それぞれの

アレル=リリー [2012/07/05 01:57]
ホプキンスさんから、事の顛末を全て聞いた。

彼が自分の探していた"アンソニーさん"である事。
ニナさんは既に死んでしまってるという事。
昔は冒険者だった事。
その後親の店を継ぎ、ジョディさんというパートナーを手に入れた事。
ニナさんの手紙を見つけた事。
それを燃やした事。
死んだはずのニナさんから手紙が届いた事。
それを適当な住所に誘導したら、自分が来た事。
全てを、彼の口から聞く。


>「まあ、そんなワケだ。
> 見も知らぬお前さんにはこれ以上迷惑を掛けるわけにはいかねぇ。
> 来た手紙は捨てちまってくれよ、あとは元凶の俺がどうにか・・・」

>「・・・・・・どうすりゃいいんだか・・・わかんねぇけどよぉ・・・」

言いながら、頭を抱えるアンソニーさん。
厨房からは、ジョディさんの鼻歌が聞こえてくる。

>「・・・あぁ、どうにかしなきゃなんねぇんだ、大丈夫だ、どうにかする!
> だから、お前さんちに届いたおかしな手紙のことは忘れてくれ。
> ほんと、変なもんに関わらせちまって悪かったな」

「そう・・・・・ですか。分かりました、そうしましょう。」


本当にそれでいいのか。
頭の中で疑問が反響するが、それを無視して、そう答えた。
奥からは、肉の焼ける香ばしい匂いがする。
そろそろ完成だろうか。




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「・・・・・やっぱり、納得は出来ませんね。」

数日後、自分はかつてニナさんが住んでいたという家の前まで来ていた。
最初は手紙に書かれていた住所がニナさんの家なのかと思ったが、どうやらそれは違ったようで、
実際には、自分とは違う方向の街外れにあったボロ家がそうだった。
時刻は夜。
自分は今から、"あるもの"を手に入れるために、この家を捜索する。
頭には通気性の良い鬘。なぜかドアノブに掛かっていたので、持ってきた。
一応これで変装にはなってるだろう。

「しかし・・・・これはまたひどく荒廃した家ですね・・・・」

目の前の建物を眺めてそう呟く。
もう何年、いや何十年も人が住んでいなかったのだろう。
壁の木は剥がれ、柱は押せば動き、今にも崩れてしまいそうだ。
ギルドで過去の情報を集めていなければ、ここに人が住んでいたかどうかも分からなかったかもしれない。

「まぁ、見つけたからには、こっちのものです。
探し当てますよ・・・・・・ハッピーエンドへの切符を。」

そう意気込み、今にも崩れそうな家の中に、足を踏み入れていく。



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「ほんと、どうすっかなァ・・・・・」

あの"14丁目の3番地"の住人が帰った後、俺は頭を抱えて悩んだ。
もちろん店は閉店まで続けたさ。親から受け継いだもんに泥は塗れねぇからな。
だが、店を閉めた後は・・・・・俺はずっと、部屋に篭りっ放しだ。

「アンちゃん、大丈夫ぅ?」

あまりに篭りすぎて心配になったのか、ジョディが扉の向こうから声をかけてくる。

「ん、あぁ、大丈夫だよ。」

そう答える。ジョディに心配はかけられねぇからな。・・・・・そう、かけられねぇんだ。
さっさとこの件は終わらせちまわねぇと。
ジョディにも、生まれてくる子供にも、こんな顔は見せられねぇ。

「ふうぅぅぅぅぅぅ・・・・・よし、考えろ、俺。」

深呼吸一つ、気持ちを切り替える。

まず今のニナの状態から考えようじゃないか。
俺の冒険者としての経験が語るに、今のニナは『怨霊』のような状態になっちまってるんだと思う。
怨霊・・・・つまり、アンデッドってやつだ。
アンデッドっていやぁ・・・・あいつに頼るしかねぇなァ。
俺と同じ、例の事件での数少ない生き残り。
あいつのコネのおかげで、俺も助かったんだよな。
一度返した借りをもう一回借りるのはちょっと気が引けるが・・・・今はそんな事は言ってられねぇ。
早速明日あたりにでも、あいつの元を尋ねてみるとするか。



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「これでもない・・・・これも違う・・・・」

ボロボロの家の中を漁る。
腐食した木が、廃れた家具が、積もった埃が散乱した家内。
一見して、どこからどこまでが部屋なのかも分からない。
そんな家の中を、漁る。
いい気はしない。
家主が死んでしまった家を漁るなんて、誰だっていい気はしないだろう。
でも、自分は漁る。
それが自分の、役目のような気がしたから。

