手紙の縁

エグランチエ [2012/06/20 21:24]


―――ん?


河岸に転がる瓶なんかが気になったのは中に手紙が入っていたからだ。
最近、何かと手紙と縁がある、自宅に届いた間違い手紙を連想していた。

拾い上げ瓶に着いた土を落とし水浸しとなった手紙を中から取り出してみる。
恐らくはハザード河を流れる最中で蓋が外れてしまったのでしょう。
よく川の底に沈まずにこの岸まで漕ぎ着けたものです。

その手紙をなんとか破かずに広げられたものの、残っていたのは一部分だけ。
残った部分に書かれた文字も大部分が水に消えてしまっていた。


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(ここから上も文章があったようだが、破れて失われていた。)

――――魔法?

―――――――ものは、動かないし喋らない――
――――――――――

――――――――――――人形は――――動いているの?動い――――――
ルイネが見ているから、動かないの?
ル――――――――夜には、動き出す?

―――――どうなってるの。

――――――――――――――――――――
それって、どう――――なってるの。

真っ暗な夜――――風――――――にするの?
ハケでなぞるよう――――――――が――――家の屋根をも掃いていく?

ルイネ――らないことだらけだ。
――――――たい、実感したい。

ねえ―――。
どうやったら―――――――――てくれるの。

待ち合わせし――――
――――――教えて。
いつ、どこで待っていれば――――――――――――――――

月夜の晩に――――――――――――――大きな銀木犀の下――――――

ルイネも行――――

(ここから下も文章があったようだが、破れて失われていた。)

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残った文章から子供が書いた物と予想が出来た。
どうやら差出人は何かを不満に思い、人形を動かす方法が知りたいらしい。
魔法で動く人形といえば思い出すのはネロス候の屋敷の魔法装置である。
あの骸骨や腐肉の塊を思い起こせばイヤな予感がしないでもない。

差出人は魔術師の子なのでしょうか?
月夜の晩に、大きな銀木犀の下?

しかし子供の書く文章だ、不吉な予感も何も悪戯の可能性が高い。
そもそも瓶に入れた手紙なんて宛先人がいるのかどうかすら怪しいものだ。

「...まぁ、話の種くらいにはなりますか...。」

その手紙をしまうと、街道へと戻り再び酒場へと歩き出した。



―――



「―――アレル様、それは?」

「あぁ、先ほど川岸で見つけた瓶に入れられていた手紙です。
 子供が書いた物だと思うのですが、どうにも気になってしまいまして。」

タリカはフラン様への手紙を届けた後、
グレイを連れてミノタウロス亭に寄っていた。

「よろしければタリカにも見せてください。」

アレル様の言うとおり、その手紙は子供が書いたもののようだ。
手紙の大部分は失われてしまっている、でも何かしらの強い思いを感じ取れた。
それに気のせいだろうか、この手紙から僅かに感じるこの気配は...?

ひとまずこの手紙の差出人、もしくは宛先人の手掛りとなるのは、
幾度か登場するルイネという名前と大きな銀木犀だ。

「大きな銀木犀といえば、タリカは一つ思い当たる物があります。
 いつもより遠い所にグレイと狩りに出掛けた時に小さな村で見かけました。」

「それはハザード河の畔にある村なのですか?」

「はい、畔を歩いて遠出をしましたから。
 銀木犀はこのオランではよく見かける木なのですけれど、
 その村の銀木犀はとても立派だったから印象に残っていました。」

「なるほど、しかし、わざわざ行くほどの事でもありませんよね。」

「ふふっ、でもアレル様はこの手紙を拾ってこられた。
 縁と言うものは、どこにどう結びつくかわからないものですよ。」

「はぁ、手紙の面倒事はもう間に合っていますよ...。」


アレル様は他にも手紙の縁を抱えているのだろうか?
そういうタリカもつい先ほど手紙による縁を授かった。
今、オランで手紙を出すのが流行っているのだろうか?

「そういえばエグランチエ様も川岸で手紙を拾ったと言っていました。
 まさかとは思いますが、エグランチエ様が厄介事に手を出して―――。」

タリカはアレル様から受け取った手紙を返そうとすると、
その手紙に突然と伸びた第三者の手が奪い去った。

噂をすれば影がさす。
やっぱり、エグランチエ様だ。



―――



「ちょっと、これを何処で!?」

「ここに来る途中の川岸で拾ったものです。」

「やっぱり!まさかお返事が来るなんて!嬉しいわっ!
 ふふふっ、ずっと待っていたの、でももう諦めようとしていたのに!」

「ははは、まさかエグランチエさんがそんなに喜ぶものだとは。」

「ありがとう、アレルさん。この手紙は私が頂きますわ。」

でも何よこれ、破けてしまっていますわ。
それに水浸しですし、文字も掠れて消えてしまっていますし。

どれどれ。ふむふむ。
まあまあまあ。

月夜の晩に待ち合わせ?文通を始めてもう会いたいだなんて。
どうしましょうか、私が相手だと知ってがっかりしないかしら。

「いきなり待ち合わせだなんて。ふふふっ。
 でもどこでしょうか、場所がわからないわ。」

「エグランチエ様、その手紙の待ち合わせの場所。
 もしかしたらですけれど、タリカに検討が付きます。」

「まあ、本当に?銀木犀が何だかもわかりませんわ。
 ぎんもく、くず?と読むのかしら?それはどんな物なの?」

「...ぎんもくせいです、エグランチエ様。木です、植物です。」

「木なんてどれも一緒なのに、ずいぶん難しい名前を付けるのね。
 でも流石はタリカですわ、その場所を私に教えて頂けるかし――」

「――エグランチエ様。」

喜び踊るような気分の私を制すようにタリカは私の名前を呼びました。
私は思わず体を強張らせた、まるで敵の襲来を知らせるような口調だったから。

「その手紙から僅かですがただならぬ精霊の気配を感じます。
 気のせいだといいのですけれど、くれぐれもお気をつけて。」

「ただならぬ、精霊?」

「ええ、まるで狂気を帯びたノームのような―――。」


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どしどしといくぜぇ、しかし長くなってしまったので一度切ります。
まさかの三連投になります、次は手紙を書きます、出します。

しょうGMの素敵世界観が大好きです。
ルイネの手紙のような文章とか素敵過ぎです。

そしてアレルさんとタリカさんを使わせて頂きましたー!
もし修正が必要でしたらお気軽に、エグランチエの利用もお気軽に^^