今でも窓の外に憧れているのかもしれません。
ルイネ君、私はあなたに自分を重ねているのかもしれません。

あなたに世界を見て欲しい。色んな物に触って欲しい。
そしてその喜ぶ顔が見てみたいの。あの時あの男の子が私にしてくれたように。


---------------------------------------
エグの描写をありがとうございます!そちらにも顔を出しに行きますよー!
でも先に書き掛けていたこちらを投下であります、エピソード0も(笑)
貴族の子供に自分を重ねるようなRPがしてみたかったのです。

■行動
お手紙のお返事を出します。次の満月の夜に会おうと約束します。
その手紙にロケーションの魔法を掛けます。

サブGM [2012/06/27 03:21]

エグランチエは、手紙に魔法を掛けた。


はじめは、ペンの魔法を。

そして今度は、古代の魔法を。



----------------------------------------------------------------------


エグランチエに魔法をかけられた瓶の船に乗って、手紙は何度目かの旅に出た。

ハザード川の支流とは言え、スタート地点である上流の流れは激しい。
荒波に揉まれ、川魚につつかれ、時には瓶ごと川の底のほうに叩きつけられそうになる。
手紙にできることは、ただひとつ、ただその流れに身を任せることだけだ。


だが、瓶の船に乗った手紙は、勇敢に旅を続ける。
ルイネの元へ向かって。


冒険家は、同じ失敗を繰り返さない。
そう、この固く締められた船の蓋は、エグランチエがしっかりと、何度も何度も、確認したし、
ほんの短い距離だけど、オランの海を泳いでテスト走行だってしたのだから!


ざぶん、ざぶん、ざぶん。


岩に引っかかったりしながら、数日。
マイペースな瓶の船の旅は、ようやく目的地へと到着した。


----------------------------------------------------------------------


――もしかして、あの手紙はもう帰って来ないのかな。


手紙の金貨を小さな手で握りながら、ルイネは考える。
メリンダにはおかねを触っちゃダメだって言われてる。
硬いものは、ルイネの手も硬くしちゃうから、ダメなんだって。

だけど、いいんだ。
だって、これは手紙がルイネにくれた、お土産なんだ。

ルイネの手は、きっと、あの黒い石像みたいに硬くなる。
だから、その前に、ルイネは大事なお土産を握りしめてしまうんだ。
そうしたら、ルイネと金貨は、ずうっと一緒なんだ。
だから、いいんだ。


「・・・にしゅうかん・・・」


あれから、日にちがすぎるたびに、ルイネは羊皮紙に1つずつ印をつけた。
手紙を冒険させるまでは、灰色の時間を数えてるみたいで、ルイネは日にちを数えたことはなかった。

来る日も、来る日も。
窓の下、川の流れを覗きこむ――だけど、ルイネのもとに、手紙が帰ってこない。

最初はすっごくどきどきしたんだ。
だけど、もう、どきどきするのもルイネは疲れてきたよ。

でも、ルイネは眠れないんだ。
ルイネが目をつぶったら、その瞬間、手紙が戻ってくるかもしれないんだよ。


ああ、ルイネがさっき寝てる間に、手紙が帰ってきてたんだったら、どうしよう――。

ルイネは――。


----------------------------------------------------------------------


だが、目的地に到着した手紙は、拾われた。


ルイネが仕掛けた、窓の下の川に浮かぶ堰で、過ごす事しばらく。
洗濯のためにやってきた婦人に、拾われた。


手紙は婦人のエプロンのポケットに入れられ、しばらくそのまま揺られた。
だが、婦人が洗濯かごを床に落としたかと思うと、慌ただしく、移動した。


急いで、ルイネの家から、近所の家に。
すぐルイネの家に戻ってきて、今度はそのまま、近くの修道院に急いで移動した。
修道院は、慌ただしい様子だ。
それから、難しい顔をした男がやってきた。

しばらく、長い間、そのままだった。

それから、ポケットの中の手紙はまたルイネの家に戻ってきた。
婦人が椅子にどさり、と腰を下ろし、その勢いで手紙の船は床に転がった。


ごろん、ごろん、ごろん。


それから、婦人に拾い上げられ、ベッドに寝かされたルイネの枕元に、そっと置かれて。
手紙の少し長い旅は、ようやくそこで終わった。
あとは、ルイネが目を覚ますのを待つだけだ。


----------------------------------------------------------------------


手紙にできることは、ただひとつ、ただその流れに身を任せることだけだ。

エグランチエの探知の魔法は、そんな手紙の旅を魔法の力で追いかけている。



――満月の夜は、もうすぐだ。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――
サブGM(ここあ)より:
大変お待たせいたしました!
エグランチエのロケーション結果をお届けに参りました(''*


ロケーションの魔法は、見知った品物の居場所を知るための魔法です。
なので、エグランチエは好きなタイミングで、ロケーションを使い、手紙の行方を追いかけることができます。
完全版によれば「近づくほど存在感がある」「大まかな距離を知ることができる」ということなので、
ルイネの家(タリカに教えられた村?)に近づいていれば、より細かな方角や位置、
例えば近くのマーファ修道院に寄ってるな! という事がわかったりすることでしょう(''*
その辺の時系列は鳥さんのお好みで、自由にどうぞ!
(手紙が家に辿り着く前に止めちゃって別のストーリーにしても構いません!)


一応、水浸しになったりしたので、ルイネ→オランまでの時間がかなり掛かっている、
ということで、ルイネが手紙を出してから今回の手紙が届くまでに二週間掛かったとしてみます。

はい、石皮病は二週間で進行判定を行います。(完全版p179)
悪化したのかもしれませんし、悪化しそうになったけれど取り留めたのかも。
そのあたりも、鳥さんにお任せしちゃいます!(''*

エグランチエ [2012/06/27 21:22]
 

この花の石像を見てください、見事なものでしょう。
花弁から葉の葉脈まで、茎を覗けばその筋まで掘り込まれています。

まるで生きているようでしょう。
それもそのはず、この花はかつて生きていたのですから。


―――


宝石に詳しい方ならバタイユルビーというルビーをご存知ではないでしょうか。それはルイネ坊ちゃんの亡き御父上のジェルマン・クロード・アナ=マリア・バタイユ様が発見された鉱山から採掘されたルビーの事を言います。鉄分が多めでやや黒ずんでいるのが特徴です、その採掘量は多く、今では多くの装飾品や調度品に使われています。

ジェルマン様はその鉱山を元手に大財閥を築き上げました。しかしその山は不吉な言い伝えを持つ土地として地元民には知られていたそうです。開拓中はジェルマン様の行動をよく思ない地元民達からの妨害を受けたことも少なくなかったそうです。

その言い伝えとはこういう物でした。


昔々、その山には一人の魔女が住みついていました。その魔女はルビーの宝石が大好きで一日中指に嵌めた大きなルビーの付いた指輪を眺めて暮らしていたそうです。その噂を聞きつけた女王はそのルビーの指輪がどうしても欲しくなりました。欲張りな女王は自分以上の贅沢をする魔女が許せなかったのです。女王は兵士たちに命じました、悪い魔女を打ち倒しルビーの指輪を持ち帰りなさいと。

それから女王に遣わされた兵士たちに囲まれた可哀想な魔女は殺されてしまいました。しかしそれでも女王にルビーの指輪を獲られたくなかった魔女はルビーの指輪に呪いをかけたのです。私のルビーの指輪に近寄るものはみんな石になってしまうがいいと。女王の命令に逆らえなかった兵士たちはみんなそのルビーの指輪に近づいて石になってしまいました。欲張りな女王はそれでも諦めきれずにとうとう最後は自らそのルビーの指輪に近づいて石になってしまったというものです。


その言い伝えは地元ではわがままをいう子供に言い聞かせて育てるほどに有名なもので、それ故にこの言い伝えが本当にあった事かどうかという以上に地元の風習を穢されたくないという思いからジェルマン様への妨害活動は行われていたそうです。しかし―――ジェルマン様とそして奥様のブランディーヌ様は今のルイネ坊ちゃんと同じ石皮病により亡くなられました。

ジェルマン様の後を継いで今はジェルマン様の腹違いの弟のプロスペール・クロード・オーレリア・バタイユ様が経営指揮を執られています。プロスペール様は非常に商才に恵まれた方でした、バタイユルビーを世に広めその資金を元に様々な企業を立ち上げました。鉱山を元にバタイユ財閥を生み出したのがジェルマン様なら、育て上げたのはプロスペール様といえるでしょう。


私、メリンダは今、プロスペール様の母君のファビエンヌ様からルイネ坊ちゃんを任されています。ファビエンヌ様からは毎週この石皮病を治癒するという貴重な薬草とそしてハーブのお茶を送って頂いています。ルイネ坊ちゃんの近くに入れないけれどこれほどファビエンヌ様はあなたを愛されているのですよとルイネ坊ちゃんには伝えています。



ですが、もう私にはどうしたらいいか。
ルイネ坊ちゃんが不憫でなりません。

この花を見てください。
なんて言うことでしょう。


この石の花は以前ルイネ坊ちゃんとお外でお茶をした際に、
私が不手際でそのハーブのお茶を溢してしまった場所に生えていたものです。



いいえ、ルイネ坊ちゃんを守れるのはメリンダだけ。
どうかマーファ様、坊ちゃんと私にお力をお貸し下さい。

今日も馬車に乗せられファビエンヌ様から荷物が届きました。
それを私は出所の確かなパンと野菜を抜き、後は全て暖炉の火にくべました。

不躾な家政婦もあったものです、ご主人様からのお届け物を焼くなんて。
そういえば以前のご主人様の言付にも逆らって私はクビになったのでしたっけ。

それから私は鏡を見て自分の顔をぴしゃりと両手で叩く。
そしていつも通りの笑顔を作って坊ちゃんの部屋の戸を叩きました。


「坊ちゃん、ルイネ坊ちゃん。美味しいご飯の用意が出来ましたよ。」


-----------------------------------------------------
ファビエンヌが自分の息子を財閥の当主にしたくてルビーの呪いの言い伝えを利用して密かに毒を飲ませ続けジェルマン一家を暗殺しようとしている感じです。ルイネにまで手を掛けるのはプロスペール側に子供が出来たからです。薬草もおそらくヘンルーダとよく似た違う草でしょう。

使用された毒は「メデューサ・アイズ」ではありません。オリジナルの物で、効果は病の「石皮病」を誘発させるものです。それは即効性が強すぎると呪いではなく殺人事件としての疑いを強く持たれる為、とファビエンヌと鳥が思ったからです(笑)


そしてごめんね、ここあさん。登場人物が増えるよ;w;
この日記に出てくる新キャラは今のところ再登場の予定がありません。
なのでもし大変でしたら追加の必要はございません><

GM [2012/06/27 22:41]

 コンコン

このノックはメリンダ。
僕は、一瞬だけどうしようか迷った。
迷って、でも・・・・・・隠した。

「坊ちゃん、ルイネ坊ちゃん。美味しいご飯の用意ができましたよ。」

部屋の扉が開いた時、僕ははにかんだ。

「さあ、食べましょう」

「うん」

両の手をあげて、いつもより大振りに体が動いてしまう。
そんな様子をメリンダに知られてしまったみたいだ。

「あら、今日はなんだかごきげんのようですね」

まだ、秘密。

「うふふー」

ルイネがご飯を食べるときは、メリンダは一緒に座ってくれる。
でも、一緒には食べないんだ。
ルイネのことを、じっと見ていてくれるんだ。

「ねえメリンダ」

「はい、坊ちゃん」

「今日は・・・」

今日は・・・

「今日は、満月なのかな?」

「・・・・・・」

「満月?」

メリンダの顔を覗く。
ねえ、教えてよ。

「そうでございますよ、坊ちゃん。今夜は満月です。
 狼が吠えて外をうろつく日なんです。
 だから今夜は早く寝ましょうね。
 メリンダも一緒に、そばについていますから」

