見つかった尋ね人

サブGM [2012/07/03 23:07]
ジャンは物陰に隠れ、
とてつもなくヤバイ女の所業、あるいは儀式を見守る。

イカれてやがる、あの女――化けモンじゃねぇか?



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アレルの注文を受けたジョディは、カウンターの奥の調理場に引っ込んだ。
ほんのりと香ばしい匂いと、ぐつぐつと煮立つ鍋の音が店先まで届いている。
少し遅い朝の中央通、穏やかな時間の流れ。

まるでその流れに棹さすように、アレルは人差し指を、す、と立てた。


「一つ。つい先日、自分の家に手紙が届きました。
 住所も差出人も宛先も知らない、間違い手紙です。」
 
――アンソニーの商売用の笑顔が固まった。間違い、手紙、だと?


「そしてその手紙には、"お肉屋さんに言えば、手紙を届けてくれる"と、
 そう書かれていました・・・・・。」

「あ、あんのやろう・・・ッ! まるでわかっちゃいねぇッ」

天を仰ぎ、小声で悪態をつく。
この間のこと、そして間違い手紙が届いたという気障な客。
そうか、よりによって!


「・・・ホプキンスさん。貴方は、"14丁目3番地"に手紙を届けましたか?」

「・・・・・・ああッ」

どんっ。
手をつき、カウンターからぐっと乗り出す。
よりによって、

「・・・お、お前、なんでそんなわけの分からん住所に住んでやがるんだよッ・・!!」

アンソニーは押し殺した声で、目を剥き、アレルに向かって恨み言を投げつける。
それからハッと思い直したように、首を横にぶんぶんと振り、

「――いや。すまん、アンタは悪くないよな、ああ、悪くない・・・そうだ・・・」

観念した、という表情で、カウンターの上に力なく崩れ落ちた。
しょんぼりとした初老の店主は、なんだか先ほどまでよりもとても老けて見える。



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「・・・全部、悪いのは俺なんだよ」


カウンターの奥の調理場から、ぐつぐつ、ことことと鍋の音が響く。

「ニナは・・・俺の昔馴染みだ」

「この辺の通りはな、数十年前はもうちょいと店もまばらでな。
 丁度いい子供の遊び場で――俺とニナの庭のようなもんだった。
 ああ、何が楽しかったんだかわかんねぇけど、二人で石畳の数を日がな一日数えたりなんかしてなぁ・・・」

この店の客は現在アレルの他には居ないが、後ろの通りは絶え間なく人が通って行く。
きゃはは、と声を上げながら小さな子供たちが走っていった。

「それから俺が16の時だ。親父と喧嘩した勢いでな、
 肉屋なんてやってられるか、俺は冒険者になる、なんてな、ここの家を出たんだよ。
 ま、あれだ。俺も若かったんだ。
 
 ・・・それからはお決まりのコースだ。
 しばらくは調子よく行ったが、ある時でかいヤマにぶちあたって仲間が沢山死んじまった。
 俺も足をやられちまったし、情けない事に怖くなってなぁ、引退せざるを得なかったよ」

よくよく見れば、アンソニーのがっしりとした腕には古い傷のようなものが大きく残っている。

「ま、それはいいんだ、旅の中で肉の取り扱いにも慣れたしな。
 ちょっと遠回りだったがいい修行だったよ、はははッ。
 
 だがなぁ、俺がオランに数年ぶりに戻ってきたらよぉ。
 
 ――ニナまで、死んじまってたんだ」

流行病だった、ニナは運が悪かったんだ――とニナの母親からは聞いた。
だが気を落としたからか、それからすぐにニナの母親も悪い風邪を抉らせて死んでしまった。


「――それから俺はこの店を継いだ。
 あのホプキンスの放蕩息子に務まるわけがない、っつーんで最初の評判は最悪だったけどよ、
 それでもがむしゃらにやってりゃなんとかなるもんだなァ。
 仲間と俺の治療費で作った借金も、何とか返せたぜ。

 そんで仕事に明け暮れてただけのジジイに、今更綺麗なヨメさんが出来たりしてよぉ、ははッ。
 幸せってのは、こういう事なんだろうな、って思うぜ」

その様子からして新婚なのだろう、ジョディの話題には、ニヤニヤと嬉しそうな様子を隠せない。
喜びに輝いたその目は、間近で見ると少しグリーンがかって見えた。
加齢で濁っているが、昔は綺麗な緑色だったのかもしれない。


「まあ、そんでジョディが来てくれてから少し暇ができるようになってよ。
 ある日、昔使ってた俺の部屋を片付ける事にした。
 笑ってくれよ、数十年間、そんな事にも気が回す余裕が無かったんだよ。
 
 ――そしたら、ニナからの手紙が出てきた」


喧嘩して家を出たときのそのまま、乱れに乱れた部屋の中から、見覚えのない木の箱が出てきた。
中には古い羊皮紙が沢山詰まっている。
どうやらニナが病気の間に書いていたものらしい。

長い時を経た手紙はボロボロでほんの一部しか読みとる事はできなかったが、
アンソニーが推測するに、どうやらニナはアンソニーの父親にこれを託していたようだ。

"もし行方が分かったら、アンソニーに宛てて届けてください"、と。

放蕩息子たるアンソニーはもちろん父親に行方なんか知らせなかったから、
仕方なくここに置いてあったのだろう。


「中身は・・・ま、あれだ、詳しくは言わねぇけどよ。
 俺が家を出る前に、いや、ニナが死んじまう前に読んでりゃあな。
 俺はいまごろ、ニナと一緒に暮らしてたかもしれねぇな、と思うようなもんだった」

