大団円

アレル=リリー [2012/07/14 00:36]
目の前でニナさんとアンソニーさんが話している。
微笑ましい光景だ。


「ありがとう、アレルさん・・・」


「あの・・・」


「あの・・・わたし」


不意に、ニナさんから話しかけられた。


「わたし・・・変だな・・・って、思ってたん、です」


「手紙の住所・・・"14丁目3番地"・・・変だな・・・って・・・」


「・・・それは、何ででしょう?」


「・・・覚えてた・・・」


「・・・ひゃくよんじゅうさん、こ」


「・・・わたしの家から・・・アンソニーの家まで・・・」


143枚の石畳。


「こんな住所にするの・・・アンソニーしかいないんじゃ、って・・・」


「・・・なるほど。我ながら・・・・良い・・・・住所です・・・。」


そこまで言って、自分の意識は急速に沈んでいった。



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誰かに抱きしめられている感覚がする。
なんだろう、この懐かしい気持ち。
幼い頃、同じような体験をしたことがある気がする。
・・・・あぁ、分かった。
父に抱擁してもらったときと、同じ感覚なんだ。
暖かくて、安心する気持ち。
思わずニナさんが化けて出てしまったのも頷ける。
出来れば、もう少しこのまま暖かさを感じていたいな・・・・そんな事を思うけど、
でも・・・・やっぱり駄目ですね。これは、ニナさんに与えられた抱擁なんですから。
ニナさんだけが受け取れる、抱擁なのだから。

「・・・あ、あの。アンソニーさん? もう自分なんですが」

「うぉ?! おぉ、すまん」

おずおずと口を開き、もう自分の中にニナさんは居ない事を伝える。
頬に暖かいものが伝っている。顔が先ほどまで笑顔だったような感覚がする。
・・・・ニナさんは、無事成仏できたようですね。

「いやぁ、俺、お前さんのことをずっとおネェちゃんだと思ってたぜ。

 がはは、ありがとうよ、14丁目3番地の兄さん!
 兄さんが住んでてくれて、本当に助かったぜ」

「む、失礼です。どこをどうみても男じゃないですか。
・・・・こちらこそ、貴方達から手紙をもらえてよかった。」

最初にちょっとむくれて・・・次の言葉は笑顔で。
チラリと空を見上げれば、もう夜が明けようとしていた。

「なんて言うんだこういうの、
 困ってる俺たちの横から、サッと出てきてよぉ。
 こう・・・こんがらがってるもんを全部、あっと言う間に繋いじまった。

 ああ、わかった。

 あんたは俺達の英雄――だな!」

ほんとは俺も英雄になりたかったんだけどよ、やっぱり向いて無かったんだろうな。
よーーーく分かったよ。
そう言って、アンソニーさんは笑った。
今の彼の瞳は、綺麗な緑色に見える。

「違いますよ。アンソニーさん。
英雄になるのに、向き不向きなんかないんです。
ただ、助けたいと思った人のために全力を尽くせるかどうか。
英雄になるための条件なんて、それだけだと・・・・自分は思ってます。」

だから、ジョディさんとお腹の中の子供を守ろうとした貴方もまた、英雄なんですよ。
そう言って、自分も笑った。



「・・・おおっと! そうだ兄さん」

別れ際に、アンソニーさんから呼び止められた。

「肉が食いたきゃいつでも来てくれよ。
 タダってのは流石に厳しいが、兄さんには特別に安くするからよ!」

「おや、それは助かりますね。おいしい食べ物が安く手に入る。
これほど嬉しい事はありません。」

「それと、少し落ち着いたら礼を送らせてもらうぜ。
 つっても、ウチにゃ金もねぇしそんな大したもんは無理だけどな」

「いえいえそんな、気持ちだけで十分ですよ。
・・・・でも、ふふ、少し期待して待っていましょうか。」

「宛先は、"14丁目3番地でいいんだろ?"」

「えぇ、もちろんです。あとは誰宛かも書いておいてほしいですね。
―――アレル=リリー宛ってね。」





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あれから、数日。
自分は特に何事もなく過ごしている。
変わったことといえば、一度だけ天候が崩れて家が雨漏りしてしまったことと、
いたずらの頻度が少なくなった・・・様な気がする事だろうか。

そんな自分の下に、2通の手紙が届く。
1通目はアンソニーさんからで、簡単な礼を述べたもの。
そして2通目は・・・・ニナさんからの手紙だ。
紙の端に血が滲んでいるところを見ると、どうやらあの時に書いたものらしい。
自分の手で書かれた、自分じゃないものからの手紙・・・・不思議な感覚だ。

「ふふ・・・でも、悪い気分じゃありません。」


そして、手紙と一緒に届いたものがある。
銅製の板に"オラン14丁目3番地"と書かれたそれは、どうやらドアプレートのようだ。
一緒についてきた手紙を読んでみる。


"本当に人が住んでるのか、配達人も苦労したって聞いた、
オランにゃお前さんに手紙を届けたい人も沢山いるだろうよ、
あんたに救えるやつは沢山いるんだ、これからもよろしく頼むぜ"


「・・・ですって。まったく、無茶を言ってくれますね。」

顔をほころばせながらそう言って、ドアプレートを手に入り口のほうまで歩く。
そしてそれをぼろぼろの玄関扉に掛ければ、どことなく"人の家"という感じは出ただろうか。

「・・・良い贈り物をしてもらいました。」

そう呟きながら、家の中へ入っていく。



ゆったりとお茶を飲みながら、一息つく。
遠くで子供の喧嘩の声が聞こえるのも、
犬の鳴き声が聞こえるのも、全て平和な日常。
どんなところだって、住めば都になるのだ。
そんな事を思って―――


「あいたっ!」


―――いたら、積み上げていた本が崩れ落ちて、頭に当たった。


「ったたた・・・・あー・・・そうだった・・・・家の掃除をしないといけないんだった。
すっかり忘れてましたよ・・・・はぁぁぁぁ・・・・・
だれか、自分の掃除を手伝ってくれる"英雄"は居ないんですかねぇ・・・」

深く溜息をつきながら、空を仰いでそう言う。
すると、窓の外の景色が見えた。

「・・・まぁ、空もこんなに綺麗だし、頑張ってみようかな。」

そう言って、よっと立ち上がった。





オランは、今日も晴天だ。











PL
終わった!届かない宛先編、完!
というわけで、アレルートはこれにて終了としますー!
GM、SGM、及びPLの皆様、本当にお疲れ様でした!

感想等はまた別個であげるとして、とりあえずは事務的な部分!

経験点:500点
報酬:ドアプレート

確かにいただきましたー!