「・・・ううん、今日は一人で寝るよ。
 ルイネはいつも、一人で寝てる。
 だから、今日も一人で寝る!」

「坊ちゃん。今日はメリンダが一緒にいます」

「いい!ひとりがいい!」

「・・・・・・」

どうして、メリンダ。どうしてそんな顔をするの。

ヤダ、ヤダ。

「ご飯もういらない」

椅子から降りる。

「もう、ルイネは寝る!」

だだだっと、走って部屋に入った。
『走ってはいけません』
いつも言われることを、メリンダは言わなかった。

ヤダ、ヤダ。

枕の下に隠した手紙をつかむ。

「伝えたかったこと・・・」

この手紙を読むと、すごく元気が出るよ。
それはもう。

ねえ、ルイネ、冒険するよ。


----------------------------------------------------------------------

窓から降りて、誰にも知られないように窓からおうちを出て、銀木犀の下に行くんだ。
おおかみさん?・・・窓の外からは聞こえない、きっといないよ。

ぎゅ、と手紙を握り締める。
持っていくものって、何かあるかな。
・・・手紙は何も持って行ってなかったよね。だからきっとルイネも大丈夫。

「ん しょ」

窓を開ける。外が暗い。
風が湿っていて、ぬるい。

手紙はいつもここから冒険していたね。
窓の下を見る。

「暗くて、見えない・・・」

でも野薔薇は大丈夫だった。
ルイネだって、できる!

「手紙・・・。行こう・・・?」

野薔薇。一緒に。


―――――行こう!


ルイネは、飛び込むよ、今。



アレル=リリー [2012/06/28 23:45]
自分が家に居る時間というのは、案外少ない。
あるいは冒険者のお仕事だったり。
あるいは盗賊としてのお仕事だったり。
あるいは酒場で酔い潰れてそのまま泊まっていったり。
あるいは何かの目的で出かけたり。
そういう理由で、自分が家に居る時間は削られている。


「だからって、こう毎日続けられると・・・ちょっと気も滅入ってきますねぇ・・・」

ある日から毎日のように続く嫌がらせ。
決まって自分の居ない時間にやってくるそれは、
今日も例外なく家の隙間を葉っぱで埋めた。

「まったく・・・なんなんですかもう。
何でこう毎日毎日・・・・しかも微妙な嫌がらせばかり・・・
冬はまだしも、これからの季節に家を密閉されたらたまったものじゃありません。
なのにこの葉っぱと来たら・・・綺麗に隙間を埋めてくれます。
しかも何か今日の葉っぱ、いつもより硬いし・・・・
段々嫌がらせの微妙度が上がってきましたね・・・・
あーあー、ほら、無理に押し込んであったから葉っぱが
その形で固まってしまってるじゃありませんか。いつもは大丈夫だったのに。
いつもと違って今日は硬めの葉っぱだったからですかね・・・・
まったく、もっと自然を大切にしてほしいものです。」

愚痴愚痴言いながら、葉っぱを一枚一枚取り除いていく。

「押し花みたいになってたせいで水分も抜けてる・・・物凄いパリパリです。
これじゃまるで化石ですよ化石。
まったく、この葉っぱたちも可哀相ですね。
こんな石みたいに固められてしまって・・・・

・・・・・石みたいに・・・・・固められてしまって・・・・・」

自分で口走った言葉。
その言葉が、頭の中で反響する。
瞬間、頭の中でつながる無数の思考回路。
無数の記憶達。
冷や汗が額を伝う。掌を濡らす。
ぱりぱりの葉っぱが、手から滑り落ちて――――割れる。


「―――――――ッ」

嫌がらせの後始末をすることも忘れて、自分は駆け出した。









「何で気付かなかった・・・・・何で気付けなかった・・・・!」

町中を走り回りながら、歯を食いしばるようにそう呟く。
頭を駆け巡る、一つの記憶。



まるで狂気を帯びたノームのような―――。



あの時タリカさんは、確かにそう言っていた。
人が書いた手紙が何の理由もなしに精霊力を、
まして狂ったそれを帯びるなんてこと普通は有り得ない。
あるとすれば、それは差出人、もしくは受取人にその精霊力が宿っていた場合。
あの手紙を受け取ったのは自分だ。拾ったというほうが正しい。
そして自分には、狂った土の精霊力など宿っていない。
だから原因は差出人のほうにある。そこまでは前の自分も分かってたはず。
差出人に狂った土の精霊力が宿るには3つの方法がある。
1つは、差出人が手紙を執筆中に狂ったノームに襲われること。
しかしこれは手紙の内容から察するに違うだろうと、前の自分が結論を出した。
1つは、そもそも差出人自体が狂ったノームであること。
しかしこんなの与太話だ。あるわけがない。
1つは、とある病気にかかること。
体の中のノームの力が強くなりすぎて起こるその病気。
差出人がそれに罹っているとすれば、全て説明が付く。
・・・いや、むしろそれでしか、説明は付かない。
答えは一つしかなかった・・・・なのに・・・っ

「必要なときに出てこない知識に・・・・・何の価値があるっていうんですか・・・!」

そう自らに悪態をつく。
しかし、過去を呪ってばかりいても仕方ない。
今の自分に出来る最善の事は、エグランチエさんに、
少しでも早くこの事を伝えることだ。
だから自分は、走る。走る。




見つからない。彼女の姿が、無い。

香草亭にも、ミノタウロス亭にも。
パン屋にも、噴水広場にも。
雑貨店にも、グレイウォールにも。
埠頭にも、自室にも。
彼女が居そうなところは全て探した。
なのに見つからない。

「はー・・・・はー・・・・」

走り回って荒れた呼吸を、一度整える。
焦るな、アレル。冷静に考えろ。
彼女が他に行きそうなところを、探すんだ。
彼女は今、何かにはまっていたりしただろうか。
賭け事とか、食べ歩きとか。
裁縫だとか、絵描きだとか。
自分の記憶の中で、彼女が熱中していたものは―――。


手紙。


「―――!あそこだ・・・・!」

足は再び、駆け出す。







「見つ・・・・・・けた・・・・っ!」

ハザード川、水辺。
そこで佇む金髪の少女の姿を見つけて、安堵の声を上げる。
流れてくる手紙を探していたのだろうか。
その視線は、川の中に投げ込まれている。
自分が安堵の声をあげると共に、彼女はこちらを驚いたように振り向いた。

「あら、アレルさんじゃありませんの。
そんなに急いで、どちらに行かれるつもりなの?」

彼女は優雅に、そう聞いてくる。
自分はその質問には答えず、一歩、二歩と歩を進めた。

「手紙の・・・・・ゲホッ!・・・手紙の精霊力の正体が、分かりました・・・・」

荒れる呼吸をなんとか押さえ、振り絞るようにそう伝える。
まぁ!と声を上げるエグランチエさん。

「すごいわっアレルさん!
それで、いったいどんな理由だったのかしら?」


「石皮病。」

彼女の問いに、自分は短く答えた。
彼女の表情が、少し曇る。

「体の中のノームの力が大きくなりすぎて引き起こされる病気。
病の進行度に比例して、足元から、徐々に石化していく病気です。
はじめに足首が、次に膝が、その次に腰が、そして胸が石化します。
この時点で病人は呼吸ができなくなり死亡する訳ですが・・・・
それでもこの病は進行を続け、最終的に患者を石像の様に
してしまう恐ろしい病気です。

・・・差出人は、その病に罹っている可能性がある。」

一つ一つ、丁寧にエグランチエさんに教えていく。
自分の呼吸も、大分整ってきた。

「石皮病の進行スピードは約2週間です。・・・・・エグランチエさん。
・・・・・貴方が最初に手紙を拾ってから、今日で何日目ですか・・・・・?」

確かめるように、そう問いかける。
会うなら急いだほうが良い。そう助言も付け加えて。


自分の説明を聞くや否や、彼女はその場を去っていった。

「エグランチエさん・・・・・。
頼みますから、自分を道化だけにはしないでくださいよ・・・・・。」

去り行く背中に、そう願いを託した。












PL
ついにエグにストーンスキンについて教えるときが来たか・・・・
というわけで教えちゃいます!すっごい詳しいよ!だって6ゾロ!


あ、葉っぱの件は適当です(キリッ

エグランチエ [2012/06/29 23:02]



「石皮病の進行スピードは約二週間です。...エグランチエさん。
 ...貴方が最初に手紙を拾ってから、今日で何日目ですか...?」

「...もう......、ひと月...経つわ......。」


私はルイネ君に夢を見せている気でいました。
手紙を通して広い世界を想像していつの日か実際に見て知って欲しかったの。
でもそれが、なんていう事でしょう。夢を見せられていたのは私の方でした。
彼に幼い日の私を重ねていたの。きっとルイネ君も私と同じだって。


「...治すには...?―――それを治すにはどうしたら良いの?」

「ヘンルーダという薬草がありますが...。」

「ヘンルーダですね、それを手に入れれば良いのね。」

「待って下さい、その薬草は三日で枯れてしまう物なのです。
 市場になんて売られていませんし、簡単に入手出来る物でもありません。」

「―――じゃあ、どうすれば良いのよッ!!」

「...!!」


アレルさん胸倉に掴み掛かって私は叫びました。
この胸に沸き立つも行き所など有る筈も無い感情を叩きつけました。
それから感情を押し殺して冷静さを保つ彼の顔を睨むように見つめて、
程なく視線を下ろしどうしようもなく漏れ出す嗚咽と共に手を離しました。


「どうすれば...。」

「自分にも...。」

「...。」

「...。」





無言の二人の間に繰り返される細波の音。
止め処無く続くその音がこの空しさを強調していました。





「...。」

「...。」

「...。」

「...エグランチエさん。」

「...。」

「...会うなら急いだほうが良いです。」

「...そうですね、それに。」

「...それに?」

「...まだよ。まだ手があるはずよ、きっと。
 探してみるわ、私は絶対に諦めませんから。」

「...そうですね。まだ諦めるのは早いですよ。」

「満月の夜は、まだ来ていないもの。」


そうよ、諦めるにはまだ早いわ。早いはずですわ。
満月の晩、銀木犀の木の下。その約束までは大丈夫だと信じますわ。
少なくともアレルさんのおかげで事前に行動をする事が出来るもの。
彼の知識と親切心には心から感謝をしないといけません。


「アレルさん、教えてくれてありがとうございます。
 でもごめんなさい、今はお礼をしている時間も惜しいわ。
 私、急がないと。だから今はこれで我慢して下さい―――」


私はそう言って再びアレルさんに掴み掛かると、
有無を言わさずその頬に口付けをしました。


「―――ふふっ、ずいぶん走ったのね。汗の味がしたわ。
 私が帰ったら、その時はきちんとお礼をさせて下さいね。」


そう言葉を残して、
私も走り出しました。



―――その私の目の前には幾望の月が浮かぶ。



--------------------------------------------------------------------
アレルさんありがとーーーっ!超熱かったですっ!!
続けて書くぜ、次はとうとう満月日記。どうしようかな^^

JG [2012/06/30 04:20]

 ヒューゲルの準備(心の)を待つ間、

僕は茶飲みギャルズでもひっかけにいくことにした。


そうしたら、ギャルっつうか、おてんばがランニングしてた。


「おい、エグ!」


可愛らしい顔して、フリフリのおベベ着て、

真顔で黙々とランニングしちゃうところが、

エグランチエのシュールなところだ。


じゃあ、勝負するか!?