「・・・・・!ここ・・・・」

見つけたのは、ベッドのある部屋。
ぱっと見、今までの部屋となんら変わりはない。
腐食した木、廃れた家具、積もった埃。
でも、その中に埋もれている、可愛らしい小物類であっただろう物が、
この部屋の住人が年頃の少女だったのだと告げる。

「女性の部屋を漁るのは気が進みませんが・・・・許してくださいね、ニナさん・・・」

そう言いながら、部屋の瓦礫をひっくり返す。
探し物を探し当てるために、部屋の隅から隅まで探し回る。
でも、無い、無い、無い。
ここには何もないのだろうか。絶望が頭を支配する。
残るはこの部屋のベッドのみ。ここになければ、もう・・・・・
暗い気持ちで、ベッドを調べる。




―――そこに、あった。



「・・・・・!」

見つけたそれに息を呑み、破れないように注意しながら、広げる。
目がそれに刻まれている文字を追う。
・・・間違いない。

「・・・・・見つけた・・・・・!」

歓喜の声をなんとか抑え、夜の闇に紛れて自分は走り出した。



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あいつのところに言ったら、「数日後にもう一回来てくれ」だと。
んで、今日がその数日後。

ニナには、手紙を出した。
アンソニーを見つけた。○月×日の夜に、ある場所に来てほしいって内容の手紙だ。

店は今日は休業にした。
ジョディには、旧友と久しぶりに飲みにいって来るって言い繕った。
最愛の妻に吐いた、最初の嘘だ。
この嘘を帳消しにするためにも・・・・今日で終わらせてみせる。
そう決意して、俺は家を出た。



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「い・・・居ない・・・・・・!?」

「そうなの、ごめんねぇ。」

夜分遅くに申し訳ありませんとアンソニーさん宅の扉を叩けば、出てきたのは寝巻き姿のジョディさんだった。
聞けば、アンソニーさんは朝早くから出かけているらしい。

「朝早くからこんな時間までですか!?」

「うん、旧友と飲みに行くって。」

いくらなんでも、遅すぎる・・・・・!本当に飲みにいったのだろうか・・・・
・・・・もしや・・・・まさか・・・・

「アンソニーさんは、飲みにいく以外には何も言ってませんでしたか?」

「うーん・・・言ってたってわけじゃないけど・・・・そういえば前に一度、
神殿のほうに行くって言ってたなぁ。そのときはすぐ帰ってきたんだけどぉ。」


神殿・・・・・間違いない・・・・!

「・・・・アンちゃんねぇ、何だか思いつめた顔してたよぉ。
旧友と飲むのに、まるで自分で自分を追い詰めてるような顔だったなぁ。」


「・・・・アンソニーさんの行き先に、心当たりはありませんか?」

「うん、あるよぉ。アンちゃん前、自分の思い出の場所だって連れて行ってくれた場所があるんだ。
昔はよく幼馴染の子とここでよく遊んだんだーって。」


「よければその場所。教えていただきたいです。」

「いいよぉ。でもぉ・・・・一つお願いしてもいい?」

「なんでしょう?」

「アンちゃんをねぇ、助けてあげてほしいんだ。
多分今ね、、すごく心に余裕がなくなってると思うの。だから変なこととかするかもぉ。
もしそうなったら、止めてあげてほしいんだ。ちょっとくらい手荒にしてもいいよぉ。」


「いいんですか?」

「うん、アンちゃんが帰ってきたら、私が慰めてあげるんだぁ。
おいしい料理作って笑顔で迎えてあげてぇ・・・・
ふふ、私って良いお嫁さんでしょ?」


「・・・えぇ、本当に。アンソニーさんがうらやましいです。
・・・では、行ってきます!」

「いってらっしゃい~」


ジョディさんの声を背に、再び走り出す。
間に合うといいけど・・・・・!









PL
あまりにも長いのでここで一度区切り!
明日にでももう1つ投稿します!
終末に加速するぜ!


アンソニーはこの件を終わらせるために旧友の神官から祓魔用のアイテムを貸してもらう。
そしてニナを祓うために、ニナスペクターをある場所に呼び出し、自分も店を開けて出て行ったという感じ。

ジョディはアンソニーの嘘を実は見破ってたりすると燃えますよね(キリッ