伝説のリリック

JG [2012/06/23 00:04]

 他にも訪ねどころはあるだろうに、
今日の僕に限って、何故だかこんな街外れに赴いている。

 時折、こういう現象・・・四十を越えたあたりからだと思う。

初老に達したからだろうか、と、半ば漠然、衰えの一環としての諦めもあるが、

どうにも自由意志とは言い難い、逆らい難い衝動という支配を感じながら、
今日もまたこのように、まるで自分が望み選んだかのように、

こんな街外れのクソしみったれたボロ屋、


アレルんちくんだりまで、のこのこやって来たのだ。


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 用がないわけじゃない。

アレルと言えば、そのキザったらしいっつうか、
ナヨっちぃっつうか、カマヤロウっつうかの風体で、
盗賊組合の中でも浮い...目立った存在となっているが、


 それ以外、


仕事の成功を重ね、着実に腕を上げてきている成長株として、
いずれなんらかの肩書きを背負う逸材なのではないかと、

鑑識眼定かな、ある方面の有力者、
或いはテメェの保身においちゃ鼻の良く利くチンピラどもの、

未来のリーダー格として、注目を集めている。

もっとも、中にはアレルの実力如何でなく、
"趣味"を満たしたいが為の存在として、手中に収めたいという輩も、

 

少なかないんだぞォーーーーッ!!ジョj

 

「 アレール!

アッレール!! アーレル!

居るんだろ、オレだ、開けろ、アレェール、

アレェ?アレル?アレルゥ!アッレェール!?」


・・・居留守かよ・・・ヤロウ、上等だ。


「...チッ、」


僕は舌打ちしながら、家のまわりをネチネチと練り歩いた。


「チッ」


「チッ」


「チッ」

 

「 アッレール!!クワバッラ!!
  アッレール!!クワバッラ!! 」


ブチギレタ僕は、玄関の前で踊り狂った。


「アケロ!アケローン!!ギャオーッ!

アレルゥー、アレルゥーヤ!!アレリストッ!!

ドゥッ!ドゥーヤッ!ドゥヤッ!ドゥッ!

アッレール!!

アッレール!!

さっさとひっこーし、シバクゾッ!!」


干してある布団をバッシバシ引っぱたきながら、
フェスティバルは、今、最高潮を迎えようとしている。

ストリート生まれヒップホップ育ち。

絶え間なく続くコールアンドレスポンス。

オーディエンスの熱狂はこわいくらいだ。

『まだ俺らの時代は始まったばかりだ』

そんなメッセージが狂った朝の光にも似たビートに乗せて、
向かいのばあさんの口から飛び出していく ──────────

 

本物のヒップホップ。それがここにあるのだ。

 

 

 我に返る。そんなばあさんいなかった。


僕は掘っ立て小屋のスキマから中をギョロギョロ覗き込んで、
落ち葉などを拾っては、またそのスキマにねじ込んだ。


リュートのストラップに、手が掛かる。


やめや、大人気ないやないか。


来て良かったと思う。

きっと、これでよかったんだ。

すごくスッキリした。


「あ、エッチしにいこ...」


スッキリで思い出した僕は、紫煙に煙る夜の街へと歩き出す。


なにしにきたのか、忘れた。


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 心地よい疲れを帯びた体で帰ってくると、


「手紙が無い。」


現れたり消えたり怖いので、ジョージに聞いたら。

『思い出した』的な話をされて、


「おまえ、おかしいんとちゃう?」


率直な感想が、思わず口からこぼれる。


一瞬険悪になりかけたが、そこは僕が折れてやることにして、


「・・・そうか、じゃあ、今度こそ、
そいつがオレの部屋に勝手に入って、持ってったってことになるな。」


てっきり、密室ミステリーのド定番、

犯人は、まだ部屋から出てなかったのだ!!

一部始終を見てイタゾ・・・ジョj ──────────

という変態紳士からのファンレターかと思ってウキウキしていたのだが、

 

割と、フツウだった。

 

ガッカリしながら、不貞寝する。

 

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 翌日、郵便が届く。


ペーパーナイフが震えて、封がバリバリになる。


トキメキが止まらない。


内容を読む。


ガッカリして、不貞寝する。


起き上がる。


アレルんちに行こうと思う。

 

続く。

 

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PL:

アレルんちに行く日課ができる。

しかし、アレルはいない。

そんなことは重要じゃない。


大事なのは、本物のヒップホップがそこにあるということだ。