走りで僕に勝てんのか!?


やれんのか!?オイッ!!


────────────────────────────────────────

PL:

事情を教えろ

JG [2012/07/01 00:20]

追いかけようかと思ったが、急いでいる風だったので、

そのまま見送ることにした。

 

またな、エグ。

エグランチエ [2012/07/04 00:56]


場所はすぐにわかりました、約束の銀木犀。
高級な家並みが聳える中で一際目立つ大きな樹。

その木陰に腰掛ける、何処かで梟の鳴く声。
優しいハザード河のせせらぎ。触る涼しい夜風。


あの後で色々と調べたの。
学院に行って書籍を漁ってみたり。
精霊に詳しい賢者に石皮病について訊ねてみたり。

わかったのはアレルさんがくれた情報と殆ど同じ。
追加で得られた物はアレルさんの言っていた薬草の存在する場所。
グロムザル山脈北部西麓のコカトリスの住む荒野にそれはあるそうです。


でも私はルイネ君に会ったことすらありません。
そしてルイネ君は手紙で誰の助けも求めていなかった。

私はきっとルイネ君が回復する為ならなんだってするわ。
それがたとえ自分のエゴであったとしても、放ってはおけないの。

はたしてルイネ君は。
私に何を望むのでしょうか。


ふと川面の月光を照り返す様をじっと見つめる。
美しく流れ輝くその姿に、私は違和感を感じたの。

見上げれば、そこには私を見下ろす満月。
その満月が川面に写るはず場所にあるのは揺れる黒い影。

岩ではないわ、違うわ、あの小さい姿は、私にはすぐにわかったわ。
立ち上がり駆け寄り川面へと飛び降りる、そしてその影を抱え上げたのです。


「...大...丈夫?」

「...平気だよ、ちょっと足が動かなくなっちゃって。
 でも大声を出さないで。メリンダに聞かれちゃうから。」

「...ぅ...。」


言葉が出ませんでした。歩くのも辛いでしょうに。
この少年にこの苦行を約束させてしまったのは、私。

それから私はその健気な幼い姿を強く抱きしたの。
抱きしめずにいられなかったのです。


「どうして泣いているの?大丈夫だよ。」

「...ごめんね...ごめんね。あそこの銀木犀まで、行くのよね?」

「あれ、どうしてわかるの?お姉さん、誰?」

「...あの銀木犀の下で教えてあげる。」


私はそう言ってルイネ君に精一杯微笑み掛けました。


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ルイネ家の前の川は比較的浅瀬でルイネは以前その浅瀬で遊んでいた頃のように歩いて横断しようとしたが、もうそこまでの身の自由が利かず途中で立往生していたという感じです。エグはこの後ルイネ君を抱き上げて銀木犀の下まで連れて行きます。びしょびしょです(笑)

とりあえず、ここまで書かせて頂きました^^

GM [2012/07/08 18:45]
ここを 超えて 向こうへ 行くんだ。

よいしょ、よいしょ。



満月の夜に出会ったのは、おおかみさんじゃなかった。

あの月と同じ色をした髪が、サラサラで、
今までにルイネが見たこともないくらい強そうな、
お姉さんだった。



ひとが泣くときは、悲しいとき。
何が悲しいのかな・・・?

ねえ、何が悲しいの。

って聞こうとしたけど、お姉さんは笑ってくれた。

「...あの銀木犀の下で教えてあげる。」

ルイネは、驚いたし、困った。
どうしてルイネがあそこに行こうって思ってたか、知ってるの?

「うん・・・あのね、でも・・・」

今日これから、ルイネもあそこに行くんだ。
秘密にして行くんだ。

もう一度お姉さんを見る。
・・・きっと、大丈夫。

「―――――あのね、秘密だったの」

言っちゃうよ、いい?手紙。
このお姉さんは、何でもお見通しなんだから、いいよね?

「これからあそこで、"手紙"と待ち合わせをしてるんだ。
 ぼくはね、まだ会ったことのない、"手紙"。

 "手紙"はね、冒険家なんだ!
 これからルィ・・・ぼくを、冒険に連れて行ってくれるって、約束したんだ!
 ねっ、ねっ、それがね」

ルイネは、風で頭を揺らす銀木犀を、指さした。

「あそこなんだ」

秘密だよ?

「・・・なんで、お姉さん知ってたの?」

「もしかして、お姉さん・・・"手紙"の友だち?
 ねっ、もしかして、"手紙"を知ってる?
 "手紙"って、しゃべるの?歩くの?強いの?」

この四角い羊皮紙が、あんなに勇敢だなんて
ルイネには、全然想像できない!

抱えられながら、ありったけをしゃべった。
あたりが薄暗くて不安だから、じゃない。

湿った空気の匂いに、これからの期待が膨らんで、
月明かりがぼんやりと照らす地面が、異世界のようで、
ルイネは、もう、これから楽しいことが起こればいいのに!って気持ちが我慢できない。

「―――"手紙"の名前は、"野薔薇"っていうんだ。
 お姉さんの名前は、なんていうの?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:

お待たせしたにかかわらずプチ進行><

どうする、エグ!
エグランチエ [2012/07/10 22:29]


小さい体を抱っこして月明かりの下を歩く。
その柔らかい髪からは小さい頃の自分と同じ匂い。

ルイネ君の瞳の向こうには幻想的な風景が広がっていました。
人が夢見るとき瞼の中できっと瞳はこんな色を写しているのでしょう。

夢の中で夢と気付かず話すような口調で。
ルイネ君は私を見上げて呟きました。


「―――――あのね、秘密だったの」

「何を、秘密にしていたの?」

「これからあそこで、"手紙"と待ち合わせをしてるんだ。
 ぼくはね、まだ会ったことのない、"手紙"。"手紙"はね、冒険家なんだ!
 これからルィ...ぼくを、冒険に連れて行ってくれるって、約束したんだ!
 ねっ、ねっ、それがね」

「ふふっ、もうすぐ会えるわ。」

「あそこなんだ」


あそこ、そうルイネ君が指差した場所は先ほど私が腰掛けていた場所。
約束の銀木犀、高級な家並みが聳える中で一際目立つ大きな樹。

その麓にルイネ君を下ろすと私はその隣に腰掛けたの。
そして持って来ておいた毛布に私達は包まりました。


「...なんで、お姉さん知ってたの?」

「なんでだと思う?」

「もしかして、お姉さん..."手紙"の友だち?
 ねっ、もしかして、"手紙"を知ってる?
 "手紙"って、しゃべるの?歩くの?強いの?」

「ふふふっ、"手紙"の事は何でも知っているわ。
 おしゃべりで、小さい頃から駆け回ってばかり。
 そしてとっても強いのよ、剣も魔法も使えるのだから。」

「そうなんだ!"手紙"ってすごいんだ!元気なんだ!」

「ふふふっ。」

「早く来ないかなあ"手紙"。ああ、待ちきれないよ。
 今日はレックスからのお土産を持って来てくれるんだって。」

「―――え?」

「"手紙"は僕みたいな子に優しいんだ。
 家に篭りっ放しだった女の子を連れ出して、
 外で遊ぶ楽しさを教えてあげたこともあるんだって。」

「―――そ、そうなんだ。」


どういうこと?そんな事を書いた覚えはないわ。
どうやら私ともう一人"手紙"を演じた方がいるみたい。
ルイネ君の親でしょうか。今日のこと知っていてもおかしくないわ。


「―――"手紙"の名前は、"野薔薇"っていうんだ。
 お姉さんの名前は、なんていうの?」

「知りたい?」

「うん。もしかしてアレル?タリカ?」

「ふふっ、はずれ。私はエグランチエ。
 そしてまたの名を―――"野薔薇"」

「...え。」

「そうさ、僕が"手紙"だよ、ルイネ。元気だったかい?」


男の子っぽい口調でそう言ってルイネ君に微笑みかけました。
もしかして、ガッカリしたりしてしまわないかしら。

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お待たせしてしまい申し訳ございません。
よろしければ再び書きまくります...w
エグランチエ [2012/07/10 22:29]

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やあ、ルイネ。
また君と話せて嬉しいよ。


さあ、今日も冒険の出来事をお話しようか。ルイネは森に入った事はあるかい?君の家の近くにある雑木林なんかじゃないよ。本物の森だ、深い森だ。もし入った事があるのならもう二度と入っちゃだめだよ。延々と続く変り映えの無い風景は方向感覚を狂わせる。森は天然の迷宮だ、壁の無い迷宮だ。奥へと進んで気が付けば引き返す道がわからなくなっている。そう、僕は今回の冒険で森に迷い込んでしまったんだ。

その森はビスターシャの森と呼ばれている。エストン山脈南部東麓に位置する深い森だ。樹齢が数百年を越える木々の立ち並ぶ森の内部は暑い葉の屋根に覆われていて昼間も薄暗い、中に入ろうとする物好きは僕みたいな冒険家だけだろう、なぜならば奥にはゴブリンの親玉が溜め込んだ財宝が眠っているという噂を聞きつけたからだ。

僕は剣を持ち、松明を燃やし、恐る恐る森の内部を進んでいった。時折、突然と茂みから飛び出すカラス共におっかな吃驚しながらね。この時は僕はゴブリンばかりに気を囚われていて本当の恐怖である森の迷宮の恐ろしさに気が付いていなかったんだ。ふと、うなり声が聞えた、ゴブリンの声だ。僕は近くの茂みに隠れた、どうやらうなり声は近くにあった洞穴から聞えてきた物らしい。間違いない、ゴブリンの巣だ。財宝を手に入れるには、ゴブリンをやっつけるしかない。

天才的な剣の腕を持つ僕でもゴブリン数匹を同時に相手にするのは骨が折れる、何とか誘き寄せて一匹一匹づつ懲らしめていくんだ。もしかして僕がゴブリンの家から宝物を盗む酷い奴に見えるかい?安心して、こいつらの財宝はこの森の近所の村々から盗み出された物なんだ、僕はその村の人たちから頼まれて財宝を奪い返しにきたわけさ。さて僕は早速足元に落ちていた石ころを一つ拾い上げた。そしてその石ころを――――


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―――ふう、少しだけ休憩しましょうか。
この手紙は最近ルイネ坊ちゃんが楽しまれている遊びです。

最初はルイネ様が書いた物を川に流して、
奇跡的にそのお返事が届いたようですけれども。

二通目が届くまでその間約一ヶ月。
子供には長すぎる時間です、待ちくたびれてしまうでしょう。

その間に私、メリンダがこうしてお返事を書いていたのです。
坊ちゃんは毎週何通もお返事が来ていると思っています。

どうしてこんな事をしているのかと申しますと。
あんなにお喜びになる坊ちゃんを久しぶりに見たのです。
メリンダはその坊ちゃんの笑顔が本当に嬉しくて嬉しくて。
最初にお返事を下さった方には感謝し足りません。

