手紙と、銀木犀と

アレル=リリー [2012/06/21 23:43]
ザブン、ザブンと、水の音が響く。
気晴らしに散歩をしていたら、どうやらハザード河の方に来ていたようだ。
河の近くの風は涼しい。
暑いのが苦手な自分にとって、ここは絶好の避暑地だ。
でも、今日はその涼しい風も、自分の意識には入ってこない。
他にもっと気になるものを見つけたから。


手紙を見つけた。


欠けた瓶の中に入ってた、小さな手紙。
ハザード河の上流から流れてきたのだろうか。
手紙は水気を多分に含んでいて、インクも滲んでいる。
ともすれば、すぐに破けてしまいそうだ。
そんな手紙をなんとか開いて、中を読んでみる。

途切れ途切れに読める、拙い文。
書いたのは子供だろうか。
まるで何かを願うような文章だ。
欠けた瓶に願いを掛けて、この手紙を送り出したのだろうか。
だとしたらここで止めてしまうのは申し訳ない気がするけど・・・・
だからといって、このまま流しても手紙が完全に水没するだけか。
どうしようかな・・・・・

「...まぁ、話の種くらいにはなりますか...。」

少し悩んだ後小さくそう呟いて、手紙を持ったまま酒場へと足を向けた。






「アレル様」

酒場に入ってゆっくりしてると、背後から声を掛けられる。
振り向くと、そこにはタリカさんが居た。

「狩りの帰りですか?」

「はい、今帰宅したところです」

「ふふ、おかえりなさい。」

そう挨拶を交わす。


「―――アレル様、それは?」

手紙を見つけたタリカさんが、小首を傾げながらそう聞いてくる。

「あぁ、先ほど川岸で見つけた瓶に入れられていた手紙です。
 子供が書いた物だと思うのですが、どうにも気になってしまいまして。」

「よろしければタリカにも見せてください。」

「えぇ、いいですよ。」

そういって彼女に手紙を渡す。



「大きな銀木犀といえば、タリカは一つ思い当たる物があります。
 いつもより遠い所にグレイと狩りに出掛けた時に小さな村で見かけました。」

手紙を読み終えてからしばらく、タリカさんがそう言った。
そういえば、手紙の中には大きな銀木犀のことが書いてあったっけ。

それはハザード河の畔にある村なのですか?」

「はい、畔を歩いて遠出をしましたから。
 銀木犀はこのオランではよく見かける木なのですけれど、
 その村の銀木犀はとても立派だったから印象に残っていました。」

「なるほど、しかし、わざわざ行くほどの事でもありませんよね。」

「ふふっ、でもアレル様はこの手紙を拾ってこられた。
 縁と言うものは、どこにどう結びつくかわからないものですよ。」

「はぁ、手紙の面倒事はもう間に合っていますよ...。」

あぁ、そうだ。
せっかくだし、タリカさんにもアンソニーさんの事を聞こうかな。
そう思った矢先。

「ちょっと、これを何処で!?」

またもや背後から、大きな声を掛けられる。
しかし今度は、こちらから振り向くまでもなく、向こうから視界に入ってきた。
黒百合の次は野薔薇。今日は何かと花に縁がある。

「ここに来る途中の川岸で拾ったものです。」

こんにちは、と挨拶をしながら、声を掛けてきた人物―――エグランチエさんに、そう答える。

「やっぱり!まさかお返事が来るなんて!嬉しいわっ!
 ふふふっ、ずっと待っていたの、でももう諦めようとしていたのに!」

どうやら、エグランチエさんはこの手紙に心当たりがあるらしい。
そういえば先ほど、タリカさんがそのような事を言っていたっけ。

「ははは、まさかエグランチエさんがそんなに喜ぶものだとは。」

「ありがとう、アレルさん。この手紙は私が頂きますわ。」

そう言って手を差し出すエグランチエさんに、えぇどうぞ、と手紙を差し出す。
受け取った手紙を、真剣な眼差しで読むエグランチエさん。
そして数秒後、その顔が嬉しそうにほころぶ。

「いきなり待ち合わせだなんて。ふふふっ。
 でもどこでしょうか、場所がわからないわ。」

「エグランチエ様、その手紙の待ち合わせの場所。
 もしかしたらですけれど、タリカに検討が付きます。」

「まあ、本当に?銀木犀が何だかもわかりませんわ。
 ぎんもく、くず?と読むのかしら?それはどんな物なの?」

「...ぎんもくせいです、エグランチエ様。木です、植物です。」

「木なんてどれも一緒なのに、ずいぶん難しい名前を付けるのね。
 でも流石はタリカですわ、その場所を私に教えて頂けるかし――」

「――エグランチエ様。」

不意にタリカさんが、鋭い口調でエグランチエさんの名前を呼ぶ。
その言葉を聞いて、エグランチエさんも体を強張らせた。

「その手紙から僅かですがただならぬ精霊の気配を感じます。
 気のせいだといいのですけれど、くれぐれもお気をつけて。」

「ただならぬ、精霊?」

「ええ、まるで狂気を帯びたノームのような―――。」

手紙から狂気を帯びたノーム?
中々おかしな現象だ。

「手紙の差出人は、狂ったノームに襲われでもしたのでしょうか。
・・・いや、文章を読むに、それはなさそうですね。
だとしたら、差出人に何らかの原因で狂ったノームの力が宿っているのか、
もしくは・・・・差出人自体がノームとか。」

最後は冗談っぽく、そう言う。
可能性があるとすれば差出人にノームの力が宿っている場合だけど・・・
それは一体、どういう状況なのか・・・考える。

「なんでしょう。この状況を説明できる単語が、喉元まで出掛かっているんですが・・・
・・・・うーん、ダメですね。今は少し思い出せません。
思い出したらまた、知らせようと思います。」

もどかしい気持ちを感じながら、そう伝える。

「・・・で、どうやら差出人はあまり正常な状態ではないようですが・・・・
もしかしたら会うのには少し危険が伴うかもしれません。
それでも貴方は会いに行くのですか?」

そう、エグランチエさんに問いかける。

「あら、貴方にしてはずいぶん察しが悪いですわ、アレルさん。
私がこの程度で自分の言葉を曲げるような女だと思って?」

「あはは、もちろん思っていませんよ。」

微笑みながら、そう答えた。

「会えるといいですね、その子に。

・・・あ、そうだ。そういえば自分も探し人をしてるんですが・・・
アンソニーさんと言う人を知りませんか?
まだ名前だけしか分かってないのですが・・・・」

そういえばと、二人に問いかけた。








PL
他人描写の難易度の高さ・・・・
タリカさんとエグランチエさんを描写させていただきました!

石皮病知名度判定:2d6+7 Dice:2D6[6,6]+7=19

そしてこの6ゾロである。
でもあえてまだ思い出せないことにします!
そのほうが面白そうだから!

あ、後お二人に、アンソニーしらない?と聞いておきまーす。