間違い手紙

アレル=リリー [2012/06/17 23:56]
人間、誰しも苦手分野というものはある。
全てにおいて完璧な人間など居るわけもないし、
そんな人間が居てもつまらないだけだ。
だから、苦手分野があるというのはむしろ普通のことで、
それがあるからといって恥じる必要は皆無なのである。
まぁ、そもそも自分は人間じゃないんですけど。


で、そんな自分の苦手分野は何かといえば・・・・

「今日こそは、掃除しないといけませんね・・・」

そう、掃除である。
いや、掃除というか、家事炊事全般が自分の苦手分野だ。
特に料理はひどい。特に料理はひどい。
特にひどい料理なので2度言いました。

大体、あれですよ。
結構定期的に掃除は行ってるはずなのに、こんなに汚くなるなんてありえないですよ。
蜘蛛の巣は張りまくられるし、埃は積もりまくられるし。
これはもう悪いのは自分ではなく彼らなのではないでしょうか。
彼らが頑張りすぎなだけではないでしょうか。
そう現実逃避した思考に走る。


その思考を現実に引き戻したのは、2度の乾いた音。
コンコン、という、ノックの音。
続いて家の中に聞こえる、肉声。

>「14丁目3番地はこちらですか」

身動き一つせず、その声を聞いている。
住所?一体どこの?
もしかして、この家の住所だろうか。
そういえば自分は空き家だったここに勝手に住み着いてる身なので、
この家の住所を知らなかった。
なるほど、ここは14丁目の3番地だったのか。


自分がそう心の中で納得していると、扉の外に居た気配が、遠のいていくのを感じた。
扉のほうをよく見ると、どうやら下の隙間に何か差し込まれているようだ。
人の気配が完全に消えたのを確認した自分は、物音を出さずに扉に近づき、
差し込まれていたソレを引き抜いた。



「紙・・・・・・いや、手紙?」

差し込まれていたものの正体を認識して、疑問の声を上げる。
おかしい、自分でさえ知らなかったこの家の住所宛に、手紙が届くなんて。
友人の誰かが住所を調べて手紙を出した?
いや、そもそも友人なら、手紙など使わず直接自分と話をするだろう。
では遠いところにすんでいる知人か?
いや、だったらそもそも住所を調べようがない。だから手紙も届かないはず。
だとすると・・・・・

「・・・とりあえず・・・読んでみますか。」

そこまで言っていったん思考をストップさせ、手紙の封を開いた。




「・・・・なるほど・・・これは・・・」

全てを読み終えて、一拍置く。
そして、手紙を机の上に放り投げた。

「なんだ、間違い手紙ですか。」

恐らく、アンソニーという人は放蕩人で、ニナという人に、でたらめの住所を教えていたのだろう。
で、ニナという人はその住所を信じ、この手紙を出した。
そしてその住所がたまたま自分の家だったと。
なんというかまぁ、偶然に偶然を重ねた結果の結末だったわけですね。

「はぁ、馬鹿らしいです。無駄な時間をすごしました。
自分は掃除をしなければならないというのに。」

そう言いながら手紙に背を向け、掃除を始めようと準備をする。


・・・・しかし、出来ない。
数分後自分は、再びさっきの間違い手紙と向き合っていた。

「返事、だしてね・・・・・ですか。」

手紙の一文を読み返す。
彼女・・・・ニナさんは、アンソニーさんからの返事を欲しがっている。
もしここで自分がこの手紙を無視したら、ニナさんはまた手紙を送ってくるかもしれない。
それは困る。自分もそれの処理をしなくてはならないし、ニナさんも貴重な羊皮紙を消費することになる。
それでは誰も得をしない。
だから、ここで自分のするべきことは・・・・・

「・・・まぁ、ちょうど住所も書いてありますし、返事を一回返すくらいいいでしょう。
掃除はそれからです。」

誤解を解く。それが自分の至った答え。
机上の羽ペンを手に取った。



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ニナさんへ


まず最初に、アンソニーさんからの返事を期待してこの手紙を開いたなら、お詫び申し上げます。
ですが、このまま返事を返さずじまいでは、誰も得をしないのではないかと思い、ここに筆を取りました。

初めまして。自分の名前はアレル=リリーといいます。
貴方が手紙を差し出した、『14丁目3番地』の家の住人です。

ご存知の通り、自分は貴方の・・・・恐らくご家族の、アンソニーさんではありません。
恐らくアンソニーさんは、貴方に本来の住所ではない場所を教えたのだと思います。
それがたまたま自分の住んでいる家の住所だったのでしょう。

という訳で、この住所に手紙を送っても、貴方の望むものは得られないと思います。
貴方の期待を裏切ってしまったようで、申し訳ありません。

お詫びといっては何ですが、自分も微力ながら、アンソニーさんをお探しする手伝いをしたいと思います。
よければ、アンソニーさんについて、少しでもいいので教えてもらってもいいでしょうか。
強制は致しません。嫌だというのなら、返事は返さなくても結構です。



では、貴方達ご家族の、ますますのご健勝を祈って。




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「こんなもんかなっと。」

全てを書き終わった後、ペンを置く。
最後のほうは、自分のお節介心が出てしまった。
まぁ、これはこれでいい暇つぶしにはなると思いますし、
それに・・・・・家族が離れ離れなんて、そんな悲しいことはないでしょう?
だから、彼女達が無事また顔を合わせられればいい・・・そんな自分の願望も込めて、
最後の分を書き足した。

「さて・・・・アンソニーさん・・・・・か。」

望みなんてあんまりないけど、とりあえず動ける範囲で動いてみようかな。
そう思って家の扉を開ける自分の脳内には、
掃除のことなど、すっかりかき消されてしまっているのでした。






PL
始まった!よろしくおねがいしまーす!
アレルは手紙の返事を書いた後、
ギルドやら冒険者の店やらでアンソニーさんについて少し聞いて回りまーす。
まぁ今の段階じゃ情報なんて出ないと思うので、
「こういう人探してるからよかったら教えてねー。もしかしたらまた聞きにくるかもー」的な感じで!