そのおかげか病気の進行が遅くなっているようなのです。
修道院のレンドルフ神父も驚かれていました、まさに奇跡だと。


しかし、少し不安に思う事もあるのです。
それは次の満月の夜、坊ちゃんと会う約束をしているのです。

坊ちゃんは豪商の息子、変な事を考える輩もいるかもしれません。
その晩だけは遊びに行かないよう注意しないといけません。

その晩はルイネ坊ちゃんをと一緒に眠る事にしましょう。
もしかしたら私の暖かさに約束を忘れてくれるかもしれません。


ああ、マーファ様。
私達にお力を―――。

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二連投です、家政婦は見た。
メリンダを銀木犀に連れて来たいのです...w
GM [2012/07/13 03:16]
あの齢の子が、空想を空想の中だけで収めることが出来るかどうかを、私は見誤っておりました。
・・・いいえ。
見誤っていたのではなく、あの子は聡く大人しいと、私の都合で思い込んでいたのです。
私がどんなに坊ちゃんを楽しませようとも胸の奥では、
ルイネ坊ちゃんは浮ついた行動を起こさないお方だ、と決めつけていました。
その方が私には楽で、都合が良かったのです。
今、私はそう思います。

坊ちゃんの部屋を訪ねるのを、この時は後回し後回しにしている自分がいました。
本来なら、そう・・・すぐにでもノックしなければならないのに。

―――私が今までやってきたことに対する、一つの答え。
それが今夜だと思いました。
どうしてでしょうか、そして私は今夜にちっとも期待を持てませんでした。


ルイネ様。
私はあなたを不自由にさせていたでしょうか。

神様。
―――――・・・。



ノックもせずに扉を開きました。

私の心に穴が開きました。


坊ちゃんは、いませんでした。

「・・・月が・・・」

開け放たれた窓から、カーテンを靡かせて風が入りこみます。
金貨のような月が窓の向こうで輝いています。
染みのような、封蝋のような模様が月の表面に浮いているので、つい眺めてしまいました。

寂しい、と思いました。

私が守ろうとしていたものが、窓からするりと抜けていってしまいました。
小さな彼の心に、私の暖かさは存在しているのでしょうか。

「・・・・・・」

息を一つつくと、少しだけ悪い気分が抜けていくような気がしました。
嗚呼・・・私は少し疲れている、そう自覚しました。
そう、心が少し弱っているのは、疲れたからなのかもしれません、
この寂しさも、きっとそうです。

川の音は、少しのノイズをかき消します。
若い女性の声がすると気がついたときは、窓の側に佇んでしばし経ってからでした。

月明かりに慣れた目を、私は凝らしました。
あちらは確かに女性です。
どなたでしょうか。

本来の"手紙の主"ならばいいのですが―――私は慌てた気持ちで、ルイネ坊ちゃんの寝室を後にしました。


---------------------------------------------------------


「そうさ、僕が"手紙"だよ、ルイネ。元気だったかい?」

「え・・・・・・?」

魔法なの?

「"手紙"って、紙じゃないの?!
 お姉さんが、"手紙"・・・?」

うそ、うそ・・・!
僕、"手紙"って、もっと泥だらけで、革の帯は擦り切れそうで、
もっと、もっと、汗っぽくて、ボサボサの、
――――しゃべって動く紙だって思ってた。

「もう一回、言って」

「エグランチエ、ですわ」

そういうお姉さんは、キラキラしてて、確かな生命力を感じる佇まいで、
僕は、月夜のドキドキを思いっきり実感した。

「・・・元気、 だった!」

元気じゃなかったかもしれないし、元気だったかもしれない。
ルイネ、忘れちゃったよ。
だから今、前のことを本当のことにしよう!

「すごく元気だった!」

だから会いにきたよ。

「野薔薇、もっと聞かせて。
 冒険のお話!」

そう言ってルイネは、木の下に座る。

「朝が来るまでお話してよ。
 朝が来てもお話して」

朝が来る瞬間に、ルイネは立ち会うんだ。

野薔薇を見上げて手を伸ばす。
触らせて、その鎧。硬い?柔らかい?

グリフォンと戦ったんだよね。
すごい、すごい!

僕は今、野薔薇を通してグリフォンと一緒にいるよ。
触れたよ。実感した。

たのしい!

ルイネにとって冒険って、希望なんだ。

「冒険って、こわくないの?悲しくないの?」

ルイネは冒険のことを考えると、胸がムズムズするよ。
胸が希望にあふれて、飛び出そうとするんだ。
飛び出したい!

「ルイネも冒険に行きたい・・・」

カビた壁の遺跡は、どんな風が吹くの。
湿った密林に咲く花は、どんな匂いがするの。
切り立った崖から見下ろす平野に架かる虹は、どんな色。
竜はどこに住まうの。

色とりどりの人の市を夢見て、乾いた赤い土をどこまでも歩きたい。
広い海にぽかんと浮かぶ小島が動いてないか、ハラハラしたい。

もう、もう。言葉にできない!


野薔薇の顔を見た。

「行きたい・・・。
 行きたい!」

――――坊ちゃん、我侭はいけませんよ。
ルイネの、記憶の中のメリンダが、そう言う。

家の方を見た。

メリンダ。




GM [2012/07/15 12:38]
私は少し取り乱しました。

二人きりの館、私が最後に出るというのに正面玄関に鍵もかけず、
外套も持たずにまっすぐ出ました。

前を見据えて。

言い訳など用意しておりません。

あの銀木犀の樹齢について、私は知りませんでした。
私が来るよりも前からあり、私が去るあともここにいるのでしょう。
存在することが当たり前だった銀木犀は、何か、私の心に引っかかりました。

足音、気配も消さずに、私は一段盛り上がった木の傍へ向います。
女性と坊ちゃんがいます。

私は―――一瞬だけ、最初にどう声をかけようか迷いました。

「坊ちゃん」

何をしていますか。
しかし私は怒りに来た訳ではないのです。
けれどここにいるお二人には、そうは思われないでしょう。

誤魔化される前にアクションを起こしましょう。


「Eglantier」


野薔薇。 "手紙"のことです。

これで反応が乏しければ、ことはもっとややこしくなります。
もしかするとファビエンヌ様が、ルイネ様の病状が悪化しないことについて、
私の素行を探ってきたのかもしれません。
ファビエンヌ様から送られている食材を破棄し、
新たに外部から取り寄せていることが見つかってしまったら。


しかしその心配は、安堵に変わりました。

彼女は、驚きながら、微笑んだのです。

「メリンダと申します」

「あ・・・ メリン

私が冒険者風の彼女に声をかけると、坊ちゃんは座ったまま私を見上げ、
これから怒られると構えたように縮み上がっております。
その様子が素直でかわいらしくて、私はふふと笑ってしまいました

「あら、坊ちゃん?
 ねんねはどうしましたか?」

「~~~~~っ」

私は野薔薇に向き直りました。

「ここでは、声が風に乗って人の耳に届くかもしれません。
 あなたにお話したいことがあります」


もう、私の知恵だけで戦うことには、限界を感じていました。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
GMより:

きたよ!よ!
エグランチエ [2012/07/18 00:30]


「すごく元気だった!」

「...そう、それは良かったわ。」


良い笑顔、その笑顔が見たかったの。
強い子なのね、まるでその身の病を感じさせない。

それだけに辛いわ、この子はどれだけの物を我慢しているのか。
この子にとっての手紙の冒険という物はどれ程の物なのか

私はこの笑顔を守る事が出来るのでしょうか。
その為になら何でもするわ、そのために此処に来たのだもの。


「野薔薇、もっと聞かせて。
 冒険のお話!」

「ええ、もちろん。
 どんなお話が良い?」

「朝が来るまでお話してよ。
 朝が来てもお話して」

「ふふふっ、良いわよ。
 でも家の人が心配するわよ。」

「冒険って、こわくないの?悲しくないの?」

「ふふっ、それも含めて冒険よ。いろんな事があるわ。
 たとえば、ほら、ルイネ君とこうして会う事が出来たわ。」

「ルイネも冒険に行きたい・・・」

「...。」

「行きたい...。行きたい!」

「行きましょう。」


ルイネ君の瞳の中の世界が溢れるように広がり輝き零れた。
言葉になんて現せない思いがそこに込められていました。
それから私はゆっくりと重い言葉を吐き出しました。


「...でもルイネ君。あなた、病気、なのでしょう?」

「...ち、ちがうよ。元気だよ。さっきのは...」

「石皮病、なのでしょう?」

「...。」

その言葉と同時に広げられた世界は卵が潰れるように萎んで消えた。
病という重たい足枷は想像という自由さえも縛ろうとしていたの。

そんなこと、させるものか。
させてたまるものですか。


「行きましょう。冒険に。」

「...え?」

「行きましょう、ルイネ君。でも、その前に。
 あなたのお母さんとお父さんに行って来ますしないと。」


もちろん、そんな簡単に行くはずがありません。
当たり前よ、子供を見ず知らずの人間に預ける親なんて何処にいるのよ。

私なら彼の石皮病を治癒する薬草の元まで連れて行く事が出来る。
でもその冒険が如何に危険な物か想像に難くありません。

じゃあ、このまま死を待つの?残酷じゃなくて?
この子は冒険をしたがっているのよ、せめて本物を見せてあげたい。

それはエゴだわ。結局はエゴだわ、私がしたいようにしてるだけ。
私は本当はルイネ君の事なんて、その家族の都合なんて何も考えてない。
ルイネ君が現実の冒険を想像出来ていると思って?

違うわ、確かに冒険は過酷、子供に想像できる物ではないわ。
でもそうしないとルイネ君は石になってしまうの、家族もみんなも悲しむの。

決めなさいよ、エグランチエ。あなたは何しに此処まで来たの。
誘拐でも何でもするわ。ゲンブルが見ていたらなんて言うかしら。

でも、現実は私が思っていた以上に殺風景でした。
この頭の考え事ですらお花畑のように思える。


「...お父さんも、お母さんも。いないよ。」

「...え。」

「二人とも石になっちゃった。石皮病だったんだ。
 僕の今のままはメリンダというおばさんだよ。いい人だよ。」

「...そう、だったの。ごめんね。」

「ううん。」


そう言ってルイネ君は私をふと忘れたように川の向こうの家を見た。
そこはそこは少し豪華な大きな家、きっと彼の生まれ育った家。

そしてルイネ君はメリンダという人の名を呟いたの。
ええ、その声からルイネ君がどれだけその人が好きだかがわかりました。


「ルイネ君、冒険はあなたが思っている以上に過酷よ。
 はっきり言うわ、あなたが夢見るような楽しい瞬間なんて殆ど無いの。」

「うん、わかってるよ。うんと想像したもの。」

「わかってないわ。でも私はあなたを此処から連れ出そうと思っているの。」


少しむすっとした顔でルイネ君は私を睨んだ。
ごめんね、でもね、少しでも知っておいて欲しいの。
きっとどれだけ言ってもあなたは理解する事は出来ないわ。


「わかってるよ。」

「聞いて、私はあなたを誘か――――。」「坊ちゃん」


坊ちゃん、その声が私の言葉を遮りました。
声のした其処には壮年の家政婦姿の女性の姿。


「エグランチエ。
 メリンダと申します」

「あ・・・ メリンダ」

「あら、坊ちゃん?
 ねんねはどうしましたか?」

「~~~~~っ」


ふふふ、自然と笑みが零れる。
ルイネ君がこんなに元気なのもすぐに頷けました。


「こんにちは、メリンダさん。
 私はエグランチエ、野薔薇と申します。
 ルイネ君をこんな時間に呼び出してごめんなさい。」

「ここでは、声が風に乗って人の耳に届くかもしれません。
 あなたにお話したいことがあります」

「罰は如何様にもお受け致します、剣を渡しましょうか?
 でも私もあなたに、メリンダさんにお話しをしたい事があります。」

「ルイネ坊ちゃんを、助けてあげて下さい。」

「...!」

「...ルイネ坊ちゃんを助けて下さい、どうか、どうか。」

「メリンダさん...。」

「...。」


この人は知っていたのですね。
私の答えは決まりきっていました。


「ルイネ君を...、ルイネ君を私に任せて下さい。」


銀木犀の上に広がる星屑の海。
静寂なる光の織成す世界の一つが涙を流すように瞬き零れた。

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しょうさん、ごめんなさい、昨日間に合いませんでした。
言葉の選択にめっちゃ手間取っておりました><
明日、もう一度投稿しますーーっ!ご迷惑お掛けします!

