日常の中の異常。

タリカ [2012/08/09 14:19]

 けほっけほっ。

「まあ、あなた、風邪?」

 抱き合っていた二人だったが、やがてフランの咳でそれは終わった。

 嵐が来て少し冷えてしまったのだろうか。

「失礼します」

 手を額に当てて体温を見る。
 少し熱があるようだ。

「寒気はしますか?」

 フランはコクリと頷いた。

「少し熱があるようですね。
 横になられたほうが良さそうです。
 ベッドはどこに?」

「え、ええ、わかったわ。
 ああ、あなた、大丈夫?」

 ネロリは寝床を用意し、そこに『ジェリー』を寝かせた。

「ま ま」

 フランが呟くがネロリ様は聞こえていないのか、
 『ジェリー』と再会したのが嬉しかったのか満足そうにしている。

「た ぃ か」

「はい、フラン様、ここに居りますよ」

「ま ま、 どぅ しちゃった の かな。
 半年あぇの あの時と おなじ」

 半年前、黒い人達、老人になってしまったフラン、おかしくなってしまったネロリ。
 タリカはその言葉に何も言えず、そっと手を手で包んでやることしかできなかった。



 それから数時間。
 フランの熱はどんどん高くなっていった。

 それは今までタリカが感じたことのない肌の熱さだった。
 ネロリはこの熱に覚えがある。
 半年前『フラン』が発熱した時と同じくらいの熱だった。
 それはこのまま『ジェリー』さえも居なくなってしまうという恐怖心を煽った。

「ああ、あなた」

 ネロリは『ジェリー』の皺くちゃな手を、祈るように掴んだ。


 ネロリは『ジェリー』の看病をし、タリカはネロリに世話を任せ、
 『フラン』のために小川に水を汲みに行ったり、解熱の作用のある薬草を探しに行ったりした。


「ああ、あなた、しっかりして。
 あなたが倒れたら、わたしはどうしたらいいの。
 せっかく会えたのに、ねぇ、ジェリー」

 ネロリはタリカの汲んできた水にタオルを濡らし看病を続けた。

 タリカは摘んできた薬草を煎じて、フランに飲ませるようにネロリに渡した。
 ネロリはそれを口に含み、口移しで『ジェリー』に含ませる。

「ま ま、 ま ま」

 フランはずっと苦しんだままだ。
 息が荒く、たまにネロリのことを呼んでいる。
 ネロリはその言葉を聞いても反応しない。

 ネロリの看病もタリカの薬草も効果は見られない。


 小屋の外では、鳥がさえずり栗鼠が枝を走り鹿が水場にやってくる。
 外はいつもの森の姿があった。
 それは日常の森の姿だ。

 小屋の中は、老人になってしまった子供。
 子供を夫と思ってしまっている母。
 外の世界に比べ、小屋の中は異常だった。

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 がるふぉ:

  タリカ視点だと凄く書きにくかったので、第三者視点で書いてみました。
  書きやすい!
  大丈夫...ですよね?(^^;