勝利の鬨を、我が歌にて

オート・メララ [2013/04/18 20:35]
~我等は軍団の先駆 万騎に先駆け戦うなり~
~輝く鎧も燦然と 戦場へと驀進す~


『戦意』の呪歌の一節、『装甲騎士の歌』を歌う。
今では精霊使い達の独壇場である精神操作の魔法も、かつての王国時代には
かなりの研究が進んだものと言われている。
戦士の士気を高めるこの呪歌も、もしかしたらその研究の残滓なのかもしれない。


>大盾を構えて前へ出る。
>白騎士の名を持つ突剣を抜き放ち、彫像を迎え撃つ--
>「了解! 頼んだよウード!」


前衛の3人は絶好調のようで、またたくまに第一の守護者である
獣の魔動像を平らげていく。
エレアノールとウードはいつもの通り息のあった連携を見せていたし、
シオンもまた、上手く息を合わせてくれていた。
特注の誂え物だという、白い鎧徹しの剣が光る。


~堀に城壁巡らすとて 我らの進撃阻むことかなわず~
~狭間より弓撃つ者よ 我が鎧 射抜くことかなわず~


私も負けては居られない。
自然、風琴の蛇腹を押す手にも力が入るのであった。


.
.
.

「...あっさり片付いたな。
 誰も怪我はないか?」


楽器を収め、呪歌を中断して3人に聞く。
後ろで見ていてそのような様子は見られなかったが、どうも呪歌を歌っていると
周辺への注意力が散漫になってしまう気がした。
万一、傷を見落としていざという時の力みが足らなくては困るので、
入念にチェックしておく。


「うむ、みな無傷だな...せっかくの遺跡だ。
 途中で引き返さなくてもいいよう、慎重に行こう」


古代遺跡は、冒険者にとっては最高の御馳走だ。
皿を嘗め尽くすまでは、帰りたくない。


「それにしてもウード、お前があんなに剣を振るうのは初めてみるなぁ。
 もしかしてリアナ・シャルの教えか?」


土壇場の粘りと冷静さでスワローテイルを救ってきたウードだが、
今日のこの男は、そんないつもの姿より力に満ちているように見えた。
割りとスロースターターだと思っていたんだが...相変わらず謎の多い男だ。


「ヘリオン君、いまのうちに先を調べよう。
 どうやら今は皆、絶好調のようだからな」


慎重かつ大胆に、いまの熱気を殺さずに進めればいいなと。
そう思いながら私は、シオンやヘリオン君の調査を手伝いにかかるのだった。


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-PLスキュラ-


フレェーヴァーにーっき!
地下への侵入を待ちます。







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それは、出発の前の晩。
前祝いの宴会でほろ酔い気分の私に、シオンが声を掛けてきた。
...シオンが近づいてくるのは、気を抜いていると気がつく事ができない。
まるで黒猫が忍び寄るようだ。


>「前に仕事した時とは雰囲気が変わったな。
>何か心境の変化でもあったのか?」


「うん...いろいろあってな。
 私が『あの』ギルドの一員なのは、シオンには喋っていたっけな?」


去年の夏には隠していた事を、今日はシオンに話してしまう。

オート・メララは盗賊であること。
トラブルを起こし、ギルドに背を向けていたこと。
先日、ギルドから初めて仕事を命じられ、仲間の助けもあり、それを成功させたこと。
いつのまにか、ギルドへの恐れが薄れていたこと...


「どうしても遺跡を自分で発掘したくてな。それで盗賊になったんだ。
 アレル=リリーやパム・ポッペンには迷惑を掛けた...」


ギルドの秩序を乱したチンピラでしかない私が、今もこうして生きているのは
様々な人の助けがあっての事だ。私は自分で自分の事を幸運だと、そう強く思う。


「というわけで、私も同業者と言う訳だ。
 シオン、改めてよろしくな」


呑むかい?と酒をすすめる。
私の仲間は二人共、まったくと言っていいほど酒を呑まないのだ。
呑み仲間が欲しい私は、一杯のエールをシオンに向けてみた。


.
.
.


「まぁ、さすがにアレまでは言えないんだけどな」


宴の後で、自分の貸し部屋への家路。
静まり返った街で、屋根と屋根の隙間から星を見上げてひとりごちる。

思い出すのは冬。
春を前にしてエレアノールが私に掛けてくれた言葉だった。


>「その...『ギルド』のことで困ったことがあったりしたら、
>どんなことでもわたしかウードに言って」

>「わたしにできることはあんまりないかもしれないけど、
>みんなで分け合うことならできると思うから」


ギルドの仕事の中で、初めて同族たる人間と戦ったエレアノール。
さぞや傷つき、心を痛めたろうと慰めようとすると、逆にエルは私を気遣い、
その独善をたしなめたのだった。
わずかに伸びた身長と共に、エレアノールの心は強く成長していたのだった。


「お前に負けない大人にならなきゃな、エル」


ならば私も、エレアノールに恥じないだけの成長をしなければならない。
小さな勇者の、となりに控える魔法使いであるために。

それがもう一つの、人には言えない私が変わった理由であった。

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-蛇足スキュラ-

フレーヴァーその2!
特に意味のない話とか回想とか!