あの銀木犀の下で

エグランチエ [2012/07/04 00:56]


場所はすぐにわかりました、約束の銀木犀。
高級な家並みが聳える中で一際目立つ大きな樹。

その木陰に腰掛ける、何処かで梟の鳴く声。
優しいハザード河のせせらぎ。触る涼しい夜風。


あの後で色々と調べたの。
学院に行って書籍を漁ってみたり。
精霊に詳しい賢者に石皮病について訊ねてみたり。

わかったのはアレルさんがくれた情報と殆ど同じ。
追加で得られた物はアレルさんの言っていた薬草の存在する場所。
グロムザル山脈北部西麓のコカトリスの住む荒野にそれはあるそうです。


でも私はルイネ君に会ったことすらありません。
そしてルイネ君は手紙で誰の助けも求めていなかった。

私はきっとルイネ君が回復する為ならなんだってするわ。
それがたとえ自分のエゴであったとしても、放ってはおけないの。

はたしてルイネ君は。
私に何を望むのでしょうか。


ふと川面の月光を照り返す様をじっと見つめる。
美しく流れ輝くその姿に、私は違和感を感じたの。

見上げれば、そこには私を見下ろす満月。
その満月が川面に写るはず場所にあるのは揺れる黒い影。

岩ではないわ、違うわ、あの小さい姿は、私にはすぐにわかったわ。
立ち上がり駆け寄り川面へと飛び降りる、そしてその影を抱え上げたのです。


「...大...丈夫?」

「...平気だよ、ちょっと足が動かなくなっちゃって。
 でも大声を出さないで。メリンダに聞かれちゃうから。」

「...ぅ...。」


言葉が出ませんでした。歩くのも辛いでしょうに。
この少年にこの苦行を約束させてしまったのは、私。

それから私はその健気な幼い姿を強く抱きしたの。
抱きしめずにいられなかったのです。


「どうして泣いているの?大丈夫だよ。」

「...ごめんね...ごめんね。あそこの銀木犀まで、行くのよね?」

「あれ、どうしてわかるの?お姉さん、誰?」

「...あの銀木犀の下で教えてあげる。」


私はそう言ってルイネ君に精一杯微笑み掛けました。


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ルイネ家の前の川は比較的浅瀬でルイネは以前その浅瀬で遊んでいた頃のように歩いて横断しようとしたが、もうそこまでの身の自由が利かず途中で立往生していたという感じです。エグはこの後ルイネ君を抱き上げて銀木犀の下まで連れて行きます。びしょびしょです(笑)

とりあえず、ここまで書かせて頂きました^^