記憶

アレル=リリー [2012/06/28 23:45]
自分が家に居る時間というのは、案外少ない。
あるいは冒険者のお仕事だったり。
あるいは盗賊としてのお仕事だったり。
あるいは酒場で酔い潰れてそのまま泊まっていったり。
あるいは何かの目的で出かけたり。
そういう理由で、自分が家に居る時間は削られている。


「だからって、こう毎日続けられると・・・ちょっと気も滅入ってきますねぇ・・・」

ある日から毎日のように続く嫌がらせ。
決まって自分の居ない時間にやってくるそれは、
今日も例外なく家の隙間を葉っぱで埋めた。

「まったく・・・なんなんですかもう。
何でこう毎日毎日・・・・しかも微妙な嫌がらせばかり・・・
冬はまだしも、これからの季節に家を密閉されたらたまったものじゃありません。
なのにこの葉っぱと来たら・・・綺麗に隙間を埋めてくれます。
しかも何か今日の葉っぱ、いつもより硬いし・・・・
段々嫌がらせの微妙度が上がってきましたね・・・・
あーあー、ほら、無理に押し込んであったから葉っぱが
その形で固まってしまってるじゃありませんか。いつもは大丈夫だったのに。
いつもと違って今日は硬めの葉っぱだったからですかね・・・・
まったく、もっと自然を大切にしてほしいものです。」

愚痴愚痴言いながら、葉っぱを一枚一枚取り除いていく。

「押し花みたいになってたせいで水分も抜けてる・・・物凄いパリパリです。
これじゃまるで化石ですよ化石。
まったく、この葉っぱたちも可哀相ですね。
こんな石みたいに固められてしまって・・・・

・・・・・石みたいに・・・・・固められてしまって・・・・・」

自分で口走った言葉。
その言葉が、頭の中で反響する。
瞬間、頭の中でつながる無数の思考回路。
無数の記憶達。
冷や汗が額を伝う。掌を濡らす。
ぱりぱりの葉っぱが、手から滑り落ちて――――割れる。


「―――――――ッ」

嫌がらせの後始末をすることも忘れて、自分は駆け出した。









「何で気付かなかった・・・・・何で気付けなかった・・・・!」

町中を走り回りながら、歯を食いしばるようにそう呟く。
頭を駆け巡る、一つの記憶。



まるで狂気を帯びたノームのような―――。



あの時タリカさんは、確かにそう言っていた。
人が書いた手紙が何の理由もなしに精霊力を、
まして狂ったそれを帯びるなんてこと普通は有り得ない。
あるとすれば、それは差出人、もしくは受取人にその精霊力が宿っていた場合。
あの手紙を受け取ったのは自分だ。拾ったというほうが正しい。
そして自分には、狂った土の精霊力など宿っていない。
だから原因は差出人のほうにある。そこまでは前の自分も分かってたはず。
差出人に狂った土の精霊力が宿るには3つの方法がある。
1つは、差出人が手紙を執筆中に狂ったノームに襲われること。
しかしこれは手紙の内容から察するに違うだろうと、前の自分が結論を出した。
1つは、そもそも差出人自体が狂ったノームであること。
しかしこんなの与太話だ。あるわけがない。
1つは、とある病気にかかること。
体の中のノームの力が強くなりすぎて起こるその病気。
差出人がそれに罹っているとすれば、全て説明が付く。
・・・いや、むしろそれでしか、説明は付かない。
答えは一つしかなかった・・・・なのに・・・っ

「必要なときに出てこない知識に・・・・・何の価値があるっていうんですか・・・!」

そう自らに悪態をつく。
しかし、過去を呪ってばかりいても仕方ない。
今の自分に出来る最善の事は、エグランチエさんに、
少しでも早くこの事を伝えることだ。
だから自分は、走る。走る。




見つからない。彼女の姿が、無い。

香草亭にも、ミノタウロス亭にも。
パン屋にも、噴水広場にも。
雑貨店にも、グレイウォールにも。
埠頭にも、自室にも。
彼女が居そうなところは全て探した。
なのに見つからない。

「はー・・・・はー・・・・」

走り回って荒れた呼吸を、一度整える。
焦るな、アレル。冷静に考えろ。
彼女が他に行きそうなところを、探すんだ。
彼女は今、何かにはまっていたりしただろうか。
賭け事とか、食べ歩きとか。
裁縫だとか、絵描きだとか。
自分の記憶の中で、彼女が熱中していたものは―――。


手紙。


「―――!あそこだ・・・・!」

足は再び、駆け出す。







「見つ・・・・・・けた・・・・っ!」

ハザード川、水辺。
そこで佇む金髪の少女の姿を見つけて、安堵の声を上げる。
流れてくる手紙を探していたのだろうか。
その視線は、川の中に投げ込まれている。
自分が安堵の声をあげると共に、彼女はこちらを驚いたように振り向いた。

「あら、アレルさんじゃありませんの。
そんなに急いで、どちらに行かれるつもりなの?」

彼女は優雅に、そう聞いてくる。
自分はその質問には答えず、一歩、二歩と歩を進めた。

「手紙の・・・・・ゲホッ!・・・手紙の精霊力の正体が、分かりました・・・・」

荒れる呼吸をなんとか押さえ、振り絞るようにそう伝える。
まぁ!と声を上げるエグランチエさん。

「すごいわっアレルさん!
それで、いったいどんな理由だったのかしら?」


「石皮病。」

彼女の問いに、自分は短く答えた。
彼女の表情が、少し曇る。

「体の中のノームの力が大きくなりすぎて引き起こされる病気。
病の進行度に比例して、足元から、徐々に石化していく病気です。
はじめに足首が、次に膝が、その次に腰が、そして胸が石化します。
この時点で病人は呼吸ができなくなり死亡する訳ですが・・・・
それでもこの病は進行を続け、最終的に患者を石像の様に
してしまう恐ろしい病気です。

・・・差出人は、その病に罹っている可能性がある。」

一つ一つ、丁寧にエグランチエさんに教えていく。
自分の呼吸も、大分整ってきた。

「石皮病の進行スピードは約2週間です。・・・・・エグランチエさん。
・・・・・貴方が最初に手紙を拾ってから、今日で何日目ですか・・・・・?」

確かめるように、そう問いかける。
会うなら急いだほうが良い。そう助言も付け加えて。


自分の説明を聞くや否や、彼女はその場を去っていった。

「エグランチエさん・・・・・。
頼みますから、自分を道化だけにはしないでくださいよ・・・・・。」

去り行く背中に、そう願いを託した。












PL
ついにエグにストーンスキンについて教えるときが来たか・・・・
というわけで教えちゃいます!すっごい詳しいよ!だって6ゾロ!


あ、葉っぱの件は適当です(キリッ