フラン。

タリカ [2012/08/16 13:15]

「ママ」


 ネロリはベッドに身を預けて静かな寝息を立てていた。
 タリカも小屋の隅で座ったまま、小人の精霊に小さな掃除をお願いし眠っていた。

 小屋に住まうブラウニーに聞けば、やはりネロリはフランの母だった。
 父は暫くの間見ていないというが数年前までは猟師をしていたいらしい。


「ねぇ、ママ?」

「ん...」

 人の声にまずはタリカが気がつく。
 明るさに順応させるように目をぱちぱちとゆっくりと開けると、そこにはネロリの背中を揺すっている子供がいた。

 だれ?と、口に出そうとして、ハッとしてベッドに視線を向けた。


「マーマ?」

 子供はネロリを起こそうとネロリの背を揺すっている。

「ん...」

 雨は止んでおり、窓から入ってくる空気の色は明るかった。

「あ、わたしったら、また...。
 あなた、だいじょう...」

 ネロリもまたベッドに視線を向け、そして固まった。
 ジェリーが居ないことに気がついたのだ。

「ああ!あなた!
 どこにいるの!ジェリー!」

 あちこちと視線をめぐらし、そして先ほどから声をかけられていた事に思いついたのか恐る恐る振り返る。
 その目が大きく見開かれ驚愕の表情になった。

「あ、ああああああああ」

 恐怖に固まってうめき声をあげるネロリ。

「ママ?」

「うそ...嘘よ...あの子は、フランは死んだのよ」

「ママ!ママ!どうしたの?僕だよ、フランだよ!?」

「ねぇ、あなた!どこなの?!どこにいるの?」

 暴れそうになるネロリをフランが抱き止めた。

「ねぇ、ママ!ママ!落ち着いて、ママ!」

「ネロリ様、どうか落ち着いて下さい」

 タリカも慌てて二人に近寄った。

 ネロリはショックのあまり気を失ってしまった。



「ねぇ、タリカ、僕はどこかおかしいの?」

 ネロリをベッドで休ませ、フランが口を開く。
 老人の姿だった時とは違い、口調に不自由さはない。


 タリカもフランの姿に驚いていたが、黙って首を横に振り、そして口を開く。

「いいえ、フラン様は元の姿に戻られたのですよ。
 普通の男の子です」

 タリカもどうしてフランが子供の姿に戻ったのか分からなかったが、とにかく呪いが解けたんだということは理解できた。
 思えばあの異常な発熱は呪いの解ける前触れだったのかもしれない。

 でもそれはネロリに理解できるかどうか、そして受け入れることが出来るのか、難しいことと思えた。