灰色神官

GM [2012/07/20 00:45]
「こらーーーーーーーーー!!!!」


ファリス神殿ではない場所で、ファリス神官が叫んでいた。

「あたしの持ち物に"アリス"って書いたの、あなたでしょーーー!!」

自慢のたわわな黒髪を揺らし、ジネブラが拳を振り上げて走る。

「あーあ・・・・・・」

彼女のお気に入りだった帆布の肩掛けカバンの、製作者の名が刺繍されたタグには、靴墨で小さく『アリス』と書かれていた。

「・・・・・・とれない」

擦ったせいで真っ黒に汚れが広がったタグをつまんだ後、ジネブラは目の前のオランの街道をゆく遠い男の背中へ、視線を飛ばした。


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またある時は、試験の答案用紙だった。


アウグスタは図書室で、返ってきた答案用紙の不正解箇所を調べていた。
自分の立場が多少変わるこの試験には合格したが、彼女は不正解の正しい解を知ろうとしていた。

調べ物に手間取り、思っていたより時間がかかった。
午後三時近く、アウグスタは水を飲みに行こうと、場所はそのままに図書室のその席を立った。
その際に一人の男とぶつかりそうになり、一言述べて見上げた顔は、アウグスタが苦手とする人物だった。

給水所から戻ったとき、彼女の答案用紙にはアウグスタの文字が消され、アリスと書かれていた。

(どういう・・・ことです、の?)

アウグスタは、苦手としていたあの人物のことが、ますます苦手になった。


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最早、見境ない。


"うなぎパンあります"
とのぼりを立てたパン屋の雇われ売り子。

「ジムー、ヒマだねー」

粉袋を食い破るネズミ退治の担当として飼われている黒猫に、
売り子のキムが声をかける。

ジムがミャアと返事した頃、濃青の麻ローブを羽織った男が来店した。

「いらっしゃい。今は豆のパンが焼きたてだよ!」

ローブの若い男は、ニヤリと笑う。

「じゃあそれを3つ、もらおうかな。
 ・・・君が今日から"アリス"って名乗り始めるなら、ね」

黒猫のジムが、にゃあと鳴いた。