幾望

エグランチエ [2012/06/29 23:02]



「石皮病の進行スピードは約二週間です。...エグランチエさん。
 ...貴方が最初に手紙を拾ってから、今日で何日目ですか...?」

「...もう......、ひと月...経つわ......。」


私はルイネ君に夢を見せている気でいました。
手紙を通して広い世界を想像していつの日か実際に見て知って欲しかったの。
でもそれが、なんていう事でしょう。夢を見せられていたのは私の方でした。
彼に幼い日の私を重ねていたの。きっとルイネ君も私と同じだって。


「...治すには...?―――それを治すにはどうしたら良いの?」

「ヘンルーダという薬草がありますが...。」

「ヘンルーダですね、それを手に入れれば良いのね。」

「待って下さい、その薬草は三日で枯れてしまう物なのです。
 市場になんて売られていませんし、簡単に入手出来る物でもありません。」

「―――じゃあ、どうすれば良いのよッ!!」

「...!!」


アレルさん胸倉に掴み掛かって私は叫びました。
この胸に沸き立つも行き所など有る筈も無い感情を叩きつけました。
それから感情を押し殺して冷静さを保つ彼の顔を睨むように見つめて、
程なく視線を下ろしどうしようもなく漏れ出す嗚咽と共に手を離しました。


「どうすれば...。」

「自分にも...。」

「...。」

「...。」





無言の二人の間に繰り返される細波の音。
止め処無く続くその音がこの空しさを強調していました。





「...。」

「...。」

「...。」

「...エグランチエさん。」

「...。」

「...会うなら急いだほうが良いです。」

「...そうですね、それに。」

「...それに?」

「...まだよ。まだ手があるはずよ、きっと。
 探してみるわ、私は絶対に諦めませんから。」

「...そうですね。まだ諦めるのは早いですよ。」

「満月の夜は、まだ来ていないもの。」


そうよ、諦めるにはまだ早いわ。早いはずですわ。
満月の晩、銀木犀の木の下。その約束までは大丈夫だと信じますわ。
少なくともアレルさんのおかげで事前に行動をする事が出来るもの。
彼の知識と親切心には心から感謝をしないといけません。


「アレルさん、教えてくれてありがとうございます。
 でもごめんなさい、今はお礼をしている時間も惜しいわ。
 私、急がないと。だから今はこれで我慢して下さい―――」


私はそう言って再びアレルさんに掴み掛かると、
有無を言わさずその頬に口付けをしました。


「―――ふふっ、ずいぶん走ったのね。汗の味がしたわ。
 私が帰ったら、その時はきちんとお礼をさせて下さいね。」


そう言葉を残して、
私も走り出しました。



―――その私の目の前には幾望の月が浮かぶ。



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アレルさんありがとーーーっ!超熱かったですっ!!
続けて書くぜ、次はとうとう満月日記。どうしようかな^^