そしてここあさん、いつかのIRCではまたすいませんでした><
カテゴリ整理助かります、ありがとうございます。
GM [2012/07/27 01:47]
任せてください、と言われまして私は、考えました。
頭ではなく心で考えました。
心を使って考えるということは時間がかかります。
なので私は少しの間、黙ってしまいました。


「メリンダ」

鈴を転がすような、坊ちゃんの甘えた声が聞こえました。
ルイネ坊ちゃん、あなたはどうしたいのですか。

私はゆっくり首を横に振りました。

あなたは、どちらかしか選べないのですよ、ルイネ坊ちゃん。

「新しい世界に、私はついて行きません」

私はそう、言いました。
腰をかがめ目線を近くに合わせます。

「ゆきなさい」

私は静かに、落ち着いていました。

そして背筋を正し、エグランチエへ微笑みました。



エグランチエ [2012/07/31 20:54]


―――それからルイネの、僕の冒険は始まったんだ。


 出発はあの日から明後日、野薔薇と僕は一度帰ってそれぞれの準備を整える事になったんだ。それにしても吃驚したんだあのメリンダがだよ、僕が遠くまで冒険に出ることを許してくれるなんて、しかもメリンダから野薔薇にお願いをして。僕はその時のメリンダの表情が頭から離れない、あの修道院の怖い顔のおじさんに相談に行った時のような表情をしていたのに僕はその表情が不思議とイヤじゃなかった。どうしてだろう、僕は涙が出てきちゃったんだ。そんな僕をメリンダは優しく抱きしめてくれて、僕はまだだというのに行って来ますって暖かな腕の中で何度も繰り返していたんだ。野薔薇は微笑んで僕達を見つめていた。

 約束の明後日、まだ東の空が輝いて世界が目覚めて間もない頃に、野薔薇が旅の準備を終えて僕の家まで迎えに来たんだ。野薔薇は一頭の茶色の馬を連れていた、この旅の為に良い馬を用意したって言ってた。名前はまだ無いらしい、どうしてかと聞くとこの馬はこれからしばらくルイネ君の相棒となるのだから、僕に決めて欲しいと言っていた。だからね、今頑張って考えているんだ。立派な名前を付けてあげようと思ってね。僕も野薔薇が訪れるまでの間に色々と考えて準備をしていたんだ、メリンダが用意してくれた沢山の保存食に数着の着替えにタオルにお守りに色々大きなリュックにと入ってる。その渡してくれた物の中に一振りの銀の短剣があった。メリンダはこの短剣を抜く事がないように祈ってると言っていた、でも僕が冒険家として始めて手にした本物の剣だ。僕はそれはリュックにと仕舞わずにこの手でずっと握り締めていた。

 リュックを背負いった僕を野薔薇は馬に乗せた。訓練を受けた乗用馬ではから僕を乗せたまま走り回ることは出来ないみたい、それでも僕を一つの荷物として乗せたまま旅をする事は出来るみたい。この旅で人を乗せて走れるようになるといいね、僕はそう言ってその馬の髪を優しく撫でた、心なしか気持ち良さそうにその馬は嘶き首を震わせたように思えた。「それでは、ルイネ君をお預かりいたします。」そう恭しく野薔薇はメリンダに告げた、メリンダはその言葉に深々と頭を下げて応じたんだ。「いってくるね、お土産を持って帰るから元気にしててね。」僕はメリンダにそういうといつも通りの笑みを見せてくれたんだ、送り出しの言葉として僕にはそれ以上の物は思い浮かばなかった。またね、メリンダ。必ず元気になって帰ってくるからね。まだ日の昇りきらない東の空に向かいパダを目指して曙光と落日の街道を僕達は歩き始めた。

 

 冒険と言えば、僕の想像していた物は色鮮やかに移り変わる景色に様々な出来事、色々な人々との出会いに助け合いに、時に騙しあいに、そして時には命を取り合うことになったり。小説では語る事が出来ない位の圧倒的な密度を誇る退屈など仕様も無い波乱に満ちた大冒険だった。でももう、家を出てから半日が過ぎようとしていた。何にも無いんだ、人とすれ違う事もない、魔物が出てくる気配もない。景色さえもあまり変わらない、ひたすら続く道と草原とその先に見えるまだ青くかすむ目的の山脈だけだ。それでも夢にまで見た本物の冒険だ、僕の興奮は冷め切らなかった、野薔薇にはいろんな事を聞いた。あの手紙の冒険は作り話だけれど、グリフォンと戦ったことはあるんだって、しかもそのグリフォンに止めを刺したのはあのタリカだって、タリカもアレルも実在するんだって、どんな人なんだろう、会ってみたいな。そんな何も無い道中だけれど退屈する事はなかった、野薔薇も楽しそうに色んな事を教えてくれた。聞いて、今度僕に剣を教えてくれるんだって、約束しちゃったんだ。そのまま何も無いままやがて西の空に日は傾き当たりはうっすらと暗闇に包まれていった。

 僕達の歩く曙光と落日の街道の名前の由来は落ちた都とオランを繋ぐ道という事から名付けられているらしい、野薔薇はこの先のパダで一休みした後はこの街道の隣を流れる川を辿って旅を続けるらしい、そこからがこの旅の本当の始まりだって野薔薇は言っていた、でも僕達のいる場所からはそのパダの明かりすらまだ見えない、どうやらこの世界は僕が想像していたよりもずっとずっと広い。僕達は今夜は本当に何も無い川の辺で一晩を過すことにした、木の枝を拾い集めて小さな焚き火を作って、持ってきていた保存食を暖めて食べた。その間も僕は野薔薇に色々な事を聞き続けていた、野薔薇は嬉しそうに一つ一つ答えてくれる。僕はまだ始まったばかりでまだ何も無い冒険をすでに楽しんでいたんだ。そして僕は野草のベッドに寝転がって夜空の星を見上げて眠りの時間が訪れるのを待っていると、今日一番の素敵な出来事が起こったんだ、魔法だ、本物の魔法を野薔薇は使って見せてくれたんだ。野薔薇は石ころを一つ手に取るとその石ころに呪いを掛けたんだ、するとその石ころが膨れ上がって丁度僕くらいの大きさの石の人形になったんだ、僕もう大興奮だった、目なんてすっかり覚めちゃったよ。でもはしゃぐ僕を野薔薇はなだめて再び毛布の中へと潜らせた。この人形は眠っている間の僕達を守ってくれるんだって、だからこの人形が仕事を果たすためには僕は寝ないといけないんだって。ちょっとがっかりだよ、あの手紙みたいだ。そして気がつけば僕は夢の世界へと旅立っていた。


 僕が目を覚ましたのは明くる日の再び太陽が昇って間もない時間に突然と叫び声が聞えてきたからだった。何事かと飛び起きた僕をすぐに抱え込んで大丈夫だと安心をさせてくれたのはもちろん野薔薇だ、彼女の顔は朝だと言うのに真剣そのものでその手にはすでに剣が握られていた。野薔薇は立ち上がり辺りを見渡して剣を仕舞うと先程の叫び声の場所まで歩いていった、目と鼻の先程にすぐ近くだった。その正体は痩せ細った狼だった、見れば石の人形の手にはその狼のものと思われる血糊がこびり付いていた、此処で初めて辺りに漂ううっすらとした血の匂いに気が付いたんだ。「怪我は無い?」野薔薇の言葉に僕はすぐに頷いた、突然の出来事に僕の心臓は高鳴っていた、無意識に手元に用意していた銀の短剣を握り締めていた。戦いと言うものはもっと派手で手に汗握るものだと思っていた、でも気付けば終わっている程にあっけなくて、残っているものは動かなくなった狼の死骸と血の匂いだけの虚しいものだった。「早く此処を発ちましょう、血の匂いが他の魔物を引き寄せるかもしれないから。」その野薔薇の言葉に僕は素直に従ってすぐに準備を整えて再び馬に跨った。


「そうだ、野薔薇、聞いてよ。この馬の名前を考えたんだ。フィリモンドだ。
 メリンダがずっと昔に僕に話してくれたおとぎ話に出てきた名前なんだ、
 言う事をよく聞く良い子を夢の世界に連れて行ってくれる馬の名前だよ。」

「ふふふっ、良い名前。ウェンデルの童話ね。私も昔によく聞いたわ。
 じゃあ今から、このお馬さんはフィリモンドね。よろしくフィリモンド。」

「よろしくフィリモンド。」


再び続く景色の変わらない道中で僕らは二人また笑い合った。
やがてまた日が暮れてその頃には遠くのほうにパダの灯りが輝いていた。


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終わらせるのです、終わらせるんです、大丈夫です...!(笑)
馬の名前の元ネタは特にありません、オリジナルだったり^^;

■お買い物
荷馬×1 1500
テント×1 300
調理道具×1 50
ワイン×50杯分 100
保存食×30 210
3465ガメル→1305ガメル

エグランチエ [2012/08/09 23:21]


 パダへと辿り着いた私達は早速今夜を過ごす宿を探しました。ここはレックスに眠る財宝を求める者達が興した冒険者の街、定住する人間がそもそも少ないこの街ですから質を求めなければ宿にはすぐにありつけます。しかしオランの環境を見慣れた私達にとっては荒野の上に石垣を並べただけの様にしか見えないその町並みはスラム街とまるで区別が付きません。土臭い通りを行く途中の脇道を覗く度に生死すら定かでない座ったまま動かない浮浪者達が目に付きます、治安の悪さも想像に難くありません。私は街の外よりもむしろ不安そうな顔をして馬に跨るルイネ君の手を握りながら見た目だけでも綺麗な宿を探し歩きました、そして結局見つからなかったの。仕方なく入り口から続く大通りに面した宿を選びました。

