オランの人々

サブGM [2012/07/13 22:43]



「・・・おおっと! そうだ兄さん」

別れ際、アンソニーがアレルを呼び止めた。

「肉が食いたきゃいつでも来てくれよ。
 タダってのは流石に厳しいが、兄さんには特別に安くするからよ!」

「それと、少し落ち着いたら礼を送らせてもらうぜ。
 つっても、ウチにゃ金もねぇしそんな大したもんは無理だけどな」

寝不足が続いていたのか、目の下には隈が残ったままだ。
それでもアンソニーはすっきりした表情で、にやりと笑ってこう言った。

「宛先は、"14丁目3番地でいいんだろ?"」



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「それ、結局使わなかったんですか」

ことん。
と大きな羽根のついたペンをインク瓶に立てながら、
仰々しい祭服を身に纏った壮年女性が顔を上げる。


「ああ、ああ、いいんですよ。
 使わないで済むには越したことはないのです、
 そういったもので強制的に浄化するということは、やはり最終手段ですから」


頭を下げる男に対し、ゆっくりとした穏やかな口調で取り成す。

男からペンダントのようなものを受け取り、


「わたくしもあれや、これやと、忙しいものですから。
 またいつでもすぐに――とはいきませんけれど・・・」
 
「・・・ふふ。
 貴方の目を見ていると――あの冒険の日々を思い出しますね」

司祭は大きな窓枠の向こうを見つめる。
窓からは明るい日差しが長い筋となり、絨毯をきらきらと照らしている。


「アリス様、お時間です」

ノックの音と共に、ドアの向こうから若い神官の声。


「・・・さあ、昔話はもう終わりね。
 
 またいつか会いましょう。
 "貴方に至高神のご加護がありますように"――」

聖印を切る。



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オランの昼下がり。
今日も変わらず、中央通は人でごった返している。


「あ、エグちゃぁん! いらっしゃぁい。
 今日は、お友達も一緒?」


たまにはあの店に――そう思い立ったエグランチエは、
タリカと共にバッファロー・ビル精肉店を訪れていた。
肉屋の奥さんは、相変わらず綺麗で元気そうだ。
しかしかなりお腹が大きくなってきている。

「そうそう、もうすぐねぇ、生まれるの」

それでもいつもどおりテキパキと注文をこなしながら、
幸せそうにエグランチエとタリカに話しかける。

店の奥には、黙々と肉を切り捌いている店主の姿が見える。
・・・普段は元気な店主なのだが、今日はいやに静かだ。


「ねぇねぇ、聞いてぇ?
 こないだアンちゃん――、あ、ウチの主人がね?
 
 朝になるまでずーーーっと友達と飲んで帰ってきてね、
 へらへらへらへらしちゃってさぁ、
 それが収まったと思ったら、
 急に子供の名前を変えたいって言うんだよぉ。
 もう、とっくに二人で決めてたのにぃ。
 ひどいよねぇ?

 だから私ぃ、『アンちゃん、飲み過ぎだよっ』って言ったの。
 うふふっ」


「・・・だから、反省してるって・・・」

――よく見ると店主の頬が少し赤く腫れている気がする。
店主が至ってまじめに、粛々と作業に取り組んでいるのは
妻の怒りが通り過ぎるのを待っているということらしい。


「でもね」

肉屋の妻は、声をひそめ手を添えて、
エグランチエとタリカにだけ聞こえるように続けた。


「女の子だったらニナ・・・っていうのは絶対! 却下だけどぉ、
 男の子だったらアレル・・・っていうのはぁ、わたしも良いかなぁ~って思うんだぁ。
 英雄の名前なんだって。
 ね、いいよねぇ?」

アンちゃんには内緒ね、これはあのお店のお菓子買ってもらうまで内緒なの。
そう言って、妻は目を細める。
歳の差夫婦ではあるが、どうやら妻のほうが上手らしい。


からんからん、とサンダルを踏み鳴らして、
近所の親子が鼻歌交じりに通りすぎていった。



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アレルの家への嫌がらせは、あれから少し収まった。
――とアレルは思う。


しばらくして、アンソニーから荷物が届いた。
中には二通の手紙――ひとつはアンソニーが簡単な礼を述べたもの、
もう一つは、"ニナより"と書かれた手紙だった。

どうやら、あの時に書いたものらしく、自分の血が少しだけ端に滲んでいる。
――自分の手で書いた幽霊からの手紙。
これはなんとも、不思議な感覚だ。

そしてもうひとつ――"14丁目3番地"と書かれたドアプレート。

"本当に人が住んでるのか、配達人も苦労したって聞いた、
オランにゃお前さんに手紙を届けたい人も沢山いるだろうよ、
あんたに救えるやつは沢山いるんだ、これからもよろしく頼むぜ"
......とはアンソニーの弁だ。

一応ボロボロのドアに掛けておくと、人の家、という感じは出てきた、と思う。
それできっと、嫌がらせをしなくなったものも居るのだろう。



あっちで喧嘩をした子供がやりあう声が響き、
あっちでは野良犬がワンワンとうるさい。
かと思えば、妙に着飾った女が号泣しながら歩いて行ったり、
それを追いかけて何をやって暮らしてるのか良くわからない男が走って行ったりする。


相変わらずこの界隈は、何がやってきてもおかしくないような、
そんな独特な空気を纏っている。


・・・まあ、それでも住めば都って所でしょうか。


ゆったりと茶を飲みながら、アレルは一息ついた。



――本が崩れ落ちてきて、頭に当たった。




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サブGM(ここあ)より:

「届かない宛先」これにて(GM側進行としては)終結です!
お疲れ様でした&お待たせいたしました。
〆レスは自由に書いてください
(例えば肉屋にアレルもついていったとか)


最後にニナから来た手紙の内容がありませんが、
これはしょうGMから(余裕があれば)後から書いてもらいたいなー!
とか思ってます。


■アレルへの報酬

経験点500 + 「銅製のドアプレート(※)」

※バッファロー・ビル精肉店の店主アンソニーが、お礼のために知り合いの職人に作って貰ったもの。
 シンプルな15cm×5cmほどの長方形の板に、"オラン14丁目3番地"という東方語の文字と飾り枠が彫られている。
 非売品。

一応飾ったことになりましたが、要らなかったら、気づかない間に取れたりしてください(''*


追記:鳥さんからご推薦のEDテーマ