困りごとが困る件について

GM [2012/06/20 20:51]
夕方、といっていいかもしれない。
青かった空の色が、黄色くなりだす頃。

朝から仕事をしたものは、そろそろ休もうと仕事を片付け始めるだろう。
そしていつものように、冒険者の宿だったジョージの店は酒場に変身する。


   カラン

焦げ茶の扉が開けられる。
ジョージはその方を向く。

入ってきたのは、知った顔の――例えばここに住む冒険者などの――人物ではない。
ないが、その顔をジョージはまだ覚えている。
・・・微かに。


「あの」

男は切羽の詰まった異様な雰囲気で、カウンターを挟んでジョージに寄った。

「ジャン・マルクル・ゴダールに渡して下さいってお願いした紙」

男は、

「返してください」

痛切な顔をしていた。



「・・・あん?」

ジョージはそれを直視できず、火のついた炭をトングでつつきながら、竈の様子を伺っていた。

「ジャンの部屋に置いてきたぞ、もう」

「・・・それ、ジャン・マルクル・ゴダールが見たかどうかわかりますk」

「知らんよ」

あ、と、ジョージは思いついたように顔を上げた。

「ああ、ああ。
 アイツ、読んでたぞ。思い出した」

昼間にジャンが『捨ててくれ』と出した紙がきっとそうだろう。ジョージはそう思いつく。

「それ、返してください!」

「できねえ」

カウンターに手をついて懇願する男に、ジョージは背を向けて竈をいじる。

――一度渡してジャンのものになったのを、オレがひょいとパクれるかってんだ。

だからジョージは、出来ない、という。
しかもジャンは特別だ。ジョージの宿において、有利なのは圧倒的にジャンだった。
あの草原妖精の気が変わり、ここを抜け出すといわれれば店の評判も変わってくる。
詮索・噂。
風説を操るくらい、あの、オラン有数の冒険者であり楽器弾きにはもはやたやすいだろう。

「返してください」

「できねえって」

男の顔色が変わった。
旧に大人しく、物分りの良い、穏やかなものへと変化したのだ。

「・・・そうですか。諦めます」

「ああ。すまんな」


そして、男は、

「ご迷惑おかけしたので、酒もらいます。
 飲んでいっていいですか」

「もちろん」

ジョージは竈をいじる手を止め、男に振り返った。


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GMより:
続きます!ちょっとここで区切らせて下さいまし!

続くよ!