部屋ときゅうりと子供たち

サブGM [2012/08/10 21:05]

あれからアウラダは与えられた罰を従順に、そして誠実にこなした。

素直に自身の罪を認め、侘び、非難の言葉も投げられるままに頭を下げ回る姿。
それは一時期、あちこちで神殿関係者に目撃されたものだ。

それだけ声をかけていた相手と被害が多かった、という話であるのだが――、
しかし真摯な謝罪の姿勢を評価する人物も、ちらほら現れるほどだった。


とはいえ、多少株が上がったところで、そこら中で耳にするアウラダの噂話といえば・・・、
『今は謹慎中なんだって』『じゃあ、しばらく平和だ』
『それでもまだ声が聞こえるっていうんだから、しぶといよねアレも』
『ファリス様の寛大さもいつまで持つか』――などといった悲惨なものだ。


一方、アイーシャ司祭がイシュタルへの罰とアウラダの関連性を公開することは無く、
同時期にイシュタルがきゅうりを食べ始めたのを知っている
ごく親しい女性神官には二人の関係を訝しまれたりもしたが、
アウラダの噂に比べれば、イシュタルの噂などは無きに等しいと言えるものだった。



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アウラダの部屋のドアを開けたイシュタルの目に飛び込んできたのは、
乱雑に置かれた汚れ物でも、女性受けしか考えていないような気障な内装でもなかった。

物置のように沢山の物が積まれた二段ベッドの上から、床まで斜めに立てかけられた長い板。
これは下に倒れているおもちゃの馬車のようなものを転がすのだろうか?

また、同じくベッドの上からは糸で吊り下げた大小の重りがたくさん連なっている。
・・・揺らして遊ぶのだろうか。

酒びんを二つ繋げてある物もある・・・ひっくり返すと中の砂が落ちる仕組みだろうか。
他にも、手製のおもちゃが狭い部屋のそこかしこに置かれている。
まるで工作好きの子供部屋のような状態だった。

どの部屋にも置かれている書き物机は見る影もなく、工作用の作業台と化している。
台の上の羊皮紙には、書きかけの設計図。


ひどく混沌とした佇まい。
そのわりに、掃除と整頓は行き届いているようだが――。



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「ハハハ!」

イシュタルに胸の辺りをポンポンと叩かれ、
アウラダは同じようにイシュタルの頭をポンポンと叩き返した。
それから子供をあやすように頭を撫でる――自分は子供みたいな部屋で暮らしているくせに。

「結局手紙の主が見つからなかったのに、奢って貰えるとは光栄だよ。
 ほんとうは俺が君にきゅうりの酢漬けを奢るって話だったのになぁ。
 ま、そっちは十分間に合ってるみたいだが」

イシュタルの持ってきたピクルス皿をひょいと持ち上げる。
イシュタルは軽く抗議の声を上げたが、聞き入れられることはなかった。

それから窓際の木のシーソーを指さして、

「これを動かさなければ、秩序が保たれている――、
 という人がいるが、現実には食べきれないほどのきゅうりの酢漬けが存在している」

板の右側に皿を置いた。
ぎぃ、と音を立ててシーソーは右側に傾いていく。




「そうだな。
 ここに置かれているのは、仮に君の身長分の量のきゅうりとしよう。
 
 さて、これを『秩序ある形』にしたい。
 アリスちゃん、君ならどうする?」


・・・急に何言ってるのかしら、このお調子者。
そうイシュタルは思いつつも、一応謹慎中の暇つぶしになればと付き合うことにする。


「無理やり食べるか、そうでなければハザード河に身を投げるかのどちらかね」

「ハハハ、不貞腐れるなよ。
 ま、君はちっちゃいから沈まないだろうし、身を投げても安心だろうけどな。
 
 うん、頑張って食べるのはエライし、それも良い案だ。
 だけどこういうのはどうだい?」



そう言ってアウラダは立ち上がり、棚から一枚の皿とフォークを出してきて、
イシュタルの皿に乗ったピクルスを半分移してから、左側に乗せた。


「・・・シーソーの傾きを全て一人でバランスを取ろうなんてのはね。
 俺に言わせれば、土台無理なのさ。
 
 多ければ二人で分ければいい。
 それに楽しい。だろ?」


ぎぎ、と音を立て、シーソーは水平に近い状態に戻る。
アウラダは自分の皿を取り上げ、パクパクときゅうりを食べだした。


「ちょっと、これは私のなんだから・・・!」

「君のなら良いだろ、俺のにしても」

「そ、そんなわけ無いでしょう」

まあ、この緑色の悪魔を食べてもらえるならそんな有難いことはないのだが・・・。
それでもこれは自分に課せられた罰だ、イシュタルも慌てて自分の分を口に入れる。

「お、美味い。きゅうりの酢漬けって案外暑い時期に合うもんだね」



私はその最悪な時期が早く過ぎればいいって思ってるけどね。
・・・ああ、酸っぱい。



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『謹慎中のアウラダの部屋から、空いた皿を二枚持った女性神官が出てきたらしい』

――神殿内にそのような噂が流れるのは、もう少し後のことである。





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サブGM(Cocoa)より:


「特定困難きゅうり」これにて(GM側進行としては)終結!
いやぁ、ただの〆レスにひどく時間をかけてしまってすみませんでした(、、;
この3倍は書いてしまうほどいろいろ楽しかったです( ノノ)青春っていいですね!


もしまだ書きたい部分があるという方は、自由に書いてやってください。
(クーデルさん&GMはもちろん、アウラダを出してくださったがるふぉさんとか!猫とか!)

イシュタル視点としては、結局アリスを特定できてないわけですが、
『次からはアイーシャ宛にしてね』という追伸付きで、アイーシャは結局ニコルに返事を出したことでしょう。
それでニコルがどうなったかはご想像におまかせで(''*



■イシュタルへの報酬

経験点500 + (男友達が出来た夏の思い出)


クーデルさんからレス頂いた時点で決まってたわけですし
先に解放の旨書いておけばよかったですねハハハ...(すみませんすみません)
もう、とにかくお待たせしまして申し訳ないっ!

ということで。
イシュタル&クーデルハイツさん、ありがとうございました&お疲れ様でしたー!>w<