魔女

エグランチエ [2012/06/27 21:22]
 

この花の石像を見てください、見事なものでしょう。
花弁から葉の葉脈まで、茎を覗けばその筋まで掘り込まれています。

まるで生きているようでしょう。
それもそのはず、この花はかつて生きていたのですから。


―――


宝石に詳しい方ならバタイユルビーというルビーをご存知ではないでしょうか。それはルイネ坊ちゃんの亡き御父上のジェルマン・クロード・アナ=マリア・バタイユ様が発見された鉱山から採掘されたルビーの事を言います。鉄分が多めでやや黒ずんでいるのが特徴です、その採掘量は多く、今では多くの装飾品や調度品に使われています。

ジェルマン様はその鉱山を元手に大財閥を築き上げました。しかしその山は不吉な言い伝えを持つ土地として地元民には知られていたそうです。開拓中はジェルマン様の行動をよく思ない地元民達からの妨害を受けたことも少なくなかったそうです。

その言い伝えとはこういう物でした。


昔々、その山には一人の魔女が住みついていました。その魔女はルビーの宝石が大好きで一日中指に嵌めた大きなルビーの付いた指輪を眺めて暮らしていたそうです。その噂を聞きつけた女王はそのルビーの指輪がどうしても欲しくなりました。欲張りな女王は自分以上の贅沢をする魔女が許せなかったのです。女王は兵士たちに命じました、悪い魔女を打ち倒しルビーの指輪を持ち帰りなさいと。

それから女王に遣わされた兵士たちに囲まれた可哀想な魔女は殺されてしまいました。しかしそれでも女王にルビーの指輪を獲られたくなかった魔女はルビーの指輪に呪いをかけたのです。私のルビーの指輪に近寄るものはみんな石になってしまうがいいと。女王の命令に逆らえなかった兵士たちはみんなそのルビーの指輪に近づいて石になってしまいました。欲張りな女王はそれでも諦めきれずにとうとう最後は自らそのルビーの指輪に近づいて石になってしまったというものです。


その言い伝えは地元ではわがままをいう子供に言い聞かせて育てるほどに有名なもので、それ故にこの言い伝えが本当にあった事かどうかという以上に地元の風習を穢されたくないという思いからジェルマン様への妨害活動は行われていたそうです。しかし―――ジェルマン様とそして奥様のブランディーヌ様は今のルイネ坊ちゃんと同じ石皮病により亡くなられました。

ジェルマン様の後を継いで今はジェルマン様の腹違いの弟のプロスペール・クロード・オーレリア・バタイユ様が経営指揮を執られています。プロスペール様は非常に商才に恵まれた方でした、バタイユルビーを世に広めその資金を元に様々な企業を立ち上げました。鉱山を元にバタイユ財閥を生み出したのがジェルマン様なら、育て上げたのはプロスペール様といえるでしょう。


私、メリンダは今、プロスペール様の母君のファビエンヌ様からルイネ坊ちゃんを任されています。ファビエンヌ様からは毎週この石皮病を治癒するという貴重な薬草とそしてハーブのお茶を送って頂いています。ルイネ坊ちゃんの近くに入れないけれどこれほどファビエンヌ様はあなたを愛されているのですよとルイネ坊ちゃんには伝えています。



ですが、もう私にはどうしたらいいか。
ルイネ坊ちゃんが不憫でなりません。

この花を見てください。
なんて言うことでしょう。


この石の花は以前ルイネ坊ちゃんとお外でお茶をした際に、
私が不手際でそのハーブのお茶を溢してしまった場所に生えていたものです。



いいえ、ルイネ坊ちゃんを守れるのはメリンダだけ。
どうかマーファ様、坊ちゃんと私にお力をお貸し下さい。

今日も馬車に乗せられファビエンヌ様から荷物が届きました。
それを私は出所の確かなパンと野菜を抜き、後は全て暖炉の火にくべました。

不躾な家政婦もあったものです、ご主人様からのお届け物を焼くなんて。
そういえば以前のご主人様の言付にも逆らって私はクビになったのでしたっけ。

それから私は鏡を見て自分の顔をぴしゃりと両手で叩く。
そしていつも通りの笑顔を作って坊ちゃんの部屋の戸を叩きました。


「坊ちゃん、ルイネ坊ちゃん。美味しいご飯の用意が出来ましたよ。」


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ファビエンヌが自分の息子を財閥の当主にしたくてルビーの呪いの言い伝えを利用して密かに毒を飲ませ続けジェルマン一家を暗殺しようとしている感じです。ルイネにまで手を掛けるのはプロスペール側に子供が出来たからです。薬草もおそらくヘンルーダとよく似た違う草でしょう。

使用された毒は「メデューサ・アイズ」ではありません。オリジナルの物で、効果は病の「石皮病」を誘発させるものです。それは即効性が強すぎると呪いではなく殺人事件としての疑いを強く持たれる為、とファビエンヌと鳥が思ったからです(笑)


そしてごめんね、ここあさん。登場人物が増えるよ;w;
この日記に出てくる新キャラは今のところ再登場の予定がありません。
なのでもし大変でしたら追加の必要はございません><