 その宿の質素な部屋で過ごした夜はと言えば酒場が近くにあるわけでもないのに一晩中外から話し声に怒鳴り声に笑い声に悲鳴に大凡子供が安心して過ごせるような環境ではありませんでした。私は今までの旅路でしていたのと同じように今までの冒険談をルイネ君に聞かせ続けました、この街は冒険者の町であるというのに冒険者に夢を見る少年が過ごすには辛い街です。ルイネ君は寝台の上で毛布に包まりながら私の話に笑ったり外の声に驚いたりしているうちに、慣れない旅の疲れもあったのでしょう、こんな街中でも静かな寝息を立てて眠ってくれました。明日からはしばらく人里で過ごす事も出来ませんから、こんな場所でもせめてゆっくりと過ごして欲しかったの。そんな私もうつらうつらとし始めた頃、ふと見たルイネ君の瞼から一筋の雫が流れ落ちました、そして小さくメリンダの名を口にしました。その様子に、私は正しい事をしている、なんて考えてしまう自分が嫌になります。大丈夫よ、すぐによくなって、一緒にメリンダさんの元に帰りましょうね。ルイネ君は私が絶対に守りますから。

 私達を迎えた朝は静かなものでした、私の隣のルイネ君の安らかな寝顔が何よりもの心の安息をもたらしてくれました。私はルイネ君を起こさないように外へ出て、井戸へ水を汲みにその帰りに店員に朝食を頼むとまた部屋に戻りました、するとベッドの上からおはようともう聞き慣れた声が私を迎えて笑顔でそのお返事をしました。すぐにまた旅の支度をしませんと。まもなく店員がパンの焼きたての香ばしい匂いを漂わせながら朝食を運んできました。ルイネ君に朝食にしましょうとベッドから出てくるように声をかけると、ルイネ君は申し訳なさそうな顔をして出来ないんだと答えました。私はルイネ君を包んでいた毛布を剥ぎ取ったの、そこには脹脛まで石と化したルイネ君の足がありました。

「ごめん、野薔薇。僕はもう歩くことすら出来そうにないよ。」

私はその声に精一杯に微笑んでこう答えました。

「そう、大丈夫よ。私があなたを運んであげますから。さあ、掴まって。」

 急ぎませんと、ここにきて病状の悪化が激しくなるなんて。私はオランでは用意し切れなかった保存食とフィリモンドの食料を買い足して急ぎ足にパダを発ちました。東へ、パダからグロムザル山脈まで続く長い長い川に沿って。大丈夫よ、ルイネ君、あなたは絶対に私が助けますから。再び馬に跨ったルイネ君の手を握り締めて、頑張りましょうねと声をかけて微笑みました。

 川に沿って東へ東へ、私達は進んでいきました。いまだ遠くに青く霞むグロムザル山脈、隣を流れる大きな川以外見渡しても一本の木が印象深く思えるほどの何も無い大平原、振り返ればまだ見えるパダの都市。そこを発ってまだ一日と過ぎないというのに私にはもう距離感というものが麻痺していました。グロムザル山脈への道のりが永遠に続くかのようにも思えてきます。そんな私の気を紛らわしてくれるのは他ならないルイネ君の存在、なんて強い子なのでしょう、その瞳の輝きは出発当初と変わらないようにすら見えます。もうすでにお話した冒険譚を再びと聞かせても飽きずにその先の展開を言い当てたりして楽しそうにおしゃべりをしてくれました。

 そんな道のりの二日目の事です。あの大きな岩を見てと、そうルイネ君が指差す先にあった岩の奇妙な形について他愛も無いお話をしていた頃、もう日も暮れ掛けていたのもあって私達はその大きな岩のふもとで夜を明かすことにしたのです。道中に拾い集めておいた枯れ木に火を付けて石の従者を召還し岩の陰に馬を繋げて、建てたテントのその中で毛布に包まり夜を過ごす。タリカに以前野伏の技術について教わった少し習った事があったの、今はその時の知恵がとても生きています。その夜は二人とも疲れ果てたのか会話も少なく眠りに付きました。次に私が目を覚ましたのは感じたあまりの肌寒さからです、そしてこのテントを叩く無数の細かな音、雨でした。日はもう出ていると言うのにあたりは薄暗い。いまだ目を覚まさないルイネ君を起こそうとすると、その苦しそうな表情がすぐ目に付きました。荒れた呼吸を繰り返すその顔の額に手を当てれば酷い熱です。そんなルイネ君がうっすらと目を開けて私を見つめました、その何かを訴えかける視線に私はこう答えました。

「今日はここで休んでいきましょう。あなた酷い熱が出ているわ、まずはそれを治さないと。大丈夫よ、すぐに治りますわ。元気になってからまた出発しましょう。」

私の言葉にルイネ君は何も答えずに、そのまま再び目を閉じました。


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もう一個投下します!

パダの街は僕の脳内設定な部分が濃いかもです。
すいません、許して下さい><
エグランチエ [2012/08/09 23:23]


 僕を起こしたのはポツポツとテントを叩く雨の音と、僕の頭を内側から叩かれ続けるような連続する鈍い痛みだ。寒気がするよ、きっと風邪を引いてしまったんだ。目を開けているのもだるいからそのまま閉じて、薄くて頼りない毛布を精一杯に握り締めて体を包んでまた眠ってしまおうと思ったんだ。野薔薇が目を覚ましたがわかったけれど、そのまま気が付かない振りをして目を閉じた。そんな僕に野薔薇はいつもどおりの笑顔でやさしく言ったんだ。今日は旅はお休みするみたい。ごめんね、野薔薇、こんなに寒いのに僕に自分の毛布を掛けてくれたんだ。雨はなかなか降り止まなかった、フィリモンドが寒がっていないか野薔薇に尋ねると岩陰に隠れて雨は凌げているみたい。

 寒い寒いよ。毛布がまるで足りない。でも此処には毛布なんて無い。おうちのベッドに入りたい、あのふかふかですべすべで暖かいお布団に入りたい。メリンダの暖めたミルクが飲みたい、僕が熱を出すと決まってすぐに作ってくれるんだ。そしてふうふうと覚ましながら少しずつ飲ませてくれるんだ。でも此処にはメリンダもいない。何にも無い。何にも、ただ、つまらないだけの世界がひたすら広がっているだけじゃないか。

「...あのパダの脇道にいた人たちは何...?」

 痛みの引かない頭に嫌気がさしてきたら、それが引き金になったみたいに色々な事が不満に思えてきて、今口にした言葉はそんな僕の中で膨れ上がった気持ちの先端にあったものだった。僕はあのパダの街の大通りで気になっていた事を、そして聞かないようにしようと理由も無く嫌な予感がしてそう決めていたことを野薔薇に問いかけていた。

「手紙の野薔薇の冒険で何度もパダに訪れていたのにあんな人たちの事なんて書かれていなかったよ。みんな生きてるか死んでるかもわからなかった...。」

次から次に出てくる言葉に野薔薇は困惑しているみたいだった。

「それは...。」

「...それに冒険者ってみんな格好良くて勇敢で陽気で優しい人達だって思ってた。冒険者ってみんなお酒ばかりを飲んで夜中に人を殴って笑って喜んでいるの?僕達の泊まったパダの街は、本当に冒険者の街の、あのパダだったの...?」

「この私も冒険者よ。私もお酒ばかり飲んで夜中に人を殴って喜んでいるように見えて?」

「...ううん。」

これは本心だ、野薔薇はそんな人ではないよ。
だけれど納得も出来ていなかった。

「ルイネ君、あなた疲れてるのよ。ほら、持ってきてた紅茶葉を淹れてみたの。これを飲んで今日はぐっすり眠ってゆっくりと休みなさい。私の毛布を使っていいから。」

「...うん、ありがと...。」

 そう短く答えて僕は野薔薇に背を向けて目を閉じたんだ。その時が初めてだったんだ、野薔薇が僕の問いに答えてくれなかったのは。野薔薇は良い人だ、わかってる、だけどどうしてかそんな野薔薇に腹を立てていたんだ。

 次の朝になってすっかりと雨は止んだ。そしてそのその代わりに広がった青空のように僕の体調はすっかりと回復していた。そしてもういつの間にかいつも通りおはようと野薔薇があの空の太陽のような笑顔で僕を起してくれた、その笑顔を見て昨日の僕の腹立たしさが申し訳なくなった、ごめん、野薔薇。僕は彼女と同じように笑顔を作って同じ言葉を返したんだ。

「ルイネ君。具合はどう?」

「うん、もうすっかりと良くなったよ。ありがとう、野薔薇。
 昨日は、その、迷惑を掛けちゃって、ごめんなさい...。」

「迷惑なんかじゃないわ、あなたは旅の仲間なのだから。
 助け合うのは当然よ、冒険者ってそういうものでしょう?」

「うんっ。」

その言葉が本当に嬉しかった。
そうだよね。冒険者はそうで無いと。

僕達は再びあの青く霞むグロムザル山脈を目指して歩きだした。
その山の向こうまで気持ちの良い青空は広がっていた。


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二連投...!もうちょっとで山に着くぞ!着くぞ!
この旅を終わらせます!もうちょっとだけよろしくお願いします><

エグランチエ [2012/08/15 13:50]

 

 パダを旅立って五日目、この日は偶然見つけた川辺の一本の木の下で夜を明かす事にしたの。ルイネ君はテントを張ってすぐに眠りについてしまいました、日に日に減っていく彼の口数と表情はその小さな体に疲労が溜まってきているのが目に見えてわかりました。ただでさえ慣れない長旅だもの、彼の体がすぐに悲鳴を上げるのは想像に難くありませんでした、そしてそれはこの私にも言えることです。私の足にも疲労という名の足枷が痛みという形となって姿を現し始めていました。靴を脱いでから今日は念入りに足を解したの。ふふ、私のこの素足だけを見てそれがうら若き乙女のものだと思える方は世界に何人いるのかしら。今夜はせめて水浴びくらいはしておきましょう。ひどい臭いだわ、エグランチエ。こんな姿をジュリアさんが見たらなんて言うかしら。明日の朝、ルイネ君にも勧めましょうか、もしかしたら気分転換になるかもしれませんわ。

 出発当初はルイネ君からの質問や振られる話題に忙しかったのに、今は私から彼に話しかける事の方が多いくらい。本物の冒険はどう、広い世界を歩くのって気持ちが良いでしょう?笑顔でなるべく楽しげにそう投げかけても、帰ってくるのは、うんとか、そうとか、連れないものばかり。ルイネ君が気疲れしているのは間違いないわ、でも、ため息が出てしまいます。寂しいわ、ルイネ君。私はあなたの為に...違うわ、違うでしょう。私のため、でもあるのですわ。がんばりましょう、この旅が終わる頃にはルイネ君の顔に笑顔が戻っている事を信じましょう。

 その日からまた数日後、私たちの前に迫っていた大きな丘を越えると、グロムザル山脈を青く霞ませていた空気の衣が薄らいでいてようやくとその山の素顔を見れるようになりました。頂上が白く染まった剣の先のような山々と、その間に敷かれた白銀の絨毯のように連なる巨大な氷の塊。目に見えて動かずとも大きな軋む音を立て十分に流動的に見えるその氷河は私達の隣を流れる川の先へと繋がっていました。この川の水源地に違いありません。息を呑むような絶景にルイネ君が感嘆の声を上げました。私がもうすぐ目的地に着くわと言うとルイネ君の笑顔がずいぶん久しくも思える笑顔を見せてくれました。

