伝説のリリック
他にも訪ねどころはあるだろうに、
今日の僕に限って、何故だかこんな街外れに赴いている。
時折、こういう現象・・・四十を越えたあたりからだと思う。
初老に達したからだろうか、と、半ば漠然、衰えの一環としての諦めもあるが、
どうにも自由意志とは言い難い、逆らい難い衝動という支配を感じながら、
今日もまたこのように、まるで自分が望み選んだかのように、
こんな街外れのクソしみったれたボロ屋、
アレルんちくんだりまで、のこのこやって来たのだ。
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用がないわけじゃない。
アレルと言えば、そのキザったらしいっつうか、
ナヨっちぃっつうか、カマヤロウっつうかの風体で、
盗賊組合の中でも浮い...目立った存在となっているが、
それ以外、
仕事の成功を重ね、着実に腕を上げてきている成長株として、
いずれなんらかの肩書きを背負う逸材なのではないかと、
鑑識眼定かな、ある方面の有力者、
或いはテメェの保身においちゃ鼻の良く利くチンピラどもの、
未来のリーダー格として、注目を集めている。
もっとも、中にはアレルの実力如何でなく、
"趣味"を満たしたいが為の存在として、手中に収めたいという輩も、
少なかないんだぞォーーーーッ!!ジョj
「 アレール!
アッレール!! アーレル!
居るんだろ、オレだ、開けろ、アレェール、
アレェ?アレル?アレルゥ!アッレェール!?」
・・・居留守かよ・・・ヤロウ、上等だ。
「...チッ、」
僕は舌打ちしながら、家のまわりをネチネチと練り歩いた。
「チッ」
「チッ」
「チッ」
「 アッレール!!クワバッラ!!
アッレール!!クワバッラ!! 」
ブチギレタ僕は、玄関の前で踊り狂った。
「アケロ!アケローン!!ギャオーッ!
アレルゥー、アレルゥーヤ!!アレリストッ!!
ドゥッ!ドゥーヤッ!ドゥヤッ!ドゥッ!
アッレール!!
アッレール!!
さっさとひっこーし、シバクゾッ!!」
干してある布団をバッシバシ引っぱたきながら、
フェスティバルは、今、最高潮を迎えようとしている。
ストリート生まれヒップホップ育ち。
絶え間なく続くコールアンドレスポンス。
オーディエンスの熱狂はこわいくらいだ。
『まだ俺らの時代は始まったばかりだ』
そんなメッセージが狂った朝の光にも似たビートに乗せて、
向かいのばあさんの口から飛び出していく ──────────
本物のヒップホップ。それがここにあるのだ。
我に返る。そんなばあさんいなかった。
僕は掘っ立て小屋のスキマから中をギョロギョロ覗き込んで、
落ち葉などを拾っては、またそのスキマにねじ込んだ。
リュートのストラップに、手が掛かる。
やめや、大人気ないやないか。
来て良かったと思う。
きっと、これでよかったんだ。
すごくスッキリした。
「あ、エッチしにいこ...」
スッキリで思い出した僕は、紫煙に煙る夜の街へと歩き出す。
なにしにきたのか、忘れた。
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心地よい疲れを帯びた体で帰ってくると、
「手紙が無い。」
現れたり消えたり怖いので、ジョージに聞いたら。
『思い出した』的な話をされて、
「おまえ、おかしいんとちゃう?」
率直な感想が、思わず口からこぼれる。
一瞬険悪になりかけたが、そこは僕が折れてやることにして、
「・・・そうか、じゃあ、今度こそ、
そいつがオレの部屋に勝手に入って、持ってったってことになるな。」
てっきり、密室ミステリーのド定番、
犯人は、まだ部屋から出てなかったのだ!!
一部始終を見てイタゾ・・・ジョj ──────────
という変態紳士からのファンレターかと思ってウキウキしていたのだが、
割と、フツウだった。
ガッカリしながら、不貞寝する。
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翌日、郵便が届く。
ペーパーナイフが震えて、封がバリバリになる。
トキメキが止まらない。
内容を読む。
ガッカリして、不貞寝する。
起き上がる。
アレルんちに行こうと思う。
続く。
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PL:
アレルんちに行く日課ができる。
しかし、アレルはいない。
そんなことは重要じゃない。
大事なのは、本物のヒップホップがそこにあるということだ。