緑色の悪魔

イシュタル [2012/06/17 14:54]

「嫌いなだけで、食べられないわけじゃないでしょう」

言うだけ言って自身の皿を提げに行く同僚神官を一瞥しながら、私は自分の皿の上に残された"敵"を見つめた
私にとってはこの皿に残されたヤツは魔物にも等しい、何故我等が神はこのような悪魔の食物をお作りあそばせたのか...

「...食べられない訳じゃないわよ、でも食べなくたって死ぬ訳じゃないんだし...」

フォークで皿の上のピクルスを転がしながらブツブツと文句を言う、なんとかしてこの悪魔を処分できないものか...
残したまま皿を片付ければ煩く言われるし...かと言って食べるなんて苦行はしたくないし

大体キュウリならキュウリでそのまま出せばいいじゃない、酢漬けにする意味がわからないわ
これはもう私に対する嫌がらせとしか...等と考えていると

「あの・・・。あんた・・・
 "アリス"さん ですか?」

と声をかけられ、私は声の主へと振り返る、そこには少年の姿、多分...少年だろう
年がいってても私のような例外があるから外見で人を判断できないけれど

「確かに私はアリスと呼ばれているけれど...何か?」

「これ、そこに落ちてたんで」

愛想のない子ねぇ...とは口に出さずに少年が差し出した手紙を受け取る、手紙を受け取るとサッサと少年は踵を返してしまう
愛想と言うか礼儀と言うか、捕まえて色々と説いてやろうかしらとも思ったけれど...疲れるので止めにしよう
それにアレを皿に残したまま席を離れようものなら逃げたと思われるのは請け合いだ

とりあえず緑色の悪魔の事はちょっと頭の中から消し去っておいて、私は四角に折りたたまれた羊皮紙を開いた
手紙を送ってくるような相手には身に覚えがないけれどね

手紙の内容は私と同じファリス神官でアリスという名前の女性が妖魔を退治、村を救った事から始まったが
もうこの段階で私ではないと確信できる、一人で村を救うような度胸も実力もないし、そもそもそんな事をした覚えもない
第一私の名前はアリシエラだ、アリスは愛称であり私は人に自分の名を名乗るとき、相手が子供とは言え愛称を名乗る事はない
と言う事は"アリス"という名前を持った誰か別の人間なのだろう、私はこの段階で読むのを止めようかとも思ったが
盗み見ているわけではないし、とりあえず私に渡されたものなのだから、と読む事にした

「仲直りする方法...か、難しいわね」

全ての文を読み終えて私はそう呟いた、話の内容的にはきゅうりが嫌いなケリーという男の子がいて
手紙の差し出し主であるニコルという女の子が、きゅうりが嫌いなケリーは嫌いだと喧嘩したという大まかな内容だ
一般論から言えばケリーがきゅうりを食べれば丸く収まる、が子供に嫌いなものを食べろと言っても反発するだけだし
ニコルが折れて食べないなら食べなくてもいい、と言うのは元の木阿弥...これが年頃の男女ならば色恋を絡めて食べさせれば済むけど...

「............ふむ」

これは私宛の手紙ではない、だから私がこの手紙に答えを返す必要はない、が...
宛先が私ではないにせよ、この神殿に他に"アリス"と名乗る神官がいただろうか?私も全員の名前を知っているわけではない
仮定の話としてこの神殿の中にアリスが私以外にいなかったら、この手紙はどうなるのか?
返事も出されないままニコルという少女は何時までたっても返事を待ち続けるのだろうか?
少女は"アリス"という神官ならば返事をくれる、そう信じて手紙を出しているに違いない...違うアリスであるとは言え見過ごしていいのか
私は暫くの間悩み、結論を出した

「...とりあえず、他の神官に渡しましょう、私以外にもアリスと名乗る人がいるかもしれない」

「いたらいたでその人に返事を書いてもらえばいいし、もしいないのならば...私が書けばいい、騙す事になるかも...しれないけれど」

手紙をもう一度四つ折にし、私は席を立ち、食堂を後に...しようと思ったが

「そういえば...これどうしようかしら...」

机に置かれた皿の上に残された私の天敵はすでに時間がたって干からびたような感じになっている
食べずに戻すか...いや、そういえば手紙の喧嘩の理由もきゅうりだった...まぁ、私は酢漬けが嫌なだけできゅうりが嫌いな訳ではないけど
食べずにこの子の気持ちが理解できるのか、そう考えた私は...残されたきゅうりを全部口に放り込み、数回咀嚼して...水で流し込んだ

「う...気持ち悪い...こんなの食べなくて嫌われるのならどうぞご勝手にって言う気がするわ...手紙の主には悪いけど...」

今が夜ならお酒で口直しするのに...とか考えつつ、皿を片付ける為その場を後にした
手紙は...とりあえず見かけた適当な神官に渡せばいい、それで私以外のアリスが見つかればいい、そう考えながら...

----------------------------------------
PLより

酢漬けのきゅうり...PCどころかPLも嫌いですよ(何
天敵、悪魔の食べ物、緑色の悪魔などと散々な呼び方でピクルスを嫌っています
文中でも触れているとおりイシュタルはきゅうりとピクルスは既に別の食い物として認識しています
酢漬けが嫌いなのであってきゅうりが嫌いなわけではない、と(笑

手紙に関してはとりあえず同じ神殿にアリスという別の女性がいないかと他の神官に手紙を渡して確認します
少なくとも妖魔を撲殺できるほどウチのアリスは強くないので(笑
もしいなければ私もアリスだし、返事すっかーみたいな感じで返事を書きます

おかしなところ、ここは修正して、と言うようなところがあったらご指摘お願いします
リレーセッション自体初めてなので、正直自信があんまりなかったり...(汗