私達の願い事

エグランチエ [2012/07/18 00:30]


「すごく元気だった!」

「...そう、それは良かったわ。」


良い笑顔、その笑顔が見たかったの。
強い子なのね、まるでその身の病を感じさせない。

それだけに辛いわ、この子はどれだけの物を我慢しているのか。
この子にとっての手紙の冒険という物はどれ程の物なのか

私はこの笑顔を守る事が出来るのでしょうか。
その為になら何でもするわ、そのために此処に来たのだもの。


「野薔薇、もっと聞かせて。
 冒険のお話!」

「ええ、もちろん。
 どんなお話が良い?」

「朝が来るまでお話してよ。
 朝が来てもお話して」

「ふふふっ、良いわよ。
 でも家の人が心配するわよ。」

「冒険って、こわくないの?悲しくないの?」

「ふふっ、それも含めて冒険よ。いろんな事があるわ。
 たとえば、ほら、ルイネ君とこうして会う事が出来たわ。」

「ルイネも冒険に行きたい・・・」

「...。」

「行きたい...。行きたい!」

「行きましょう。」


ルイネ君の瞳の中の世界が溢れるように広がり輝き零れた。
言葉になんて現せない思いがそこに込められていました。
それから私はゆっくりと重い言葉を吐き出しました。


「...でもルイネ君。あなた、病気、なのでしょう?」

「...ち、ちがうよ。元気だよ。さっきのは...」

「石皮病、なのでしょう?」

「...。」

その言葉と同時に広げられた世界は卵が潰れるように萎んで消えた。
病という重たい足枷は想像という自由さえも縛ろうとしていたの。

そんなこと、させるものか。
させてたまるものですか。


「行きましょう。冒険に。」

「...え?」

「行きましょう、ルイネ君。でも、その前に。
 あなたのお母さんとお父さんに行って来ますしないと。」


もちろん、そんな簡単に行くはずがありません。
当たり前よ、子供を見ず知らずの人間に預ける親なんて何処にいるのよ。

私なら彼の石皮病を治癒する薬草の元まで連れて行く事が出来る。
でもその冒険が如何に危険な物か想像に難くありません。

じゃあ、このまま死を待つの?残酷じゃなくて?
この子は冒険をしたがっているのよ、せめて本物を見せてあげたい。

それはエゴだわ。結局はエゴだわ、私がしたいようにしてるだけ。
私は本当はルイネ君の事なんて、その家族の都合なんて何も考えてない。
ルイネ君が現実の冒険を想像出来ていると思って?

違うわ、確かに冒険は過酷、子供に想像できる物ではないわ。
でもそうしないとルイネ君は石になってしまうの、家族もみんなも悲しむの。

決めなさいよ、エグランチエ。あなたは何しに此処まで来たの。
誘拐でも何でもするわ。ゲンブルが見ていたらなんて言うかしら。

でも、現実は私が思っていた以上に殺風景でした。
この頭の考え事ですらお花畑のように思える。


「...お父さんも、お母さんも。いないよ。」

「...え。」

「二人とも石になっちゃった。石皮病だったんだ。
 僕の今のままはメリンダというおばさんだよ。いい人だよ。」

「...そう、だったの。ごめんね。」

「ううん。」


そう言ってルイネ君は私をふと忘れたように川の向こうの家を見た。
そこはそこは少し豪華な大きな家、きっと彼の生まれ育った家。

そしてルイネ君はメリンダという人の名を呟いたの。
ええ、その声からルイネ君がどれだけその人が好きだかがわかりました。


「ルイネ君、冒険はあなたが思っている以上に過酷よ。
 はっきり言うわ、あなたが夢見るような楽しい瞬間なんて殆ど無いの。」

「うん、わかってるよ。うんと想像したもの。」

「わかってないわ。でも私はあなたを此処から連れ出そうと思っているの。」


少しむすっとした顔でルイネ君は私を睨んだ。
ごめんね、でもね、少しでも知っておいて欲しいの。
きっとどれだけ言ってもあなたは理解する事は出来ないわ。


「わかってるよ。」

「聞いて、私はあなたを誘か――――。」「坊ちゃん」


坊ちゃん、その声が私の言葉を遮りました。
声のした其処には壮年の家政婦姿の女性の姿。


「エグランチエ。
 メリンダと申します」

「あ・・・ メリンダ」

「あら、坊ちゃん?
 ねんねはどうしましたか?」

「~~~~~っ」


ふふふ、自然と笑みが零れる。
ルイネ君がこんなに元気なのもすぐに頷けました。


「こんにちは、メリンダさん。
 私はエグランチエ、野薔薇と申します。
 ルイネ君をこんな時間に呼び出してごめんなさい。」

「ここでは、声が風に乗って人の耳に届くかもしれません。
 あなたにお話したいことがあります」

「罰は如何様にもお受け致します、剣を渡しましょうか?
 でも私もあなたに、メリンダさんにお話しをしたい事があります。」

「ルイネ坊ちゃんを、助けてあげて下さい。」

「...!」

「...ルイネ坊ちゃんを助けて下さい、どうか、どうか。」

「メリンダさん...。」

「...。」


この人は知っていたのですね。
私の答えは決まりきっていました。


「ルイネ君を...、ルイネ君を私に任せて下さい。」


銀木犀の上に広がる星屑の海。
静寂なる光の織成す世界の一つが涙を流すように瞬き零れた。

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しょうさん、ごめんなさい、昨日間に合いませんでした。
言葉の選択にめっちゃ手間取っておりました><
明日、もう一度投稿しますーーっ!ご迷惑お掛けします!

そしてここあさん、いつかのIRCではまたすいませんでした><
カテゴリ整理助かります、ありがとうございます。