――それか、俺があいつの気持ちに気づいてやっていればな。

まあ、全部もう遠い昔のことだ。
そうアンソニーは力なげに笑う。

「・・・迷ったが、俺はその古い手紙を箱ごと燃やしたんだ。
 ジョディの知らねぇ昔の事を考えてジメジメしてたらよ、あいつに悪いからな」

肉屋の小さな裏庭、昔良く遊んだその場所で。

「だがその晩からだ、俺はニナの夢を見るようになった。
 窓の外から声が聞こえるんだよ、"わたしの手紙を届けて"ってなぁ......。
 
 あんまり俺がうなされるもんで、ジョディは心配して神殿に相談しにいったらしい。
 気が落ち着くまじないも何度か掛けて貰ったが、一番効いたのはお祓いだったかもな。
 しばらくして、夢は見なくなったんだ」

「そしたらよぉ、ある日だ。
 店宛てに手紙が届いた――ああ、もう死んだニナからだよ!」

そうとうゾッとしたのだろう、その事を話すアンソニーの顔は青い。

「そうさ、何だかしらねぇが、
 ニナは肉屋に手紙を出せば俺の親父に届けて貰えると思ってるんだ。

 でもアンソニーは俺なんだが、でも俺じゃないんだ。
 死んだニナの中じゃあ、あの頃から時間が止まってやがる・・・」

アンソニーはこのジイさんだ、そう伝えたところでニナは喜ぶだろうか?

それに、死人から手紙が来たなんてジョディに言えば。
とうとう俺が狂っちまったと不安がるんじゃないか。
いや、それどころか気味が悪くて家を出ていっちまうかもしれない。
いや、今のジョディに負担を掛ければ、腹の中の子はどうなる?
――それだけは、避けたい。


「だから、俺はジョディに黙って返事を返したんだよ。

 "アンソニーは14丁目の3番地に住んでると聞いた。それ以上は知らん。
  今まで来た手紙はこっちで届けておいた。
  だから、次からは直接そっちに手紙を出すように"

 ――ってな。
 それで手紙が戻ってくるか、返事が戻ってこないかすりゃあ諦めるだろうと。
 
 で、しばらく忘れていたら、今日だ。
 てっきり、その銀色の髪を見て、ついにニナが化けて出てきたのかと・・・。
 
 まさか、そんな聞いたこともない住所が存在してて、住んでる奴がいたとは・・・。
 本当にすまん、お前さんにはとんだ迷惑をかけちまったなァ・・・」

バツの悪そうな顔で、頭を下げるアンソニー。

「まあ、そんなワケだ。
 見も知らぬお前さんにはこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかねぇ。
 来た手紙は捨てちまってくれよ、あとは元凶の俺がどうにか・・・」

「・・・・・・どうすりゃいいんだか・・・わかんねぇけどよぉ・・・」

焦燥した様子でアンソニーが頭を抱えると、
カウンターの奥から、何も知らぬジョディのごきげんな鼻歌が響いてきた。
なんとも可愛らしい。

「・・・あぁ、どうにかしなきゃなんねぇんだ、大丈夫だ、どうにかする!
 だから、お前さんちに届いたおかしな手紙のことは忘れてくれ。
 ほんと、変なもんに関わらせちまって悪かったな」


そこまで話すと、もうすぐ鳥肉は茹で上がる頃合いだ。




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サブGM(ここあ)より:

大変、おまたせしました...っ。
鳥さんの投げ込んだ設定が事件の中心になるって面白いなとか張り切ったものの、
まとめるの案外大変だったでぇ。。><
でも、楽しい。
というわけで、アレル探偵のシティルート、いきなりの真相編ですっ

ニナは古い手紙の入っていた箱に取り付いていた幽霊で、
箱を燃やされてしまったために居場所をなくし、自分の住んでいた家(のある場所)に戻りました。
(物品に取り憑いたファントムが、物品を壊されるとどうなるか分からなかったのですが、
 今回はその時にスペクター化したという感じで考えてます)

それからニナ家の現在の住民か、
あるいは裏庭付近をたまたまほっつき歩いてた可哀想な女性あたりに憑依し、
アレルと文通することになったというわけです。
幽霊なので、どうもいろいろと意識がブレているようです。

ジャンが見たへんな女は、たぶんそのニナが取り憑いた女性なのでしょう。
......または、まったく関係ないアレルのヤバイストーカーかもしれませんが(''*
少なくともパティじゃないですYO!w

というわけで、アレルは家に帰ればへんな女の足跡を追うこともできますし、
もしかしたらジャンに聞いてみることもできるかもしれませんし、
葉っぱに紛れて新しい手紙が隙間に詰まっているかもしれませんし、
もともと手紙に書かれているニナの住所を訪ねれば、ニナの取り憑いた女性に会う事は可能でしょう。
また、今まで通り住所に手紙を出せば、ニナ(&女性)の元には届きます。


アレル探偵はこのゆうれい手紙事件を解決してもいいし、しなくてもいい。
幽霊が取り憑いてオランの街中をうろうろしているわけですから、
ほっておいても時間の問題、そのうち誰かに見つかって除霊されることでしょう。

もし展開に必要ならば、NPC等の反応も作っちゃってOKです。(ニナ含む)
もちろんレスが必要そうならこちらから返します!(''