 学院で調べた情報が正しければこの辺りにヘンルーダが群生しているはずです。そしてコカトリスたちの巣も存在しているはずです。辺りを見渡して歩いてみれば目に付くのは灰色の岩肌とその上に苔のように生える小さな雑草ばかり、そこに動くものといえば私たちとその頭上を流れるオランで見えたものと何も変わらない雲だけです。コカトリスはおろか動物の影ひとつ見つかりません。そんな私たちを山が小馬鹿にするように冷たい風がひゅるりと吹き抜けました。

「この辺りにヘンルーダがあるの?」

ルイネ君の言葉にええと答えこう続けました。

「そのはずなの。あの学院の情報が間違っていなければ...ですけれど。」

「...。」

 しばらく二人でヘンルーダを探して歩きました。これまでの道のりでヘンルーダの形については地面にと絵に描いてみたり色や性質や色々と探す手掛かりとなるようにルイネ君には伝えてありました。岩の上に不規則に群がる小さな茂みを渡り歩くように探し続ける私達、一向にそれらしい草は見つかりませんでした。ここにあるはずなの、学院の書籍にはそう書いてあったの、あの賢者様はそう言っていたの。ここにきて、ここまできてその情報が誤りだなんてあんまりですわ。でも無情にも時間は一刻一刻と過ぎていきやがて青く澄み切っていた空は橙色に染まり出しました。

「...きっと、あるはずよ。よく探していきましょう。
 鶏のような動物を見かけたら私にすぐ教えてくださいね。」

「...うん。」

「がんばりましょう...ね。」

 すでに太腿まで石と化したルイネ君を撫でながらそう言いました。メリンダさんは言っていました、私の手紙に喜んでいた時はルイネ君の病気はまるで息を潜ませるかのように進行しなかったと。今の石化の進行速度はまるでルイネ君のその心境を私に曝け出させているかのように感じてなりませんでした。ここで見つける事が出来なければ、ルイネ君はきっと...そんな私の心境を逆に覗いたかのようにルイネ君がこう返しました。

「...僕はもう...メリンダに会えないのかもしれないね。」

「ルイネ君...?」

「だって、もう帰れないよ。帰るまでの間にきっと僕は石になってしまうよ。だから―――」

「―――見つけるわよっ!」

そして弱音を吐いたルイネ君に私は怒鳴ってしまったの。
それから怯えたように私を見つめるルイネ君の肩を掴んでこう言いました。

「必ず見つけるから、私を信じて。野薔薇を、自分をどうか信じて。
 一緒に帰って、元気な声でメリンダさんにただいまって言いましょう。」

「うん。わかった、野薔薇。」

 そう答えてくれたのが本当に嬉しくてルイネ君を抱きしめると私の耳元でルイネ君があっと声を上げてそれから忙しなく私の肩を叩きながらこう言ったのです。―――ねえ。ねえ、野薔薇、見て!見て!アレを見て!そう指差す方向に。いつの間にか涙に曇っていた視界を向ければ、そこには鶏のような魔物が一匹。

「あれ見て、野薔薇、鶏のような魔物がいるよっ!
 もしかしてあれがグリフォン?手紙に登場した魔物っ!?」

「いいえ、違うわ。あれは、コカトリスよ。」


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パダからここまでの間をもう少し事件を起こしたかったりしましたが省略します...w
後もう少しです、次か、またその次の日記で終わらせます^^

※グロムザル山脈の位置と現実の世界地図を見比べて、そしてパダの隣に流れる名前不明の川を現実世界の長江やガンジス川を参考にしまして、その川の水源を氷河とさせて頂いてます。コカトリスの住みそうな荒野と川を共存させる為と言うのを理由にした僕の脳内世界観です^^;

エグランチエ [2012/08/19 14:39]

 僕の指差した山肌に突き出た大きな岩の上に大きな鶏のような魔物はいた、コカトリスだ。僕達の目の前に姿を現したその魔物に僕はメリンダから預かった銀の短剣を手にしたんだ。だって魔物だよ、目の前にいるのは本物の魔物なんだ、大きな鶏にしか見えないけれどきっと恐ろしい奴に違いない。僕の足はもう動かない、だから僕から討って出る事は出来ない。けれど僕の中に湧き上がった恐怖心のような、野蛮なこの野郎っていう気持ちが僕の手に短剣を握らせたんだ。そして僕が刃を引き抜こうとすると、野薔薇がその手で僕を制止した。

 「ダメよ、相手を怖がらせては。魔物にも沢山いるの、コカトリスは悪い魔物ではないわ。」それから大きな鶏だと思えばいいと付け加えて野薔薇はいつも通りの笑みを僕に向けたんだ。 けれども僕の胸は高鳴っていた、コカトリスがいるという事はこの近くにヘンルーダがあるという事だと野薔薇が言っていたのを思い出したから。旅の途中で魔物と戦う事になるかもしれない、その覚悟は常にしていたし、それがヘンルーダを奪い合う競争相手だとしたら負ける訳にはいかないから。

 野薔薇によればコカトリス人間ほどの大きさがあるようだけれど、僕達の目の前に現れたコカトリスは僕の背丈の半分ほどしかなかった。もちろんそれでも鶏と比べたら巨大なのだけれど、まだ子供なのかもしれない。そのコカトリスはまだ僕達には気付いていない、何処か目指して歩いているようだ、ヘンルーダを目指しているのかもしれない。野薔薇がコカトリスの後を追ってみると言った、僕はその野薔薇の後をゆっくりと追っていった。そして僕達はコカトリスの綺麗な羽毛の艶まで目に出来るほどに近寄っていく、そのつぶらな瞳には何処か幼さを感じた。やはり子供なのだろう。それから同時に僕達はとうとう見つけたんだ。それは先程の僕達の位置からは丁度岩の影となって見えない位置に群生していた、ヘンルーダだ。たくさんある。それからあまりに嬉しくて緊張が解けてしまったのかコカトリスは僕達に気付いて逃げていってしまった。

 でもそのコカトリスの逃げ出すその足取りもよたよたと鈍間で頼り無かった。野薔薇と僕は容易にその後ろを追うことが出来た。ヘンルーダは見付けたけれど、しばらくここで暮らす事になるんだ、近くにコカトリスの巣があるなら確認しておきたかったんだって。縄張りがあるとしたら、その領域を侵さずには僕達はこの旅を終えられないだろうから。コカトリスは奥の岩陰に逃げ込んでいった、野薔薇とその後を僕が追いかけていく、そしてその岩陰を恐る恐る覗き込んだところで野薔薇と僕は言葉を失ってしまった。そこには親と思われるコカトリスが二匹、その間にうずくまる様にして先程のコカトリスが震えている。だけど、その親のコカトリスが子供を守ろうと動き出す事はなかった。匂いですぐにわかった、コカトリスの親達は腐ってもう死んでいたんだ。

 野薔薇がその死骸に近寄って死因を確かめた、寄り強大な魔物が潜んでいる可能性もある。だけれどその死骸には傷一つ付いていない、死因はどうやら餓死のようだった。コカトリスはその口ばしで触れるものをすべて石に変えてしまう、その性質の為に口に出来る食べ物と言えば、触れても石と化さないヘンルーダだけなんだって。でもこの辺りにヘンルーダは少ない、僕達が知る限り先程の一箇所だけだ、すぐに食べつくしてしまうだろう。親のコカトリスは子に残り少ないヘンルーダを与える為に自ら餓死の道を選んだのだろうと野薔薇は言った。そして野薔薇は剣を引き抜きその子供のコカトリスへと向けたんだ。

「...え?野薔薇?何で殺しちゃうの?まだ子供だよ?」

 野薔薇の外套を引っ張って制止を訴える、でも野薔薇は聞いてくれなかった。

「そうよ、でも仕方が無いわ。ヘンルーダはアレだけしかありませんし。
 私がここで殺さなくても、いずれは餓死をしてしまうに違いありません。」

「でも何も殺さなくたって!!」

「あなたが助かるのにもあのヘンルーダが必要なの。
 幸い一か月分程はありそうですわ、でも分けられる程の量はありません。」

「...でも、でも、酷いよ。」

「言ったでしょう、冒険家には色々な事があるって。
 これがその色々な事よ、あなたを助けるには必要な事なの。」

「...僕はそうまでして助かりたくないよ!
 こんなひどい事をするくらいなら、冒険家になんてなりたくない。」

「もう遅いわ。あなたはもう立派な冒険者のはずよ。」

 それから野薔薇は刃を振り下ろした。幼い鳴声が岩山に木霊した。


 コカトリスの親子は野薔薇と二人でヘンルーダの近くに埋葬したんだ。可哀想だけれど仕方が無いんだ、生きていく為には必ずしも何かを犠牲にしなくてはならないと野薔薇は言っていた。僕が夢見た冒険の世界というのはこの世界には存在しないのかもしれない、この世界の構成しているものはきっと戦いだ。一見平和に見える場所にも必ず戦いが存在していて、平和だと感られるのはただ絶対的に有利な立場に立っているだけで、戦いが起こっている事にすら気付くことが出来ていないだけなんだ。そうだよ、野菜だって、このヘンルーダだって、生き物なんだ。生きているんだ。

 納得は出来なかった、そうまでして生きて何になるって言うのだろう。僕の夢見ていた冒険生活の旅路ときたらどうだ、何にも無い、何にも無かったじゃないか。あのパダにいた冒険者もただの乱暴物のようにしか見えなかった、野薔薇も結局は平気で動物の子供を殺すことが出来る冷たい人間じゃないか。

 それでも僕はヘンルーダを食べた。僕の病を治すために、戦いに勝つ為に、生きる為に、一体何の為に。僕達がそのヘンルーダの近くにテントを張って、あのコカトリスの親子を殺して二週間が経とうとしていた、僕と野薔薇の口数は少ない、あんまり喋りたくなかったんだ。早くこの生活が終われば良いのにとただそれだけを考えていたんだ。そんな時だ。

野薔薇がフィリモンドを殺したんだ―――。

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次がラストです、二つになっちゃいました...w
エグランチエ [2012/08/19 18:36]



「...どうして...、どうして...何をしているの、野薔薇っ!!
 フィリモンドを殺してしまうなんて!旅の仲間じゃないかっ!!」

 フィリモンドに手を掛けた私にルイネ君は罵声を浴びせました、当然ですよね、怒るのは当然ですわ。でも、もう食べ物が足りないの。帰り道の分の保存食は残しておかないといけませんし。ここなら近くに氷河がありますから、その氷の中にフィリモンドの肉を入れておけば保存する事も出来ます。フィリモンドを殺せば食べ物に困らずに済むのです。仕方が無いの、仕方が無いのです。ルイネ君の足は帰りにはフィリモンドを必要としなくなっているはずですもの。

 もともと少なくなっていた私とルイネ君の口数がとうとうその事を境に一切無くなってしまいました。もちろん恐らくこうなるだろうという事はわかっていました、そしてそのフィリモンドの肉を口にしてはくれないだろうという事も。でもどうしても食べてもらいませんと、ここまで来てルイネ君を飢えさせてしまったりしたら、私が奪ったコカトリスとの子供とフィリモンドの命を無駄にしてしまうことになりますから。それは私達がフィリモンドの肉を食べる事になる最初の夕食時のことでした。

