動く、時
サブGM
[2012/07/13 02:13]
なぜか、ここは昔から変わらない。
誰かが廃材を積んでそのまま場所ごと廃棄されたような、
大都市特有のせわしない時間の流れから取り残された小さな空間。
今夜の月は美しい。
それら全てが夢のなか、幻のように思えるほどだ。
その光に照らされた小さな空間で、
過去に生きるものと、今を生きるものが相まみえ、
過去を問い、今を叫び、廃材ががたがたと浮き、
そして――。
――瞬く間に、アレルが飛び込んだ。
ガンッ。
白い肌に流れる暖かな赤いもの。
......これは幻ではなく、ひとの血だ。
「おいニナッ!!!だいじょ・・・」
「ああああああッアンソニぃいいいッ!!!」
そう同時に叫んでから、
「・・・・・・?!」
ふたりはそれはお互いのものではないと知り、我に返る。
そして、
止まった針が動きだした。
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ニナは身体が弱いというわけじゃあなかったが、何より細くて小さいやつだった。
だから近所の悪ガキどもに目を付けられることも多く、よく面倒を見てたもんだ。
「おいバカども、おまえらも串焼きにされたいってのか!
それとも・・・ミンチにされてぇのかァッ?!」
俺が肩をいからせて怒鳴っときゃぁ、オランの中央通に敵うやつはいねぇ。
大抵俺はガキどもを一喝して散らしたあと、何となくここまで二人できたもんだ。
よく、心配して言ったっけな。
「おい、肉食えよニナ。肉。食わねぇと死ぬぞ?
めちゃくちゃ細いじゃねぇか」
「えーっ、やだやだ、アンソニーんちのお肉好きじゃないもん!
ちょっとくさいし!」
「こんの、てめぇ! 言いやがったな!
それがオトナの味だろうが!」
べしっ、と銀色の小さい頭を叩くことなんかは日常茶飯事だ。
「「あはははははっ」」
俺の評判は当時から最悪で、ニナの母親にも良く付き合うなと言われたもんだ。
それでもニナは俺を慕ってよく後からついてきた。
考えてみると、そんなガキ大将を慕ってくれたってのに、何にもしてやれなかったな・・・。
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「・・・なんだ、そんな事かよ」
思わず、口をつく。
――"もう一度抱きしめてほしい"。
ニナの願いはまるで子供見てぇなモンだった。
もっともっとしてやれなかった事は沢山あったろうに。
畜生、
「遅ぇんだよ、てめぇ」
気づくのが、遅ぇよ。
がくり、と膝をついて、ニナ――だったもの――を見上げた。
ああ、銀色に透き通ってるなぁ。
・・・あれからこんな綺麗になったんだな、お前。
いや、この世のものじゃないような美しさってのは、こういうのを言うのか?
「・・・・では、抱きしめて差し上げてはいかがですか?」
変な所に住んでる姉ちゃんが、ニィと口の端を歪めながらそういった。
「え・・・でも・・・」
「そうだ、今のニナは幽霊なんだぜ?抱きしめてやろうにも俺じゃ触ることもできねぇ。」
こんなもん、触ったらバチがあたりそうだ。
俺が触れるようなもんじゃ・・・。
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サブGM(ここあ)より:
続く!