「食べなさい。」

「いやだ。絶対に食べるものか。
 それはフィリモンドだ、僕の仲間だ。」

「そうよ、だから、フィリモンドの命を無駄にしない為にも...。」

「殺したのは野薔薇じゃないか!しかも焼くだなんて、惨すぎるよ。
 言ったじゃないか、僕は誰かを犠牲にしてまでして生きたくない。」

「...食べないと、あなたが飢えて、死ぬのよ。」

「...。」


 結局その日はルイネ君は食べてくれなかったの。次の日も、その次の日も。幸いヘンルーダだけは食べ続けてくれたのですけれど、このまま食べない日が続けばルイネ君が体を壊してしまう事は明らかでした。私ももう少し器用なやり方は無かったものかしら、自分自身も精神的に参ってしまっている事実にその時になって初めて気付いたの。でも、どんな手を使ってでもルイネ君に食事を取ってもらいませんと、弱気になってはダメよ。私はどう思われても構いません。ルイネ君が無事でいられるならば何でもすると決めてここに来たのでしょう、エグランチエ。


「―――もうずっと食べていないわ、ルイネ君。
 取っておいた保存食でもいいわ、お願いだから、食べて。」

「...。」

「ねえ、食べて。本当に死んでしまうわよ。」

「...。」

「食べなさい。」

「...!...野薔...薇...?」

私は剣を抜いてルイネ君の首筋に当てたの。

「...食べなければ...殺すわ、あなたが飢えて苦しむ前に。」

「い...いやだ...。」

 その答えに私は剣をルイネ君の首筋に押し付ける、一筋の血が流れ落ちました。もちろん殺す気など毛頭ありません、でも脅しつけてでも、どんな思いをしたとしても今日は食事を取って貰いませんと。本当に死んでしまうわ、ルイネ君。せっかく此処まできたのに。

「...私は本気よ、ルイネ君。死にたくなかったら食べなさい。次は無いわ。」

「...うっ...うっ...。」

 ルイネ君は観念して嗚咽交じりにフィリモンドにごめんとひたすら謝りながら、焚き火で焼いていたフィリモンドの肉を手に取るとその口で頬張り始めました。この精神状態では、戻してしまうかもしれないと心配をしていましたが、ルイネ君の体はルイネ君の意思に逆らって生きる事を望んでいたみたいです。そうよ、それでいいの、ルイネ君。幼いコカトリスやフィリモンドの為にも、メリンダさんや私の為にも。そして何よりあなたの為にも。

 でもルイネ君の意思は私が思っていたよりも大人しくは無かったの。ルイネ君の意思に反してフィリモンドの魂を取り込んだ体を再び従わせて私が思ってもいない行動を取ったのです。その小さな手で懐に仕舞っていた銀の短剣を抜き放ち私に刃を向けたのです。

「...もううんざりだ、野薔薇。
 旅も何もかも、もううんざりだよ。」

「...ルイネ君。」

「もう野薔薇には従わないよ。近付いたら刺す、僕は本気だよ。」

「...。」

「僕は何かを犠牲にしてまで生きていたくなんか無いんだ。
 野薔薇や他の大人のように乱暴を働いてまで生きていたくない。」
 
 そんなルイネ君に私は構わず近付いていく、ルイネ君をこんなにまで追い詰めてしまったのは私だもの。言い訳なんてしないわ。でもこの状況を理解して貰う必要はあるわ。その為には私はどうすればいいのか。正直、さっぱりわかりませんでした。でもこうする他に無いと思ったの。ルイネ君を再び追い詰めるように、その肌に触れられる程にルイネ君に近付いた私はその小さな体を抱き締めたのです。私の体に短剣は突き立てられていませんでした。

「...刺さないの?ルイネ君?」

「―――っ!!!」

脇腹に痛みが走った、ほんの少しだけ。本当に私を刺したんだ、ルイネ君。でもきっとあまり深くは無いわ。ほら、続いてすぐにナイフを落とす音が聞えたもの。それにそんなに痛くないわ。

「...っ。」

「...あ、あああ...野薔...薇...、僕、僕。本当に、野薔薇を...!
 血が...血が出てるよ...!野薔薇...早く...手当てをしないと...!」

「大丈夫よ、大したこと無いわ。
 そのままでいいから、聞いて、聞いてください。」

「...。」

「私を殺すのは構わないわ。でも、私を殺したら、
 その私の分まであなたは、強く生きないと、許しませんわ。」

「野薔薇...。でも、でも...。
 どうしてこんなに辛い思いをしないといけないの?」

「あなたが生きているからですわ。」

「何の為に...。」

その問いに私は微笑んで答えたの。

「ルイネ君、あなたは優しすぎるわ。
 でも言うなれば、それはあなたに託された意思の為よ。」

「僕に託された意思?それは何?」

「わからないわ、でもあなたが此処にいるという事に、
 あなたのパパやママと、メリンダさんと、私の意思が絡んでいるの。
 ルイネ君が立派に成長して欲しいと言うあなたへの意思の為になら、
 この世のどんな物もその為に犠牲にするだけの価値があなたにはあるの。」

「そんな価値、僕になんてあるはず無いよ。」

「いいえ、この世に生まれたすべての生き物にそれだけの価値があるわ。
 あなたにも私にも、あのコカトリスにも、フィリモンドにも平等に。」

「...よく、わからないよ。」

「本当はわからなくても良いのよ。だからあなたは優しすぎるの。
 何かを犠牲にして生きるって特別な事ではないのよ、そう言う物なの。」

「でも、僕は...。」

「考え過ぎなの、あなたはあなたが犠牲にした命の為にも。 
 強く強く生きて行けば良いの、そしていつかあなたも...誰かの...為に...。」

「野薔薇...!?」

「ふふふっ...思ったより...力があるのね...ルイネ君。」

傷が思ったより深かったみたい、意識が朦朧としてきました。
本当にここが私の最後だったりして、私の命もずいぶん粗末なものなのね。

「野薔薇...っ!やだよっ、野薔薇っ!!!!」
 





―――そして、恐らくその次の日。
柔らかな日差しに私は目を覚ましました。


お腹の刺し傷には包帯が巻かれているみたい。
ルイネ君が手当てをしてくれたのかしら。


そのルイネ君はと言えば、あら、どうやら近くにはいないみたい。
脇を見れば昨日は空になっていた水桶に水が注がれていました。


そう、ルイネ君。
もう歩けるようになったのですね―――。


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〆です、こんな形ですが。野薔薇の今回の冒険はここまでです^^
ここまで読んで下さった方、ありがとうございます><
GM [2012/08/30 15:34]
沢山の事が起こった。
僕は幻滅の連続だった。


空想は空想でしかなく、現実の上澄みをさらったものを僕は見聞きして、
冒険に恋焦がれていた。

冒険は、夢なんかじゃなかった。
つらく、生きるための生活に等しかった。

僕はパダの時から、もう帰りたいと思ってしまっていた。
普段の生活がどんなに楽で、明るくて、絆に満ちているかを知った。
そして過去に戻りたいと願っていた。


でも今は、よくわかる。
冒険とは苦しくつらいからこそ、人を惹きつけるような輝きがあるんだろう。
魔力だ。

ああ。変だな。
あれだけつらく感じたのに僕ときたら、もう、
恋焦がれている。

簡単には達成できないと頭ではわかっているし、
目指す喜びが大きければ大きいほど、それに等しい苦しみがあるっていうことも、
僕は実感した。

だけれども今は、やめておこう。
そう、僕には僕自身に課せられた、進まなければならない"冒険"の道がある。



僕は野薔薇に言ったことがあった。

野薔薇が、・・・フィリモンドを屠った時の話。

悪魔だ、と思った。
ありえないと思った。
どうかこの悪夢から醒めたいと思った。

でも、違った。
僕は温室で育てられ、メリンダが毎日出すハムやソーセージがどこから来ているか
知りさえもしなかった。
それ故に、ぬるい、ただ甘ったれをぬかすだけの、態度を示した。

『僕は何かを犠牲にしてまで生きていたくなんか無いんだ。
 野薔薇や他の大人のように乱暴を働いてまで生きていたくない。』

そう言った。

すまない、野薔薇。
彼女には決していう言葉じゃなかった。
絶対に、言ってはいけないことだった。

僕は彼女の、覚悟を持った優しさについて、利己的で乱暴だと批判したんだから。

利己的なのは、僕自身だ。

何かを犠牲にしてまで生きていたくないんなら、
僕は、ハムやソーセージを食べる前に死ぬべきだった。
病気のせいではなく、意志の話。

僕は、犠牲という言葉を知っていたけれど、責任という言葉を知らなかったんだ。

彼女は、僕という責任を全うしようとしていた。
・・・メリンダも、そうだった。
だけれどもいつも僕は、逃げて、彼女らから逃げて、思いやりを認めなかった。

恩を仇で返していた。
その極めつけが――――今も手に感触が残る。

「エグランチエ・・・」

彼女の脇腹に刺した。
護身のためと彼女から渡されたナイフで、彼女を刺した。

思い出せば息が上がる。
目が開く。
苦しくて悶える。

「ごめん・・・・・・」



扉がノックされる。
僕は我に返る。

「どうぞ」

メリンダだ。

「ルイネ様。エグランチエ様がおかえりなさいました」

僕がここを発つ前よりも、小さく弱く見えるメリンダがそう言う。

「うん、ありがとう・・・」

もう、出会うことはないだろうか。
大好きなひと。
月夜の晩に、はじめて会った。
野薔薇の髪の色を、僕は忘れない。

彼女から、希望をもらった。強さを知った。責任感を見せてもらった。
彼女は強く、優しかった。そして、一途で不器用だった。
僕がもっと大人だったら、もっと、もっと、苦労させなかっただろう。

メリンダが退室した。


僕は、思い出す。

『野薔薇・・・。でも、でも・・・。
 どうしてこんな辛いに思いをしないといけないの?』

『あなたが生きているからですわ』

『何の為に・・・。』
『そんな価値、僕になんてあるはず無いよ。』

『いいえ、この世に生まれたすべての生き物にそれだけの価値があるわ。
 あなたにも私にも、あのコカトリスにも、フィリモンドにも平等に。』

平等の価値。
その中で僕はどれだけ、価値を食べてきただろう。
ということは、食べた分だけ、僕は、価値――責任を意識しなければならない。


羊皮紙にペンを走らせる。
野薔薇に手紙を書くためではない。
今は誰にも、見せない。

旅の途中、野薔薇からかいつまんできいたことを記すためだ。
冒険記ではない。

「さて、と」

椅子から立ちあがり、部屋を出る前に紙を見直す。

要点はまとめた。
あとはここにあることを確認し、調べるだけだ。

僕は部屋を出る。




階段を降り、正面玄関ホールの脇にある待合室へ行く。
ここは来客や外の様子がよくわかるからと、メリンダがいる場所。
僕と彼女しかここに住まないから、メリンダは忙しい。

彼女はここで帳簿をつけたり、記録をつけたりしている。
来客の場合は足元の籠に帳簿を隠し、代わりの読み物を取り出してカモフラージュを試みていることは、とっくの間に知っている。


僕はそんな彼女を見つけた。
メリンダは降りてきた僕を見て、本当に嬉しそうな笑顔を向ける。

僕は本当に、満たされた気持ちになる。
ずっと、守ってきてくれた。

今度は僕の番だ。


「メリンダ。
 僕は父の跡を継ぐ。
 それについて知っていることを、教えて欲しいんだ」


まだまだわからない事だらけだけど、
野薔薇。僕は、冒険するよ。

勇敢を持って。